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人と暮らし/解説

「Дія」の電子パスポート、国境では使えず国外での法的効力もない

ウクライナの行政アプリ「Дія」の電子パスポートは、2021年8月23日から法律に基づいてカード型のパスポートの代わりに提示できるようになりました。ただし国境を越えるときには使えず、国外での法的な承認もありません。3分で切れるQRコード、国外からのログイン、戦時に加わった機能と利用者2,400万人超という数字まで。

ウクライナでは、身分証としてスマートフォンの画面を見せることができます。国の行政アプリ「Дія(Diia)」に表示される電子パスポートです。ウクライナでは2021年8月23日から、この画面を、法律に基づいてカード型のパスポートの代わりに提示できるようになりました。ただし、それが通用するのはウクライナの国内に限られます。この記事は、アプリで何ができて何ができないかを、法令とデジタル変革省(Мінцифри)などの公式の発表で2026年9月23日に確認した内容です。

運転免許証から始まったアプリ

デジタル変革省のプロジェクト紹介によれば、Дія は、電子文書と行政サービスを使えるスマートフォンのアプリと、市民・企業向けのオンライン行政ポータルをまとめたブランドの名前です。ポータルのよくある質問は、Дія を「взаємодія «Держава і я»」(「国家と私」の相互作用)だと説明しています。

アプリの公式な発表会は2020年2月6日でした。同省の同日の発表によれば、最初に使えるようになったのは運転免許証と車両登録証の二つで、ゼレンシキー大統領、ホンチャルク首相、アヴァコフ内相が出席しました。本人確認には銀行の認証の仕組み(BankID)を使い、公開前の試験には5万8千人の運転者が申し込み、3万2,500人が参加したとされています。

同じ発表は、開発にデジタル変革省のほか、内務省、国立銀行、米国と英国の援助事業(USAID/UK aid の TAPAS)、スイスが資金を出す EGAP などが関わったと書いています。

2021年8月23日、画面がパスポートになる

2021年3月30日の法律第1368-IX号が、「統一国家人口登録簿と、ウクライナ国籍を証明する書類等に関する法律」に第14-1条を加えました。Дія の告知によれば、この規定は同年8月23日に効力を持ち始めています。

第14-1条は、アプリに表示される二つの電子パスポートを定めています。IDカード型の国内用パスポートの「е-паспорт」と、国外旅行用パスポートの「е-паспорт для виїзду за кордон」です。条文の要点は次のとおりです。

  • 本人が望めば作られ、作成は無料
  • ウクライナの領域で、本人確認と国籍の証明、行政などのサービスに使う
  • 提示するとき、紙やカードのパスポート、納税者番号、住所の書類を別に見せる必要はない
  • パスポートのコピーの提出が求められる場面では、電子コピーで代えられる
  • 行政機関、自治体、法人、個人は、提示された電子パスポートを確認しなければならない

確認のしかたは、2021年8月18日の閣僚会議決定第911号が定めています。アプリはQRコード・バーコード・数字のコードを発行し、それは作られてから3分間だけ有効です。電子パスポートは、このコードがあるときにだけ有効とされています。もとになるカードやパスポートが有効で、期限が切れていないことも条件です。

Дія のよくある質問は、1994年型の冊子式パスポートと旧型の国外旅行用パスポートはアプリに表示されない、と書いています。

国境では使えない

同じ第14-1条の第3項は、電子パスポートを使わない場面を三つ挙げています。

  • ウクライナの国境を越えるとき(ウクライナに入国する際に、ウクライナ国民であることを確かめる必要がある場合を除く)
  • 一時的に占領されたウクライナの地域に入るとき、そこから出るとき
  • 国境地帯に入る・とどまる・移動するとき、領海や内水に出るとき

つまり、空港の出入国審査で見せるのは、スマートフォンではなく実物のパスポートです。

国外では法的に承認されていない

ウクライナの外ではどうか。Дія のポッドキャストの回で、デジタル変革省の担当者は二つの線を分けて説明しています。法的には、たとえば欧州連合(EU)は別の法制度を持っており、相手の国が電子文書とは何かを自国の法律で定めない限り、Дія を法的に承認させることはできない。一方、実際には、全面侵攻のあと国外へ逃れた人たちが国境で Дія を見せた例がある、というものです。

デジタル変革省が2026年9月3日に出した振り返りの記事は、2022年に隣国のモルドバが Дія の文書を認め始めたこと、ポーランドがウクライナの技術をもとに Diia.pl を作ったことを挙げています。これは同省の説明です。

日本の役所や金融機関、出入国在留管理庁の手続きで Дія の画面が本人確認書類として扱われるかについて、日本側の公的な案内は見つけられませんでした。日本で手続きをするときは、実物の書類を持ち、使える書類を窓口で確かめてください。日本の住民登録の手続きで出てくる言葉は、引っ越したら14日以内。日本の住民登録で出てくる言葉で扱っています。

国外からログインするには

アプリに入るには本人確認が要ります。公開時の本人確認は銀行の BankID でしたが、Дія の案内によれば、いまは NFC という非接触の読み取りも使えます。手順は、アプリの NFC のアイコンを押し、IDカードか国外旅行用パスポートの番号を読み取り、書類をスマートフォンにかざし、顔写真による確認(PhotoID)をして、ログイン用のコードを決める、というものです。

同じ案内は、ログインの際に納税者番号(РНОКПП)の登録簿に照会するため、納税者番号がないと使えないこと、国外にいるときはウクライナ国内のサーバーを使う VPN での接続を勧めることも書いています。

戦時のアプリになった

デジタル変革省のプロジェクト紹介は、全面侵攻のあとに加わった機能として、書類を持たずに避難した人のための電子文書「єДокумент」、国内避難民向けの給付の申請、損壊した住宅の修理費を申請する「єВідновлення」を挙げています。軍の支援、戦時国債の購入、損壊した財産の届け出、住所や犯罪歴の証明書の取り寄せ、運転免許証の交換、個人事業主の登録と廃業、結婚もアプリでできる、としています。

結婚について、同省の2026年9月3日の記事は、役所に行かずに行うオンラインの結婚手続きを2024年に始め、利用者が送った申し込み(пропозиції)は400万件を超え、成立した結婚は7万3千件だとしています。

利用者の数について、キーウ州軍政府は2026年5月25日、デジタル変革省の数字として、アプリの利用者が2,400万人を超え、ポータルの利用者が約700万人だと伝えています。同じ記事は、2026年に主に使われたサービスとして次の数字を挙げています。

サービス記事に書かれた数字
冬の給付「єПідтримка」のオンライン申請1,430万人
住所の証明書(витяг про місце проживання)の作成累計1,280万回超
交通違反の罰金の支払い620万回超
車の売買・名義変更2026年に7万6千台超
キーウ州軍政府「Мінцифри: Застосунком Дія користуються понад 24 мільйони українців」(2026年5月25日)から作成。数字はデジタル変革省の発表で、集計の期間は記事に明記されていないものがある。2026年9月23日確認。

ダウンロードは公式のストアから

Дія のよくある質問は、アプリを App Store か Play Market から入れるよう案内し、個人データを守るため公式のアプリだけを入れるよう呼びかけています。

Дія を知っていると、ウクライナのニュースの読み方も少し変わります。ウクライナでは行政手続きの少なくない部分がスマートフォンの中にあり、戦時の給付や被害の届け出もその画面を通っている、ということです。

出典・参考資料

  1. Закон України «Про Єдиний державний демографічний реєстр та документи, що підтверджують громадянство України, посвідчують особу чи її спеціальний статус»(第3条第1項12・13の定義、第14-1条の電子パスポートの用途と使わない場面。2021年3月30日の法律第1368-IX号で追加。2026年6月27日版の現行テキスト)
    発行:Верховна Рада України(ウクライナ最高会議)法令データベース 確認日:2026-09-23
  2. Постанова КМУ від 18.08.2021 № 911「Про затвердження Порядку формування та перевірки е-паспорта і е-паспорта для виїзду за кордон, їх електронних копій」(識別コードの3分間の有効期間、元の書類が有効であることの条件)
    発行:Верховна Рада України(ウクライナ最高会議)法令データベース 確認日:2026-09-23
  3. Дія — у дії! Презентовано мобільний застосунок Дія та Національну онлайн-платформу цифрової освіти(2020年2月6日。最初の電子文書、出席者、BankID、試験の参加者数、開発に関わった機関)
    発行:Міністерство цифрової трансформації України(デジタル変革省) 確認日:2026-09-23
  4. Дія — державні послуги онлайн(プロジェクト紹介。ブランドの定義、全面侵攻後の機能、アプリでできること)
    発行:Міністерство цифрової трансформації України(デジタル変革省) 確認日:2026-09-23
  5. 7 років Мінцифрі: від першого е-паспорта у світі до технологій, які змінюють країну(モルドバとポーランドの例、オンライン結婚の件数)
    発行:Міністерство цифрової трансформації України(デジタル変革省) 確認日:2026-09-23
  6. Перший етап режиму “без паперів”: з 23 серпня почав діяти закон про цифрові паспорти в Дії(8月23日の施行、QRコード)
    発行:Дія(diia.gov.ua) 確認日:2026-09-23
  7. Як авторизуватися в Дії без BankID(NFCによるログインの手順、納税者番号が必要なこと、国外でのVPN)
    発行:Дія(diia.gov.ua) 確認日:2026-09-23
  8. Подкаст Цифра. Дія за кордоном: чи визнають застосунок в інших країнах?(国外での法的な承認と実際の扱い)
    発行:Дія(diia.gov.ua) 確認日:2026-09-23
  9. Поширені запитання(「Держава і я」、表示されない旧型パスポート、公式ストアからの入手)
    発行:Дія(diia.gov.ua) 確認日:2026-09-23
  10. Мінцифри: Застосунком Дія користуються понад 24 мільйони українців(2026年5月25日。利用者数と2026年のサービス別の数字)
    発行:Київська обласна військова адміністрація(キーウ州軍政府) 確認日:2026-09-23

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