オデーサの港が攻撃で止まった夏、ウクライナの穀物はどこから出ていくか
2026年7月、ロシアによる港と船への攻撃が続き、オデーサなど黒海の港に商船が事実上入らなくなりました。ウクライナの農産物輸出の約9割を担ってきた港です。ドナウ川の港、鉄道、トラックに振り向けた9月の輸出は、農業政策・食料省の見積もりで本来の4割台にとどまっています。2022年からの経路の移り変わりと、いまの数字をたどります。
ウクライナの農業政策・食料省は2026年9月23日、9月の最初の20日間の農産物輸出が「現在の生産量から見込める輸出量の44%」だったと発表しました。8月は約30%でした。大臣のタラス・ヴィソツィキーは「9月の状況は8月より良いが、依然として厳しい」と述べ、第一の課題は「大オデーサの港を通じた本来の輸出を取り戻すこと」と、並行して代替の経路を広げることだとしています。
大オデーサの港とは、オデーサ、チョルノモルシク、ピウデンニーの三つの港を指します。この夏、ここに事実上、船が入らなくなりました。ウクライナの穀物がどの経路で国外へ出てきたのか、2022年から順に見ていきます。
2022年から使われてきた三つの経路
黒海穀物イニシアティブ(2022年7月〜2023年7月)
ロシアによる全面侵攻のあと、黒海の港からの輸出はいったん止まりました。これを再開させたのが、国連とトルコの仲介で2022年7月にまとまった「黒海穀物イニシアティブ」です。ウクライナとロシアが署名し、対象はオデーサ、チョルノモルシク、ピウデンニーの三港でした。国連のまとめによれば、この枠組みのもとで730隻が1,004回航行し、3,290万トンの食料品が運ばれました。品目ではトウモロコシが1,680万トン超、小麦が890万トンです。
ロシアは2023年7月18日以降の延長に同意せず、黒海北西部の航行の安全の保証を撤回しました(国連)。
ウクライナ自身の海上回廊(2023年8月〜)
その後、ウクライナは国際的な保証のないまま、自国で航路を設けます。ウクライナ海運・内水運輸送庁によれば、一時的な海上回廊は2023年8月16日に開設され、この日にコンテナ船がオデーサ港を出ています。同庁は、運用開始から8か月で農産物の輸出が戦前の水準に達したとしています。
インフラを所管する省(2026年時点の名称は復興・インフラ・運輸省)は2026年7月29日、回廊の運用開始以降、大オデーサの港を通って2億930万トンの貨物が運ばれ、うち穀物が1億2,410万トン、通過した船は8,222隻だったと発表しました。同省はこの回廊の開始を「2023年9月」と書いており、上の運輸庁の日付とはひと月ずれています。
EUの「連帯レーン」(2022年5月〜)
海が使えない間の代替として、EUはウクライナ、モルドバと2022年5月に「EU・ウクライナ連帯レーン」を立ち上げました。ドナウ川などの内陸水運、鉄道、道路で、EU側の港や市場へ貨物を運ぶ経路の総称です。欧州委員会によれば、2022年5月から2026年7月までにウクライナから輸出された穀物・油糧種子と関連製品は約2億5,500万トンで、そのうち40%が連帯レーン、60%がウクライナの黒海の港を通りました。
| 経路 | 期間 | 運ばれた量(発表主体) |
|---|---|---|
| 黒海穀物イニシアティブ | 2022年7月〜2023年7月 | 食料品3,290万トン(国連) |
| ウクライナの海上回廊 | 2023年8月〜 | 貨物2億930万トン、うち穀物1億2,410万トン(2026年7月末までの累計。インフラ所管省) |
| EU・ウクライナ連帯レーン | 2022年5月〜 | 農産物 約1億300万トン、うち穀物・油糧種子と関連製品 約9,500万トン(2026年7月までの推計。欧州委員会) |
三つの数字は、数えているものが違います。国連は「食料品」、インフラ所管省は「貨物」とそのうちの「穀物」、欧州委員会は「穀物・油糧種子と関連製品」です。経路どうしの比較には、同じ主体が同じ定義で出した比率を使うほうが安全です。
大オデーサの三港が担っていた比重
全面侵攻後も、輸出の中心は黒海の港でした。インフラ所管省は、大オデーサの港がウクライナの農産物輸出の約90%を担い、55か国以上に送られてきたとしています。2026年の年初から7月29日の発表までに海の港で扱った貨物4,600万トンのうち、大オデーサが4,220万トン、ドナウ川の港は380万トンでした。
欧州委員会の月次の集計でも同じ傾向が出ています。2026年7月、穀物・油糧種子と関連製品の輸出のうち約80%が黒海経由、約20%が連帯レーン経由で、この月に黒海の回廊を通ったのは約240万トンでした。一方、農産物以外の輸出では約95%、輸入では約90%を連帯レーンが占めています。海の回廊は、何よりも穀物のための経路だったことがわかります。
2026年7月、港と船への攻撃
2026年7月19日、穀物を積んでいた外国籍の貨物船 Golden Leo がロシアのミサイル攻撃を受け、ウクライナの水先人を含む死者が出ました。ウクライナのニュースサイト LB.ua によれば、インフラ所管省は、7月の1か月間に港湾施設への攻撃が67回、港内の民間船への攻撃が35回、海上回廊を航行中の船への攻撃が22回あったと発表しています。
ポーランドの公的な研究機関である東方研究センター(OSW)は7月28日付の分析で、ヴィソツィキー大臣が7月22日に「この日、黒海の港に入港した商船はなかった」と述べたこと、それより前に保険会社が新規の引き受けを止めたと報じられていたことを伝えています。インフラ所管省は7月29日、直近の大規模な攻撃によって「船の入港が事実上、一時停止した」としたうえで、港そのものは稼働を続けていると書いています。回廊を閉じるという公式の決定は出ていません。
ドナウ川、鉄道、トラックで何割を運べるか
海が使えないとき、残るのは連帯レーンの経路です。政府ポータルに掲載された農業政策・食料省の8月14日の発表は、8月1日から12日の農産物輸出が約59万トンで「必要な量の30%」にとどまったとし、内訳を鉄道が40〜45%、ドナウ地域が40〜45%、自動車が約10%としています。同省は、代替の経路を最大限に動かしても、港が封鎖された状態では従来の輸出量の50%を超えないと見積もりました。
ドナウ川の港は、イズマイールとレニが中心です。OSWによれば、ドナウの港は2023年のピーク時に月300万トン近い貨物を扱い、その約8割が農産物でした。多くははしけでルーマニアのコンスタンツァ港へ運ばれ、大型船に積み替えられます。ただ同じ分析は、2025年にはウクライナの黒海の港が7,330万トンを扱ったのに対しドナウの港は890万トンだったこと、そしてドナウの水位が記録的に低く、はしけの積載量が最大60%減っていることを指摘しています。
費用も上がります。農業政策・食料省は8月11日の発表で、コンスタンツァまでの輸送費が1トンあたり約170ドルに達しうると説明し、この輸送費を踏まえて最低輸出価格を見直しました。ヴィソツィキー大臣は9月23日、代替経路には物理的な限界だけでなく経済的な限界もあり、品目によっては輸送費のために輸出が赤字になると述べています。
ドナウ川の流れと国境、ウクライナ側の港の位置は、ウクライナの川と気候についての記事で扱っています。
2026/27年度の出足
穀物の輸出は、7月から翌年6月までの「販売年度」で数えます。農業政策・食料省が関税当局のデータをもとに公表している集計では、2026/27年度の輸出は9月21日時点で次のとおりです。
| 品目 | 2026/27年度(2026年9月21日時点) | 2025/26年度の同時期(2025年9月24日時点) |
|---|---|---|
| 穀物・豆類(加工品を含む)合計 | 466.2万トン | 597.9万トン |
| 小麦 | 233.7万トン | 416.8万トン |
| 大麦 | 42.0万トン | 79.1万トン |
| トウモロコシ | 184.1万トン | 90.5万トン |
| うち9月分(穀物・豆類) | 92.8万トン(21日まで) | 177.4万トン(24日まで) |
合計は前年同時期を約2割下回っています。小麦と大麦が大きく減った一方、トウモロコシは前年の2倍になっています。ただし前年度の数字は基準日が3日遅く、年度の最初の3か月弱だけの比較です。トウモロコシは例年秋から収穫が進むので、この時点の数字で年度全体の傾向は判断できません。
同省は、港が長く使えない悲観的な場合、年間の農産物輸出が最大3,000万トン減り、最大100億ドルの輸出収入が失われうるとしています。一方で、国内消費は収穫の25〜30%程度で、食料が不足する根拠はないとも述べています。これは同省による見通しで、実績ではありません。
穀物の出口を追うときに見る数字
この状況は週単位で変わります。追いかけるときは、次の数字を発表主体ごとに分けて見ると混乱しにくくなります。
- 年度累計の輸出量:農業政策・食料省の集計(関税当局のデータ)。「穀物・豆類」の数字で、ひまわり油や油かすは入らない
- 「本来の何%か」という比率:同じ省の大臣発言。分母は「現在の生産量から見込める輸出量」などで、発表ごとに言い方が違う
- 港ごとの貨物量と回廊の累計:インフラ所管省と海港管理局(АМПУ)
- 連帯レーンと黒海の比率:欧州委員会(運輸総局)の月次の集計
日本向けの食品輸入の手続きはウクライナの食品を日本に輸入する手続きと窓口、輸出の中で農業が占める比重は戦時下のウクライナの産業で扱っています。
出典・参考資料
- У вересні аграрний експорт демонструє відновлення попри складну логістику(2026年9月23日。9月1〜20日は潜在量の44%、8月は約30%、悲観的な場合に最大3,000万トン・100億ドルの減少、国内消費25〜30%)
発行:ウクライナ農業政策・食料省 確認日:2026-09-23 - Стратегічна мета України – відновлення безпечного експорту через порти Великої Одеси(2026年9月20日。大オデーサ三港の名称、9月前半は月間需要の約42%、主な代替経路はドナウ・鉄道・ルーマニア経由)
発行:ウクライナ農業政策・食料省 確認日:2026-09-23 - Експорт з України зернових, зернобобових та борошна(2026年9月21日掲載。2026/27年度の品目別輸出量と前年同時期)
発行:ウクライナ農業政策・食料省 確認日:2026-09-23 - Тарас Висоцький: Україна посилює фінансову підтримку аграріїв на тлі блокади портів(2026年8月14日。8月1〜12日に約59万トン・必要量の30%、鉄道40〜45%・ドナウ40〜45%・自動車約10%、代替経路は従来の50%以下)
発行:ウクライナ政府ポータル(農業政策・食料省の発表) 確認日:2026-09-23 - Тарас Висоцький: Кредити під 10% та більше коштів під заставу зерна…(2026年8月11日。コンスタンツァまでの輸送費が1トンあたり約170ドル、最低輸出価格の見直し)
発行:ウクライナ政府ポータル(農業政策・食料省の発表) 確認日:2026-09-23 - Україна, Єврокомісія, Молдова та Румунія працюють над рішеннями для стабільного експорту та транзиту вантажів(2026年7月29日。入港の事実上の一時停止、回廊累計2億930万トン・穀物1億2,410万トン・8,222隻、2026年の4,600万トン/大オデーサ4,220万トン/ドナウ380万トン、農産物輸出の約90%)
発行:ウクライナ復興・インフラ・運輸省 確認日:2026-09-23 - Росія за липень здійснила 67 атак на українські морські порти, у серпні ще п’ять(2026年8月3日。インフラ所管省の発表として、7月の港湾施設67回・港内の船35回・回廊の船22回)
発行:LB.ua 確認日:2026-09-23 - Судна перестали заходити до українських портів. ЄС почав шукати новий маршрут(2026年7月19日の Golden Leo へのミサイル攻撃、水先人を含む10人の死亡)
発行:Главком 確認日:2026-09-23 - Two Years of the Ukrainian Maritime Corridor Operation(2023年8月16日の回廊開設、8か月で戦前水準)
発行:ウクライナ海運・内水運輸送庁 確認日:2026-09-23 - The Black Sea Grain Initiative: What was achieved?(730隻・1,004航行・3,290万トン、対象三港、2023年7月18日以降の延長不同意)
発行:国際連合 確認日:2026-09-23 - Solidarity Lanes: Latest figures – July 2026(2026年8月19日公表。7月の比率、回廊経由約240万トン、2022年5月以降の約2億5,500万トンと40%/60%)
発行:欧州委員会 運輸総局 確認日:2026-09-23 - Ukraine: suspension of shipping to Black Sea ports and the associated risks(2026年7月28日。7月22日の大臣発言、保険の引き受け停止の報道、ドナウ港の2023年のピーク、2025年の黒海港7,330万トン/ドナウ港890万トン、ドナウの低水位)
発行:東方研究センター(OSW、ポーランド) 確認日:2026-09-23
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