本文へ移動

ウクライナの人・文化・社会・未来を、日本と世界につなぐ

Ukrainavi Ukrainavi

社会を知る/解説

プーチン大統領への逮捕状は、子どもの連れ去りの容疑だった

2023年3月、国際刑事裁判所はプーチン大統領らに逮捕状を出しました。容疑は、ウクライナの占領地域から子どもをロシアへ不法に追放・移送した戦争犯罪です。2026年3月には国連の調査委員会が人道に対する犯罪と結論しました。数字の出どころと、子どもを取り戻す枠組みを並べます。

2023年3月17日、国際刑事裁判所(ICC)の第II予審裁判部は、ロシアのプーチン大統領に逮捕状を出しました。容疑は、ウクライナの子どもを占領地域からロシアへ連れ去ったことでした。

それから3年後の2026年3月、国連の調査委員会は同じ行為を「人道に対する犯罪」だと結論しました。一方で、何人の子どもが連れ去られたのかは、ウクライナ政府、国連、ロシア側で示す数字が大きく違います。

逮捕状に書かれた二つの罪

ICCの2023年3月17日の発表によれば、逮捕状は2人に出されました。ロシア連邦大統領のウラジーミル・プーチン氏と、ロシア大統領府の子どもの権利担当全権代表マリヤ・リヴォワ=ベロワ氏です。

容疑はどちらも同じで、ICCの規程(ローマ規程)第8条に定める戦争犯罪のうち、ウクライナの占領地域からロシア連邦への「住民(子ども)の不法な追放」と「住民(子ども)の不法な移送」です。発表は、犯罪が「少なくとも2022年2月24日から」ウクライナの占領地域で行われたとしています。つまり、ロシアによるウクライナへの全面侵攻の日からです。

逮捕状そのものは、被害者と証人を守り、捜査を守るために非公開とされました。それでも裁判部は、行為が続いているとされることから、逮捕状の存在を公にすることが犯罪の防止につながりうるとして、容疑者の名前と罪名に限って公表を認めました。

ICCが裁くのは国家ではなく個人の刑事責任です。発表によれば、プーチン氏については、自ら(または他者と共同で、他者を通じて)行為をした責任と、指揮下の文民・軍人の行為を適切に管理しなかった上官としての責任の両方が挙げられています。

この逮捕状は、媒体の年表記事ウクライナの独立とロシアによる侵略の年表にも載せています。

日本もこの捜査を求めた国の一つ

ICCの「ウクライナの事態」のページによれば、ICC検察局は2022年3月2日に捜査を開始しました。その前後に、締約国が相次いでこの事態をICCに付託しています。3月1日にリトアニアが、3月2日に38か国がまとまって付託し、3月11日には日本と北マケドニアが加わったと検察官が確認しています。

当時のウクライナはICCの締約国ではありませんでしたが、2014年以降の自国領内の犯罪についてICCの管轄を受け入れる宣言をしていました。同じページによれば、ウクライナは2024年10月25日にローマ規程の批准書を寄託し、2025年1月1日に締約国となっています。

国連の調査委員会は「人道に対する犯罪」と結論

国連人権理事会が設けた「ウクライナに関する独立国際調査委員会」は、2026年3月12日に公表した報告について、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)を通じて次のように発表しました。ロシア当局による子どもの国外追放と強制移送、そしてその強制失踪は、人道に対する犯罪にあたる、というものです。

発表の要点は次のとおりです。

  • 委員会はこれまでに、ウクライナの五つの州から1,200人を超える子どもの国外追放または移送を確認した。
  • ロシア当局は全面侵攻の直前から大規模な移動を行い、それを武力紛争の危険を理由とする「避難」だと説明していた。しかし委員会の調べでは、記録した事例の子どもの80%が、4年たっても帰されていない。
  • 国際人道法上、避難が認められるのは健康・治療・安全のためのやむをえない理由がある場合に限られ、一時的なものでなければならない。
  • ロシア当局は子どもの居場所を親や法定の保護者に知らせず、子どもをロシア連邦の21の地域と占領地域で家庭や施設に長期に置いた。子どもには組織的にロシア国籍が与えられ、養子縁組のデータベースに載せられた例もある。
  • 政策は「ロシア連邦指導部の最高レベル」で立案・実行されたと委員会は判断し、プーチン大統領とリヴォワ=ベロワ氏の関与は当初から見えていたとした。

ロシアは、子どもを移したのは安全のための避難だと説明してきました。委員会は、記録した事例の大半が4年たっても帰されていないことを挙げ、避難は一時的でなければならないとする国際人道法に反すると指摘しています。

ジュネーブ条約は何を禁じているか

根拠になっているのは、1949年のジュネーブ第4条約(戦時における文民の保護に関する条約)です。赤十字国際委員会(ICRC)の条約データベースに載る英語の正文から、該当する規定を訳します(訳は編集部)。

占領地域から占領国の領域へ、または他の国の領域へ、被保護者を個別にまたは集団で強制移送し、追放することは、その動機のいかんを問わず、禁止する。

ジュネーブ第4条約 第49条第1項(ICRC 国際人道法データベース掲載の英語正文から編集部訳)

同じ第49条は、住民の安全や軍事上の必要がある場合に占領国が「避難」を行うことを認めていますが、避難先は原則として占領地域の中に限られ、戦闘がやめばすぐに元の家へ帰さなければならないとしています。移動の際には家族を引き離さないことも求めています。

子どもについては第50条があります。占領国は子どもの身元と親子関係の確認・登録を助けるためにあらゆる措置をとらなければならず、「いかなる場合にも」子どもの身分を変更してはならない、と定めています。国連の調査委員会が挙げた国籍の付与や養子縁組のデータベースへの登録は、この規定に照らして問題にされています。

何人が連れ去られ、何人が戻ったか

人数は、数える主体と定義によって大きく違います。数字を引くときは、誰が、いつ、何を数えたのかを必ず確かめる必要があります。

数字何の数か発表主体・時点
2万651人国外追放・強制移送された子どもウクライナ政府のポータル「戦争の子どもたち」(Bring Kids Back UA の数字として掲載)、2026年9月23日時点
2,627人ウクライナに戻った子ども(国外追放・強制移送からの帰還と、占領地域からの帰還を含む)同上
74万4,000人ロシア側が公表した情報にもとづくとされる子どもの数(何を数えたかは示されていない)同ポータルが「ロシア連邦が報じた公開情報による」として併記
1,200人超委員会が個別に確認した国外追放・移送国連 独立国際調査委員会、2026年3月12日の発表
約1,600人ロシアからウクライナへ戻った子どもカナダ政府のページ(2026年8月17日更新)
出典は記事末尾の一覧。2026年9月に各ページで確認。数字はいずれも発表主体の公表値で、互いに定義が異なるため合計や比較はできない。

ウクライナ政府のポータル「戦争の子どもたち」(Діти війни)は、大統領府の依頼で再統合省と国家情報局が作ったもので、数字は法執行機関が毎日更新するとしています。一方、74万4,000人という数は、ポータルが注記つきで併記しているだけで、何を、いつからいつまで数えたものかは示されていません。ウクライナ側が確認した2万651人と同じ意味の数として並べることはできません。

国連の調査委員会の「1,200人超」は、委員会が自ら個別に検証できた事例の数で、全体の規模を推計した数ではありません。2025年12月の国連総会では、ウクライナの外務次官が「少なくとも2万人」が国外追放されたと述べています(国連ニュースの報道による)。

子どもを取り戻すための枠組み

Bring Kids Back UA

ウクライナのゼレンスキー大統領が2023年に始めた取り組みで、政府機関、市民団体、国際的なパートナーの力を束ねるものです。公式サイトは、仕事として、連れ去られた子どもの所在の特定と確認、帰還の仕組みづくり、帰還後の心理的・社会的な支援や教育・医療、国際的な働きかけ、そして犯罪の記録とICCなどとの協力を挙げています。

子どもの帰還のための国際連合

カナダ政府によれば、「ウクライナの子どもの帰還のための国際連合」(International Coalition for the Return of Ukrainian Children)は、2024年2月2日にキーウで発足し、ウクライナとカナダの両政府が共同議長を務めています。カナダ政府のページ(2026年8月17日更新)が挙げる参加国・機関の一覧には、日本も入っています。

国連総会の決議

国連ニュースによれば、国連総会は2025年12月3日、緊急特別会期で、ロシアに対し、強制移送・国外追放されたすべてのウクライナの子どもを直ちに、安全に、無条件で帰すよう求める決議を、賛成91、反対12、棄権57で採択しました。決議は、国籍の変更、養子縁組や里親への委託、思想の教え込みといった行為をやめるよう求め、国連事務総長に仲介の努力を強めるよう求めています。ロシアの代表は決議を「特に皮肉なうそ」だとして反対しました。

この問題を読むときに

子どもの連れ去りは、2022年2月24日の全面侵攻から始まったわけではありません。国連総会の決議は、ロシアがクリミアを併合した2014年以降に家族から引き離された子どもにも懸念を示しています。Bring Kids Back UA も、ロシアによる子どもの国外追放は2015年から続いているとしています。

一方で、2014年からの経緯と2022年以降の大規模な連れ去りとでは、規模も、確認できている資料も異なります。この記事で扱った逮捕状と国連の結論は、いずれも2022年2月24日以降の行為を中心にしたものです。

Bring Kids Back UA は名前を変えられた子どもがいると伝え、国連の調査委員会はロシアの家庭や施設に長期に置かれた子どもがいるとしています。帰ってきた子どもの経験を伝える報道や証言は多くありますが、子どもの安全と今後の生活を守るため、この記事では個々の事例を紹介していません。

出典・参考資料

  1. Situation in Ukraine: ICC judges issue arrest warrants against Vladimir Vladimirovich Putin and Maria Alekseyevna Lvova-Belova(2023年3月17日の逮捕状・罪名と根拠条文・2022年2月24日以降・逮捕状の非公開と公表の理由・責任の形態)
    発行:International Criminal Court 確認日:2026-09-24
  2. Ukraine(事態のページ。2022年3月2日の捜査開始・締約国の付託と日本の付託日・ウクライナの管轄受諾宣言と批准)
    発行:International Criminal Court 確認日:2026-09-24
  3. UN Commission concludes that deportation and forcible transfer of Ukrainian children by Russian authorities, as well as enforced disappearances, amount to crimes against humanity(2026年3月12日。人道に対する犯罪・1,200人超・五つの州・80%・21の地域・国籍付与と養子縁組データベース)
    発行:Independent International Commission of Inquiry on Ukraine(OHCHR) 確認日:2026-09-24
  4. Geneva Convention (IV), Article 49(強制移送・追放の禁止、避難の条件、家族を引き離さないこと)
    発行:International Committee of the Red Cross(IHL Databases) 確認日:2026-09-24
  5. Geneva Convention (IV), Article 50(子どもの身元確認と身分変更の禁止)
    発行:International Committee of the Red Cross(IHL Databases) 確認日:2026-09-24
  6. Children of War(2022年2月24日〜2026年9月23日の数字:国外追放・強制移送2万651人、帰還2,627人、ロシア側公開情報による74万4,000人)
    発行:ウクライナ政府(再統合省・国家情報局) 確認日:2026-09-24
  7. Children of War: About the Platform(ポータルの作成主体と数字の更新方法)
    発行:ウクライナ政府(再統合省・国家情報局) 確認日:2026-09-24
  8. Bring Kids Back UA: About(2023年に大統領が開始・活動内容・2015年以降の国外追放という説明・国際連合の発足)
    発行:Bring Kids Back UA(ウクライナ大統領のイニシアチブ) 確認日:2026-09-24
  9. International Coalition for the Return of Ukrainian Children(2024年2月2日の発足・共同議長・参加国一覧・約1,600人の帰還。2026年8月17日更新)
    発行:Government of Canada(Global Affairs Canada) 確認日:2026-09-24
  10. General Assembly demands return of Ukrainian children by Russia(2025年12月3日・賛成91反対12棄権57・決議の要求内容・2014年以降への言及・ウクライナ外務次官とロシア代表の発言)
    発行:UN News 確認日:2026-09-24

記載内容に誤りを見つけた場合は、訂正のご連絡からお知らせください。確認のうえ、訂正した内容と経緯を記事に記載します。