給与は183日、退職年金は住む国で。日本・ウクライナの新しい租税条約
日本とウクライナの新しい租税条約は2025年8月1日に発効し、2026年1月から税の計算に使われています。1986年のソ連との条約を全面的に改めたもので、給与の183日の数え方が変わり、教員の2年免税はなくなりました。居住者の決め方、年金、学生、二重課税の外し方を条文に沿って読みます。
オリュカのひとこと
給与の「183日」は、どの期間の中で数えるのでしょうか。給与の見出しで条文を確かめましょう。
日本とウクライナのあいだで、同じ所得に二つの国が税をかけないようにするための条約が、いま新しいものに入れ替わっています。正式名称は「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国政府とウクライナ政府との間の条約」。2024年2月19日に東京で署名され、2025年8月1日に効力を生じました(財務省の発表)。日本側で署名したのは松田邦紀氏、ウクライナ側はセルヒー・マルチェンコ財務相です(条約本文の署名欄)。
それまで両国のあいだで使われていたのは、1986年1月18日に東京で署名された日本とソビエト連邦の条約で、ウクライナがこれを承継していました。財務省は新条約を、この旧条約の「全面的に改正するもの」と説明しています。新条約には配当・利子・使用料の税率のほかに、日本とウクライナを行き来して暮らす人や働く人に直接関わる条文が多く含まれています。税率の新旧比較と日付の経緯は、日本とウクライナの年表にもまとめています。
いつから、何に効くのか
条約は2025年8月1日に発効しましたが、税金の計算に使われるのはその翌年からです。財務省によれば、日本では、課税年度に基づく税は2026年1月1日以後に始まる課税年度の分から、それ以外の税は2026年1月1日以後に課される分から適用されます。ウクライナでは、源泉徴収される税は2026年1月1日以後に支払われる額から、その他の税は2026年1月1日以後に始まる課税年度から適用されます。
例外が二つあります。税務当局どうしの情報交換(第24条)と、相手国の税の取り立てを手伝う徴収共助(第25条)は、税が課された日や課税年度にかかわらず、発効日の2025年8月1日から適用されています(財務省の発表、条約第28条3)。
対象となる税は、日本では所得税、法人税、復興特別所得税、地方法人税、住民税。ウクライナでは個人所得税と企業の利得に対する税です(第2条)。住民税も条約の対象に入っています。
どちらの国の「居住者」か
租税条約は、まず人を「どちらの国の居住者か」で分け、そのうえで所得の種類ごとに課税できる国を割り振ります。居住者かどうかは、それぞれの国の国内法で、住所・居所・本店の所在地などによって判断されます(第4条1)。
両方の国の法律で居住者になってしまう個人については、第4条2が順番に決め方を定めています。
- 恒久的住居がある国の居住者とみなす。両方の国にあれば、人的・経済的な関係がより密接な国(重要な利害関係の中心がある国)
- それが決められない、またはどちらにも恒久的住居がなければ、常用の住居がある国
- 常用の住居が両方にある、またはどちらにもなければ、国籍のある国
- 両方の国籍を持つ、またはどちらの国籍もなければ、両国の税務当局が合意で決める
法人など個人以外の者が両方の居住者になる場合は、両国の当局が本店の所在地や実質的な管理の場所などを考えて合意で決めるよう努め、合意がなければ条約による軽減や免除は受けられない、とされています(第4条3)。
給与は「183日」で分かれる
日本の会社に雇われてウクライナで働く、ウクライナの雇い主のために日本で働く、といった場合の給与は第14条が扱います。原則は、勤務が行われた国でも課税できる、というものです。
ただし、次の三つの条件をすべて満たせば、勤務した国では課税されず、住んでいる国だけが課税します(第14条2)。
- その課税年度に始まる、または終わるどの12か月をとっても、勤務した国に滞在した日数の合計が183日を超えないこと
- 報酬を払う雇用者が、勤務した国の居住者でないこと
- 報酬を、雇用者が勤務した国に持つ支店などの恒久的施設が負担していないこと
国税庁の説明によれば、旧条約から変わった点は二つあります。一つは日数の数え方で、課税年度をまたいで滞在した場合も「どの12か月の期間においても」183日を超えないかで判定するようになりました。もう一つは対象で、この免税は勤務による報酬だけになり、自由職業の役務による報酬は対象外になりました。
会社の取締役会の構成員として受け取る役員報酬は、その会社の居住地国でも課税できます(第15条)。俳優・音楽家などの芸能人や運動家が相手国で行う個人的な活動からの所得は、給与の183日の規定にかかわらず、活動をした国で課税できます(第16条)。
年金、学生、教員
退職年金とこれに類する報酬は、受け取る人が居住者である国だけが課税できます(第17条)。ただし、国や地方公共団体が、その国への役務について支払う退職年金は別扱いで、原則としてその支払った国だけが課税し、受け取る人が相手国の居住者で、かつ相手国の国籍も持つ場合は相手国だけが課税します(第18条2)。手元の年金がどの条に当たるかは、個別に確認が要ります。
学生と事業修習者について、第19条は、専ら教育や訓練を受けるために相手国に滞在し、相手国の居住者である(または滞在の直前に居住者だった)人が、生計・教育・訓練のために受け取る給付のうち、滞在している国の外から支払われるものには、滞在している国は課税できない、と定めています。事業修習者については、この免除は最初に訓練を始めた日から1年までに限られます。国税庁によれば、この1年の制限は新条約で加わったものです。学生が滞在先の国で得るアルバイトの収入は、この条の対象ではありません。
教員の扱いは大きく変わりました。旧条約には、相手国の大学などで教えるために一時的に滞在する個人について、最初に到着した日から2年を超えない期間、教育の報酬を免税とする規定がありました(旧条約第17条)。新条約はこれを置いていません。国税庁によれば、発効日の2025年8月1日の時点で旧条約の特典を受ける権利があった居住者は、旧条約がなお有効だったとした場合にその権利を失う時まで、特典を受け続けられます(新条約第28条5)。
配当・利子・使用料
投資所得については、所得が生じた国(源泉地国)が課税できる税率の上限が決まっています。
| 所得 | 新条約での源泉地国の上限(第10条〜第12条) |
|---|---|
| 配当 | 5%(受け取る法人が、支払う法人の持分を6か月を通じて25%以上保有する場合。持分は、日本法人が払う場合は議決権、ウクライナ法人が払う場合は資本)/15%(その他) |
| 利子 | 免税(国・地方政府・中央銀行などが受け取る場合など)/5%(銀行・保険会社・証券会社、公認の年金基金が受け取る場合など)/10%(その他) |
| 使用料 | 5% |
日本の居住者がこの軽減を受けるときも、ウクライナの居住者が日本で軽減を受けるときも、手続きはそれぞれの国の制度に従います。国税庁によれば、ウクライナの居住者が日本の源泉徴収で軽減・免除を受けるには、2026年1月1日以後に最初に支払を受ける日の前日までに「租税条約に関する届出書」を、支払者(源泉徴収義務者)を通じて税務署長に出す必要があります。
それでも両方で課税されたら
条約が一方の国に課税を認めた所得にも、もう一方の国が居住者として課税することはあります。そのときの二重課税の外し方は第21条にあります。
- 日本の居住者:ウクライナで納めた税の額を、日本の税額から差し引く(外国税額控除)。差し引ける額は、日本の税のうちその所得に対応する額まで
- ウクライナの居住者:日本で納めた税の額を、ウクライナの税額から差し引く。差し引ける額は、ウクライナの税のうち日本で課税できる所得に対応する部分まで。条約でウクライナでの課税が免除される所得も、残りの所得の税額を計算するときには考慮に入れてよい
条約に合わない課税を受けた、または受けそうだと考える人は、国内の不服申立てとは別に、どちらの国の税務当局にも申し立てができます。期限は、その課税の最初の通知から3年以内です(第23条1)。当局どうしの協議で、必要な情報がそろってから2年以内に合意できなければ、本人が書面で求めることで、未解決の点は3人の仲裁人による仲裁に付されます(第23条5と議定書3)。財務省はこの仲裁の導入を、改正の柱の一つに挙げています。
税務当局どうしの協力と、濫用の防止
新条約は、両国の税務当局が情報を交換し(第24条)、相手国の税金の取り立てを手伝う(第25条)ことを定めています。徴収共助の対象は所得の税に限らず、日本では消費税・地方消費税・相続税・贈与税など、ウクライナでは付加価値税・物品税・財産税などが挙がっています。どちらも2025年8月1日から適用されています。
条約の特典を受けることが取引や仕組みの主な目的の一つだったと判断するのが妥当な場合は、特典は与えられません(第27条2)。第三国にある支店などを通じた所得で、第三国の税が一定の水準(その国に支店があったとした場合の税額の60%)に満たないときも特典は与えられない、という規定もあります(第27条1)。
オリュカのひとこと
ソ連と結んだ条約が、ほかの国とはいまも使われている。それはなぜでしょうか。
ソ連との条約は、ほかの国とはまだ生きている
財務省の発表は、この新条約が「ウクライナ以外の国と我が国との間で適用されている現行の租税条約」、つまり1986年のソ連との条約には影響しないと注記しています。財務省の租税条約の一覧(2026年6月26日現在)では、アルメニア、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ベラルーシ、モルドバの欄に、旧ソ連との条約が承継されている旨の注がついています。同じ一覧は、ウクライナの欄にもまだ1986年の旧条約を載せています。一覧で確かめるときは、この点に注意が要ります。
条約は枠組みを決めるもので、個々の所得がどの条に当たるか、どちらの国の居住者になるかは、事実関係によって変わります。この記事は2026年9月時点の条約本文と財務省・国税庁の公表資料にもとづいています。実際の申告や源泉徴収については、税務署か税理士に確認してください。日本の会社がウクライナの技術者に仕事を頼むときの契約・送金の論点は、ウクライナの技術者と契約する前にで扱っています。
出典・参考資料
- ウクライナとの新租税条約が発効します(令和7年7月2日。発効日2025年8月1日、日本とウクライナそれぞれの適用開始、情報交換・徴収共助の適用、旧ソ連条約への影響なし)
発行:財務省 確認日:2026-09-24 - ウクライナとの新租税条約が署名されました(令和6年2月19日。東京での署名、1986年条約の全面改正、改正の柱)
発行:財務省 確認日:2026-09-24 - 所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国政府とウクライナ政府との間の条約・議定書(和文。第2条、第4条、第10〜12条、第14〜19条、第21条、第23〜25条、第27〜28条、署名欄)
発行:財務省 確認日:2026-09-24 - ウクライナとの新租税条約のポイント(投資所得の限度税率、相互協議と仲裁、情報交換・徴収共助、濫用防止)
発行:財務省 確認日:2026-09-24 - 源泉所得税の改正のあらまし 日ウクライナ新租税条約関係(令和7年8月。短期滞在者免税の変更、教員免税の廃止と経過措置、事業修習者の1年、届出書の提出時期)
発行:国税庁 確認日:2026-09-24 - 我が国の租税条約等の一覧(2026年6月26日現在。旧ソ連との条約を承継している国)
発行:財務省 確認日:2026-09-24
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