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ビジネス・復興/解説

発電所が狙われ続ける国で、電気を小さく分けてつくる

ロシアは2022年からウクライナの発電所と送電網を繰り返し攻撃してきました。国際エネルギー機関(IEA)によれば、全面侵攻前に約38ギガワットあった発電能力は、2024年春には12ギガワットまで落ちています。修理で戻した分も、2025〜26年の冬の攻撃で再び失われました。大きな発電所に代えて、ガス発電機や蓄電池を各地に分けて置く動きを数字で追います。

2025〜26年の冬は、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の報告書によれば、ウクライナで2010年以来の寒さでした。夜の気温が零下20度を下回る日があり、計画停電はキーウとヘルソンで1日最大22時間、1月の平均で1日最大16時間に達しました。電気が止まれば、暖房も、集合住宅の上の階への給水も止まります。

ロシアは2022年の全面侵攻以来、ウクライナの発電所、変電所、送電線、熱供給の施設を攻撃し続けてきました。どれだけの発電能力が失われ、どう戻されてきたのか。国際機関とウクライナ政府が公表している数字でたどります。

約38ギガワットから12ギガワットへ

IEAが2025年10月に出した分析は、全面侵攻前のウクライナで実際に使える発電能力(出力を調整できる電源)を約38ギガワットとしています。戦争の最初の1年で、占領、破壊、損傷により19ギガワットが失われ、2024年春に攻撃が集中したあとは12ギガワットまで落ちました。2024〜25年の冬の前に3ギガワットを修理で戻し、その後も復旧と新設が続いた、と同じ分析は書いています。

失われた分の中身については、IEAの2024年9月の報告書が詳しく書いています。ロシアによるザポリッジャ原子力発電所の占拠だけで6ギガワットが使えなくなりました。この原発は2022年より前、ウクライナの電力の約4分の1を生んでいました。2024年3月から5月の攻撃では、主に火力と水力で9ギガワットが失われています。送電側では、ウクルエネルゴ(国営の送電会社)の超高圧変電所の約半分が損傷しました。

時点使える発電能力出典
2022年2月の全面侵攻前約38ギガワットIEA(2025年10月)
戦争の最初の1年のあと19ギガワットを喪失IEA(2025年10月)
2024年春の攻撃のあと12ギガワットIEA(2025年10月)
2025〜26年の冬国内で発電できたのは約11ギガワット(需要は最大18ギガワット)OHCHR(2026年6月)がウクライナのシンクタンクの推計を引用
「使える発電能力」はIEAの available dispatchable capacity。設備の名目上の容量とは別の数字。

ウクライナの発電能力には、別の数字もあります。IEAの2024年の報告書は、名目上の設備容量を56ギガワット(欧州で7番目の規模)としています。国連開発計画(UNDP)の2023年6月の評価は、約37ギガワットの設備容量のうち19ギガワット超が破壊・損傷・占領されたとしました。「名目の容量」「設備容量」「実際に使える容量」は同じものではないので、数字を比べるときは何を数えたものかをそろえる必要があります。

2025〜26年の冬に何が起きたか

OHCHRは2026年6月29日の報告書で、2025年10月から2026年3月までに、ロシア軍が発電・送電・配電の施設を少なくとも423回攻撃したと記録しています。そのうち48回は、一度に3つ以上の地域を複数の種類の兵器で狙った攻撃でした。たとえば2026年2月3日には、ミサイル71発と長距離ドローン450機が使われ、6つの州とキーウ市で14の施設が被害を受けています。OHCHRは、独立した情報源で確認できた件数だけを数えており、ウクライナ当局はこれより多い件数を発表しているとも注記しています。

冬の需要が最大18ギガワットに達したのに対し、国内で発電できたのは約11ギガワットでした。ウクライナ当局は2025年10月から全国で計画停電を始め、ゼレンシキー大統領は2026年1月14日に電力部門の非常事態を宣言しています(いずれもOHCHRの報告書による)。

この冬は熱供給も狙われました。ウクライナの都市では、電気と熱を同時につくる熱電併給所(CHP)から各家庭に温水を送る集中暖房が一般的で、キーウでは住民約300万人のほぼ95%がこれに頼っています。OHCHRによれば、2025年10月から2026年3月に熱電併給所への攻撃は9つの州とキーウ市で少なくとも74回あり、キーウの主要な3つの熱電併給所だけで少なくとも40回に達しました。2026年2月にキーウの第4熱電併給所が止まったときには、約50万人が暮らす1,100棟の集合住宅と、学校・幼稚園118か所、病院18か所への暖房が止まったと政府が発表しています。

OHCHRは、これらのエネルギー施設への攻撃が「武力紛争の遂行に関する国際人道法の基本原則に違反したとみられる」と書いています。

被害額と、作り直すための額

2026年2月に公表された世界銀行・ウクライナ政府・欧州委員会・国連の「第5次迅速被害・ニーズ評価(RDNA5)」は、エネルギー・資源採掘分野の被害額を248億ドル(2025年11月30日時点)と見積もりました。約7割の171億ドルが電力で、内訳は発電設備142億ドル、送電23億ドル、配電7億ドルです。

一方、今後10年に必要な額は906億ドルで、第4版より33.7%増えました。うち708億ドルが電力システムの再建です。報告書はその進め方として、分散型の電源、再生可能エネルギーの導入、調整力のある電源の回復、重要設備の物理的な防護を挙げています。損失額は882億ドルで、エネルギー需要の減少と系統運用の制約を反映したものだと報告書は説明しています。

修理と、ヨーロッパの電力網

壊された設備は、修理しても再び狙われます。IEAの2025年の分析は、2024年春に破壊されて再建されたトリピッリャ火力発電所が、2025年9月7〜8日の攻撃でドローン19機により再び大きな損傷を受けたことを例に挙げています。防護として、ウクライナは土砂を詰めたかご(ガビオン)や土のう、ドローン対策の網、変電所や変圧器を囲む鉄筋コンクリートの構造物を設けてきました。

足りない電気を補ってきたのが、ヨーロッパの電力網です。ウクライナの電力網は2022年3月にヨーロッパの電力網と同期しました。IEAによれば、2024年の電力輸入は過去最高の4,436ギガワット時で、2024年12月以降、確実に使える輸入枠は冬季2.1ギガワット、夏季1.7ギガワットです。発電が戻った2025年6月から9月には、ウクライナは電力の純輸出国になりました。ただしIEAは、ウクライナと周辺のEU諸国の双方で送電網が混み合っており、近い将来に輸入枠を大きく広げる現実的な選択肢は限られるとしています。

大きな発電所を、小さな発電機に分ける

IEAは、風力発電機や小さなガス発電所は、大規模で集中型の発電所よりも攻撃しにくく、攻撃する側の費用もかかると説明しています。ウクライナ政府は早い段階から、5〜40メガワット級の小型のガスタービンと、行政の建物・病院・学校・家庭・企業の屋根に置く太陽光と蓄電池を増やす方針を示しました(IEA、2024年)。2024年初めの時点で、消費者が設置した太陽光は1,500メガワット近くに達していました。

エネルギー省の発表では、2025年の1年間に自治体の公営企業と民間・国営企業が新たに稼働させたガス発電の能力は762メガワットでした。2026年2月初めの時点で、分散型のガス発電は合計1.4ギガワット(送電網につながるものが1.1ギガワット、自家用が0.3ギガワット)で、その約6割を民間の投資家が建てています。同省によれば約3ギガワットの計画が進行中で、分散型発電の戦略の改定案では、確実に使える電源が地域ごとの割り当てで合計2.2〜2.7ギガワット追加で必要だとしています。ウクライナの通信社インテルファクス・ウクライナは、同省の発表として、2026年7月21日時点の分散型ガス発電を約1.8ギガワットと伝えています。

政府は手続きも簡素化しました。エネルギー省によれば、分散型の電源の建設に必要な書類と許認可を減らし、設計書類の作成と並行して建設を進められるようにしたほか、エネルギー設備の輸入関税と付加価値税の免除を2029年1月1日まで延長する法律(第4698-IX号、第4710-IX号)が2025年に最高会議で可決されています。

蓄電池も増えています。IEAによれば、民間最大手のエネルギー企業DTEKが2025年9月、出力200メガワット・容量400メガワット時の蓄電設備を国内6か所で稼働させました。ただし、太陽光には冬の弱点があります。IEAは、太陽光の設備利用率が12月と1月には10%を下回るとし、風力、蓄電池、ガス火力のような出力を調整できる電源との組み合わせが欠かせないと注記しています。

2026年秋の時点で

エネルギー省が毎朝出している電力系統の状況報告は、2026年9月23日の朝、ドネツィク州(外務省の表記ではドネツク州)、ザポリッジャ州、キーウ州、スームィ州、ハルキウ州で戦闘と攻撃による停電が出ている一方、その日の供給制限は予定されていないと伝えました。

IEAは2025年の分析で、秋に攻撃が強まるのは「季節的なパターン」になっていると指摘しています。夏に戻した発電能力を、冬の前にどれだけ守れるか。分散型の電源の数字は、その備えを測る一つの目安になります。

ザポリッジャ原子力発電所の管理の状況と、エネルギー分野が経済に占める比重は、戦時下のウクライナの産業で扱っています。

出典・参考資料

  1. Ukraine's energy security: A pre-winter assessment(2025年10月。侵攻前約38GW、最初の1年で19GW喪失、2024年春後12GW、3GW回復、トリピッリャ火力、防護、2024年の輸入4,436GWh、輸入枠2.1/1.7GW、2025年6〜9月の純輸出、DTEKの蓄電設備、秋の季節的パターン、分散化の理由)
    発行:国際エネルギー機関(IEA) 確認日:2026-09-23
  2. Ukraine's Energy Security and the Coming Winter(2024年9月。ザポリッジャ原発6GW・電力の約4分の1、2024年3〜5月に9GW喪失、超高圧変電所の約半分が損傷、名目容量56GW、5〜40MWのガスタービン、消費者設置の太陽光約1,500MW、冬の設備利用率10%未満)
    発行:国際エネルギー機関(IEA) 確認日:2026-09-23
  3. Attacks against Ukraine’s energy infrastructure and update on the human rights situation in Ukraine, 1 December 2025 – 31 May 2026(2026年6月29日。423回・48回、2月3日の攻撃、需要18GW・国内約11GW、計画停電、非常事態宣言、熱電併給所への74回・キーウ40回、集中暖房95%、第4熱電併給所、寒波、国際人道法)
    発行:国連人権高等弁務官事務所 ウクライナ人権監視団(OHCHR/HRMMU) 確認日:2026-09-23
  4. Ukraine Fifth Rapid Damage and Needs Assessment (RDNA5)(エネルギー・資源採掘分野の被害248億ドル・電力171億・発電142億・送電23億・配電7億、損失882億、必要額906億・電力708億、第4版比33.7%増)
    発行:World Bank Group, Government of Ukraine, European Commission, United Nations 確認日:2026-09-23
  5. UNDP energy damage assessment for Ukraine reveals continued vulnerabilities(2023年6月20日。約37GWのうち19GW超が破壊・損傷・占領)
    発行:国連ウクライナ事務所(UNDPの発表) 確認日:2026-09-23
  6. Ukraine’s Energy Sector in 2025: Development of Distributed Generation(2026年1月2日。2025年に762MWのガス発電が稼働)
    発行:ウクライナ・エネルギー省 確認日:2026-09-23
  7. 1,4 ГВт газової генерації введено в експлуатацію в Україні від початку повномасштабного вторгнення(2026年2月10日。1.4GW・1.1GW・0.3GW、約60%が民間、約3GWの計画、2.2〜2.7GWの目標)
    発行:ウクライナ・エネルギー省 確認日:2026-09-23
  8. Energy Resilience: Distributed Generation Capacity Grows Across Regions(2026年2月12日。手続きの簡素化、法律第4698-IX号・第4710-IX号による2029年1月1日までの関税・付加価値税免除)
    発行:ウクライナ・エネルギー省 確認日:2026-09-23
  9. Близько 1,8 ГВт розподіленої газової генерації встановлено в Україні – Міненерго(エネルギー省の発表として2026年7月21日時点で約1.8GW)
    発行:インテルファクス・ウクライナ 確認日:2026-09-23
  10. Оперативна ситуація в енергосистемі України станом на ранок 23 вересня(2026年9月23日の停電地域と、供給制限の予定なし)
    発行:ウクライナ・エネルギー省 確認日:2026-09-23

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