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ビジネス・復興/解説

戦争で工場が壊れたら誰が払うのか。ウクライナ投資の政治リスク保険

戦争が続くウクライナでは、民間の保険会社が政治リスク保険を引き受けられない状態が続いてきました。その穴を埋めているのが、世界銀行グループのMIGA、米国のDFC、日本のNEXIといった公的な保険・保証の機関です。日本が最初に資金を出したMIGAの基金を含め、各機関が公表している枠と実績を時点つきで並べます。

外国の会社がウクライナに工場や倉庫を持ち、そこにミサイルが落ちて操業が止まったとき、その損失は誰が負うのか。国境を越えた投資では、戦争・収用・送金の制限といった「政治リスク」に備える専用の保険が使われてきました。

世界銀行グループの多数国間投資保証機関(MIGA)は2023年11月の発表で、戦争が続いているため、民間の保険会社はウクライナで政治リスク保険を提供できずにいると書いています。以下、公的な機関がその役割をどう分け合っているかを、各機関の公表資料から並べます。数字はすべて、発表の日付と一緒に読んでください。

MIGA ── 日本が最初に資金を出した「SURE基金」

MIGAは1988年に世界銀行グループの一員として設けられた機関で、通貨の交換・送金の制限、政府による契約違反、収用、戦争・内乱のリスクを軽減する保証を投資家や貸し手に提供しています(MIGAの発表文の機関紹介による)。

MIGAは2023年2月23日、ロシアによるウクライナへの全面侵攻から1年の日に、ウクライナ向けの信託基金「SURE(Support for Ukraine’s Reconstruction and Economy)」の立ち上げを発表しました。最初の拠出者は日本で、額は2,300万ドルでした。MIGAは基金の規模を最終的に3億ドルにすることを見込むとしていました(なお、MIGAの基金紹介ページは設立を2023年3月としています)。

基金の使い道は二段構えだと説明されています。戦争の間は、医薬品・食料・燃料・肥料の輸入を支える貿易金融の保証と、ウクライナで営業する外国銀行の子会社の準備預金にかける保険など。戦闘が終わって安定したあとは、交通・住宅・エネルギーといった分野の復興事業に、国際的な貸し手や出資者向けの政治リスク保険を出す、というものです。

発表日拠出者と額
2023年2月23日日本 2,300万ドル(最初の拠出)
2023年6月21日英国(外務・英連邦・開発省)最大2,000万ポンド
2023年10月13日ベルギー 100万ユーロ
2023年11月21日ノルウェー 2億4,000万ノルウェー・クローネ(約2,200万ドル)
2023年11月28日日本 200万ドルを追加(日本の累計2,500万ドル)
2024年5月6日米国 2,500万ドル、日本 1,100万ドルを追加(日本の累計3,600万ドル)。基金の総額は約1億1,000万ドルに
2026年4月27日日本 1,000万ドルを追加。MIGAは日本のそれまでの拠出を4,600万ドルとしている
MIGAの各発表による(確認日2026年9月24日)。英国の拠出は2023年11月30日にも2,000万ポンドとして発表されている。

2024年5月の時点で、日本の拠出はSURE基金への拠出者の中で最も大きいとMIGAは書いています。2026年4月の発表では、日本の財務省の担当課長が、日本はMIGAの第2位の株主で、MIGAの信託基金への最大の拠出国だと述べています。

実績についてMIGAは、基金紹介のページで2025年6月30日時点の数字を挙げています。SURE基金から充てた資金が9,030万ドル、それを使って発行したMIGAの保証が3億2,660万ドル、動員した民間資金が3億2,420万ドル。ウクライナ全体では、全面侵攻が始まった2022年2月以降に発行した新規の保証が5億6,100万ドルになったと、2026年4月の発表は書いています。

個別の例も公表されています。2023年9月、MIGAはキプロスのUIPH社がウクライナの工業団地(M10 Industrial Park)に行う出資と株主貸付に対し、最長10年、戦争・内乱のリスクを対象に最大910万ドルの保証を出しました。ノルウェーの拠出の発表でMIGAは、基金の資金を「最初に損失を負う部分(ファースト・ロス)」に使うことで、リスクに見合いつつ払える水準の保険料で保険を出せる、と仕組みを説明しています。

DFC ── 米国の開発金融公社と、再保険という使い方

米国国際開発金融公社(DFC)の政治リスク保険は、通貨の交換不能、収用、テロを含む政治的暴力による損失を対象にしています(DFCの発表による)。

DFCは2024年6月12日、ベルリンで開かれたウクライナ復興会議に合わせ、ウクライナ向けの政治リスク保険4件、計3億5,700万ドルを発表しました。内訳は、農産物輸出の既存事業に1億5,000万ドル、製造業のウクライナ企業に1億5,200万ドル、ウクライナの学生の高等教育を支える事業に500万ドル、そして再保険の枠5,000万ドルです。DFCは、軍事的な報復の恐れがあるため、これらの取引の相手方のいくつかは名前を明かさないとしています。同じ発表で、全面侵攻以降のウクライナでの取引は8億4,800万ドル、ウクライナでのポートフォリオ全体は16億ドルになったとしています。

この再保険の枠は、2024年11月14日のワルシャワでの発表でも取り上げられています。仲介は米国の保険ブローカーのエーオン(Aon)、受け手はフェアファクス・ファイナンシャル傘下のウクライナの保険会社ARXです。DFCはこの枠によって、ARXがウクライナで事業を行う企業向けの戦争リスク保険を増やし、動かない資産(static assets)に対する2億ドルを超える新たな補償が可能になるとしています。公的機関が直接すべてを引き受けるのではなく、国内の保険会社が保険を売れるように後ろから支える使い方です。

DFCとMIGAは2023年6月21日、ウクライナの政治リスク保険について協議グループを設けることで合意しました。2026年6月25日には、ポーランドのグダンスクで開かれた復興会議の場で、米国・ウクライナ復興投資基金(URIF)の投資を対象に政治リスク保険の枠組みをつくる協力協定に署名しています。URIFは、米国財務長官の発言によれば2025年4月に両国が合意して設けた基金で、DFCの発表によれば最初の投資先は無人機の自律制御技術を持つウクライナの企業でした。

NEXI ── 日本貿易保険は引き受けを止めていない

日本の企業が使う公的な保険は、株式会社日本貿易保険(NEXI)です。NEXIの海外投資保険は、日本企業が外国に持つ株式や不動産などについて、収用、戦争・革命・テロ、送金の制限などの「非常危険」で生じた損失を補うものです。NEXIの案内(2026年4月発行)によれば、保険金額の割合(付保率)は95%以下か100%から選び、保険期間は新規の契約で原則2年から30年のあいだで決めます。

NEXIは2024年2月20日の発表で、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降も、ウクライナ向けの引受方針を開いたまま維持し、輸出・投資の保険の引き受けを続けてきたと書いています。NEXIの国別引受方針のページでは、2026年9月の時点で、ウクライナの国カテゴリーはAからHまでの8段階の最後のH(2026年9月14日現在の表)。そのうえで、海外投資保険は3つの型すべてが「引受可能」とされています。貿易保険の一部には、契約金額5億円まで・期間12か月以内といった条件がついています。

枠としては、2024年2月19日の日・ウクライナ経済復興推進会議に合わせて、海外投資保険の引受枠1,500億円(2029年までの5年間)と、短期の貿易保険の引受枠500億円(2026年までの2年間)を設定しました。NEXIは2014年と2016年にも、ウクライナ向けにそれぞれ2年間で300億円の短期貿易保険の枠を設けています。この会議全体の中での位置づけは、経済復興推進会議のその後を追った記事にまとめています。

NEXIは同じ会議でウクライナの輸出信用機関「ECA Ukraine」と協力覚書を結び、情報交換や再保険での協力を約束しました。2024年6月のベルリンの復興会議では、米国輸出入銀行、英国輸出信用保証局、ドイツのユーラーヘルメスなど計13の機関とともに、ウクライナの復興を輸出信用と直接投資の支援で支える協力覚書にも署名しています。

数字を読むときに分けておくこと

  • 基金の拠出額と、保証の額は別のもの。MIGAのSURE基金は、拠出された資金を損失の最初の部分に充て、その何倍かの保証を出す仕組みで、MIGAは2025年6月時点のてこの比率を約1対3.5としている。
  • 「枠」と「利用実績」も別のもの。NEXIの1,500億円・500億円は引き受けの上限として設定された額で、実際にどれだけ使われたかは公表されていない。
  • 保険がつくかどうかは案件ごとの審査で決まる。各機関の枠や方針は、個別の投資に保険がつくことを約束するものではない。

戦争のさなかに投資を呼び込むための仕組みは、政府の補助金とも融資とも違い、「損をしたときに誰が払うか」を先に決めておく道具です。公表された枠が大きくても、それが実際の投資にどれだけ結びついたかは、別の数字で確かめる必要があります。

出典・参考資料

  1. MIGA and Japan Partner to Support Ukraine(2023年2月23日。SURE基金の立ち上げ、日本の2,300万ドル、3億ドルの見込み、戦時と戦後の用途)
    発行:MIGA(多数国間投資保証機関) 確認日:2026-09-24
  2. MIGA Partners with U.S., U.K. Development Agencies to Support Ukraine, Increases Guarantee to Boost Banking Sector(2023年6月21日。英国の最大2,000万ポンド、DFCとの協議グループ)
    発行:MIGA 確認日:2026-09-24
  3. Belgium Contributes to MIGA's Trust Fund to Support Ukraine(2023年10月13日。100万ユーロ、侵攻以降1億9,500万ドルの保証)
    発行:MIGA 確認日:2026-09-24
  4. Norway Contributes to MIGA's Ukraine Trust Fund(2023年11月21日。2億4,000万クローネ、ファースト・ロスの仕組み、民間保険会社の不在)
    発行:MIGA 確認日:2026-09-24
  5. Japan Adds to MIGA's Ukraine Trust Fund(2023年11月28日。日本の追加200万ドル・累計2,500万ドル、民間保険会社が提供できないこと、M10 Industrial Park への910万ドル・最長10年)
    発行:MIGA 確認日:2026-09-24
  6. United Kingdom Provides £20 Million to MIGA's Ukraine Trust Fund(2023年11月30日)
    発行:MIGA 確認日:2026-09-24
  7. U.S. and Japan Contribute to Ukraine Trust Fund(2024年5月6日。米国2,500万ドル、日本の追加1,100万ドル・累計3,600万ドル、総額約1億1,000万ドル、2023年9月のM10保証)
    発行:MIGA 確認日:2026-09-24
  8. Japan Deepens Partnership with MIGA to Mobilize More Private Capital for Developing Countries Through Guarantees(2026年4月27日。SUREへの1,000万ドル、それまでの拠出4,600万ドル、侵攻以降の新規保証5億6,100万ドル、第2位の株主)
    発行:MIGA 確認日:2026-09-24
  9. Support for Ukraine's Reconstruction and Economy Trust Fund (SURE TF)(2025年6月30日時点の実績、設立を2023年3月と記載)
    発行:MIGA 確認日:2026-09-24
  10. DFC Announces $357 Million in New Political Risk Insurance in Ukraine as Russia's Invasion Threatens Critical Private Investment(2024年6月12日)
    発行:米国国際開発金融公社(DFC) 確認日:2026-09-24
  11. DFC Commits $50 Million in New Political Risk Insurance to Expand War Insurance for Businesses in Ukraine(2024年11月14日)
    発行:DFC 確認日:2026-09-24
  12. Joint Statement on Establishment of DFC-MIGA Consultative Group on Political Risk Insurance for Ukraine(2023年6月21日)
    発行:DFC 確認日:2026-09-24
  13. DFC, MIGA Sign Agreement to Advance Political Risk Insurance in Ukraine(2026年6月25日。URIF向けPRI枠組み、DFCのPRIの対象リスク)
    発行:DFC 確認日:2026-09-24
  14. URIF Holds Fourth Board Meeting at Ukraine Recovery Conference(2026年6月30日。2025年4月の合意、最初の投資先)
    発行:DFC 確認日:2026-09-24
  15. 国別引受方針 ウクライナ(国コード238、国カテゴリーH、保険種ごとの引受態度)
    発行:日本貿易保険(NEXI) 確認日:2026-09-24
  16. 国カテゴリー表(2026年09月14日現在)
    発行:日本貿易保険(NEXI) 確認日:2026-09-24
  17. ウクライナ向けクレジット・ライン(海外投資保険及び短期貿易保険引受枠)の設定(2024年2月19日)
    発行:日本貿易保険(NEXI) 確認日:2026-09-24
  18. 日本貿易保険(NEXI)とECAウクライナ(ECA Ukraine)との協力のための覚書締結について(2024年2月20日。侵攻以降も引受方針を維持)
    発行:日本貿易保険(NEXI) 確認日:2026-09-24
  19. ウクライナ支援に係る協力覚書の締結について(2024年6月13日。13機関の協力覚書)
    発行:日本貿易保険(NEXI) 確認日:2026-09-24
  20. 海外投資保険(貿易保険のご案内VII、2026年4月発行。非常危険の範囲、付保率、保険期間)
    発行:日本貿易保険(NEXI) 確認日:2026-09-24

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