「半導体用ネオンの約半分」の出どころ。オデーサとマリウポリの2社
2022年3月、ウクライナの2社が半導体用ネオンの生産を止め、「世界の約半分」が失われると報じられました。この数字は会社と業界調査会社の数字をもとにした報道機関の計算で、精製されたネオンについての侵攻前の推計です。ネオンが製鉄所の副産物であること、マリウポリからオデーサ州へ移った会社のその後を、2026年9月時点の資料で見ます。
オリュカのひとこと
半導体に使うネオンは、どこで作られているのでしょう。最初の見出しで確かめられます。
2022年3月11日、ロイター通信は、ウクライナの2社が半導体用のネオンの生産を止めたと伝えました。オデーサのクリオイン(Cryoin)と、マリウポリのインハス(Ingas)です。記事は、世界の半導体用のネオンの45〜54%がこの2社から来ていると書き、この数字は「約半分」として広く引かれました。
この「約半分」は、何を数えた数字なのか。ネオンはどこから来て、2社は2026年9月時点でどうなっているのか。企業と業界調査会社、報道の数字を、主体を分けて見ます。
ネオンは半導体のどこで使われるか
ロイターの記事は、ネオンを「半導体をつくるときに使うレーザーに欠かせない」ガスとしています。米国の業界調査会社テクセット(Techcet)は、半導体向けのネオンの報告書で、需要の要因に、回路を焼き付ける露光装置の波長248ナノメートルと193ナノメートルのレーザー(DUV)を挙げています。クリオインは2024年の自社のサイトで、ネオンの使い道の最初に「エキシマレーザー用の混合ガスの製造」を挙げていました。
ネオンは、ほかの気体とほとんど反応しない希ガスの一つです。インハスは自社のサイトで、ネオンを低温の精留(冷やして成分ごとに分ける方法)で純度99.999%(5.0)と99.9999%(6.0)にしていると説明しています。
もとは製鉄所の副産物
テクセットは2016年の記事で、ネオンを「製鉄所に酸素を送る空気分離装置の副産物」と説明しています。製鉄では大量の酸素を使うため、製鉄所には空気を冷やして酸素や窒素に分ける大きな装置があり、その過程でネオンとヘリウムの混ざったガスがとれます。クリオインは、ヘリウムを「ネオンとヘリウムの混合ガスを分けて精製する過程で」得ていると説明していました。
ロイターの2022年の記事は、ウクライナのネオンは「ロシアの製鉄の副産物」だと書いています。この説明に従えば、ウクライナの2社は製鉄所から出る原料のガスを半導体に使える純度まで精製しており、その原料はロシアの製鉄に由来していたことになります。原料のうちどれだけがロシアから来ていたかは、記事には書かれていません。
オリュカのひとこと
「約半分」という数字は、何を指しているのでしょう。この見出しで確かめられます。
「約半分」は何の半分か
数字の出どころはロイターの計算
45〜54%という数字について、ロイターは「会社と市場調査会社テクセットの数字をもとにしたロイターの計算による」と書いています。国や国際機関の統計ではありません。計算のもとになった数字は、記事に次のように出てきます。
| 項目 | 数字 | 誰の数字か |
|---|---|---|
| インハスの生産 | 月1万5,000〜2万立方メートル(うち約75%が半導体産業向け) | 同社の営業責任者(ロイターへのメール) |
| クリオインの生産 | 月約1万〜1万5,000立方メートル | 同社の事業開発責任者(ロイターの取材) |
| 世界の半導体向けネオンの消費 | 2021年に約540トン | テクセットの推計 |
| 2社の占める割合 | 世界の半導体用ネオンの45〜54% | ロイターの計算 |
つまり「約半分」は、半導体に使える純度に精製されたネオンの、侵攻前の世界の供給に占める2社の割合を、ロイターが推し量った数字です。原料のガスを含めた量でも、ウクライナの国全体の公式の生産量でもありません。
価格の数字も主体が違う
同じ記事は、ネオンの価格について二つの数字を挙げています。クリオインの担当者は、2021年12月から価格が最大で500%上がったと述べています。米国際貿易委員会(USITC)によれば、2014年のロシアによるクリミアの「併合」の前後にも、ネオンの価格は600%上がりました。どちらも、特定の時期と主体の数字です。
2022年2月24日、二つの工場は止まった
ロイターによれば、オデーサのクリオインは、ロシアによる全面侵攻が始まった2022年2月24日に、従業員の安全のために操業を止めました。同社の担当者は、3月分の1万3,000立方メートルの注文に応えられないこと、設備が壊れれば再開が難しくなること、精製の原料を手に入れられるか分からないことを話しています。
マリウポリの工場
インハスはマリウポリにありました。ロイターの記事が出た2022年3月、マリウポリはロシア軍に包囲されていました。同社の説明では、2022年の春に「マリウポリからオデーサ州への強いられた移転」をし、そこで生産を続けています。マリウポリの製鉄所と占領は鉄鋼の記事で扱っています。
2026年9月時点で分かること
インハスは1994年の設立で、2026年9月時点の同社のサイトは、所在地をオデーサ州ピウデンネ市としています。サイトはネオンのほか、キセノン、クリプトン、ヘリウムなどの希ガスと、レーザー用などの混合ガスを製品に挙げています。同社は2024年11月、税関の手続きが簡単になる「認定事業者(AEO)」の資格を得たと発表しました。
クリオインは、創業者のヴィタリー・ボンダレンコ博士が立ち上げた会社で、2016年に希ガスの生産でISO 9001の認証を受けたと説明していました。同社が操業を再開したかどうか、2026年9月時点の状態を示す同社や公的機関の発表は確認できていません。
2社が侵攻の前と同じ量を生産しているか、世界の半導体用ネオンの中でいまどれだけの割合を占めているかを示す数字も、見つかっていません。「約半分」は2022年初めの時点の推計として読む必要があります。オデーサの港と町の成り立ちはオデーサの記事、ウクライナの技術の輸出の数字はコンピューター・サービス輸出の記事にあります。
出典と記事の記録
出典・参考資料
- Exclusive: Russia's attack on Ukraine halts half of world's neon output for chips2022年3月11日。45〜54%の計算の根拠、2社の月産、540トン、操業停止、価格
発行:ロイター(ウェブアーカイブで確認) 確認日:2026-09-26 - Anticipated Impact on NEON: US Tariffs on China Steel Increased Further2016年。空気分離装置の副産物としてのネオン
発行:Techcet(ウェブアーカイブで確認) 確認日:2026-09-26 - Neon – A Supply Alert Report目次。248nm・193nmのDUVレーザー
発行:Techcet(2022年のウェブアーカイブで確認) 確認日:2026-09-26 - Cryoin Engineeringトップページ。製品、エキシマレーザー用、ネオンとヘリウムの混合ガス、創業者、ISO 9001
発行:クリオイン(2022年1月・2024年9月のウェブアーカイブで確認) 確認日:2026-09-26 - Про нас(1994年の設立)/Неон(Ne)低温精留、5.0・6.0
発行:インハス(ТОВ «Інгаз») 確認日:2026-09-26 - 30 років на шляху від ідеї до світового успіху2024年7月2日。2022年春のマリウポリからオデーサ州への移転
発行:インハス 確認日:2026-09-26 - ТОВ «Інгаз» отримало статус авторизованого економічного оператора2024年11月4日
発行:インハス 確認日:2026-09-26
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