インタビュー:ウクライナ企業と日本ビジネスの協業が生む変革!

  • 2024年10月2日
  • 2024年10月2日
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異なる立場の企業が戦略的に協力し合い、成果を目指す協業。

その協業相手にウクライナの企業を選んだ人がいます。

今回はその一人である堀木遼さんにウクライナとの協業の実態や今後についてお聞きしました。

堀木遼 
株式会社Kinobo 代表取締役CEO、合同会社Vyshytech 代表、合同会社illnoa 代表
それぞれの会社でウクライナと協業で事業に取り組んでいる。
目次

ウクライナと協業することになった背景や経営戦略

― 協業前のウクライナのイメージは?

協業は2022年のロシア軍によるウクライナ侵攻の前だったので、現在ほどの日本での知名度はありませんでした。私自身としても国名や場所こそ知っていたものの、詳しいことはあまり知らず、農業が盛んで、美女が多い国というくらい印象でした。

そのため当初はここまで教育水準やIT技術力が高いことや、仕事の熱心さ、人格的な強さがある国民性ということは想像もしていませんでした。

― ウクライナとの協業を始めたきっかけを教えてください。

きっかけは日本の政治家の方のWebサイト制作や、Webマーケティングのご相談を受けたことでした。私自身は株式会社Kinoboという会社で、Webマーケティングやシステム開発の事業をしていたので、お役に立てる領域でした。

そこで制作を担当させていただいたご縁でウクライナでチョルノービリ原発(チェルノブイリ原発)でのガイドや政府関係の会議通訳を担当しているウクライナ人のセルゲイさんをご紹介いただきました。

セルゲイさんは工学系の大学出身かつ日本での就業経験もあり、とても優秀な方でした。その方からウクライナの有名なキャビア輸入販売の相談を受けたことから、多くのウクライナ企業との協業関係が始まりました。

― ウクライナとの協業を決めた背景について教えてください。

一番の決め手はセルゲイさんの人格や考え方でしたが、ウクライナについて調べれば調べるほどに魅力的な国だということがわかったことも大きな決め手でした。広大な国土の豊かさ、高技能な人材を生み出し続けるヨーロッパ随一の教育、IT技術の高さ、紹介いただいた企業や商品の魅力など、どれも日本に足りない要素で魅力的に感じました。

私自身、小学生から起業家を志し、日本や人類が発展していくために何が必要なのかを考えていました。ウクライナと日本の関係性による事業は、貿易やITなど幅広い分野で領国の強い成長に貢献できるという確信に変わっていきました。これらが協業を決めた背景になります。

協業を決めた当時はまさか戦争になるとは考えもしませんでしたが、知っていたとしても今の決断を間違いなくすると言えます。

ウクライナとの協業の詳細

― 具体的にウクライナのどのような企業や団体と協業されていますか?

ウクライナと協業している私が経営している会社は3社あります。

それぞれの会社でどのように協業しているかご紹介しますね。

まず、株式会社Kinoboでは、システム開発として、ウクライナ各社の開発会社と協業しています。一般的なWebサービス、DX基幹システム、分散コンピューティング、メタバース、スマートフォンアプリ、IoTなど多岐にわたっています。エンジニア人数としては、2,500人以上と間接的に契約していることになります。

次に、合同会社Vyshytechでは、サイバーセキュリティにおいて、ペネトレーションテスト((脆弱性診断)やセキュリティ対策、独自のセキュリティソフトなどで協業しています。ホワイトハッカーたちはウクライナの政府機関はもちろん、他国の銀行なども守り続けている優秀な方々です。実は、この会社はウクライナのヴィシヴァンカという詩集を施した民族衣装と、テクノロジーという言葉のテックを組み合わせて名づけ、会社設立をしました。ヴィシヴァンカは色と柄で地域ごとに個性を表しており、古来より魔除けとして袖口や胸元から入らぬように刺繡をしていたそうです。これが、クライアントや状況によってオーダーメイドで合わせるサイバーセキュリティのようだと感じ、お気に入りの言葉になりました。

最後に、合同会社illnoaでは、食品・衣類・機材などを総合商社として貿易事業の点で協業しています。協業企業は世界で2番目の歴史のある養殖場のキャビアや小麦などの食品、ウクライナのコスプレスタジオやコスプレイヤーなどのエンターテイメント、ドローンやアンチドローンなどのハードウェアの会社など幅広いです。

― ウクライナ市場のどのような点が、貴社にとって魅力的でしたか?

それぞれの会社で魅力を感じている点をお伝えしますね。

まず、株式会社Kinoboとして魅力を感じている点は、最先端技術を持つエンジニアたちの質と量です。Kinoboでは、システム開発を国内外のクライアントに提供しています。社内のプロジェクトマネージャー、ディレクター、エンジニア、デザイン―という開発チームで自社サービスも、顧客の開発案件も完結させていました。しかし、分散コンピューティングやブロックチェーン、中規模以上のDX基幹システムなどは社内のリソースや採用状況ではどうしても足りなく、断るケースも増えていました。さらに、全員日本のエンジニアで構成すると、コスト的にも大きく予算を上回るために、断念するプロジェクトもありました。ウクライナはエンジニアをこのくらい集めてほしいと言ったときにパッと技術力がある人が集まるうえ、料金は日本よりも安いという点が日本にない魅力ですね。

次に、合同会社Vyshytechとして魅力を感じている点は、サイバーセキュリティを担う人材の質と実践経験です。ウクライナは戦前からロシアからの日常的にサイバー攻撃があったことで、それに対する防衛がとても発展しています。一方で、日本はニュースで大問題になっているように、サイバーエージェントの分野が遅れています。今後のIT社会において、サイバーセキュリティはまさに根幹になるもので、需要が高まっていくものと認識しています。

最後に、合同会社illnoaとして魅力を感じている点は、ウクライナの広大な肥沃な土地から生まれる農作物や水産物、日本とは異なる文化圏での新しさです。小麦、大麦、肥育用のトウモロコシは世界でも圧倒的な生産量を誇り、食糧自給率の低い日本にとっては輸入にさらに頼るのは少し対処療法ですが、とても大切な良きパートナー国であると認識しています。また、文化圏の違いもとても面白く、建物や自然など日本にはない美しさや魅力、歴史が詰まっています。その文化の違いによる面白い試みも、双方の交流によって生み出されています。特に、印象に残ったのは、日本のアニメのコスプレをしたウクライナの方の美しさです。人もそうですが、背景の建物、作品への敬意、装飾の細かな技術などが本当に素敵で、コスプレ事業も行うことを決意しました。

― 具体的にどのようなプロジェクトや取り組みを行っていますか?

例えば、株式会社Kinoboでは日本のチームで設計やデザインを行い、ウクライナのPMやプロジェクトチームと共同でプロジェクトを行っています。時には、シンガポールやカナダのエンジニアもチームに加わり、多国籍なチームで開発を進めます。ウクライナ側には日本語がネイティブレベルで話せるプロジェクトマネージャーもいるので、柔軟かつスムーズに開発を進めています。SlackやTelegramなどでも専門用語での会話も英語で可能なので、ウクライナ語や日本語を使わないことに問題はお互いにありません。

他にも、合同会社illnoaでは、日本チームでデザインや広報などのマーケティングや営業から貿易の手配を行い、ウクライナの生産者から商品を購入して輸入しています。近年は戦争の影響で飛行場や港に攻撃があり、車で隣国に運んでからの輸入となるなど事業が難しくなっています。

― ウクライナのパートナー企業との関係構築はどのように進めましたか?

セルゲイさんを始めとした、現地のウクライナ人の方との密なコミュニケーションで進めていきました。お互いに小さい約束も守り続け、尊敬の気持ちを持ち続けるという当たり前のことを貫き通すことだけだと思います。

また、これだけの大きなポテンシャルや信頼があるので、積極的に投資していこうという覚悟が重要です。戦争初期の混乱時期であっても、彼らは常に信頼を貫き通したので、こちらも応え続けるのが人間としての責務です。

直面した挑戦と解決策

― ウクライナとの協業において直面した主な挑戦は何ですか?

最初は赤字になっても、包み隠さずすべてをお互いを伝えあい、新貝ではなく顧客やお客様のために進むことを貫き通すことが挑戦でした。

私は、初めてタッグを組む企業や国などは関係なく、お互いの利益よりエンドユーザーやクライアントのためを徹底することが重要だと思います。その品質に向けて、お互いが持てるスキルや技術をしっかりと表現し合って、切磋琢磨できるかが重要だと考えています。 

― これらの挑戦に対してどのような対策を講じましたか?

短期や中期で捉えずに、長期的な関係性を第一に考えました。そのためには目先の利益や自分たちの楽さのためよりも、個人のお金で補填してでもプロジェクト支え続ける覚悟と実行力を対策としました。実際に個人のお金を使って、赤字を補填もし続けた時期もありましたが、それが長期的に大きく強い協業関係になりました。

― 文化やビジネス習慣の違いをどのように克服しましたか?

協業前は仁義を守る社畜というよりは、もっとドライな契約通りの関係かと思っていました。しかし実際は、自分のほうが仁義が弱いのかと思うほどに、筋をしっかり通して、困難にも逃げずに立ち向かい仕事をし続けるプロフェッショナルと、感情的にもとても温かい方々ばかりでした。そういう意味で習慣の違いで困ったことはありません。


ただ戦争開戦時の混乱期は仲間の命が非常に心配で、毎日ニュースやTwitterをあさり続ける日々でした。Instagramで現地のパートナー会社の代表の女性が、現状のウクライナ状態の着の身着のままで、目をはらした姿で語る姿は神に祈らずにはいられませんでした。そんなときでも、シェルターから連絡や作業進捗は目覚ましいものがあり、作業なんかよりも命を守ることに専念だと考えていた私には衝撃的でした。


まだ終戦はしていないので油断はできませんが、ミサイルや停電がある中でのオンライン会議などを毎週のようにしてくださり、開発の進捗も期待値を超え続けるのに、感謝とともに脱帽です。

 予測しなかった問題が起こった時、日本のクライアントに対するウクライナのエンジニアたちの適応能力をどのように評価していますか?

最初はドライにビジネスチックに一緒に取り組むのかなと思っていましたが、実際は意外と柔軟でちゃんと寄り添ってくれる伴走型の支援をしてくれて融通を利かせてくれる会社が多いです。例えば、開発において自分が考えた使用をワイヤーフレームにして開発をするのですが、自分が気付かなかった細かな点も気づいてくれます。ディレクターを担当してる自分が気付かなければならないところも、開発管理とPMとして参加している向こう側が的確にユーザのユースケースをイメージして状況確認をしてくれる。ただつくるだけじゃなくて、伴走で時には冗談を言いながら一緒に進めてくれるのがとてもありがたく感じています。雪が降った時にはテレグラムで自撮りを撮ってきて、雪降ってきました~みたいな交流とか。オープンマインドにお互いの文化なども含めて交流できています。

成長と今後の展望

― ウクライナとの協業によって得られた具体的な成果や成功事例を教えてください。

色々ありますが、特に印象的だったことをお伝えします。

まずは、システム開発における協業で上場企業の難解な基幹システム開発に成功したことです。要件定義に段階から日本の監修どころか、その企業独自のロジックやデータばかりで完全特注品でしたが、ウクライナと日本のチームが一体となり長期の開発に成功しました。このプロジェクト中にロシア軍からウクライナへの侵攻があり、日本チームだけでの開発と開発期間の延長も覚悟しましたが、ウクライナ側チームが問題での延期は一切なく、信じられませんでした。

そして、メタバース開発の協業で新しいシステムの開発に成功したことです。これは、コロナウイルスの感染防止のために外出自粛が叫ばれ、リアルなショッピングの機会が激減したことで打撃を受けたアパレル業界と、その当時から注目されたいたメタバースを掛け合わせた事業です。最初は自社に設計などはできても実績がないため断ろうと思いましたが、日本の専門会社とパートナーを組んで十分にできると確信ができ、開発を進めました。しかし途中で、パートナーの進捗が思わしくなく、技術的な課題も突破できないと開発が止まりかけました。そこでウクライナのVRやメタバースの専門企業に相談したところ、残りのわずかな予算にも関わらず、完璧以上に解決をしてもらい、当初の計画を成功させてくれました。新しいシステムの開発は発明要素もあり、着手前の予想とズレてしまうことは多いですが、この会社は予実管理の徹底さが凄く、エンジニアとしても尊敬した良い経験でした。

― ウクライナとの協業のなかで一番収穫になったことについて聞かせてください!

面白い質問ですね~。一番は、オンラインでしか会っていないウクライナの人たちとの距離感がとても近いことですかね。極論、隣の家に住んでいるけれどオンラインでしか会っていない人と、ウクライナからオンラインで会っている人の距離感がまったく一緒になるのはなかなかのバグですよね。しかも、コミュニケーションを続けていると、人となりやこだわり、強く思っていることなどで一気に人間味が溢れる。オンラインで距離が離れていてわかり合えないどころか、全然わかり合えるじゃん!みたいな。文化も言語も違うけれど、世界中の人から人の強さや人の協力性の強さを知ることができることを気付き学べたことが、一番収穫になりました。このことを通して、コミュニケーションを取れる人増えた結果、人間が協力できる相手、一個人が協力し合える相手は増えているのだなと思う日々です!

― 今後どのような分野でウクライナとの協業を拡大していく予定ですか?

1つ目は、今の原発のシステムを動かしているような分散コンピューティングや、最先端メタバースやAI、NFTという分野の技術です。

2つ目は、サイバーセキュリティの分野ですね。私がもうすでに取り組んでいる分野ではありますが、やはりこれからも注力したいです。ウクライナのホワイトハッカーたちとともに日本企業を守るためのセキュリティをしっかりと広めていきたい。現場の第一線で活躍したホワイトハッカーを日本に連れてこれるのは僕の役割だと感じているので、ぜひやりたいなと感じています。

3つ目は、日本とウクライナの架け橋としての役割です。今のままでは、お互いのリソースがまだ交換しきれていないように感じるんです。例えば、コスプレイヤー。ウクライナ人は日本人では似合わなそうな服装もすごく似合うんです。そのうえ、ヨーロッパの街並みで撮影ができるのでめちゃくちゃ映える。なので、日本人コスプレイヤー向けのウクライナ国内での観光事業や、ウクライナ人コスプレイヤーのアサイン事業などで拡大していけるなと。ほかにも、食糧という点では小麦粉や肥育用のコーンなどが豊富なので、そこから食料の安定確保ができればと思います。また、日本市場を攻めると同時にウクライナ市場も攻めたいと考えています。これから復興支援のためにいろいろな技術やインフラ、ものが必要になってくるので、医療などを中心に支援していきたいと考えています。日本のものの高品質さを伝えていきつつ、日本の雇用も増えるような動きをしたいです。

― 今後、ウクライナとの協業をどのように発展させていく予定ですか?

これからもいま取り組んでいる各事業をしっかりと成長させていき、お客様の満足を追求していきます。さらに終戦後の復興需要などもあるので、世界的にも経済成長が著しくなるのではないでしょうか。また、恩返しも含めて何でも動けるように準備しています。

それと家族を連れてウクライナ旅行にいって、感謝の気持ちをしっかりと伝えるとともに、ウクライナの歴史や文化も学びたいです。

ウクライナとの協業で切り開かれる未来

今回は、ウクライナ企業と協業を行っている堀木遼さんにお越しいただきました。

ウクライナがこれから日本と良いパートナーになる未来を想像すると、わくわくしてきますね。

これからもウクライナ企業の動向に注目していきましょう!