チョルノービリの立入禁止区域にできた、22万ヘクタールの保護区
1986年の事故で住民が去ったチョルノービリの周りに、2016年、ウクライナで最も広い自然保護区が設けられました。大統領令が挙げた目的、保護区の四つの区域、記録された動物と植物、そして2022年のロシア軍による占拠のあとに残った火災と地雷を、法令と保護区・IAEAの発表でたどります。
オリュカのひとこと
立入禁止区域の中に、なぜもう一つ保護区の線を引いたのでしょう。大統領令が挙げた四つの目的を本文でたどれます。
1986年の事故のあと住民が避難したチョルノービリ原子力発電所の周りには、いまウクライナで最も広い自然保護区があります。「チョルノービリ放射線生態生物圏保護区」(Чорнобильський радіаційно-екологічний біосферний заповідник)です。2016年4月26日、事故から30年の日に大統領令で設けられ、キーウ州の22万6,964.7ヘクタールを受け持っています。
立入禁止区域で野生の動物が増えたことはチョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故の原因と現在でも触れています。ここでは、その土地を守る「保護区」という制度が、いつ、何のためにできたのかをたどります。
立入禁止区域の中に、もう一つの線を引く
土台になっているのは、1991年2月27日の法律「チョルノービリの惨事による放射能汚染を受けた地域の法的な体制について」(第791а-XII号)です。この法律は汚染された地域をいくつかの区域に分け、その一つ目の「立入禁止区域」(зона відчуження)を「1986年に住民の避難が行われた地域」と定めています。二つ目の「無条件(義務的)移住区域」は、土壌のセシウムの汚染が一定の値を超えた地域です。
この二つの区域では、定住、許可のない立ち入り、放牧、狩猟や漁などが禁じられています。2016年7月14日の法改正(第1472-VIII号、同年8月4日施行)で、二つの区域の中に、研究や生物の多様性の保全のために自然保護の区域を設けられることが書き加えられました。保護区を設けた大統領令も、この改正と同じ8月4日に効力を持ちました。
大統領令が挙げた四つの目的
2016年4月26日の大統領令第174/2016号は、冒頭で保護区を設ける目的を次のように書いています。
- ポリーシャ(ウクライナ北部の森と湿地の地方)の最も典型的な自然を、自然の状態のまま残すこと
- 立入禁止区域と無条件移住区域の「バリア機能」、つまり汚染を外に広げない働きを支え、高めること
- 水の流れの状態を安定させ、放射性物質で汚れた土地を回復させること
- 国際的な科学研究を進めること
大統領令は、当時のイヴァンキウ地区とポリスケ地区(いずれもキーウ州)の二つの区域の中に保護区を設け、立入禁止区域の管理庁が使っていた22万6,964.7ヘクタールの国有地を保護区に移すとしました。土地の引き渡しは、2022年9月10日の内閣の命令第799-р号で、同じ面積のまま実行されています。保護区は立入禁止区域管理庁(ДАЗВ)の下に置かれた国の機関です。
保護区によれば、この土地に守るための区域ができたのは初めてではありません。2007年には大統領令で、動物を守る国の特別保護区「チョルノービリ特別」が設けられていました。2013年に環境省が生物圏保護区の設立の申し出を認め、3年の準備を経て2016年の大統領令に至った、と保護区は説明しています。
オリュカのひとこと
保護区域と緩衝区域は、何が違うのでしょう。四つの区域の役割を下の表で見比べられます。
保護区の中の四つの区域
保護区は、環境保護・天然資源省が承認した計画にもとづいて、土地を四つの区域に分けています。
| 区域 | 中身(保護区の説明) |
|---|---|
| 保護区域(заповідна зона) | 最も価値が高く、人の影響が少ない自然を残し、回復させる |
| 緩衝区域 | 周りの土地の活動が保護区域に及ばないようにする |
| 管理された保護体制の区域 | 2007年の「チョルノービリ特別」(4万8,870ヘクタール)など、以前からあった保護地や自然記念物 |
| 人の手が入った景観の区域 | 昔からの土地や森や水の利用、職員の住む場所などを含む。狩猟は禁止 |
記録されている動物と植物
保護区の説明では、ここで記録された植物は維管束植物1,256種、地衣類120種、コケ20種です。脊椎動物は、この地方に見られる約410種のうち300種を超え、そのうち75種がウクライナのレッドデータブック(赤本)に載っています。研究の中心は、ヒグマ、オオヤマネコ、オオカミといった大型の肉食動物と、ヘラジカ、アカシカ、ノロジカなどの大型の草食動物で、これらは近年大きく数を増やしたと保護区は書いています。
とくに知られているのが、野生の馬モウコノウマ(プシバルスキーウマ)です。保護区は、1990年代に放された群れが柵のない自然の中で暮らしていると説明し、ほかの野生動物と並んで柵なしで暮らしている場所は世界でここだけだとしています。ヨーロッパバイソンも、2012年4月に初めて立入禁止区域での姿が確認されました。南部の草原の保護区アスカニア・ノヴァとモウコノウマの関わりは、ウクライナの保護区に残る、耕されなかった草原と28の湖で紹介しています。
2022年の占拠と、そのあとに残ったもの
2022年2月24日、ロシアによるウクライナへの全面侵攻の初日に、ロシア軍はチョルノービリ原子力発電所を支配下に置きました。国際原子力機関(IAEA)の発表によれば、ウクライナの職員はその後も発電所の日々の作業を続けましたが、交代できたのは3月20〜21日が最初でした。3月31日、ウクライナはIAEAに、ロシア軍が発電所の管理を書面でウクライナの職員に引き渡し、部隊をベラルーシの方へ動かしたと伝えています。翌4月1日には、ロシア軍がすべて去ったとウクライナが報告し、ロシアの当局者も同じ日の会合でこれを認めました。
保護区は占拠のさなかの2022年3月、ロシア軍が立入禁止区域の全体を占領し、放射性物質を土地にとどめる仕事をしていた施設の建物を奪い、略奪したと発表しました。人工衛星の画像の分析では、占拠中に約2,500ヘクタールで火災が起き、その中には耕作放棄地1,600ヘクタールあまりと森600ヘクタールが含まれていたとしています。消火の体制が止まったままでは、2020年の大規模な山火事のような事態になりかねない、とも書いていました。
同じ年の9月、保護区は国の環境監督機関と一緒に、占領による被害の算定を進めていると発表しました。軍が立ち入りを認めた場所だけを調べ、ほかの場所では地雷の除去が続いていました。地雷の被害はその後も残り、保護区は、戦闘が終わって2年以上たってから、国家国境警備庁が区域内で地雷の爆発を確認し、モウコノウマが1頭死んだと伝えています。ヨーロッパバイソンの数を回復させる国際的な計画も2022年に始まる予定でしたが、全面侵攻で止まったと保護区は書いています。
2026年の火災と無人機
火災は2026年にも起きています。IAEAによれば、2026年5月7日、立入禁止区域で1,100ヘクタールの火災が起き、発電所側は無人機の衝突で火がついたと伝えました。発電所側は、火災の間もその後も、放射線の値に異常はなかったとしています。保護区のサイトは、5月11日朝の時点で1,200ヘクタールで延焼を食い止めたと掲載しました。7月1日の時点でも、プリピャチ川の左岸でおよそ130ヘクタールの火災が続いていたとIAEAは伝えています。
IAEAの2026年9月17日の発表では、チョルノービリの発電所の周りで、その週に48機の無人機が確認されました。原発の周辺の状況はウクライナの原子炉は15基、うち6基は占拠された原発にある、日本との協力の歴史はチョルノービリ後の日本の協力の記事にあります。
面積の数字が二つある
保護区の面積は、大統領令と2022年の内閣の命令では22万6,964.7ヘクタールです。一方、保護区自身のお知らせには22万6,269.5ヘクタールと書かれたものもあります。どちらを使うかで700ヘクタールほど違うので、この記事では法令の数字を使いました。保護区はこの面積をもって、自らをウクライナで最も広い自然保護区と説明しています。
出典と記事の記録
出典・参考資料
- Указ Президента України від 26.04.2016 № 174/2016「Про створення Чорнобильського радіаційно-екологічного біосферного заповідника」(目的、地区、226,964.7ヘクタール、施行の条件)と文書カード2016年8月4日施行
発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-24 - Закон України від 27.02.1991 № 791а-XII「Про правовий режим території, що зазнала радіоактивного забруднення внаслідок Чорнобильської катастрофи」第2条の区域の定義、第11条、第12条の禁止事項
発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-24 - Закон України від 14.07.2016 № 1472-VIII文書カード。2016年8月4日施行
発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-24 - Розпорядження КМУ від 10.09.2022 № 799-р226,964.7ヘクタールの土地を保護区へ
発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-24 - Історія створення2007年の特別保護区、2013年の申請の承認、2017年から独立の予算機関、植物・動物の種数、大型哺乳類、1990年代のモウコノウマの群れ
発行:チョルノービリ放射線生態生物圏保護区 確認日:2026-09-24 - Територіальна структура四つの機能区域、「チョルノービリ特別」48,870ヘクタール
発行:チョルノービリ放射線生態生物圏保護区 確認日:2026-09-24 - Моніторинг пожеж у природних комплексах ЗВ спричинених війною з росією2022年3月。占領、施設の略奪、約2,500ヘクタールの火災
発行:チョルノービリ放射線生態生物圏保護区 確認日:2026-09-24 - Триває розрахунок збитків від окупації2022年9月。被害の算定、地雷の除去
発行:チョルノービリ放射線生態生物圏保護区 確認日:2026-09-24 - Пржевалець: загибель від міни国家国境警備庁の報告、柵のない群れ
発行:チョルノービリ放射線生態生物圏保護区 確認日:2026-09-24 - Новиниヨーロッパバイソンの2012年4月の確認と2022年の計画の中止、226,269.5ヘクタールの記載、2026年5月11日時点の火災1,200ヘクタール
発行:チョルノービリ放射線生態生物圏保護区 確認日:2026-09-24 - Update 38 / Update 39 – IAEA Director General Statement on Situation in Ukraine2022年3月31日・4月1日。管理の引き渡し、ロシア軍の撤退
発行:国際原子力機関(IAEA) 確認日:2026-09-24 - Update 36 – IAEA Director General Statement on Situation in Ukraine2月24日からの支配、3月20〜21日の交代。Update 29 も参照
発行:国際原子力機関(IAEA) 確認日:2026-09-24 - Update 350(2026年5月14日。5月7日の1,100ヘクタールの火災)、Update 356(2026年7月2日。約130ヘクタール)、Update 3672026年9月17日。無人機48機
発行:国際原子力機関(IAEA) 確認日:2026-09-24
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