ガリツィア(ハリチナ)、ポディッリャ、スロボジャンシチナ。州の名前とは別の地域名
ガリツィア(ハリチナ)、ヴォリーニ、ブコヴィナ、ドンバス。ウクライナの記事によく出てくる地域の名前は、憲法が定める州とは別のものです。それぞれがいまのどの州に重なるのか、名前の由来、国境をまたぐ地域、占領下にある土地を、カナダ・ウクライナ研究所の事典の記述をもとに表にしました。
オリュカのひとこと
ヴォリーニ州と歴史のヴォリーニは、同じ範囲を指すのでしょうか。州と地域の名前の違いを本文でたどれます。
ウクライナの地図は、24の州とクリミア自治共和国、キーウとセヴァストポリの二つの市で塗り分けられています。ところが、ニュースや小説、料理や工芸の説明には、州の名前にはない地域の名前がよく出てきます。ガリツィア(ハリチナ)、ヴォリーニ、ポディッリャ、ブコヴィナ、スロボジャンシチナ、ドンバスなどです。
これらは歴史と地理から生まれた地域の名前で、行政の単位ではありません。以下、Internet Encyclopedia of Ukraine(IEU、カナダ・ウクライナ研究所)の記述をもとに、それぞれの名前がいまのどの州に重なるのかをまとめます。
州は憲法で決まり、地域の名前は歴史で決まる
ウクライナ憲法第133条は、国を構成するものとして、クリミア自治共和国、24の州、キーウとセヴァストポリの二つの市を挙げています。州・地区・フロマーダの仕組みは24の州、136の地区、1,469のフロマーダで分かれるウクライナで紹介しています。この条文に、ガリツィアやポディッリャのような名前は出てきません。
地域の名前には法律で決まった境界がないので、指す範囲は時代や資料で変わります。IEUによれば、ポディッリャという名前は14世紀半ばから知られていますが、もともとはドニステル川の二つの支流とボーフ川に挟まれた約4万km²の土地を指し、いまはポディッリャ高地にあたる約6万km²を指すとされます。以下の表の「重なる州」も、IEUの記述の一例と考えてください。
オリュカのひとこと
ガリツィアは、いまのどの州に重なるのでしょう。事典の記述をもとにした表で確かめられます。
西の地域
IEUによれば、かつてのガリツィア、ヴォリーニの西部、ブコヴィナの北部、ザカルパッチャの四つをまとめて、いまは「西ウクライナ」と呼ぶことが多いとされます。
| 地域の名前 | 重なるいまの州(IEUの記述) | 名前について |
|---|---|---|
| ガリツィア(Галичина、英語ではGalicia) | リヴィウ州、テルノーピリ州、イヴァーノ=フランキーウシク州。西の一部は1945年にポーランド側に入った | 中世の公国の町ハーリチ(Галич)から |
| ヴォリーニ(Волинь) | ヴォリーニ州・リウネ州・ジトーミル州の大部分。クレメネツ周辺はテルノーピリ州、イジャスラウとスタロコスチャンティニウの周辺はフメリニツキー州 | 10世紀より前の城塞の町の名前から来たとみられる |
| ポディッリャ(Поділля) | テルノーピリ州(クレメネツ周辺を除く)、フメリニツキー州とヴィーンヌィツャ州のほぼ全域、リヴィウ州とイヴァーノ=フランキーウシク州の一部 | 14世紀半ばから記録がある。指す範囲は時代で変わった |
| ブコヴィナ(Буковина) | 北部がチェルニウツィー州。南部はルーマニア(スチャヴァ県の大部分) | ブナ(бук)の森から。14世紀にさかのぼる |
| ザカルパッチャ(Закарпаття) | ザカルパッチャ州。1919〜38年にチェコスロバキアの自治地域だった範囲とほぼ同じ | カルパティア山脈の「向こう側」。ハンガリー領の時代には「ハンガリーのルーシ」とも呼ばれた |
| ポリッシャ(Полісся) | 北の森林地帯。ヴォリーニ州とリウネ州の大部分、ジトーミル州の約3分の2、キーウ州の北3分の1。ドニプロ川の東にもチェルニーヒウ・ポリッシャが続く | ліс(森)を含む名前。IEUはベラルーシのブレスト州・ホメリ州の一部も含めて説明している |
カルパティア山脈の東の斜面には、フツルと呼ばれる山の人々が住むフツル地方があります。IEUによれば、フツル地方はガリツィア、ブコヴィナ、ザカルパッチャの山地にまたがり、ルーマニアにある8つの集落を除いて、いまのウクライナの国境の中にあります。コシウの陶器を紹介した緑と黄が「涙」のように流れる、コシウの彩色陶器も、この地方の話です。
東と南の地域
| 地域の名前 | 重なるいまの州・土地(IEUの記述) | 名前について |
|---|---|---|
| スロボジャンシチナ(Слобожанщина) | 17〜18世紀のコサックの5つの連隊(ハルキウ、スームィ、オフティルカ、イジューム、オストロホージク)の土地。いまのハルキウ州の土地はハルキウ連隊とイジューム連隊に属し、ルハンシク州の北部も帝政期の「スロボダ・ウクライナ県」に入っていた | 「スロボダ」と呼ばれた入植地から。17世紀初めから19世紀初めまで使われた名前 |
| チェルニーヒウ地方(Чернігівщина) | 約5万5,700km²。北はロシアのブリャンスク地方、北西はベラルーシと接する。境はいまのチェルニーヒウ州とは一致しない | 7〜8世紀にセヴェリャネと呼ばれる人々が住み、チェルニーヒウを中心とした |
| ベッサラビア(Бессарабія) | 北のホティン地方はチェルニウツィー州、南のアッケルマン地方はオデーサ州。ウクライナ側は合わせて1万4,400km²で、残りはモルドバ | 19世紀初めまでは南部だけを指し、のちに全体の名前になった |
| タウリヤ(Таврія) | 16世紀からはクリミア半島、19世紀初めからはクリミアとその北の草原を指し、1920年代までタウリヤ県だった | 古代ギリシャ語のタウリカ(タウロイの住む土地)から |
| ドンバス(Донбас) | ドネツ炭田。狭い意味ではドネツィク州の大部分とルハンシク州の南半分、ロシアのロストフ州の西部。ドネツィク州とルハンシク州の全体をドンバスと呼ぶことも多い | 1827年に地質を調べたコヴァレフスキーが「ドネツ炭田」と名づけた |
スロボダ・ウクライナ県は1835年にハルキウ県と名前を変えました。IEUのスロボジャンシチナの項目は、その際に一部がヴォロネジ県とクルスク県に移されたと書いています。また黒海とアゾフ海に面した南部の草原は、18世紀末から1917年まで、ロシア帝国の中で「新ロシア(ノヴォロシヤ)」と呼ばれていました。これは帝国がつけた名前で、IEUは南部全体を「南ウクライナ」の項目で扱っています。
国境をまたぐ地域
歴史の地域の境と、いまの国境は一致していません。IEUの記述から、いくつか例を挙げます。
- ブコヴィナは1919年から1940年まで、全体がルーマニア領でした。この年、ソ連最高会議の8月2日の決定で北部がウクライナ・ソビエト社会主義共和国のチェルニウツィー州になり、南部はルーマニアに残りました。
- ガリツィアでは、1945年8月16日のソ連とポーランドの協定で、ペレミシュリを含むシャン川流域がポーランド側に入りました。
- ポリッシャは、ウクライナとベラルーシの国境をまたぐ低地です。
- ベッサラビアの大部分はモルドバにあり、ウクライナにあるのは北と南の端です。
- ドンバスは、東の一部がロシアのロストフ州にかかっています。
占領下にある地域の名前
東と南の地域の名前には、ロシアに占領されている土地が含まれます。クリミアは2014年からロシアに占領されています。国連総会は2014年3月27日の決議第68/262号で、クリミアとセヴァストポリの地位の変更を認めないよう各国に求めました。IEUのドンバスの項目は、2014年4月、ロシアの後押しのもとで「ドネツィク人民共和国」「ルハンシク人民共和国」を自称する組織が作られ、ウクライナ政府はこれを認めず、失った土地を「ドネツィク州とルハンシク州の一部地域」と呼んだと記しています。
2022年2月24日に始まったロシアによる全面侵攻で、占領は広がりました。国連総会の2022年10月12日の決議ES-11/4は、ドネツィク、ヘルソン、ルハンシク、ザポリッジャの4州について、侵略の結果、一部がロシアの一時的な軍事支配の下にある、またはあったと記し、ロシアの「併合」の試みは国際法上効力がないと宣言しています。
どの地区やフロマーダが占領されているか、戦闘が行われているかは、ウクライナ政府が省令の一覧(2025年2月28日の地域・領土発展省令第376号)で定め、たびたび改めています。2026年9月時点の最新版は2026年8月21日の改正によるものです。ドンバス、タウリヤ、スロボジャンシチナの東部の地名を読むときは、その土地がいま誰の支配の下にあるかが、地域の名前だけでは分からないことに気をつけてください。
日本語で書くとき
同じ地域に、いくつもの呼び名があります。ガリツィアはウクライナ語でГаличина、英語でGalicia、ブコヴィナはBukovina、Bukowina、Bucovina、ポディッリャはPodolia、ポリッシャはポーランド語でPolesieと書かれます。この記事では「ガリツィア」と書き、初めて出てくるところにウクライナ語の読み「ハリチナ」を添えました。スペイン北西部のガリシア(Galicia)と取り違えやすいので、初めに出すときはウクライナ語の形と並べておくと混乱が減ります。
もう一つ気をつけたいのが、州と地域の取り違えです。「ヴォリーニ州」は州都ルツィクのある一つの州ですが、歴史の「ヴォリーニ」は三つの州にまたがります。地域の意味で使うときは「ヴォリーニ地方」のように書き分けると、読む人が地図の上で迷いません。地名の綴りやカナの決まり方は「キエフ」が「キーウ」になった日と、地名の綴りの決まり方で紹介しています。
出典と記事の記録
出典・参考資料
- Конституція України第133条:州・自治共和国・特別な地位の市の一覧
発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-24 - Galicia名前の由来、1945年の国境、四つの州、「西ウクライナ」の呼び方
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24 - Volhynia範囲と重なる州、名前の由来
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24 - Podilia名前の記録と範囲の変化、重なる州
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24 - Bukovyna名前の由来、1940年の分割、チェルニウツィー州とスチャヴァ
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24 - Transcarpathiaザカルパッチャ州の範囲、「ハンガリーのルーシ」の呼び名
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24 - Polisiaウクライナのポリッシャの範囲、チェルニーヒウ・ポリッシャ、ベラルーシ側
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24 - Hutsul regionフツル地方の範囲
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24 - Slobidska Ukraine5つの連隊、名前の由来と使われた時期、1835年の再編
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24 - Slobidska Ukraine gubernia1765年の設置、1835年にハルキウ県へ改称
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24 - Kharkiv oblastハルキウ連隊・イジューム連隊の土地
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24 - Luhansk oblast北部がスロボダ・ウクライナ県に属したこと
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24 - Chernihiv region面積、接する国、セヴェリャネ
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24 - Bessarabiaウクライナ側の範囲と面積、名前の変化
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24 - Tavriia名前の由来と指す範囲
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24 - Donets Basin範囲、1827年の命名、2014年の経緯
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24 - Southern Ukraine「新ロシア」の呼び名と時期
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24 - A/RES/68/262 Territorial integrity of Ukraine2014年3月27日
発行:国連総会 確認日:2026-09-24 - A/RES/ES-11/4 Territorial integrity of Ukraine: defending the principles of the Charter of the United Nations2022年10月12日採択
発行:国連総会 確認日:2026-09-24 - Про затвердження Переліку територій, на яких ведуться (велися) бойові дії або тимчасово окупованих Російською Федерацією地域・領土発展省令第376号、2025年2月28日。現行版2026年8月21日
発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-24
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