地下に309.5億立方メートル。ウクライナのガス貯蔵は「欧州最大」か
ウクライナの地下ガス貯蔵施設は12か所、運営会社ウクルトランスガスの表示で総容量は309.5億立方メートルです。「欧州最大」はどの一覧と比べて成り立つのか、外国の会社がガスを預ける「税関倉庫」の決まり、2026年の冬に向けた目標と実績を、2026年9月時点の公表と条文で見ます。
オリュカのひとこと
地下のガス貯蔵施設は、どれくらいの大きさなのでしょう。最初の見出しで確かめられます。
ウクライナは、冬の暖房に使う天然ガスを、夏のあいだに地下の貯蔵施設へ入れておきます。その施設を運営するのは、国営のナフトガス(Нафтогаз України)が唯一の株主である株式会社「ウクルトランスガス」(Укртрансгаз)です。同社のサイトは、地下の貯蔵施設を12か所、総容量を309.5億立方メートルと示しています。
ナフトガスは、この貯蔵施設を「欧州最大」と説明しています。その言い方は、何と比べたときに成り立つのか。欧州のガスインフラ事業者の団体が公開している一覧と並べ、あわせて外国の会社がガスを預ける「税関倉庫」の決まりと、2026年の冬に向けた目標を、2026年9月時点の公表と条文で見ます。ロシアからの購入の停止と、国内の採掘・輸入の経緯はガスの調達の記事で扱いました。
12か所、309.5億立方メートル
ウクルトランスガスのサイト(2026年5月に保存された版)は、同社を「ウクライナの地下ガス貯蔵施設の運営者」とし、地下の貯蔵施設12か所、総容量309.5億立方メートルと表示しています。天然ガスを貯蔵する事業は許可制で、国家エネルギー・公益事業規制委員会(НКРЕКП)の規制を受けるとも書いています。
親会社のナフトガスも、会社案内で総容量を309.5億立方メートルとしています。貯蔵の事業部門の説明では、ウクルトランスガスの施設について「ウクライナ本土にある11か所」と、「一時的に占領されたルハンシク州にあるもう1か所」に分けて書いています。
容量と、実際に入っている量は別の数字
309.5億立方メートルは、貯蔵施設に入れられる量の上限です。ナフトガスの英語の説明は、この数字を「活性容量」(出し入れできるガスの容量)の合計として「300億立方メートルを超える」と書いています。一方で、ある時点で施設に実際に入っているガスの量は、毎年の注入と冬の取り出しで大きく変わります。
後の節で見るとおり、政府が2026〜2027年の暖房の季節の始まりまでに貯めるとした量は146億立方メートルでした。総容量と比べると、半分弱(約47%)にあたります。ルハンシク州の1か所が総容量の数字に含まれているのか、その施設の容量がどれだけかは、両社の表示からは読み取れません。
オリュカのひとこと
「欧州最大」という言い方には、比べ方の条件があるようです。この見出しで確かめられます。
「欧州最大」は、何と比べた言い方か
ナフトガスは、ウクライナの貯蔵施設を「欧州最大で、世界で3番目に大きい」と説明しています。比べる相手として使えるのが、欧州のガスインフラ事業者の団体 Gas Infrastructure Europe(GIE)が公開している貯蔵の一覧「AGSI」です。国ごと、運営会社ごとに、貯蔵できるガスの量(作業ガスの容量)をエネルギーの単位(テラワット時)で載せています。
| 順位 | 国 | 作業ガスの容量(テラワット時) |
|---|---|---|
| 1 | ウクライナ | 321.1 |
| 2 | ドイツ | 247.5 |
| 3 | イタリア | 203.4 |
| 4 | オランダ | 144.0 |
| 5 | フランス | 123.9 |
| 6 | オーストリア | 100.3 |
| 参考 | EU加盟国の合計 | 1,131.6 |
国ごとの合計で見ると、この一覧の中でウクライナの容量はいちばん大きく、EU加盟国の合計の3割近くにあたります。運営会社ごとに見ても、ウクルトランスガス(321.1テラワット時)は、次に大きいイタリアのSnam Stoccaggio(199.6テラワット時)、フランスのStorengy(90.0テラワット時)を上回っています。
オリュカ
「欧州最大」というとき、比べていない国もあるのかな。
スウネ
一覧に載っている国と載っていない国が、この見出しの下にあるよ。
タブリ
国ごとの容量の並びは、ひとつ上の見出しの表に戻れば見比べられるよ。
比べていない国がある
ただし、AGSIが載せているのは、EU加盟国、英国、ウクライナ、セルビアの施設です。ロシア、ベラルーシ、トルコなどは一覧にありません。この記事の「欧州最大」は、この一覧の範囲の中で、国ごとでも会社ごとでも成り立つ、という意味にとどまります。「世界で3番目」はナフトガスの説明で、この記事では確かめていません。
AGSIには、ウクライナの施設に入っているガスの量も載っています。2026年9月25日の値は115.7テラワット時で、容量の36%でした。この数字は、次の節で見る政府の発表(8月28日の時点で146億立方メートル)と数え方が合っていない可能性があるため、この記事では容量の比較にだけ使っています。
外国の会社が預ける「税関倉庫」
ウクライナの貯蔵施設には、国内の会社だけでなく、外国の会社もガスを預けています。そのための仕組みが、関税法典の「税関倉庫」(митний склад)という手続きです。関税法典第121条は、この手続きを次のように定めています。
Митний склад – це митний режим, відповідно до якого іноземні або українські товари зберігаються під митним контролем із умовним повним звільненням від оподаткування митними платежами та без застосування заходів нетарифного регулювання зовнішньоекономічної діяльності.
Митний кодекс України, стаття 121, частина 1(2026年9月17日の版)
訳すと「税関倉庫とは、外国の、またはウクライナの貨物を、税関の管理のもとで、関税などの支払いを条件つきで全面的に免除し、対外経済活動の非関税の規制を適用しないで保管する手続き」です。
天然ガスにこの手続きを使うことを定めたのは、財務省の2017年2月27日の命令第292号です。命令は、貯蔵施設に保管する目的で国内に入れる天然ガスの通関を「税関倉庫の手続きに従って行う」とし、「税関上の扱いの違う天然ガスを同時に貯蔵施設に保管することを認める」と定めました。命令は2017年4月4日の官報に載り、その日から効力を持ちました。
ナフトガスは2024年3月18日の発表で、2023年に外国の会社が預けたガスは25億立方メートルだったとし、ウクルトランスガスの社長は「32か国の160社を超える外国のエネルギー会社が税関倉庫で貯蔵している」と述べています。どちらも同社の説明です。
オリュカ
税関倉庫にガスを置ける期間は、どう変わったのかな。
タブリ
改正の前と後の決まりが、この見出しの下の表に時期の順で並んでいるよ。
スウネ
期間が制限されない決まりにも例外があることは、表の前の段落にあるね。
昔の決まり/今の決まり:1,095日から「期限なし」へ
税関倉庫に置ける期間は、法律の改正で変わりました。2025年1月1日時点の関税法典第125条は「税関倉庫の手続きでの保管の期間は、この手続きに置いた日から1,095日を超えてはならない」と定めていました。ナフトガスの2024年の発表が「1,095日」と書いているのは、この決まりです。
2024年8月22日の法律第3926-IX号は、第125条を書き換えました。2026年9月時点の条文は「税関倉庫の手続きでの保管の期間は制限されない」とし、例外は、長く保管すると環境や人・動植物の健康に危険を与えうる貨物だけです。この法律は、公布の翌日から6か月後(2025年4月)に効力を持ちました。
| 時期 | 決まり | 根拠 |
|---|---|---|
| 2017年4月から | 貯蔵施設に入れる輸入の天然ガスは、税関倉庫の手続きで通関する | 財務省の命令第292号 |
| 2025年4月まで | 税関倉庫での保管は1,095日まで | 関税法典第125条(改正前) |
| 2025年4月から | 保管の期間は制限されない(危険な貨物を除く) | 関税法典第125条(法律第3926-IX号による改正後) |
2026年の冬に向けた目標と実績
政府が決めているのは、夏に「どれだけ入れるか」ではなく、暖房の季節の始まりに「どれだけ残っているか」の目安です。インテルファクス・ウクライナ通信によれば、第一副首相兼エネルギー相のデニス・シュミハリは2026年4月9日、暖房の季節(2026〜2027年)の始まりまでに地下の貯蔵施設に146億立方メートルを貯める計画を示しました。あわせて、これまでの冬の経験から、132億立方メートルを「欠かせない最低限」としています。
エネルギー省は2026年8月28日、貯蔵施設にいま146億立方メートルのガスがあると発表し、予定より1か月早く目標に達したと伝えました。これらは政府の発表で、独立した機関が確かめた数字ではありません。暖房が入る時期の決まりは集中暖房の記事にあります。
攻撃と、ガスの施設
ナフトガスは、ロシアによる全面侵攻のあと、同社グループのガスの施設がロシアの攻撃を受け続けていると発表しています。攻撃の回数と、採掘が落ちた分を輸入で補った経緯は、ガスの調達の記事にまとめています。
出典と記事の記録
出典・参考資料
- Укртрансгаз トップページ2026年5月11日の保存版。地下貯蔵施設12か所、総容量30.95 млрд м3、唯一の株主ナフトガス、НКРЕКПの規制
発行:АТ «Укртрансгаз»(ウェブアーカイブで確認) 確認日:2026-09-28 - Natural Gas Storage活性容量300億立方メートル超、欧州最大・世界3位、本土の11か所と占領下のルハンシク州の1か所
発行:Naftogaz of Ukraine 確認日:2026-09-28 - About Naftogaz総容量30.95 bcm、欧州最大
発行:Naftogaz of Ukraine 確認日:2026-09-28 - AGSI 公開データ2026年9月25日のガスの日。国別・運営会社別の作業ガスの容量、ウクライナの貯蔵量
発行:Gas Infrastructure Europe 確認日:2026-09-27 - Митний кодекс України第121条、第125条。2026年9月17日の版
発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-27 - Митний кодекс України第125条。2025年1月1日時点の版
発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-27 - Закон України від 22.08.2024 № 3926-IX第125条の書き換え、施行の規定、公布日
発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-27 - Наказ Міністерства фінансів України від 27.02.2017 № 292天然ガスの税関倉庫の手続き、官報掲載日
発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-27 - Ukraine rules out gas storage tariff increases until April 1, 20252024年3月18日。2023年に外国の会社が預けた25億立方メートル、32か国160社超
発行:Naftogaz of Ukraine 確認日:2026-09-28 - Шмигаль: Україна на початок ОЗП 2026/2027 планує накопичити 14,6 млрд куб. м газу, мінімальний показник – 13,2 млрд куб. м2026年4月9日
発行:Інтерфакс-Україна 確認日:2026-09-28 - Україна накопичила газ, необхідний для базового сценарію проходження зими, – Денис Шмигаль2026年8月28日。エネルギー省。2026年9月8日の保存版
発行:Кабінет Міністрів України 確認日:2026-09-28 - В 2025 році росія здійснила 229 атак на обʼєкти Групи Нафтогаз2026年2月17日。全面侵攻の開始からグループの施設への攻撃401回
発行:НАК «Нафтогаз України» 確認日:2026-09-28
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