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日本とのつながり/解説

東京で披露された56本の協力文書と、その後に動いたもの

2024年2月19日、東京の経団連会館で開かれた日・ウクライナ経済復興推進会議では、政府間の条約から企業どうしの覚書まで56本の協力文書が披露されました。租税条約は2025年8月に発効し、ジェトロのキーウ事務所は2024年10月に開きました。投資協定の改正交渉は、2026年8月の第7回会合でも続いています。

2024年2月19日の朝、東京・大手町の経団連会館で「日・ウクライナ経済復興推進会議」が開かれました。ロシアによるウクライナへの全面侵攻が始まってから、まもなく2年という時期です。この日、両国の政府・公的機関・自治体・企業に国際機関も加わって交わされた協力文書は56本にのぼりました。それから2年半がたった2026年9月の時点で、公的な発表からたどれる「その後」を並べます。

会議で約束されたこと

外務省の概要によれば、首脳セッションは午前10時から10時35分まで、岸田文雄内閣総理大臣とデニス・シュミハリ・ウクライナ首相が出席して開かれました。共催は日本政府、経団連、日本貿易振興機構(ジェトロ)、ウクライナ政府で、経団連は出席者を「総勢約350人」としています。

岸田総理は基調講演で、会議の原点を2023年3月のキーウ訪問に置きました。ゼレンスキー大統領から日本の経験・技術と民間投資への期待を聞き、「日本ならではの貢献」ができるはずだと考えて会議の開催を決めた、という説明です。そのうえで「3つの原則」「5つの行動」「50の約束」を示しました。原則は「包摂性」「パートナーシップ」「知見・技術」。5つの行動は次のとおりです。

番号行動講演で挙げられた中身
1法的インフラ整備新たな租税条約の締結、投資協定の改正交渉の開始
2国際金融機関を通じた支援欧州復興開発銀行(EBRD)の増資への貢献、国際協力銀行(JBIC)による黒海貿易開発銀行を通じたツーステップローン
3二国間協力ODAによる官民連携事業、ウクライナのベンチャーキャピタルに対する国際協力機構(JICA)の海外投融資
4ビジネス連携・投資と貿易の拡大ジェトロのキーウ事務所の設置、日本貿易保険(NEXI)の新たなクレジットライン
5人の往来協力案件に関わるウクライナの関係者への数次査証(ビザ)の緩和
岸田内閣総理大臣の基調講演(2024年2月19日、外務省掲載の和文)から要約。

「50の約束」にあたるのが、スタートアップを含む日本企業とウクライナ側が署名した「50本以上の協力文書」だと講演は述べています。外務省の概要は、租税条約の署名本書の交換などと合わせて「計56本の署名協力文書」が両首脳の立ち会いのもとで披露された、と記しています。

56本の内訳

外務省は「署名協力文書一覧」を公表しています。日本側の署名者で分けると、次のようになります。

区分本数主な文書
日本政府3租税条約、無償資金協力「緊急復旧計画(フェーズ3)」の交換公文、二国間クレジット制度(JCM)の協力覚書
2文部科学省とウクライナ教育科学省、国土交通省とウクライナ地方・国土・インフラ発展省の協力覚書
政府系の機関14JICA 3本、ジェトロ 5本、JBIC 2本、NEXI 2本、都市再生機構 1本、水資源機構 1本
経済団体1日本商工会議所とウクライナ商工会議所の覚書
自治体2兵庫県とミコライウ州、兵庫県とイヴァーノ=フランキーウシク州の覚書
企業34農業機械、鉄道車両、発電・熱供給、通信、義足、住宅など
外務省「『日・ウクライナ経済復興推進会議』(2024年2月19日)での協力文書一覧」の日本側署名者欄から集計。

企業の34本は分野が広く、たとえばウクライナ農業政策・食料省を相手とする文書だけで6本あります(前川製作所、クボタ、ヤンマーアグリ、メビオール、カクイチ、AC Biode)。ほかに、センコー商事・三菱電機・富士電機とクリュコフ社によるキーウ地下鉄の車両近代化、ヤマハによるオデーサの国立歌劇場への楽器の寄贈、IHIによる「M15号線の改良に係る調査ならびにポータブルパネル橋設置事業」といった文書が並びます。

読むときに注意したい点が二つあります。一つは、文書の性格です。一覧の文書名には「覚書」「意向表明書」「基本合意書」が多く、条約・交換公文・贈与契約・出資契約のように金額や義務がはっきりした文書は一部です。共同コミュニケの骨子も、双方が歓迎したのは会議で発表された「意図表明文書、協力覚書及び契約」だと書いています。もう一つは、一覧そのものの位置づけです。外務省は注記で、この一覧は把握できる範囲でまとめたもので「必ずしも網羅的ではない」とし、政府機関どうし以外の文書について「政府としてその名称や内容の正しさを保証したり、責任を有したりするものではない」としています。

その後に動いたもの

5つの行動のうち、公式発表で「その後」を確かめられたものを表にします。

項目会議の時点その後
租税条約2024年2月19日に署名2025年8月1日に発効。源泉徴収される税などは2026年1月1日以後の分から適用(財務省)
投資協定の改正交渉の開始を表明第1回会合は2025年7月29〜31日。第7回は2026年8月5〜6日で、双方は「早期妥結に向けて、引き続き協議していくこと」で一致(外務省)
JBICと黒海貿易開発銀行覚書に署名2024年9月30日、最大1億5,000万米ドルのクレジットラインを設定。JBICは「本融資は同覚書に基づくもの」としている
JICAの海外投融資2024年2月19日に出資契約を調印ウクライナとモルドバのICT・テック企業に投資するファンドへ、上限2,000万米ドルを出資(JICA)
ジェトロのキーウ事務所設置を表明2024年10月10日に開設。東京の本部には「ウクライナ・ビジネスデスク」を置いた
NEXIのクレジットライン設定を公表海外投資保険の引受枠1,500億円(2029年までの5年間)、短期貿易保険の引受枠500億円(2026年までの2年間)
ビザの緩和緩和措置を発表。運用開始時期は「検討中」2024年6月24日に開始(在ウクライナ日本国大使館)
各機関の発表による(確認日2026年9月23日)。「その後」の欄は発表された事実で、実際の利用額や事業の進み具合を示すものではない。

ビザの緩和は三つの中身からなります。商用の数次短期滞在ビザの対象に、復旧・復興の協力案件に関わるウクライナ企業の常勤者を加えて渡航歴の要件を緩めること。知人・親族訪問の数次ビザの対象に、日本にいるウクライナ避難民の親族を加えること。相当の高所得がある人と家族に、有効期間5年・滞在期間90日の数次ビザを新たに出すことです。

会議の日に交換公文が署名され、会議で紹介された無償資金協力「緊急復旧計画」は、フェーズ3の供与額が158億円で、地雷・不発弾対策、電力・エネルギー、運輸交通、官民連携の4分野を対象としていました。外務省の「ウクライナ情勢に関する対応」のページには、その後もフェーズ4(2025年2月28日)とフェーズ5(2026年2月27日)の書簡の署名・交換が載っています。

企業どうしの文書の「その後」は、まとめて公表されてはいません。個別に確かめられた例を一つ挙げます。一覧の35番目は、義足をデジタル技術で製造するインスタリムと、ウクライナのBEZ OBMEZHENとの量産体制の実証に関する文書でした。JBICは2025年5月2日、インスタリムとの間で、キーウで行う3Dプリント義足などの製造・販売事業のための貸付契約(JBIC分の上限1,800万円、民間金融機関との協調融資の総額3,600万円)を2025年3月14日に結んだと発表しています。

2025年8月の「フォーラム」

会議から1年半後の2025年8月4日、東京で「日・ウクライナ経済復興推進フォーラム」が開かれました。経済産業省の発表によれば、主催は経済産業省、ジェトロ、ウクライナ経済・環境・農業省で、ウクライナからはタラス・カチカ欧州・欧州大西洋統合担当副首相、アンドリー・シビハ外務大臣らが出席し、両国の企業・機関による新たな29件の協力文書が披露されました。経産省はここで、国連工業開発機関(UNIDO)を通じた260億円規模の実証事業への支援などにも触れています。

経団連の広報紙は、2025年9月3日の経団連の委員会で外務省と経済産業省の担当者が行った説明の概要を載せています。それによれば、経産省はUNIDOを通じた支援に260億円を拠出し、「医療、農業、地雷除去など29件のプロジェクトで契約を締結している」とされています。同じ概要には、2023年以降にウクライナへの官民ビジネスミッションを5回派遣したこと、2025年7月には初めてリヴィウを訪問し、リヴィウ市役所が日本企業のための窓口「ジャパンデスク」を設けたことも書かれています。

まだ見えていないこと

2026年9月の時点で、会議で示された5つの行動のうち、制度として形になったものは、公的な発表からかなりの部分をたどれます。租税条約は発効し、ジェトロの事務所は開き、ビザの緩和は始まりました。一方で、投資協定の改正は7回の会合を重ねても妥結の発表がありません。

企業どうしの34本については、どれが事業として動き、どれが覚書のまま止まっているのかを一覧で示す公的な資料は見当たりません。NEXIの引受枠やJBICのクレジットラインが実際にどれだけ使われたかも、公表資料からは読み取れません。「56本」という数字は、会議の日に披露された文書の数であって、成立した事業の数ではありません。

会議の日付や日本の支援全体の規模は ウクライナと日本の関係の記事 に、租税条約の税率の変化は 日本とウクライナの年表 にまとめています。

出典・参考資料

  1. 日・ウクライナ経済復興推進会議首脳セッション(概要)(令和6年2月19日。開催時間・会場・計56本・共同コミュニケ発出)
    発行:外務省 確認日:2026-09-23
  2. 岸田総理大臣による基調講演(和文PDF。3つの原則・5つの行動・50の約束・キーウ訪問)
    発行:外務省 確認日:2026-09-23
  3. 「日・ウクライナ経済復興推進会議」(2024年2月19日)での協力文書一覧(和文PDF・英文PDF。署名者・文書名・注記)
    発行:外務省 確認日:2026-09-23
  4. 日・ウクライナ経済復興推進会議:共同コミュニケ(骨子)(和文PDF)
    発行:外務省 確認日:2026-09-23
  5. 日・ウクライナ経済復興推進会議(関連発表の一覧)
    発行:外務省 確認日:2026-09-23
  6. ウクライナに対する無償資金協力「緊急復旧計画(フェーズ3)」に関する書簡の署名(令和6年2月19日。供与額158億円・4分野)
    発行:外務省 確認日:2026-09-23
  7. ウクライナ国民に対するビザ発給要件の緩和(令和6年2月19日。緩和の3項目・運用開始は検討中)
    発行:外務省 確認日:2026-09-23
  8. ウクライナ国民に対するビザ発給要件の緩和(令和6年6月26日。2024年6月24日開始)
    発行:在ウクライナ日本国大使館 確認日:2026-09-23
  9. 日・ウクライナ投資協定改正交渉第1回会合の開催(令和7年8月1日)
    発行:外務省 確認日:2026-09-23
  10. 日・ウクライナ投資協定改正交渉第7回会合の開催(令和8年8月7日)
    発行:外務省 確認日:2026-09-23
  11. ウクライナ情勢に関する対応(令和8年9月22日更新。緊急復旧計画フェーズ4・5、投資協定改正交渉の各回)
    発行:外務省 確認日:2026-09-23
  12. ウクライナとの新租税条約が発効します(令和7年7月2日)
    発行:財務省 確認日:2026-09-23
  13. 日・ウクライナ経済復興推進会議を開催(週刊 経団連タイムス 2024年3月14日 No.3629。共催者・出席者約350人)
    発行:日本経済団体連合会 確認日:2026-09-23
  14. ウクライナ復興支援の最新状況を巡り意見交換(週刊 経団連タイムス 2025年10月9日 No.3700)
    発行:日本経済団体連合会 確認日:2026-09-23
  15. 日・ウクライナ経済復興推進会議で56件の協力文書が締結(ビジネス短信 2024年3月1日)
    発行:ジェトロ 確認日:2026-09-23
  16. 10月10日、ジェトロ・キーウ事務所がオープンしました(2024年10月11日)
    発行:ジェトロ 確認日:2026-09-23
  17. 国際金融秩序の混乱への対処及び地球環境保全を目的とした黒海貿易開発銀行に対するクレジットラインの設定(2024年10月1日)
    発行:国際協力銀行(JBIC) 確認日:2026-09-23
  18. ウクライナにおいて日本企業が実施する3Dプリント義足等の製造・販売事業に対する融資(2025年5月2日)
    発行:国際協力銀行(JBIC) 確認日:2026-09-23
  19. ウクライナ・モルドバ共和国「輸出志向型産業支援事業」に対する出資契約の調印(海外投融資)
    発行:国際協力機構(JICA) 確認日:2026-09-23
  20. ウクライナ向けクレジット・ライン(海外投資保険及び短期貿易保険引受枠)の設定
    発行:日本貿易保険(NEXI) 確認日:2026-09-23
  21. 「日・ウクライナ経済復興推進フォーラム」を開催しました(2025年8月)
    発行:経済産業省 確認日:2026-09-23

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