農業の残りものからつくるガス。ウクライナのバイオメタンと輸出の決まり
家畜のふんや作物の残りかすからつくり、天然ガスと同じパイプラインに流せるバイオメタン。ウクライナは2025年2月に初めてEUへ送り、政府の機関は2026年2月の時点で、輸出の総量が約1,120万立方メートルを超えたとしています。法律の定義、輸出の条件と経過措置、資料で食い違う工場の数と「潜在力」の数字を、2026年9月時点の条文と公表で見ます。
オリュカのひとこと
バイオガスとバイオメタンは、何が違うのでしょう。最初の見出しで確かめられます。
家畜のふんや作物の残りかすを発酵させると、メタンを多く含むガスができます。これを精製して、天然ガスと同じ性質にしたものがバイオメタンです。天然ガスと同じパイプラインに流せるため、ウクライナでは国境を越えて欧州へ送る試みが始まっています。
エネルギー省によれば、2025年2月、ウクライナとEUのあいだで初めて、パイプラインでバイオメタンが送られました。最初の量は6万7,000立方メートルです。国家エネルギー効率・省エネルギー庁(Держенергоефективності)は2026年2月20日の発表で、2025年に始まった輸出の総量が約1,120万立方メートルを超えたとしています。法律が何を「バイオメタン」と呼び、輸出にどんな条件を付けているのかを、2026年9月時点の条文と政府の公表で見ます。企業や投資の紹介はしません。
バイオガスとバイオメタンは、法律でどう違うか
二つの言葉は、法律「代替燃料について」の第1条に定義があります。バイオガスは「バイオマスから得られ、燃料として使われるガス」です。バイオメタンはその一部で、天然ガスの基準を満たすものを指します。
біометан – біогаз, що за своїми фізико-хімічними характеристиками відповідає вимогам нормативно-правових актів до природного газу для подачі до газотранспортної або газорозподільної системи чи для використання як палива моторного;
Закон України «Про альтернативні види палива», стаття 1(2026年3月11日の版)
訳すと「バイオメタンとは、物理的・化学的な性質が、ガスの輸送網や配給網に送るため、または自動車の燃料として使うための天然ガスの基準を満たすバイオガス」です。この定義は、2021年10月21日の法律第1820-IX号で加わりました。同じ法律は、天然ガスの市場の法律にも「基準を満たすバイオガスには、天然ガスと同じ規定を差別なく適用する」という一文を足しています。
原料は何か
政府が2026年4月22日に決めた「2035年までのバイオメタン生産の発展プログラム」(内閣決定第514号)は、原料を「農業(作物と畜産)の廃棄物と残りもの」としています。国家統計局の数字として、2025年10月1日時点の作物の作付面積2,340万ヘクタール(占領地を除く)、牛208.3万頭、豚483.9万頭、羊・山羊92万頭、家禽2億930.7万羽を挙げ、麦わらやとうもろこしの茎、家畜のふんが原料になるとしています。
同じプログラムは、生産者の計算として、牛のふん1立方メートルから35〜40立方メートル、豚のふんからは約18立方メートルのバイオメタンがつくれるとしています。穀物の収穫の規模は収穫量の記事にあります。
オリュカのひとこと
法律ができてから輸出まで、どう進んだのでしょう。この年表で確かめられます。
年表:法律ができてから、最初の輸出まで
| 年月日 | 出来事 | 根拠 |
|---|---|---|
| 2021年10月21日 | 法律第1820-IX号。バイオメタンの定義、登録簿、「由来の保証書」を定める | 法律の原文 |
| 2022年7月22日 | 登録簿の手順を決定。持ち主・管理者は国家エネルギー効率・省エネルギー庁 | 内閣決定第823号 |
| 2023年2月 | バイオメタン・水素などでのEUとの戦略的パートナーシップの覚書に署名 | エネルギー省の発表(2025年2月7日) |
| 2024年3月20日 | 法律第3613-IX号。パイプラインでの輸出の条件と通関を定める(2024年5月16日に施行) | 法律の原文 |
| 2024年9月 | 財務省の命令第380号による通関の手順が効力を持つ | エネルギー省の発表(2025年2月7日) |
| 2025年2月 | パイプラインでEUへ初めて輸出。6万7,000立方メートル | エネルギー省の発表(2025年2月7日) |
| 2025年〜 | 輸出の総量が約1,120万立方メートルを超える(2026年2月20日の発表の時点) | 国家エネルギー効率・省エネルギー庁(2026年2月20日) |
| 2026年2月20日 | 登録簿の正式な運用を始める | 国家エネルギー効率・省エネルギー庁 |
| 2026年4月22日 | 2035年までの発展プログラムを決定 | 内閣決定第514号 |
年表のとおり、最初の輸出は、登録簿の正式な運用より1年早く行われました。条文の上では、次の節で見る「経過措置」が、登録簿の保証書を使わずに輸出する道を定めています。
輸出の決まり
2024年3月20日の法律第3613-IX号は、「代替燃料について」の法律に第8-3条を加え、パイプラインでの輸出の条件を定めました。
Експорт біометану, що переміщується через митний кордон України трубопровідним транспортом, здійснюється виробниками біометану, щодо яких створено обліковий запис у реєстрі біометану, передбаченому статтею 8-1 цього Закону, та які підключені до газотранспортної або газорозподільчої системи з використанням автоматичного потокового приладу (автоматичного хроматографа) та вузла обліку газу.
Закон України «Про альтернативні види палива», стаття 8-3, частина 1(2026年3月11日の版)
訳すと「パイプラインで国境を越えるバイオメタンの輸出は、登録簿に口座(記録)を持ち、自動の流量分析計(自動クロマトグラフ)とガスの計量設備を使って輸送網か配給網につながっている生産者が行う」です。同じ条は、輸出できるのはその生産者がウクライナの中で全部つくった量だけで、その量の「由来の保証書」の情報を税関に出すことを条件にしています。
通関について、同じ法律は関税法典第232条に第5項を加え、パイプラインで国境を越えるバイオメタンの税関の管理と通関を「天然ガスについて定めた手順で行う」としました。
登録簿がEUとつながるまでの経過措置
法律は附則で、二つの条件付きの扱いを定めています。一つは、登録簿がEUのデータベース(Union database)につながり、ウクライナの保証書がEUに認められるまでのあいだ、登録簿の保証書の代わりに、生産者が持つ「持続可能性の基準への適合証明」と、その量についての「持続可能性の証明」(Proof of Sustainability)を税関に出せば輸出できる、というものです。2026年9月時点の条文にも、この経過措置は残っています。
もう一つは、天然ガスの輸出を禁じるか割り当てで制限する政府の決定が出ているあいだの扱いです。この間、パイプラインで輸出できるバイオメタンは「輸出の前の月の末に、その事業者がウクライナのガス貯蔵施設に貯めた量」に限られます。政府は2025年12月31日の決定第1795号で、2026年のウクライナ産の天然ガスの輸出の割り当てを0立方メートルとしており、2026年はこの制限にあたると読めます。
オリュカ
保証書を使い終える手続きは、どんな言葉で書かれてきたのかな。
タブリ
前の文面の言葉と今の条文の言葉が、この見出しの下に並んでいるよ。
ヨリクネ
政府の登録簿の手順での置き換えも、この見出しの下の二つ目の段落へ寄り道すれば読めるよ。
昔の言葉/今の言葉:保証書の「取り消し」から「使い切り」へ
バイオメタンを使ったことを証明する仕組みでは、保証書を使い終えると、その代わりに「由来の証明書」が出されます。2021年の法律の文面は、保証書を使い終える手続きを「анулювання」(取り消し、無効にすること)と書いていました。2026年9月時点の条文は、同じ手続きを「погашення」(使い切り、償却)と書いています。
政府の登録簿の手順(内閣決定第823号)でも、2025年7月14日の決定第828号が、文中の「анулювання」をすべて「погашення」に置き換えました。
工場はいくつあり、どれだけつくれるか
数字が資料で分かれる
バイオメタンの工場の数と能力は、同じ政府の中でも資料によって違います。
- 国家エネルギー効率・省エネルギー庁(2026年2月20日):いまウクライナで7つのバイオメタン工場が動き、能力の合計は年1億1,000万立方メートルを超える。2025年半ばには、ガスの網につながった施設が4つで、能力は年約4,100万立方メートルだった。
- 内閣のプログラム(2026年4月22日):2023〜2025年に5つの工場が動き始め、能力の合計は年5,200万立方メートル。建設中の8つの工場が2026〜2028年に動けば、能力は年約1億立方メートル増える。
前者は「いま動いている工場」、後者は「2023〜2025年に動き始めた工場」を数えているようにも読めますが、どちらの資料も数え方を説明していません。
オリュカ
「欧州で有数の潜在力」は、だれが出した数字なのかな。
スウネ
政府のプログラムと業界の団体の見積もりが、この見出しの下に並べてあるよ。
シメロ
工場の能力の数字と分けて読むなら、まずひとつ上の見出しから読もう。
「欧州で有数の潜在力」は誰の数字か
ウクライナのバイオメタンについては、「欧州で有数の潜在力」という言い方がよく使われます。その元になる数字は、主体によって10倍ほど違います。
- 内閣のプログラム:統計にある作物と家畜を原料に使えば、ほかの条件が同じなら年約21億立方メートルをつくれる。目標は2030年に年10億立方メートル超、2035年に年約21億立方メートル。
- ウクライナ・バイオエネルギー協会(UABIO、業界の団体。2025年11月20日の冊子の要約):潜在力は少なくとも年218億ノルマル立方メートル(メタンとして)。生産は年200億立方メートルまで伸ばせ、半分を輸出すれば輸出額は最大90億ユーロになる。
政府のプログラムは、EUが2030年までにバイオメタンの生産を年350億立方メートルに増やす目標を持っていることも紹介しています。ただ、ウクライナの潜在力が欧州の中で何番目かを、同じ基準で比べた公的な資料は、この記事では見つけられていません。
EUの側で残っていること
輸出したバイオメタンがEUの国で「再生可能なガス」として数えられるには、EUの側の手続きが必要です。政府のプログラムは、第1段階(2026〜2027年)の課題として、EUのデータベースへの完全な接続と、保証書の仕組みの整備を挙げ、欧州委員会の「政治的な決定」が前提になると書いています。
電気の再生可能エネルギーを固定価格で買い取る仕組みはグリーン料金の記事、小さな発電所を増やす動きは分散型の電源の記事にあります。
出典と記事の記録
出典・参考資料
- Закон України «Про альтернативні види палива»第1条のバイオガス・バイオメタンの定義、第8-1〜8-3条、附則第1-1〜1-4項。2026年3月11日の版
発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-27 - Закон України від 21.10.2021 № 1820-IXバイオメタンの定義・登録簿・保証書の追加、天然ガス市場法第19条の追加
発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-27 - Закон України від 20.03.2024 № 3613-IX関税法典第232条第5項、第8-3条、施行の規定、公布日
発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-27 - Митний кодекс України第232条第5項。2026年9月17日の版
発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-27 - Постанова КМУ від 22.07.2022 № 823 «Про затвердження Порядку функціонування реєстру біометану»持ち主・管理者、2025年の決定第828号による語の置き換え
発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-27 - Постанова КМУ від 22.04.2026 № 5142035年までのバイオメタン生産の発展プログラム。原料、統計、工場の数、目標、EUの手続き
発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-27 - Постанова КМУ від 31.12.2025 № 17952026年の輸出の割り当て。ウクライナ産の天然ガス0立方メートル
発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-27 - Закон України від 30.06.2023 № 3220-IX登録簿の条の書き換え時点の文面
発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-27 - Міненерго: Україна розпочала експорт біометану до Європейського Союзу2025年2月7日。最初の量6万7,000立方メートル、覚書、財務省命令第380号。2025年9月6日の保存版
発行:Кабінет Міністрів України(エネルギー省) 確認日:2026-09-27 - Розпочато експорт українського біометану до Європи2025年2月7日。最初の輸出の通関。2025年10月16日の保存版
発行:Державна митна служба України 確認日:2026-09-27 - Держенергоефективності офіційно запустило Реєстр біометану2026年2月20日。登録簿の運用開始、2025年の輸出約1,120万立方メートル超、工場7つ・能力年1億1,000万立方メートル超
発行:Державне агентство з енергоефективності та енергозбереження України 確認日:2026-09-27 - Нова брошура від UABIO про виробництво біометану в Україні2025年11月20日。潜在力218億ノルマル立方メートル。2026年5月14日の保存版
発行:Біоенергетична асоціація України(UABIO) 確認日:2026-09-27
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