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日本とのつながり/解説

ブチャで40分、首脳会談は2時間40分。岸田首相のキーウ訪問

2023年3月21日、岸田文雄首相はゼレンスキー大統領の招待でウクライナを訪れ、キーウ郊外のブチャで献花したあと、約2時間40分の首脳会談に臨みました。両国の関係は「特別なグローバル・パートナーシップ」に格上げされ、このとき調整開始で合意した情報保護協定は2025年6月に発効しています。外務省の記録から、その一日とその後を追います。

2023年3月21日、岸田文雄内閣総理大臣(当時)は、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領の招待を受けてウクライナを訪問しました。外務省が同じ日に出した発表によれば、キーウで首脳会談を行ったあと、22日にポーランドを訪れ、23日の朝に帰国する日程でした。

ロシアによるウクライナへの全面侵攻が始まってから、1年余りたった時期です。外務省の「ウクライナ基礎データ」(2026年9月3日付)の要人往来の表で、日本の総理大臣がウクライナを訪れた記録は、1995年以降では2015年6月の安倍晋三総理とこの2023年3月の岸田総理の2回だけです。その日に何が行われ、何が約束され、それがその後どうなったのかを、2026年9月時点の外務省の公表資料で追います。

ブチャでの献花と、戦死者慰霊碑

外務省の記録によれば、岸田総理は日本時間の午後9時(現地時間午後2時)から約40分間、キーウ郊外のブチャ市を訪れました。犠牲者に献花し、外務省の表現では「ロシアの暴挙により悲惨な体験をされた方々」から直接話を聞き、その後の復旧の状況についても説明を受けています。日本政府が越冬支援として同市に送った発電機も視察しました。

続いて日本時間午後10時20分(現地時間午後3時20分)から約10分間、キーウ市内の戦死者慰霊記念碑で、ロシアによる侵略の犠牲者などに献花しています。

2時間40分の首脳会談で話されたこと

首脳会談とワーキング・ディナーは、日本時間21日午後10時50分(現地時間午後3時50分)から22日午前2時50分(現地時間21日午後7時50分)まで、途中に共同記者会見をはさんで計約2時間40分行われました。外務省が公表した概要から、主な内容を分野ごとに並べます。

分野外務省の概要に書かれていること
支援前年から進めてきた約16億ドルの人道・財政支援と、侵略1年に合わせて決めた約55億ドルの追加財政支援、あわせて71億ドルを着実に実施すると岸田総理が説明。さらにエネルギー分野などへの二国間の無償支援4.7億ドルと、NATOの信託基金を通じた殺傷性のない装備品支援への3千万ドルの拠出を決めたと伝えた
G7広島サミット5月の広島サミットにゼレンスキー大統領がオンラインで参加するよう岸田総理が要請し、大統領が快諾
対露制裁制裁の回避・迂回への対策が重要だとして、2月24日のG7首脳声明で合意した実施調整の仕組みを早く立ち上げたいと岸田総理が表明
核の威嚇と原発ロシアの核兵器による威嚇は受け入れられないと岸田総理が述べ、原発の占拠などを「決して許されない暴挙」とした。大統領は広島サミットでこの二つを取り上げるよう求めた
二国間関係両国関係を「特別なグローバル・パートナーシップ」に格上げすることで合意。情報保護協定の締結に向けた調整を始めることにも合意
外務省「日・ウクライナ首脳会談」(2023年3月22日掲載)から要約。金額は日本側が表明した支援の規模で、支払いが済んだ額ではない。

ゼレンスキー大統領は、日本からそれまでに供与された「70億ドルを超える」支援と新たな支援に深く感謝すると述べています。広島サミットへの参加は、この時点ではオンラインという約束でした。大統領が実際には5月に広島を訪れて対面で参加した経緯は、オンライン参加の予定だったゼレンスキー大統領が、広島に来たで扱っています。

共同声明の27項目

会談の結果、両首脳は「日本とウクライナとの間の特別なグローバル・パートナーシップに関する共同声明」を出しました。キーウで2023年3月21日付、全27項目です。外務省は英文と和文の仮訳を公表しています。読み手にとって重要な項目を、仮訳の文言で挙げます。

  • 第1項:ロシアによるウクライナに対する「違法で、不当で、いわれのない侵略」を「可能な限り最も強い言葉で非難」し、国連憲章の主権・領土一体性の原則への重大な違反だとの認識を共有した。
  • 第3項:「ロシアによるウクライナ領土の違法な併合の試みに対する不承認の政策」に引き続き完全にコミットしていることを強調し、ロシアはウクライナ全土から全ての軍と装備を即時かつ無条件に撤退させなければならないとした。
  • 第8項・第9項:ロシアの核兵器使用の威嚇を非難し、77年間に及ぶ核兵器の不使用の記録をロシアが破ってはならないと強調した。ザポリッジャ原子力発電所の占拠と軍事化には「最も重大な懸念」を示した。
  • 第12項:G7メンバーの財政・経済支援のコミットメントが390億米ドルに増えたことを含め、G7議長国日本の指導力に大統領が謝意を示した。
  • 第18項:戦争で損傷を受けた文化遺産の保護と保全に日本が支援を提供する用意があることを、ウクライナが歓迎した。
  • 第20項:日本が2023年のG7議長国であり、2023年から2024年まで国連安全保障理事会の非常任理事国であることを踏まえ、国際的な場での協力を深めるとした。

声明は、日本とウクライナの外交関係樹立30周年が前年の2022年だったことにも触れています(第15項)。外交関係が開設されたのは1992年1月26日です(外務省「ウクライナ基礎データ」)。それからの両国関係の年表は、日本とウクライナの年表にまとめています。

その後、何が形になったか

首脳会談で合意したことのうち、外務省の発表で行き先を追えるものがあります。一つは情報保護協定です。2023年3月に調整の開始で合意し、2024年9月23日、国連総会に出席するためアメリカを訪問中の岸田総理とゼレンスキー大統領が行った首脳会談では、岸田総理が協定の「実質合意」を歓迎しています。協定は2024年11月16日に中込正志駐ウクライナ大使とウクライナ保安庁の第一副長官が署名し、2025年6月21日に効力を生じました。国家安全保障の観点から保護が必要な秘密情報を相手国政府に提供するとき、受け取った側が自国の法令に従って保護する措置などを定めた協定です。

もう一つは、首脳どうしの往来です。5月には広島サミットで大統領が来日し、2024年2月には東京で日・ウクライナ経済復興推進会議が開かれ、デニス・シュミハリ首相が出席しました(東京で披露された56本の協力文書と、その後に動いたもの)。外務省の基礎データの二国間条約・取極の欄には、2024年6月の「日本国政府とウクライナとの間のウクライナへの支援及び協力に関するアコード」が載っています。

2024年9月23日の首脳会談では、ゼレンスキー大統領が「昨年3月の岸田総理のキーウ訪問による二国間関係の強化」などに謝意を示し、会談の冒頭で岸田総理にウクライナの「ヤロスラフ賢公勲章第一等」を直接手渡しました。外務省の注記によれば、第一等はこの勲章の最高位の勲等です。

日付出来事
2023年3月21日岸田総理がキーウを訪問。ブチャで献花、首脳会談、共同声明の発出。情報保護協定の調整開始で合意
2023年5月21日ゼレンスキー大統領が広島サミットに対面で参加し、首脳会談
2024年2月19日東京で日・ウクライナ経済復興推進会議
2024年6月支援及び協力に関するアコード(外務省の基礎データの取極欄による)
2024年9月23日国連総会に合わせて首脳会談。情報保護協定の実質合意を歓迎。岸田総理に勲章
2024年11月16日情報保護協定に署名
2025年6月17日カナダのカナナスキスで石破茂総理と首脳会談
2025年6月21日情報保護協定が発効
2026年9月22日ニューヨークで高市早苗総理と首脳会談(現地時間)
外務省の各会談・発表のページと「ウクライナ基礎データ」(2026年9月3日付)から作成。2026年9月時点。日付は外務省の記載による。

その後の首脳会談は、第三国で

岸田総理のあと、2026年9月までの首脳会談は、G7サミットや国連総会の機会に第三国で行われています。2025年6月17日の石破茂総理との会談はカナダのカナナスキス、2026年9月22日(現地時間)の高市早苗総理との会談はニューヨークでした。外務省の基礎データの「往」の表に、2023年3月より後の総理大臣のウクライナ訪問は載っていません。載っているのは、2023年9月の林外務大臣、2024年1月の上川外務大臣、2024年11月の岩屋外務大臣などの閣僚・副大臣の訪問です。

2023年3月21日の記録は、ブチャでの40分、慰霊碑での10分、2時間40分の会談でできています。その場で調整の開始が決まった情報保護協定は、署名と国内手続きを経て、2年3か月後に効力を生じました。

出典・参考資料

  1. 岸田総理大臣のウクライナ、ポーランド共和国訪問(招待による訪問・日程・訪問の目的)
    発行:外務省 確認日:2026-09-24
  2. 岸田総理大臣のウクライナ及びポーランド訪問(令和5年3月21日~23日)(関連ページの一覧)
    発行:外務省 確認日:2026-09-24
  3. 岸田総理大臣のウクライナ訪問(ブチャ訪問・戦死者慰霊記念碑への献花の時刻と内容)
    発行:外務省 確認日:2026-09-24
  4. 日・ウクライナ首脳会談(令和5年3月22日)(会談の時刻と所要時間・支援額・G7広島サミットへのオンライン参加の要請・格上げ・情報保護協定)
    発行:外務省 確認日:2026-09-24
  5. 日本とウクライナとの間の特別なグローバル・パートナーシップに関する共同声明(和文仮訳。第1・3・8・9・12・15・18・20項)
    発行:外務省 確認日:2026-09-24
  6. ウクライナ基礎データ(令和8年9月3日付。外交関係開設日・要人往来・二国間条約・取極)
    発行:外務省 確認日:2026-09-24
  7. 日・ウクライナ首脳会談(令和6年9月23日)(キーウ訪問への謝意・情報保護協定の実質合意・ヤロスラフ賢公勲章)
    発行:外務省 確認日:2026-09-24
  8. 日ウクライナ情報保護協定の発効(2024年11月16日の署名・2025年6月21日の発効・協定の内容)
    発行:外務省 確認日:2026-09-24
  9. 日・ウクライナ首脳会談(令和7年6月17日)(カナナスキスでの会談)
    発行:外務省 確認日:2026-09-24
  10. 日・ウクライナ首脳会談(令和8年9月22日)(ニューヨークでの会談)
    発行:外務省 確認日:2026-09-24
  11. 過去の要人往来・会談(2023年5月の広島での首脳会談ほかの一覧)
    発行:外務省 確認日:2026-09-24

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