復興費用の見積もりは5回で3,485億ドルから5,877億ドルに
世界銀行、ウクライナ政府、欧州委員会、国連が共同でまとめる「迅速被害・ニーズ評価(RDNA)」は、2022年から5回公表されてきました。今後10年の復興・復旧に必要な額は、第1版の3,485億ドルから第5版では5,877億ドルになりました。被害額・損失額・必要額がそれぞれ何を数えた数字なのかを、分野と州の内訳とあわせて見ます。
2026年2月23日、ウクライナの復興・復旧に今後10年で必要な費用は約5,877億ドル(米ドル、以下同じ)だとする報告書が公表されました。ウクライナ政府、世界銀行グループ、欧州委員会、国連が共同でまとめた「第5次迅速被害・ニーズ評価(RDNA5)」です。報告書は、この額がウクライナの2025年の国内総生産(GDP)の3倍近いと書いています。
ニュースで引用されるのはこの一つの数字であることが多いのですが、RDNAは性質の違う三つの数字を出しています。被害額、損失額、そして必要額です。三つを混ぜると、数字の意味を取り違えます。
被害額・損失額・必要額は別のもの
RDNA5の冒頭にある定義を訳すと、次のとおりです。
- 被害額(damage):破壊・損傷した建物や設備、インフラの直接の費用。2022年2月より前の再調達価格で見積もる
- 損失額(loss):ロシアによるウクライナ侵攻の結果として生じた経済的な流れの変化。サービスの途絶、運営費の増加、行政や民間の収入の減少、がれきの撤去などを含む
- 必要額(needs):修理・復旧・再建の費用。省エネや近代化、持続可能性の基準を満たすよう「より良く再建する(Build Back Better)」ための上乗せや、物価上昇、建設需要の集中による価格上昇、保険料の上昇なども織り込み、2025年12月31日時点の市場価格で表す
報告書は「必要額は被害額と損失額の合計ではない」と明記しています。被害額は壊れたものを戦前の値段で数えた額、必要額はこれから建て直すための額で、時点も値段の基準も違います。損失額には、RDNA5の場合、2022年2月24日から2025年12月31日までの46か月の実績に加えて、2027年6月30日までの18か月分の予測が含まれています。
5回の評価で数字はどう動いたか
RDNAはこれまでに5回公表されています。被害額の対象期間は版ごとに延び、それに合わせて三つの数字も更新されてきました。
| 版 | 公表日 | 被害の対象期間 | 被害額 | 損失額 | 必要額(10年間) |
|---|---|---|---|---|---|
| RDNA1 | 2022年9月9日 | 2022年2月24日〜6月1日 | 974億ドル | 2,520億ドル | 3,485億ドル |
| RDNA2 | 2023年3月23日 | 〜2023年2月24日 | 1,347億ドル | 2,891億ドル | 4,106億ドル |
| RDNA3 | 2024年2月15日 | 〜2023年12月31日 | 1,525億ドル | 4,993億ドル | 4,862億ドル |
| RDNA4 | 2025年2月25日 | 〜2024年12月31日 | 1,761億ドル | 5,888億ドル | 5,236億ドル |
| RDNA5 | 2026年2月23日 | 〜2025年12月31日 | 1,951億ドル | 6,667億ドル | 5,877億ドル |
RDNA5によれば、第1版と比べて被害額は2倍、損失額は165%増、必要額は69%増です。直前の第4版と比べると、被害額は10.8%、損失額は13.2%、必要額は12.3%増えました。
ただし、報告書自身がこの比較に注意を促しています。増えた理由には、攻撃が続いて被害が広がったことに加えて、推計方法の見直し、データの改善、物価上昇、為替レートの更新が含まれます。RDNA5は2025年12月31日のレート(1ドル=42.3878フリヴニャ)、第4版は2024年12月31日のレート(1ドル=42.039フリヴニャ)を使っています。過去の版の値が後の版で上方にも下方にも修正されることがあり、報告書の方法論の付録は、時系列の変化を「単純でも、直接比較できるものでもない」と書いています。表の数字は、その時点ごとの最善の推計を並べたものとして読む必要があります。
被害が大きい分野と、必要額が大きい分野は同じではない
| 分野 | 被害額 | 損失額 | 必要額 |
|---|---|---|---|
| 住宅 | 611億ドル | 250億ドル | 898億ドル |
| 交通・運輸 | 403億ドル | 589億ドル | 963億ドル |
| エネルギー・資源採掘 | 248億ドル | 882億ドル | 906億ドル |
| 商業・工業 | 192億ドル | 2,329億ドル | 633億ドル |
| 農業 | 121億ドル | 780億ドル | 553億ドル |
| 教育・科学 | 139億ドル | 117億ドル | 335億ドル |
| 社会保護・生計 | 5億ドル | 186億ドル | 427億ドル |
| 爆発物の処理(地雷など) | 1億ドル未満 | 267億ドル | 276億ドル |
| 全分野の合計 | 1,951億ドル | 6,667億ドル | 5,877億ドル |
被害額がいちばん大きいのは住宅で、全体の31.3%を占めます。RDNA5は、住宅ストックの約14%が損傷または破壊され、300万を超える世帯が影響を受けたとしています。損傷した住戸の85%は集合住宅です。
必要額がいちばん大きいのは交通・運輸(963億ドル)です。被害額の32%は鉄道の施設と車両で、2025年に新たに記録された交通分野の被害の90%は鉄道でした。この分野の損失の約60%は黒海の港が使えなくなったことによるもので、さらに27%は領空の閉鎖で上空通過料の収入が失われたことによる、と報告書は説明しています。
エネルギーは、被害額248億ドルに対して必要額が906億ドルと、差が大きい分野です。報告書によれば、被害の約7割(171億ドル)が電力で、そのうち142億ドルが発電設備です。必要額のうち708億ドルは電力システムの再建です。報告書はその進め方として、分散型の電源、再生可能エネルギーの導入、重要設備の物理的な防護などを挙げています。被害額との差には、定義にある「より良く再建する」ための上乗せや物価上昇の分が含まれます。
商業・工業は、被害額は192億ドルですが、損失額が2,329億ドルと全分野で最大です。報告書は、この損失が2022年2月以前のウクライナのGDPを上回るとし、需要の落ち込み、輸出の混乱、停電、空襲警報による操業停止、物流の制約が長く続いた結果だと説明しています。
前線の州と首都圏に集中している
地域で見ると、被害額の75%が前線の州に集中しています。州別の割合は、ドネツィク州(外務省の表記ではドネツク州)が27.2%、ハルキウ州が16.5%、ザポリッジャ州が9.9%、ルハンシク州が7.9%、ヘルソン州が7.2%です。必要額でもドネツィク州が19%、ハルキウ州が13%、ザポリッジャ州が11%と上位に並びます。
一方、首都圏の比重も大きくなっています。キーウ市の被害額は第4版から49%増え、キーウ市とキーウ州の損失額は合わせて1,450億ドルと、全国の21.7%に達します。報告書は、首都圏の経済規模が大きいことに加えて、停電と治安の悪化が事業の継続に全国規模で響いていることを理由に挙げています。
すでに満たされた額と、2026年の優先額
必要額のうち、2022年2月以降の緊急修理や早期復旧によって少なくとも203億ドル分がすでに満たされた、と報告書は見積もっています。必要額全体の3.5%にあたります。内訳が報告されたのは9分野で、住宅が62億ドル、商業・工業が55億ドル、教育・科学が24億ドル、交通・運輸が21億ドルなどです。ただし、満たされた額のデータはすべての分野でそろってはいないと報告書自身が断っています。
ウクライナ政府は2026年に優先して進める復興事業と支援プログラムの資金需要を152.5億ドルとしています。また報告書は、改革が実行されれば、今後10年の必要額の最大40%を民間部門がまかなえる可能性があるとしています。いずれも見積もりと条件付きの見通しで、資金が確保された額ではありません。
必要額と、実際に約束された額・支出された額・完成した事業の違いは「復興が進んだ」と発表されたとき、実際に何が終わったのかで、RDNAの数字を引用するときに添える版・基準日・推計主体は戦時下のウクライナ経済の数字で扱っています。
出典・参考資料
- Ukraine Fifth Rapid Damage and Needs Assessment (RDNA5): February 2022 – December 2025(報告書本体。定義、RDNA1〜5の数値、表1・表2、図2〜図8、分野別の記述、為替レート、方法論の付録)
発行:World Bank Group, Government of Ukraine, European Commission, United Nations 確認日:2026-09-23 - Updated Ukraine Recovery and Reconstruction Needs Assessment Released(2026年2月23日の公表、GDPの3倍近いという表現、過去4回の報道発表の日付)
発行:世界銀行 確認日:2026-09-23 - Ukraine Recovery and Reconstruction Needs Estimated $349 Billion(2022年9月9日。RDNA1の公表)
発行:世界銀行 確認日:2026-09-23
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