優れた技術力とコストパフォーマンスの良さを兼ね備えたウクライナのエンジニアは、国際的なIT市場で高く評価されています。
そのウクライナで、ITが発達した経緯をご存じでしょうか?
本記事では、ウクライナのIT産業の歴史からエンジニアの特徴、国際市場での評価、日本企業にとってのメリットについて解説します。
ウクライナとIT企業の歴史
ウクライナのIT産業は、旧ソビエト連邦から独立した1991年以降、本格的な発展を遂げました。
独立直後のウクライナは経済的な混乱期を迎えましたが、1990年代後半に入ると、インターネットの普及や技術教育機関の進展によってIT分野が次第に注目を集めるようになります。
ウクライナには旧ソビエト時代から引き継がれた高度な数学やエンジニアリングの教育システムがあり、それがIT産業発展の基盤となりました。
2000年以降に欧米から注目を浴びた
2000年代に入ると、ウクライナはITアウトソーシングの拠点として注目され始めました。
世界的にITサービスの需要が急増し、欧米の企業がコスト削減と高品質な技術を求め、ウクライナに進出したためです。
ウクライナは、欧米と比べて人件費が安価ながら、高度な技術力を持つエンジニアが多いと評価されています。
特に、ソフトウェア開発やシステム運用、サポート業務を中心にアウトソーシング業務が拡大しました。
2010年代以降のIT産業の急成長
2010年代になると、ウクライナのIT産業はさらに急成長を遂げます。世界中のIT企業がウクライナに研究開発拠点を設立し、ウクライナのIT技術に対する国際的な需要が爆発的に増加しました。
キーウやリヴィウ、ハルキウといった都市ではIT企業が集積し、スタートアップ企業も続々と誕生します。
ウクライナは東ヨーロッパのIT拠点として、重要な役割を担うようになりました。この成長を支える要因のひとつに、ウクライナの技術教育機関から輩出される優秀なエンジニアがいます。
ジェトロ(日本貿易振興機構)によると、ウクライナの大学や工科系の高等教育機関からは毎年2万人以上のIT関連分野の卒業生が生まれ、その多くが国際的なプロジェクトで重要な役割を果たしています。
ウクライナ人エンジニアの特徴
ウクライナのエンジニアは、国際的なIT市場でも高く評価されています。その評価の背景には、技術力や柔軟性、コミュニケーション能力などの特徴が存在します。
高度な技術力
ウクライナのエンジニアは、以下のような知識と技術を要しています。
- ソフトウェア開発
- AI(人工知能)
- ブロックチェーン
- サイバーセキュリティ
多くのエンジニアはウクライナ国内で高度な理工学教育を受けており、技術的な基盤が整っているのが特徴です。
ウクライナには150以上の技術系高等教育機関があり、毎年約2万人以上のIT分野の卒業生が誕生しています。
問題解決能力とクリエイティブ思考
ウクライナのエンジニアは、技術的なスキルに優れているだけではなく、問題解決能力やクリエイティブ思考も特徴的です。
複雑な課題に対して、独自のアプローチで解決策を見つけ出すことが得意で、新しい技術や手法を学ぶことにも積極的です。
このような姿勢は、スタートアップ企業や革新を求めるプロジェクトにおいて特に求められ、ウクライナのエンジニアは比較的新しいプロジェクトで活躍しています。
言語能力と国際プロジェクトへの適応力
ウクライナの公用語はウクライナ語ですが、多くのエンジニアは英語とロシア語が堪能です。
英語力は、グローバルなプロジェクトや外国のクライアントとのコミュニケーションで重要な役割を果たすため、多くのエンジニアが国際的なチームと協働しています。
ウクライナのエンジニアは言語スキルが高いので、他国とのプロジェクトに適応しやすく、異なる文化や価値観を理解する能力にも優れています。
ウクライナのエンジニア事情
ウクライナのエンジニアの働き方や採用の仕組みは、日本とは異なる特徴を持っています。これらの要素が、ウクライナがIT人材を豊富に抱える国として国際的な競争力を高める一因となっています。
ウクライナのエンジニアに人気のプログラミング言語
Join Japanの調査によると、ウクライナのエンジニアに人気のプログラミング言語は以下のとおりです。(2022年時点)
JavaScript | 18.8% |
C# | 14.7% |
Java | 14.3% |
Python | 11.2% |
PHP | 10.6% |
AI(人工知能)や機械学習に使用されるPythonが上位に入っていることから、ウクライナでは先進国の需要を的確に捉えていることがわかります。
エンジニアの雇用形態
ウクライナのエンジニアは、個人事業主として契約するのが一般的です。企業の正社員としてではなく、フリーランスや契約ベースでプロジェクトごとにクライアントと直接契約を結ぶ働き方です。
エンジニアは個人事業主を選択することで、自分の働く時間や条件を柔軟に設定できます。
また、ウクライナではエンジニアに対する税制上の優遇措置が特徴です。個人事業主のエンジニアは、利益に対する課税率が5%で済み、他国や他職種と比較して有利な税環境が整っています。
これにより、ウクライナのエンジニアは手元に残る収入が増え、個人事業主としての働き方が魅力的な選択肢となっています。
個人事業主のエンジニアは、企業側にとってもメリットがあります。企業は必要に応じて優秀なエンジニアを柔軟に確保できるため、プロジェクトごとのリソース管理が容易になるためです。
ウクライナのエンジニアは、短期間の契約やプロジェクトベースでの働き方に対応できるため、急成長するスタートアップや国際的なプロジェクトで重要な役割を果たしています。
エンジニアの採用
ウクライナでのエンジニア採用は、国内外の企業にとって競争が激しくなっています。
優秀なエンジニアが豊富に存在している一方で、特に国際的なIT企業やアウトソーシング企業は、ウクライナのエンジニアを積極的に採用しようとしているためです。
その結果、ウクライナ国内のエンジニアに対する需要は常に高く、求人市場は活発です。
近年は、ウクライナ国内の情勢が不安定になっていて、優秀なエンジニアが国外に流出していることも問題になっています。
日本でも島根県出雲市をはじめ、ウクライナのエンジニアを受け入れる企業や行政が増えています。
ウクライナ人エンジニアの国際評価
ウクライナのエンジニアは、世界中でその技術力と柔軟性を高く評価されています。
国際的なプロジェクトや大手企業のアウトソーシングなど、多くの場面でスキルが活かされており、特に欧米市場からの信頼が厚いのが特徴です。
技術力の高さと専門知識
ウクライナのエンジニアは、ソフトウェア開発やAI(人工知能)、ブロックチェーン、サイバーセキュリティといった先端技術の知識や技術を持っています。
ウクライナのエンジニアは、高度な教育システムと豊富な実務経験を通じて、特に複雑な技術課題を解決する能力が国際的に評価されています。
また、ウクライナのエンジニアは、数学や物理といった理工系の教育背景を強みに持っており、論理的思考と問題解決能力も秀でているのが特徴です。
このため、多くのグローバル企業がウクライナの人材を積極的に採用し、技術革新をリードするポジションを任せています。
アウトソーシング市場でのリーダーシップ
ウクライナは、ITアウトソーシングの主要拠点として欧米企業から高い評価を受けています。
世界のITアウトソースに関する国際団体「IAOP」の2018年の調査では、ソフトウェア開発の分野でトップ100のアウトソーシング企業にウクライナ企業が18社ランクインしました。
物価高騰が続くアメリカや欧米諸国と比較すると人件費が安く、技術力の質が高いため、コストパフォーマンスの良さが企業にとって大きな魅力です。
ウクライナのITサービス輸出は年々増加傾向にあり、JICA(国際協力機構)のデータでは、2022年上半期のITソフトウェアサービスの輸出額は37億4,000万ドルで前年同期よりも23%増加しました。
ウクライナのエンジニアは、多くの国際企業からのソフトウェア開発やデータサイエンスのプロジェクトを受託しており、世界的に認知される存在となっています。
日本とウクライナ人エンジニア
日本企業にとっても、ウクライナのエンジニアは重要なパートナーとして注目されています。ウクライナのエンジニアの技術力やコストパフォーマンスの良さは、日本企業にとっても魅力的なためです。
日本とウクライナ人エンジニアの関係性や、日本企業がウクライナの人材を活用するメリットを解説します。
日本企業によるウクライナ人エンジニアの需要
ウクライナはIT分野におけるアウトソーシング拠点として注目されており、ウクライナのエンジニアを活用する日本企業も増加してきました。
日本国内では長年のエンジニア不足と少子高齢化による労働者不足が課題となっており、特にソフトウェア開発やAI技術に対応できる人材不足が深刻です。
そのため、ウクライナの優秀なエンジニアをリモート開発やオフショア開発に採用して、技術的な課題を解決しつつコスト削減を実現しています。
ウクライナのエンジニアは高度な技術力と英語力を兼ね備えているため、日本企業が世界標準の技術基準を満たす製品やサービスを開発する際に大きな助けとなっています。
文化的な違いとコミュニケーション
ウクライナと日本は地理的に遠く、文化的な違いも存在します。
しかし、ウクライナのエンジニアは国際的なプロジェクトに慣れており、他国の文化を受け入れる能力に優れています。
エンジニアの多くは英語をビジネスレベルで使いこなせるため、日本企業とのコミュニケーションにおいても問題がありません。
さらに、日本企業が求める品質管理や納期厳守といった重要な点についても、ウクライナのエンジニアは高い基準で対応できるため、日本企業からの信頼を得ています。
ウクライナと日本の技術協力の将来性
ウクライナのIT産業が急成長する中で、日本とウクライナの技術協力は今後さらに拡大すると予測されています。
日本企業がウクライナのエンジニアを活用すれば、ソフトウェア開発だけではなく、AIやブロックチェーンなどの先進技術分野でも競争力を高めることが可能です。
また、ウクライナのエンジニアにとっても、日本の技術基準や品質管理は高い評価を受けており、両国の協力関係は互いにメリットをもたらしています。
帝国データバンクの調査では、2022年1月時点でウクライナに進出している日本企業は57社ありました。今後、ウクライナへ進出する企業や協業していく企業は増えていくと予測されます。
インタビュー:ウクライナ企業と日本ビジネスの協業が生む変革!
ウクライナでオフショア開発する3つのメリット
ウクライナは、近年オフショア開発(自国以外でのシステムやソフトウェア開発)の拠点として急速に注目を集めています。ウクライナでオフショア開発を行う具体的なメリットを解説します。
優秀なエンジニアが豊富
ウクライナでは、毎年約2万人以上のIT分野の卒業生が輩出されており、ウクライナ全体で300,000人以上のエンジニアが活躍しています。
そのため、AIやブロックチェーン、サイバーセキュリティなど、さまざまな最新技術に精通したエンジニアを容易に見つけることが可能です。
また、ウクライナの技術系教育機関の充実によって、理論と実践を兼ね備えたエンジニアが豊富で、常に最新技術を習得しながらプロジェクトを進めることもできます。
高いコストパフォーマンス
ウクライナでオフショア開発するメリットのひとつは、コストパフォーマンスの高さです。欧米諸国や日本と比較すると、ウクライナの人件費は低いにもかかわらず、提供されるサービスの質は高いためです。
ウクライナのエンジニアの平均給与は他の職種の倍程度ですが、それでも欧米や日本に比べると大幅にコストを抑制できます。
このコスト優位性により、企業は開発コストを削減しながらも、高品質なプロダクトを開発できるため、オフショア開発の拠点としてウクライナが注目されています。
特に、限られた予算で技術的な優位性を確保する必要があるスタートアップ企業や中小企業に、ウクライナのオフショア開発が選ばれています。
タイムゾーンの利便性
ウクライナのタイムゾーンはヨーロッパと近接しており、日本と約6時間の時差があるため、24時間稼働が可能になります。
グローバルプロジェクトにおいて、複数拠点での開発作業を分担することで時間を有効活用できる点が大きなメリットです。
例えば、日本のチームが日中に作業を進め、その後にウクライナのチームが引き継いで夜間に作業を行うと、プロジェクトを止めることなく進行可能です。
時差を活かして開発スピードを高められるため、納期の短縮や迅速な問題解決を実現できます。
ウクライナのエンジニアは今後も世界で活躍していく
ウクライナのエンジニアはソフトウェア開発やAI、ブロックチェーンなどの先端技術に強く、欧米や日本をはじめとする多くの国際企業がスキルを高く評価しています。
5,000以上のIT企業と300,000人以上のエンジニアを擁するウクライナは、ITアウトソーシングの拠点として、グローバルなプロジェクトにおいて重要な役割を果たしています。
日本企業にとっても、ウクライナ人エンジニアとの協力は、IT人材不足の解消や技術的課題の解決、国際競争力の向上に欠かせません。
ウクライナの技術力、文化的適応力、そして高いコストパフォーマンスは、今後も多くの企業がウクライナでのオフショア開発を選ぶ理由となるでしょう。
ウクライナのエンジニアとの協業は、企業の成功を支え、最新のサービス提供を続けるために重要です。