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社会を知る/解説

損害の申し立ては20万件近く。ロシアに償わせ、裁く仕組みのいま

ロシアの侵略による損害を記録する欧州評議会の「ウクライナ損害登録簿」には、2026年9月までに20万件近い申し立てが寄せられました。ただし登録簿は賠償額を決めません。賠償額を決める国際請求委員会と、侵略を決めた指導者を裁く特別法廷は、2026年9月時点でまだ発足していません。三つの仕組みの役割と進み具合、日本の関わりをまとめます。

オリュカのひとこと

登録簿に申し立てると、賠償の額まで決まるのでしょうか。三つの仕組みの役割を順に見てみましょう。

オランダのハーグに置かれた「ウクライナ損害登録簿」は、2026年9月15日の発表で、これまでに受け付けた損害の申し立てが20万件近くになり、そのうち6万5千件あまりを審査して登録したと明らかにしました。ロシアによるウクライナへの全面侵攻で家族を失った人、家を壊された人、国外へ避難を強いられた人などが、ウクライナの電子政府ポータル「Дія」から申し立てています。

ただし、登録簿は賠償額を決めませんし、支払いもしません。賠償額を決める「国際請求委員会」と、侵略を決めた指導者を裁く「特別法廷」は、いずれも2026年9月時点でまだ発足していません。三つの仕組みは、いずれも欧州評議会(Council of Europe)の枠組みで作られています。

第1段:損害登録簿(2023年設立)

損害登録簿は、欧州評議会の閣僚委員会が2023年5月12日に採択した決議 CM/Res(2023)3 によって、加盟を希望する国が参加する「拡大部分協定」として設けられました。日本の外務省の発表によれば、同年5月16日に設立されています。前年の2022年11月14日には、国連総会が決議 ES-11/5 で、ロシアの国際違法行為による損害の証拠と請求を記録する国際的な登録簿を作るよう勧告していました。

登録簿が受け付けるのは、次の三つの条件を満たす損害です。

  • 2022年2月24日以降に生じたもの
  • 国際的に認められた国境の内側(領海を含む)のウクライナ領域で生じたもの
  • ロシアのウクライナにおける、またはウクライナに対する国際違法行為によって生じたもの

申し立ての受け付けは2024年4月2日に始まりました。個人(A)、ウクライナ国家(B)、法人(C)の三つの区分ごとに、損害の種類に応じたカテゴリーが順に開かれてきました。2026年9月8日に個人向けの最後の四つ(医療を受けられなくなったこと、教育を受けられなくなったことなど)が、9月10日に法人向けの最後の三つ(事業の避難・移転の費用など)が開かれ、個人と法人のカテゴリーはすべて開いたことになります。

事務局が申し立てを調べ、理事会が登録するかどうかを決めます。理事会の決定は、登録する、事務局に差し戻す、再申し立てを認めて却下する、再申し立てを認めずに却下する、の四つです。理事会は、責任の所在や支払いについては判断しません。

発表の日付受け付けた申し立て登録した申し立て
2026年1月19日個人からの申し立てが10万件
2026年4月30日約15万件4万5千件あまり
2026年6月5日16万件あまり4万5千件あまり
2026年7月17日17万件あまり約5万8千件
2026年9月15日20万件近く6万5千件あまり
ウクライナ損害登録簿の各日付の発表による。「登録」は理事会が条件を満たすと決めたもので、賠償額の判断ではない。

2026年9月時点で、44か国と欧州連合(EU)が登録簿に参加しています。内訳は、分担金を払い議決権を持つ「参加国」が41、分担金の義務がなく議決権のない「準加盟」が4です。

第2段:国際請求委員会(条約は2025年12月)

登録された申し立てを審査し、賠償額を決めるのが国際請求委員会です。設置のための条約(欧州評議会条約第229号)は、2025年12月16日にハーグの外交会議で署名のために開かれました。

条約第3条は、委員会を、ロシアの国際違法行為による損害の賠償請求を決める「行政機関」と定めています。委員会は請求を審査し、それぞれについて支払うべき賠償額を決めます。その際、ロシアが国際法上、その行為によるすべての損害に責任を負うことを前提として働くと書かれています。対象は2022年2月24日以降の損害ですが、前文は、2014年2月20日以降の行為についてロシアの責任がなくなるわけではないとし、将来の改正で対象期間を広げる可能性にも触れています。

条約が発効するには、次の二つの条件がそろい、その3か月後の翌月1日を迎える必要があります(第30条)。

  • 25の署名国が批准などを終えること
  • それらの国が登録簿の2025年予算に出した分担金の合計が、同じ年の登録簿予算の50%以上になること

欧州評議会によれば、2026年9月15日の時点で署名したのは40か国・機関で、そのうち9か国とEUが批准しています。ウクライナはすでに批准を終えています。発効に向けた準備のため、閣僚委員会は2026年2月に準備委員会を設けました。

条約の前文は、賠償を実際に支払う「補償基金」を、登録簿と請求委員会に続く「将来の第3の要素」と位置づけています。つまり、請求委員会が賠償額を決めても、その支払いのしくみはまだ決まっていません。また条約は、ロシアがいつでもこの条約に加入できると定めています(第31条第2項)。

特別法廷:侵略そのものを裁く

国際刑事裁判所(ICC)は、ウクライナで起きた戦争犯罪、人道に対する犯罪、ジェノサイドを捜査できます。しかし、ロシアの指導者が侵略戦争を始めたこと自体、つまり「侵略犯罪」については、ICCはこの事態で管轄を行使できません。ウクライナと欧州評議会の協定の前文も、ICCのローマ規程が侵略犯罪について定める管轄の仕組みがその妨げになっていると書いています。

この空白を埋めるため、ウクライナのゼレンスキー大統領と欧州評議会のベルセ事務総長は、2025年6月25日にストラスブールで「侵略犯罪に関する特別法廷」を設ける協定に署名しました。ウクライナの最高会議は、同年7月15日に協定を批准する法律を定めました。

協定に付いた特別法廷の規程の主な内容は次のとおりです。

  • 裁くのは、ウクライナに対する侵略犯罪に「最も大きな責任を負う者」。管轄はウクライナの領域にもとづく管轄を土台にする(第1条)
  • 侵略犯罪とは、国の政治・軍事行動を実際に支配・指揮できる者が、国連憲章に対する重大な違反となる侵略行為を計画、準備、開始、実行すること(第2条)
  • 職務にともなう免除(機能的免除)は認めない(第23条第4項)
  • 起訴の対象が現職の国家元首、政府の長、外相の場合は、その職を離れるか免除が放棄されるまで、起訴状を承認せず手続きを止める(第23条第5項)
  • 被告人が出頭しないまま審理できる。ただしその場合は弁護人をつけ、本人があとで出頭すれば裁判のやり直しを求められる(第28条)

協定が発効するには、特別法廷を運営・財政面で支える国々の「拡大部分協定」が結ばれる必要があります(協定第9条)。この拡大部分協定は、2026年5月15日にモルドバのキシナウで開かれた欧州評議会の閣僚委員会で採択され、36か国とEUが加わる意思を示しました。欧州評議会の説明では、一部の参加国の国内手続きが終わっていないため、拡大部分協定はまだ発効していません。所在地については、オランダが受け入れを申し出ています。

日本はどこに加わっているか

日本は2023年5月、欧州評議会のオブザーバー国として、損害登録簿に「準加盟」の形で参加すると決め、欧州評議会に通知しました(外務省の発表)。準加盟は分担金の義務がなく、参加国会議での議決権もありません。登録簿の参加国一覧には日本が載っています。

特別法廷を支える拡大部分協定については、2026年5月15日の採択に加わった36か国に日本は含まれていません。国際刑事裁判所への日本の関わりは、プーチン大統領への逮捕状は、子どもの連れ去りの容疑だったで扱っています。

オリュカのひとこと

すでに動いている仕組みと、まだ発足していない仕組みはどれでしょう。2026年9月時点の状況をこの節で確かめましょう。

三つの仕組みの現状

仕組み役割根拠2026年9月時点
損害登録簿損害の申し立てを受け付け、条件を満たすものを登録する。賠償額は決めない閣僚委員会決議 CM/Res(2023)3(2023年5月12日)活動中。受付20万件近く、登録6万5千件あまり
国際請求委員会登録された請求を審査し、賠償額を決める欧州評議会条約第229号(2025年12月16日)未発効。署名40、批准は9か国とEU
侵略犯罪に関する特別法廷侵略に最も責任を負う指導者を裁くウクライナと欧州評議会の協定(2025年6月25日)と拡大部分協定(2026年5月15日採択)未発効。拡大部分協定の国内手続き待ち
欧州評議会、ウクライナ損害登録簿、ウクライナ最高会議の公表資料による。

三つがそろっても、ロシアが賠償を払うか、被告人が法廷に来るかは別の問題です。それでも、被害の記録を国際機関が集め、責任を問う手続きを先に用意しておくことに、この仕組みの意味があります。被害と復興費用の全体の見積もりについては復興費用の見積もりは5回で3,485億ドルから5,877億ドルにを参照してください。

出典・参考資料

  1. Register of Damage Strengthens Local Partnerships During Lviv Visit(2026年9月15日。受付20万件近く・登録6万5千件超・第13回理事会で7,672件)
    発行:Register of Damage for Ukraine(Council of Europe) 確認日:2026-09-24
  2. Register of Damage for Ukraine launches final four claims categories for individuals(2026年9月8日)
    発行:Register of Damage for Ukraine 確認日:2026-09-24
  3. Register of Damage for Ukraine launches final three claims categories for legal entities(2026年9月10日)
    発行:Register of Damage for Ukraine 確認日:2026-09-24
  4. Statement of the Board of the Register of Damage for Ukraine(2026年7月17日。登録約5万8千件、受付17万件超、準備委員会)
    発行:Register of Damage for Ukraine 確認日:2026-09-24
  5. Conference of Participants Reviews Progress and Elects New Bureau(2026年6月5日。受付開始2024年4月2日、受付16万件超・登録4万5千件超、条約の批准を終えた国)
    発行:Register of Damage for Ukraine 確認日:2026-09-24
  6. 11th Board Meeting: Register of Damage for Ukraine Surpasses 45,000 Recorded Claims(2026年4月30日。受付約15万件)
    発行:Register of Damage for Ukraine 確認日:2026-09-24
  7. Register of Damage receives 100,000 claims submitted by individuals(2026年1月19日)
    発行:Register of Damage for Ukraine 確認日:2026-09-24
  8. Mandate and Functions / Claims Processing / Membership(受付の3条件、登録簿がしないこと、理事会の4つの決定、44か国とEU・参加国41と準加盟4)
    発行:Register of Damage for Ukraine 確認日:2026-09-24
  9. Convention establishing an International Claims Commission for Ukraine, CETS No. 229(2025年12月16日。前文、第3条、第30条、第31条)
    発行:Council of Europe 確認日:2026-09-24
  10. The Netherlands ratifies Council of Europe convention establishing International Claims Commission for Ukraine(2026年9月15日。署名40、9か国とEUが批准、準備委員会の設置)
    発行:Council of Europe 確認日:2026-09-24
  11. Угода між Україною та Радою Європи про створення Спеціального трибуналу щодо злочину агресії проти України. Статут Спеціального трибуналу(2025年6月25日。前文、協定第9条、規程第1・2・23・28条)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  12. Закон України № 4518-IX «Про ратифікацію Угоди між Україною та Радою Європи про створення Спеціального трибуналу…»(2025年7月15日)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  13. Special Tribunal for the Crime of Aggression against Ukraine: Frequently asked questions(2026年5月15日更新。拡大部分協定の採択と未発効、ICCとの関係、欠席裁判)
    発行:Council of Europe 確認日:2026-09-24
  14. The EU participated in the adoption of the Enlarged Partial Agreement on the Management Committee of the Special Tribunal(2026年5月15日の採択、36か国とEU、オランダの受け入れ申し出)
    発行:EU Delegation to the Council of Europe(EEAS) 確認日:2026-09-24
  15. Participation in the Register of Damage Caused by the Aggression of the Russian Federation against Ukraine(2023年5月18日。日本の準加盟での参加、5月12日の枠組み文書の採択、5月16日の設立)
    発行:外務省 確認日:2026-09-24

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