キーウで生まれ、本社をマルタへ。『メトロ』の4A Games
ゲーム『メトロ2033』をつくった4A Gamesは、2005年にキーウで設立され、2014年に本社をマルタへ移しました。いまも200人あまりのうち約150人がウクライナにいると会社は説明しています。GSC出身の創業者たち、マルタへ移った理由、別会社になったキーウのスタジオ、原作者への判決、次の作品までを、会社の発表と報道から見ていきます。
オリュカのひとこと
『メトロ』をつくった会社は、どこで生まれたのでしょう。最初の見出しで確かめられます。
2010年3月16日、ゲーム『メトロ2033』(Metro 2033)が発売されました。核戦争のあと、モスクワの地下鉄のトンネルで生き延びる人びとを描く一人称のシューティングゲームです。つくったのは4A Games(4Aゲームズ)。ウクライナの首都キーウで生まれた開発会社で、いまの本社は地中海の島国マルタにあります。
会社は2025年2月の発表で、200人あまりのチームのうち約150人がウクライナにいると説明しています。シリーズの次の作品『METRO 2039』は、Steamの販売ページで2027年2月4日の発売予定とされています(2026年10月時点)。この会社がどこで始まり、なぜ本社を移し、いまどんな形で開発しているのかを、会社の発表と報道から順に見ていきます。
『メトロ2033』とキーウのスタジオ
4A Gamesの公式サイトは、会社が2005年にキーウで、ゲーム業界の経験者のチームによって設立されたと書いています。2025年3月、『メトロ2033』の15周年に出した文章では、会社は20年前の設立のころ、ドミトリー・グルホフスキーの「当時はオンラインの小説だった」作品に触発されて、同じ題名の最初のゲームの開発を始めたと振り返っています。最初のゲームを出した2010年のチームは60人でした。
創業の中心になったのは、キーウのゲーム会社GSCゲームワールドで働いていた人たちです。2014年5月の会社の発表は、共同創業者でクリエイティブ・ディレクターのアンドリー・プロホロウ(Андрій Прохоров)の名を挙げています。会社は2025年の文章で、仲間が最初の『S.T.A.L.K.E.R.』に関わったことを自分たちの来歴として書いています。GSCと『S.T.A.L.K.E.R.』そのものはGSCの記事で扱いました。
ウクライナのIT媒体「Межа(メジャ)」の2026年7月の記事(オレフ・ダニロウ執筆)は、プロホロウ、プログラマーのオレシ・シシコウツォウ(Олесь Шишковцов)とオレクサンドル・マクスィムチュク(Олександр Максимчук)、3Dアーティストのアンドリー・トカチェンコ(Андрій Ткаченко)の4人がGSCを離れて4A Gamesをつくったと書いています。離れた理由については、お金をめぐる対立とする説と、GSCが人員を減らそうとしたためとする説の二つがあると紹介しています。
オリュカ
創業の年は、どうして二つあるのかな。
タブリ
どの資料がどう書いたかは、この見出しの表で見比べられるよ。
スウネ
会社自身の書き方は、表の下の本文にあるね。
創業は2005年か2006年か、創業者は3人か4人か
創業の年と人数は、資料によって書き方が違います。会社自身は2005年としています。
| 資料 | 創業の年 | 創業者 |
|---|---|---|
| 4A Games 公式サイト(トップページ)、2025年3月の15周年の文章 | 2005年(「20年前」) | 人数は書かない。2025年2月の文章は創業者を「four A’s」と呼ぶ |
| エンブレイサー・グループの発表(2020年8月13日) | 2005年 | GSCゲームワールド出身の開発者3人 |
| Межа(2026年7月10日) | 2006年 | プロホロウ、シシコウツォウ、マクスィムチュク、トカチェンコの4人 |
年表:設立から『METRO 2039』まで
| 年月日 | 出来事 | 典拠 |
|---|---|---|
| 2005年 | キーウで設立 | 4A Games 公式サイト |
| 2010年3月16日 | 『メトロ2033』発売 | Steamの販売ページ |
| 2014年5月12日 | マルタに新しいスタジオを開き、本社とすると発表 | 4A Games |
| 2014年夏 | 本社と50人あまりの社員と家族がマルタへ移る | 4A Games(2014年8月20日) |
| 2017年 | VR用のゲーム『ARKTIKA.1』を発売 | エンブレイサーの発表 |
| 2019年 | 『メトロ エクソダス』(Metro Exodus)を発売 | 4A Games(2023年1月24日) |
| 2020年8月13日 | エンブレイサー・グループが全株式を取得すると発表 | エンブレイサー |
| 2023年1月24日 | 全面侵攻のもとでの開発の様子と、開発ツール「Exodus SDK」の無料公開を発表 | 4A Games |
| 2024年9月13日 | 4A Gamesがエンブレイサーにとどまると発表 | エンブレイサー |
| 2025年2月28日 | 会社の成り立ちと、別会社になったキーウのスタジオについて説明 | 4A Games |
| 2026年4月16日 | 『METRO 2039』を発表 | 4A Games |
| 2027年2月4日 | 『METRO 2039』の発売予定日 | Steamの販売ページ(2026年10月31日確認) |
2014年、本社をマルタへ
2014年5月12日、4A Gamesはマルタに新しいスタジオを開き、そこを新しい本社にする計画を発表しました。キーウのスタジオは続けるとしています。このとき最高経営責任者として取締役会に加わったディーン・シャープ(Dean Sharpe)は、発表の中で次のように述べています。
「EUの加盟国であるマルタに新しい本社を置くことで、4A Gamesは国際的な舞台でより競争できるようになる」「マルタはゲーム開発に大きな優遇策を用意している」。
会社の2014年8月20日の記事によれば、2014年の夏、本社と50人を超える社員とその家族がウクライナからマルタへ移りました。準備から実行までに6か月以上かかり、専用の飛行機の便を借り切り、荷物は専用のコンテナで運んだと書いています。いまの公式サイトは、本社をマルタのスリーマ(Sliema)、ウクライナの拠点をキーウのポチャイナ地区としています。
移った理由を、創業者はどう説明したか
ウクライナのIT媒体ITC.uaは2014年6月2日、プロホロウへのインタビューを載せています。プロホロウは、いちばんの理由として、必要な水準の外国の専門家を4A Gamesに雇えなかったことを挙げました。フランス、スペイン、オーストラリアなどから応募があっても、断るしかなかったといいます。EUの国にきちんとした事務所があれば、どこからでも人を呼べる、という説明です。
ほかに、マルタの政府から税や優遇の面でよい条件が示されたこと、ここ数か月のウクライナの全体的な緊張も挙げています。そのうえで、これはウクライナを去るのではなく、西側に事務所と開発スタジオを開く拡大だと述べています。
移った人数は、資料で違う
ITC.uaのインタビューでプロホロウは、当時の社員は75人で、最初にマルタへ行くのは33人、妻や子どもを含めて70人だと話しています。会社の2014年8月の記事と2025年2月の文章は「50人を超える」「およそ50人」としています。数え始めた時点や、家族を含むかどうかが資料によって違う可能性があり、どれか一つに決められる資料は見つかっていません。
オリュカ
綴りが二つあるのは、どうしてなのかな。
ヨリクネ
会社の文章での使い分けは、この見出しの最初の段落にあるよ。
タブリ
綴りの決まり方は、別の記事に詳しいよ。
昔の綴り「Kiev」、いまの綴り「Kyiv」
2014年5月の会社の発表は、キーウを「Kiev」と書いています。2023年以降の会社の文章は「Kyiv」です。Kiev はロシア語をもとにした綴り、Kyiv はウクライナ語をもとにした綴りで、その決まり方は「キーウ」の綴りの記事にあります。
オリュカのひとこと
いまの会社は、どんな形で動いているのでしょう。この見出しで確かめられます。
会社の形:マルタの本社と、キーウの二つのスタジオ
2025年2月28日、4A Gamesは会社の成り立ちを説明する文章を出しました。それによれば、2014年に創業者たちが「4A Games Limited」をつくり、およそ50人の仲間とマルタに本社を置きました。ウクライナに残った同僚の会社「4A Games Ukraine」とは、『メトロ エクソダス』を外注の関係で一緒につくりました。
『メトロ エクソダス』と追加コンテンツを出したあと、4A Games Limitedはキーウにもう一つスタジオをつくり、さらにおよそ50人を迎えました。4A Games Ukraineは自分たちの作品『La Quimera』に取り組む完全に別の会社となり、名前を「Reburn」に変えた、と書いています。『メトロ』シリーズは、発売元のDeep SilverとPlaionとの契約でつくっているとしています。
2020年8月13日、スウェーデンのエンブレイサー・グループ(Embracer Group)は、子会社のセイバー・インタラクティブを通じて、マルタの4A Games Limitedの株式の100%を取得すると発表しました。マルタとウクライナの二つのスタジオに150人以上がいるとしています。前払いの買収額は、現金と負債を除いた基準で約3,600万ドル、ほかに目標を達成した場合の追加の支払いが最大3,500万ドルです。発表では、4A Games自身の見込みとして2020年の売上高を約2,000万ユーロとしています。
エンブレイサーは2024年3月、セイバー・インタラクティブの事業の一部を、セイバーの共同創業者が支配する会社に売りました。エンブレイサーは2024年9月13日、買い手が4A Gamesを買い取る選択権がなくなり、4A Gamesはエンブレイサーのもとにとどまると発表しています。マルタは、2025年のウクライナのコンピューター・サービスの輸出の統計で、相手国の2位に入っています(輸出の記事)。ただ、この統計から個々の会社の取引はわかりません。
原作の小説と作者
原作の『メトロ2033』は、ロシアの作家でジャーナリストのドミトリー・グルホフスキー(Дмитрий Глуховский)の小説です。英国の『SF百科事典』(The Encyclopedia of Science Fiction、編集ジョン・クルート、デヴィッド・ラングフォード)によれば、グルホフスキーは1979年にモスクワで生まれました。小説は2002年に電子書籍として出たあと、2005年にモスクワの出版社エクスモから改訂版が出て、2010年に英訳が出ています。
ゲームの舞台は小説と同じモスクワの地下鉄です。会社は『メトロ エクソダス』を「グルホフスキーの小説に着想を得た」作品と紹介し、次の作品もグルホフスキーと一緒につくっていると書いています。
原作者への有罪判決
ラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティ(RFE/RL)によれば、モスクワのバスマンヌイ地区裁判所は2023年8月7日、ロシアによる全面侵攻を非難したネット上の投稿をめぐって、グルホフスキーに禁錮8年を言い渡しました。国外にいる本人が不在のままの判決で、それより前にロシアは彼を「外国の代理人」の一覧に加え、逮捕状を出していました。米国の放送局VOAも同じ日に、ロシア軍についての虚偽の情報を広めた罪とされたと伝えています。
4A Gamesは2025年3月の文章で、グルホフスキーは侵攻の初めから反対の声を上げ、不在のまま禁錮刑を言い渡されたと書き、彼を友人で共同の作り手と呼んでいます。
いまのチームの形
4A Gamesの公式サイトは、チームの人数を200人あまりとしています。2025年2月の文章では、キーウとスリーマの事務所、それに在宅で働き、約150人がウクライナにいる、残りはマルタか在宅だと説明しています。2026年4月の『METRO 2039』の発表では、前の作品から7年あまりのあいだに、25を超える国から新しい人が加わったと書いています。
会社は2023年1月、それまで要望の多かった改造(モッド)のために、『メトロ エクソダス』をつくったときの開発ツール一式を「Exodus SDK」として無料で公開しました。
全面侵攻のもとでの開発
2023年1月24日の会社の文章は、2022年2月24日のロシアによる全面侵攻でウクライナのすべての人の暮らしが変わったと書き、キーウの事務所に行けない日があること、電気と水が止まること、社員の中に軍に加わった人がいることを伝えています。2026年4月の文章も、チームの多くがいまもキーウの事務所とウクライナ各地の自宅から、毎日の停電の中で発電機や蓄電池を使って働いていると書いています。家庭の停電の予定表は電気の料金と停電の記事にあります。
『METRO 2039』と、変わった物語
2026年4月16日、4A Gamesは『METRO 2039』を発表しました。公式サイトの紹介によれば、舞台は2039年のモスクワの地下鉄で、ハンターという人物が率いる「ノヴォライヒ」という勢力が、宣伝と恐怖で人びとを支配しています。
会社は2023年1月の文章で、ウクライナでの戦争によって、次の『メトロ』がどんな物語であるべきかを考え直したと書いています。2026年4月の発表では、全面侵攻が物語の語り方を形づくったとし、伝えたいことは「沈黙の代償、専制の恐ろしさ、自由の値段」に移ったと説明しています。
出典と記事の記録
出典・参考資料
- 4A Gamesトップページ。2005年にキーウで設立、2014年に本社と50人あまりがマルタへ、マルタとウクライナの事務所
発行:4A Games Limited 確認日:2026-10-31 - Studios200人あまり、本社スリーマ、キーウのポチャイナ地区の拠点
発行:4A Games Limited 確認日:2026-10-31 - Our Games『METRO 2039』『メトロ エクソダス』などの紹介
発行:4A Games Limited 確認日:2026-10-31 - 4A Games announce plans to open a new studio in Malta2014年5月12日。ディーン・シャープの言葉、プロホロウらの移転
発行:4A Games Limited 確認日:2026-10-31 - 4A Games moves to Malta2014年8月20日。50人を超える社員と家族、6か月以上の準備
発行:4A Games Limited 確認日:2026-10-31 - 4A GAMES STUDIO UPDATE2023年1月24日。全面侵攻下の開発、次の『メトロ』の物語、Exodus SDK
発行:4A Games Limited 確認日:2026-10-31 - 4A GAMES STUDIO UPDATE2025年2月28日。4A Games Limited と 4A Games Ukraine〈Reburn〉、約150人がウクライナ
発行:4A Games Limited 確認日:2026-10-31 - Metro 15th Anniversary Update2025年3月16日。20年前の設立、オンライン小説、2010年に60人、グルホフスキーへの不在判決
発行:4A Games Limited 確認日:2026-10-31 - METRO 2039 - A Letter To Our Community2026年4月16日。25か国以上、停電の中の開発、物語の変化
発行:4A Games Limited 確認日:2026-10-31 - Metro 2033/METRO 2039/Metro Exodus発売日・開発元・発売元の表示。Steam Store API
発行:Valve(Steam) 確認日:2026-10-31 - Embracer Group acquires 4A Games2020年8月13日。株式100%、買収額、2005年に GSC 出身の3人が設立、150人以上
発行:Embracer Group 確認日:2026-10-31 - Embracer Group receives early payment for sale of Saber assets. 4A Games and Zen Studios will remain within Embracer Group.2024年9月13日
発行:Embracer Group 確認日:2026-10-31 - Андрей Прохоров: Почему 4A Games переезжает на Мальту?2014年6月2日。移転の理由、社員75人・最初の33人
発行:ITC.ua 確認日:2026-10-31 - Спадок GSC. Студії та компанії створені вихідцями з GSC Game World2026年7月10日、Олег Данилов。創業者4人、2006年
発行:Межа 確認日:2026-10-31 - Glukhovsky, Dmitry1979年モスクワ生まれ、2002年の電子書籍、2005年エクスモ版、2010年の英訳。2025年6月2日更新
発行:The Encyclopedia of Science Fiction(John Clute, David Langford) 確認日:2026-10-31 - Russian Writer Sentenced In Absentia For Anti-War Statements2023年8月7日。バスマンヌイ地区裁判所、禁錮8年、外国の代理人、逮捕状
発行:Radio Free Europe/Radio Liberty 確認日:2026-10-31 - Russian Writer Dmitry Glukhovsky Given 8-year Prison Term for Discrediting Russia's Army2023年8月7日。虚偽の情報の罪、不在の裁判、2022年10月の外国の代理人指定
発行:Voice of America 確認日:2026-10-31
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