区分1から4まで。ウクライナの法律が決める「チョルノービリの被災者」
ウクライナでは、チョルノービリ原発事故の被災者の地位を1991年2月の法律が決めています。事故処理にあたった人と被害を受けた住民を分け、区分1〜4に振り分けて給付を定める仕組みです。汚染地域の区域から、2014年の給付の削減と憲法裁判所の決定までを、条文でたどります。
オリュカのひとこと
「チョルノービリの被災者」は、法律でどう決められているのでしょう。最初の見出しで確かめられます。
ウクライナの年金基金は2026年4月、2026年1月1日時点で、チョルノービリ原発事故の「被災者」の地位を持つ年金受給者が63万7,013人いると公表しました。州別ではキーウ州の20万3,041人が最も多く、リウネ州の9万3,620人、ジトーミル州の8万8,289人、キーウ市の3万840人と続きます。この数は年金を受け取っている人だけを数えたもので、地位を持つ人すべての数ではありません。
では、法律の上で「被災者」とは誰なのか。ウクライナでは、1991年2月にウクライナ・ソビエト社会主義共和国の最高会議が採択した法律が、いまもその定義を決めています。事故そのものの経過はチョルノービリ原発事故の記事にあります。
1991年2月の二つの法律
一つは、1991年2月27日の法律第791а-XII号「チョルノービリの事故で放射能に汚染された地域の法的な制度について」です。汚染された土地を区域に分け、そこに住むことや働くことの条件を決めています。もう一つが、翌28日の法律第796-XII号「チョルノービリの事故で被害を受けた市民の地位と社会的な保護について」で、人の側の地位と給付を決めています。どちらも、ウクライナが独立を宣言する半年前に成立しました。
第796-XII号は、1991年12月19日の法律第2001-XII号で全体が書き改められ、その後も改正が重ねられてきました。2016年の改正(第1339-VIII号)からは、チョルノービリ以外の原子力事故や核実験、核兵器を使う軍事演習にかかわった人も、同じ法律の対象になっています。
事故処理作業者と被災住民
第796-XII号の第9条は、法律の対象となる人を四つに分けています。中心になるのは、事故の処理にあたった「事故処理作業者」(учасники ліквідації наслідків аварії)と、放射線の影響を受けた「被災者」(потерпілі)の二つです。
第10条によれば、事故処理作業者とは、立入禁止区域で事故とその後始末の作業に直接加わった人です。1986〜1987年に働いた人は日数を問わず、1988〜1990年は30日以上働いた人が当たります。1986年に住民の衛生処理所や機材の除染所で14日以上働いた人も含まれます。軍人や、国の機関・企業から派遣された人も数えます。
第11条の被災者には、立入禁止区域から避難した人、汚染の強い区域から移住させられた人、そうした区域に住んでいた人と、いまも住み、働き、学んでいる人が入ります。住んでいる人の場合は、1993年1月1日の時点で、区域ごとに決まった年数(2年・3年・4年)をそこで過ごしていることが条件です。
Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS)の項目「Chornobyl nuclear disaster」(2023年執筆)は、ソ連全体で60万〜80万人が事故処理の作業に加わったとし、数百万人の被災者に年金や医療の給付、無料の保養が与えられて、国の予算の重い負担になったと書いています。
汚染地域の区域
区域の分け方は、第791а-XII号の第2条にあります。土に積もったセシウム・ストロンチウム・プルトニウムの量と、事故の前より1年に余分に受けると見込まれる放射線の量で分けています。単位の読み方は放射線の単位の記事にあります。
| 区域 | 第2条の定義(要約) |
|---|---|
| 立入禁止区域(зона відчуження) | 1986年に住民を避難させた土地 |
| 無条件(義務的)移住区域 | セシウムが1平方キロメートルあたり15キュリー以上など。年5.0ミリシーベルトを超えうる土地 |
| 保証された任意移住区域 | セシウムが同5〜15キュリーなど。年1.0ミリシーベルトを超えうる土地 |
| 放射線生態学的管理強化区域 | セシウムが同1〜5キュリーなど。年0.5ミリシーベルトを超える土地。2014年の改正で定義が削られた |
4番目の区域の定義が消えたあと
2014年12月28日の法律第76-VIII号(2015年1月1日施行)は、第791а-XII号の第2条から、4番目の「放射線生態学的管理強化区域」の定義の段落を削りました。一方で、同じ法律の第18条・第19条はこの区域での禁止事項や住民の保護をいまも定めていて、被災者の区分4もこの区域に住む人・働く人を挙げています。条文の上では、定義が消えたあとも区域の名前が残っている状態です。
区域の境界は内閣が決め、区域に入る集落の一覧と、住民が受ける線量の調査結果を3年に1度公表する、と第2条は定めています。
オリュカのひとこと
地位の区分は、条文でどう分けられているのでしょう。この見出しで確かめられます。
区分1から4まで
給付の中身は、第796-XII号の第14条が定める区分によって変わります。
| 区分 | 当たる人(第14条の要約) |
|---|---|
| 1 | 事故処理作業者と被災者のうち、障害と事故との因果関係が認められた人。事故による放射線障害(放射線病)の人 |
| 2 | 立入禁止区域で、事故から1986年7月1日までは日数を問わず、1986年7〜12月は5日以上、1987年は14日以上働いた事故処理作業者。1986年に立入禁止区域から避難した人。無条件移住区域に事故から移住の決定まで住んでいた人 |
| 3 | 区分2に当たらない事故処理作業者(1986年7〜12月に1〜5日、1987年に1〜14日、1988〜1990年に30日以上など)。二つの移住区域に住んでいた人・住んでいる人のうち、年数の条件を満たす人 |
| 4 | 管理強化区域に、1993年1月1日の時点で4年以上住む・働く・学んでいる人 |
地位は書類で決まります(第15条)。事故処理作業者は勤務先や軍の徴兵事務所が出す作業期間の証明、住民は自治体が出す居住や避難の証明がもとになります。証明書(посвідчення)の様式は2018年7月11日の内閣決定第551号が定め、区分と種類ごとに色の違う証明書が交付されます。ある人がどの区分に当たるかは、こうした書類をもとに担当の機関が判断します。
年金では、第55条が、汚染地域で働いた人・住んだ人の年金の受給開始年齢を引き下げています。たとえば1986年に立入禁止区域で働いた事故処理作業者のうち、7月1日までは日数を問わず、7〜12月は5日以上働いた人は、10年早く受け取れます。2025年7月1日からは、この法律にもとづく補償や手当の一部を、年金基金が支払っています。
給付の削減と憲法裁判所
給付の中身は、国の財政の事情で削られ、そのたびに憲法裁判所が判断してきました。第796-XII号の第71条は「この法律の規定は、この法律を改正する法律以外の法律で止めることはできない」と定めています。それでも、2011年や2024〜2026年には、一部の条を内閣が決める方法と額で当てはめる、という定めが加えられています。
2014年から2026年までの主な出来事
| 年月日 | 出来事 | 主体 |
|---|---|---|
| 2014年12月28日 | 法律第76-VIII号。給付の条の多くを削り、追加の年金の額を内閣が決めるとし、一部の給付に所得の条件をつけた(2015年1月1日施行。所得の条件は7月1日から) | 最高会議 |
| 2018年7月17日 | 第76-VIII号による給付の削除と所得の条件、追加の年金と補償の合計の上限(第53条)などを違憲とする(第6-р/2018号) | 憲法裁判所 |
| 2019年4月25日 | 軍人の年金の計算の特例を「現役の徴集兵」に限っていた語句を違憲とする(第1-р(II)/2019号) | 憲法裁判所 |
| 2021年4月7日 | 障害年金の最低額を内閣が決めるとした第54条第3項を違憲とする(第1-р(II)/2021号) | 憲法裁判所 |
| 2021年6月29日 | 法律第1584-IX号。障害年金の最低額を法律に書く(1級6,000フリヴニャ、2級4,800フリヴニャ、3級と障害のある子ども3,700フリヴニャ) | 最高会議 |
| 2024年3月20日 | 年金の上限を最低生活費の10倍とした第67条第3項の第1文などを違憲とする(第2-р(II)/2024号) | 憲法裁判所 |
| 2024年4月3日 | 第1584-IX号で改めた第54条第3項を違憲とし、戒厳令が終わってから3か月後に効力を失うとする(第4-р(I)/2024号) | 憲法裁判所 |
| 2025年12月3日 | 法律第4695-IX号。2026年は最低額の年金の引き上げなどを内閣が決める方法と額で当てはめ、一部の給付に所得の条件をつける | 最高会議 |
給付の額や条件は、このあとも国の予算の法律と内閣の決定で変わりえます。被災者の社会的な保護の政策を担うのは、2025年7月21日の内閣決定第904号で名前が改められた社会政策・家族・統一省で、決定が承認した同省の規程は、担当の一つに「チョルノービリの事故で被害を受けた市民」の保護を挙げています。
出典と記事の記録
出典・参考資料
- Закон України «Про статус і соціальний захист громадян, які постраждали внаслідок Чорнобильської катастрофи» № 796-XII1991年2月28日。改正履歴、第9〜15条、第55条、第54条・第59条・第67条・第71条、2026年の特例の注記
発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-27 - Закон України «Про правовий режим території, що зазнала радіоактивного забруднення внаслідок Чорнобильської катастрофи» № 791а-XII1991年2月27日。第2条の区域、第18・19条、改正履歴
発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-27 - 同上 2014年3月27日時点の版第2条の4番目の区域の定義
発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-27 - Закон України № 76-VIII2014年12月28日。第791а-XII号第2条の改正、第796-XII号の改正、施行日
発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-27 - Рішення Конституційного Суду України № 6-р/20182018年7月17日
発行:Конституційний Суд України(最高会議の法令データベース) 確認日:2026-09-27 - Рішення Конституційного Суду України № 1-р(II)/20192019年4月25日
発行:Конституційний Суд України(同) 確認日:2026-09-27 - Рішення Конституційного Суду України № 1-р(II)/20212021年4月7日
発行:Конституційний Суд України(同) 確認日:2026-09-27 - Рішення Конституційного Суду України № 2-р(II)/20242024年3月20日
発行:Конституційний Суд України(同) 確認日:2026-09-27 - Рішення Конституційного Суду України № 4-р(I)/20242024年4月3日
発行:Конституційний Суд України(同) 確認日:2026-09-27 - Постанова КМУ № 551「Деякі питання видачі посвідчень особам, які постраждали внаслідок Чорнобильської катастрофи」2018年7月11日。証明書の様式と色
発行:Кабінет Міністрів України 確認日:2026-09-27 - Постанова КМУ № 904「Деякі питання оптимізації системи центральних органів виконавчої влади」2025年7月21日。省の改称と規程
発行:Кабінет Міністрів України 確認日:2026-09-27 - Чисельність пенсіонерів, які станом на 01.01.2026 мають статус постраждалих внаслідок Чорнобильської катастрофи2026年4月26日のインフォグラフィック。637,013人と州別の数
発行:Пенсійний фонд України 確認日:2026-09-27 - Допомога постраждалим внаслідок Чорнобильської катастрофи2025年9月3日。2025年7月1日からの支払いの担当
発行:Пенсійний фонд України(オデーサ州の支部) 確認日:2026-09-27 - Chornobyl nuclear disasterBohdan Harasymiw、2023年執筆。事故処理の作業者数と給付の記述
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-27
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