外国籍の人の生活保護は「準用」。1954年の通知と在留資格
生活保護法の対象は日本国民で、外国籍の人は1954年の厚生省通知にもとづく行政措置として保護を受けます。権利ではないため不服申立てはできません。対象は永住者、定住者、日本人の配偶者等などの在留資格の人です。ウクライナから避難した人の扱いとあわせて、2026年9月時点の公表資料で説明します。
日本の生活保護法は、保護の対象を「国民」と定めています。日本国籍のない人は、法律の上では対象に入りません。それでも、永住者や定住者など一定の在留資格を持つ人には、1954年に厚生省(当時)が出した通知にもとづいて、生活保護と同じ内容の保護が行われています。これを、法律を「準用」した保護と呼びます。
ただし、この保護は法律で保障された権利ではなく、行政の措置として行われるものです。どの在留資格なら対象になるのか、ウクライナから避難してきた人はどうなるのかを、厚生労働省と出入国在留管理庁の公表資料、政府の国会答弁から説明します。内容は2026年9月に確認したものです。
自分や家族が保護を受けられるかどうかは、在留資格、収入、資産、家族の状況で変わり、この記事では判断しません。住んでいる市区町村の福祉事務所(生活保護の担当窓口)で相談してください。
法律は「国民」、通知で「準用」
生活保護法の第1条は、法律の目的を次のように書いています。
この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
生活保護法(昭和25年法律第144号)第1条(e-Gov法令検索)
第2条も「すべて国民は」で始まります。政府は2009年6月の答弁書で、生活保護法の上で保護の対象になるのは日本の国籍を持つ人で、外国人は含まれない、と説明しています。
外国籍の人への保護の根拠になっているのが、1954年(昭和29年)5月8日付の厚生省社会局長通知「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」(社発第382号)です。通知の第一項はこう書いています。
生活保護法(以下単に「法」という。)第1条により、外国人は法の適用対象とならないのであるが、当分の間、生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱に準じて左の手続により必要と認める保護を行うこと。
「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」(昭和29年5月8日社発第382号)一(厚生労働省 法令等データベース)
この通知は、2018年6月の一部改正などを経て、現在も使われています。「当分の間」という言葉について、政府は2022年11月と2025年6月の答弁書で、特定の期間を想定したものではなく、通知を見直す状況にはないと答えています。2025年6月の答弁書は、同じ年の4月に厚生労働大臣が国会で「外国人を保護の対象外とすることは人道上の観点から適当ではない」と述べたことも引いています。
裁判所の判断もあります。2022年11月の政府答弁書は、2014年7月18日の最高裁判所第二小法廷判決を引き、判例も「外国人は、行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得る」としている、と説明しています。
権利ではない、ということの意味
1954年の通知には、運用の考え方を問答の形で示した部分があります。その「問六」は、外国人への保護について、「法律上の権利として保障したものではなく、単に一方的な行政措置によつて行つているもの」だとし、そのため外国人は「不服の申立をすることはできない」と書いています。日本国民なら、保護を受ける権利が侵害されたときに不服申立ての道がありますが、外国人の場合はそれがない、ということです。
一方で、同じ問答は「保護等の内容等については、別段取扱上の差等をつけるべきではない」とも書いています。受けられる保護の中身は日本国民と同じ、という意味です。
通知は地方自治法の「技術的な助言」にあたり、自治体に法的な義務を課すものではない、というのが政府の説明です(2011年12月、2022年11月の答弁書)。そのうえで厚生労働省は、自治体に通知の内容に沿った取扱いをしてほしいと考えている、としています。実際の運用は自治体が要綱などで定めています。たとえば横浜市の事務取扱要綱は、外国人から申請を受けるときに、通知にもとづく保護であることを説明して承諾書をとること、不服申立てができる旨の教示はしないことを定めています。
対象になる在留資格
厚生労働省の資料「生活保護における外国人の取扱いについて」(2026年9月時点で同省の生活保護制度のページに掲載)は、保護に準じた扱いの対象を次のように示しています。
| 区分 | 該当する人 |
|---|---|
| 入管法の別表第二の在留資格を持つ人 | 永住者、定住者、永住者の配偶者等、日本人の配偶者等 |
| 入管特例法の特別永住者 | 在日韓国人、在日朝鮮人、在日台湾人 |
| 入管法上の認定難民 | 難民として認定された人 |
同じ資料には、注記が一つあります。
入管法別表第1の5の特定活動の在留資格を有する者のうち日本国内での活動に制限を受けないもの等上記①~③以外の者についても対象となるケースがある
厚生労働省社会・援護局「生活保護における外国人の取扱いについて」
対象をこのように区切る理由について、政府は2025年6月の答弁書で、2024年5月の国会での厚生労働大臣の説明を引いています。生活保護の目的は最低生活の保障と自立の助長であり、対象の外国人は「日本人と同様に国内で制限なく活動でき、自立することができる者である必要」がある、また、働く能力などの活用を求める生活保護の原理を、活動に制限のある外国人に当てはめるのは難しい、という説明です。
ウクライナ語版ガイドブックの書き方は、日本語版と違う
出入国在留管理庁の『生活・就労ガイドブック』も、この扱いにふれています。日本語版第8版(2026年2月)は、対象になる場合がある人を「永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者などの活動に制限のない人」と書いています。
一方、ウクライナ語版(第7版、序文の日付は2025年3月)の同じ箇所は、永住者、日本人の配偶者、永住者の配偶者、特別永住者を挙げ、「定住者」の語がありません。どちらも「など」がついた例示ですが、ウクライナ語版だけを読むと、定住者が対象に入らないように読めるおそれがあります。厚生労働省の資料では、定住者は対象の在留資格に含まれています。
ウクライナから避難した人の場合
ウクライナから日本に来た人の在留資格は、一人ひとり違います。在留資格の種類と手続きは避難した人の在留資格の手続きの記事にまとめています。ここでは、生活保護との関係で公表資料に書かれていることだけを並べます。
- 補完的保護対象者と認定された人:出入国在留管理庁によれば、認定を受けた外国人には、難民と認定された人と同じく、原則として在留資格「定住者」が与えられます。「定住者」は、厚生労働省の資料で対象とされている別表第二の在留資格です。
- 「特定活動(1年)」の人:出入国在留管理庁は、避難を目的に「短期滞在」で入国したウクライナの人に、「就労可能な『特定活動(1年)』」への変更申請を認めています。「特定活動」は別表第一の在留資格で、上の三つの区分には入りません。厚生労働省の資料の注記がこの在留資格に当てはまるかどうかは、確認できた公表資料には書かれていません。
- 補完的保護対象者の認定を申請している人:政府の難民対策連絡調整会議は2023年12月1日、申請中の人のうち生活に困窮するなど保護が必要と認められる人に、生活費、住居費その他の保護費を支給することなどを決めています。これは生活保護とは別の仕組みです。
補完的保護対象者と認定された人向けには、日本語教育や生活の指導を行う「定住支援プログラム」もあり、受講中の生活援助費などが支給されます(同じ2023年12月1日の決定)。申込みと相談は、公益財団法人アジア福祉教育財団難民事業本部(RHQ)が受け付けています。補完的保護対象者向けの電話相談(0120-400-250、平日9時30分〜12時30分、13時30分〜17時)は、ウクライナ語でも受けています(出入国在留管理庁、2026年9月確認)。
「特定活動」の人が保護の対象になるかどうか、「定住者」の人が実際に保護を受けられるかどうかは、この記事では判断できません。在留カードを持って、住んでいる市区町村の福祉事務所で相談してください。
申請で、日本国籍の人と違うところ
1954年の通知と問答によれば、外国籍の人の申請には、日本国籍の人にはない手順があります。
- 申請は、在留カード(特別永住者は特別永住者証明書)に書かれた住居地を担当する福祉事務所に、国籍を書いた申請書を出し、有効な在留カードなどを見せて行います。
- 福祉事務所から報告を受けた都道府県知事は、その人が自分の国の大使館・領事館などから必要な保護や援護を受けられないことを確認します(韓国・朝鮮、台湾出身の人については、この確認の手続きは当分の間不要とされています)。
- 急迫した状況で手続きを踏む時間がないときは、先に保護を行い、あとから手続きをしてよいとされています。
保護を受けるための条件は日本国籍の人と同じです。『生活・就労ガイドブック』は、預貯金や使っていない土地・家屋などの資産を生活費にあてること、働ける人は能力に応じて働くこと、年金や手当などほかの制度の給付を先に使うこと、親族などから援助を受けられる場合は受けることを挙げ、そのうえで世帯の収入が最低生活費に届かないときに、その差額が保護費として支給されると説明しています。保護は、生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助の8種類です。
生活保護の前に相談できる窓口
生活に困ったときの相談先は、生活保護の窓口だけではありません。『生活・就労ガイドブック』は、生活困窮者自立支援制度の相談窓口(自立相談支援機関)を紹介しています。相談の内容に応じて、仕事、家計、住まいなどの支援を受けられるとされ、全国の窓口の一覧が公開されています(みんなつながるネット「自立相談支援機関 相談窓口一覧」)。
どこに相談すればよいか分からないときの探し方は、日本で暮らし始めたときの相談窓口にまとめています。健康保険や年金の保険料が払えないときの免除の仕組みは、日本の健康保険と年金の加入の記事で説明しています。
外国籍の人の受給はどのくらいか
厚生労働省によれば、世帯主が日本国籍でない生活保護受給世帯は、2024年度の1か月平均で4万7,332世帯、その世帯に属する人は6万4,993人でした。受給世帯全体(165万674世帯)に占める割合を機械的に計算すると約2.9%です。同省は、2012年度の7万4,736人と比べて増える傾向は見られないとしています。なお、この数には、外国籍の世帯主の家族として日本国籍の人が含まれる場合があり、逆に日本国籍の世帯主の世帯にいる外国籍の人は含まれていません。
出典・参考資料
- 生活保護法(第1条 目的、第2条 無差別平等)
発行:e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日:2026-09-24 - 出入国管理及び難民認定法 別表第二(永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者)
発行:e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日:2026-09-24 - 生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について(昭和29年5月8日社発第382号。第一項、申請手続(1)〜(4)、問六、問七)
発行:厚生労働省 法令等データベース 確認日:2026-09-24 - 「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」の一部改正について(平成30年6月8日社援発0608第8号)
発行:厚生労働省 法令等データベース 確認日:2026-09-24 - 生活保護における外国人の取扱いについて(対象となる在留資格①〜③と特定活動についての注記、被保護人員の推移)
発行:厚生労働省社会・援護局 確認日:2026-09-24 - 外国人の生活保護に関するよくあるご意見・ご質問(2024年度の世帯数・人員・割合、2012年度の人員)
発行:厚生労働省 確認日:2026-09-24 - 生活保護制度(上記2資料の掲載ページ)
発行:厚生労働省 確認日:2026-09-24 - 外国人の生活保護に関する質問に対する答弁書(平成21年6月16日、内閣参質171第198号。法の対象は日本国籍を有する者)
発行:参議院 確認日:2026-09-24 - 生活保護制度における外国人の取扱いに関する質問に対する答弁書(平成23年12月16日、内閣衆質179第102号。通知は技術的な助言)
発行:衆議院 確認日:2026-09-24 - 外国人の生活保護受給に係る最高裁判決を踏まえ旧厚生省通達を見直す必要性に関する質問に対する答弁書(令和4年11月4日、内閣参質210第23号。最高裁平成26年7月18日判決の引用、「当分の間」の解釈)
発行:参議院 確認日:2026-09-24 - 外国人に対する生活保護廃止に関する質問に対する答弁書(令和7年6月13日、内閣衆質217第218号。大臣答弁の引用、対象を区切る理由)
発行:衆議院 確認日:2026-09-24 - 外国人に対する生活保護法の準用に関する事務取扱要綱(平成27年8月28日制定。承諾書、不服申立ての教示)
発行:横浜市 確認日:2026-09-24 - 生活・就労ガイドブック 日本語版 第8版(第7章5 生活保護、5-1要件、5-2保護の種類、6 生活困窮者自立支援制度)
発行:出入国在留管理庁 確認日:2026-09-24 - 生活・就労ガイドブック ウクライナ語版 第7版(第7章 生活保護の対象の記載)
発行:出入国在留管理庁 確認日:2026-09-24 - 補完的保護対象者認定制度(2023年12月1日開始、原則として「定住者」を付与)
発行:出入国在留管理庁 確認日:2026-09-24 - 在留資格「特定活動(1年)」への変更許可申請について(就労可能な特定活動)
発行:出入国在留管理庁 確認日:2026-09-24 - 条約難民・補完的保護対象者・第三国定住難民への支援について(定住支援プログラム、RHQの電話相談と対応言語)
発行:出入国在留管理庁 確認日:2026-09-24 - 補完的保護対象者に対する定住支援策及び補完的保護対象者認定申請者への支援に関する当面の具体的措置等について(令和5年12月1日 難民対策連絡調整会議決定)
発行:内閣官房 確認日:2026-09-24
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