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社会を知る/解説

ウクライナの川は三つの海へ向かう──水系・気候・黒土

ウクライナの川の水は、黒海だけでなくアゾフ海とバルト海にも向かいます。国家水台帳に載る主な河川の流域、自然帯と気候、黒土の広さとその劣化まで、数字ごとに出した機関と時点を添えて並べます。国土の面積は、日本の公的機関の間でも一致していません。

夕焼けの空の下、凍ったドニプロ川と対岸の街並み
キーウのドニプロ川と左岸の街並み(2013年4月撮影)。IEUによれば、キーウは高い右岸の上にあり、左岸は低く砂がちだ 写真:Mstyslav Chernov/Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0

ウクライナの地理を説明する文章には、面積、川の長さ、黒土の割合といった数字が並ぶ。ところが、どの機関がいつ出した数字なのかは、たいてい書かれていない。この記事では、数字ごとに出した機関と時点を添える。

この記事が描く「ウクライナ」の範囲

国連総会は2014年3月27日の決議68/262で、国際的に承認された国境の内側におけるウクライナの主権と領土保全への約束を確認し、同年3月16日にクリミア自治共和国およびセヴァストポリ市で行われた「住民投票」は有効性を持たないと述べた。2022年10月12日の決議ES-11/4も、同年9月の「住民投票」とそれに続くドネツィク州・ヘルソン州・ルハンシク州・ザポリッジャ州の併合の試みを、国際法上の有効性を持たないと宣言している。

この記事が指す「ウクライナ」は、その国際的に承認された国境の内側である。どの地域が現在どちらの支配下にあるかは動き続けるため、扱わない。憲法第133条はクリミア自治共和国と24の州、特別な地位を持つキーウ市・セヴァストポリ市を列挙し、第134条はクリミア自治共和国をウクライナの不可分の構成部分と定めている。

面積の数字は、日本の公的機関の間でも一致していない

外務省「ウクライナ基礎データ」(2026年9月3日付)は60万3,700平方キロメートル、日本の約1.6倍とする。ジェトロ「概況・基本統計」は60万3,520平方キロメートルとする。180平方キロメートルの差の理由は確認できていない。本サイトの基礎案内の記事と同じく、丸めずに両方を併記する。

「平原の国」は三つの帯に分かれる

Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所)は、国土を北から順に、森林帯であるポリーシャ、森林ステップ、ステップの三つの自然帯に分けて記述している。ポリーシャの項(Volodymyr Kubijovyč、Ihor Stebelsky、Ivan Sydoruk-Pauls 執筆)は、これを氷河・融氷水・河川の堆積物に覆われた広く平らな低地とし、川の勾配が小さく地下水位が浅いために湿地が広く発達し、砂地も大きな面積を占めるとする。今日のウクライナ側ポリーシャはおよそ10万平方キロメートルで、ヴォリーニ州とリウネ州のほぼ全域、ジトーミル州の約3分の2、キーウ州の北3分の1にあたるという。

森林ステップの項(Volodymyr Kubijovyč 執筆)は、これを北の森林帯と南のステップにはさまれた中央の帯とし、国土のおよそ30%を占めるとする。北側の境はリヴィウ—クレメネツィ—ジトーミル—キーウ—ニージン—フルーヒウの線で明瞭に引け、おおむねレス(風で運ばれた細かい堆積物)とチェルノーゼムの北限に一致する。南側の境ははっきりせず、引き方が資料によって違うとも書いている。もとは域内の4分の1から3分の1が森林だったが、現在は11%にとどまるという。

ステップの項(Ihor Stebelsky 執筆)は、ウクライナ国内のステップをおよそ24万平方キロメートル、国土の約40%とし、北部・中部・南部の三つの亜帯に分ける。腐植の含有率は、北部のふつうのチェルノーゼムで6〜8%、中部の南部チェルノーゼムで5〜6%、暗栗色土で3〜4%、いちばん南の栗色土・ソロネツ土では2〜3%まで下がる。年降水量は森林ステップ寄りの450ミリメートルからペレコプの300ミリメートルへ南下するにつれて減り、年間の蒸発量は900〜1,000ミリメートルに達するという。

三つの帯の外側に、二つの山地がある。同事典の「Carpathian Mountains」の項(Volodymyr Kubijovyč 執筆。紙の初出は1984年)は、カルパティア山脈を、ブラチスラヴァからドナウ川の鉄門まで弧を描いて約1,500キロメートル延びる、面積約20万平方キロメートルの山系とし、そのうちウクライナに属するのは2万2,500平方キロメートルだとする。ウクライナ側は中程度の高さの山地だという。同事典のホヴェルラの項は、この山をウクライナの最高峰(2,061メートル)とし、カルパティア山脈のチョルノホラ山群に属し、プルト川の源流がここにあると書く。

日没後の空を背にしたホヴェルラ山の稜線
ホヴェルラ山(2019年8月撮影)。ウクライナの最高峰(2,061メートル)で、カルパティア山脈のチョルノホラ山群に属する 写真:Khoroshkov/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0

クリミア山地の項(Volodymyr Kubijovyč、Edvard Zharsky 執筆)は、この山地を、半島南部のセヴァストポリからフェオドシヤまで約150キロメートル、幅40〜50キロメートルにわたる三列の平行な山並みとし、北へはゆるやかに下り、南へは急に落ち込むと書く。いちばん南の主稜ヤイラは硬いジュラ紀の石灰岩でできた高い台地で、地表にはほとんど水がなく、陥没穴や鍾乳洞などのカルスト地形が見られる。その最高峰がロマン・コシュ(1,545メートル)である。

自然帯の境界は州境とは一致しない。またこれらの項目は、いずれも紙の『Encyclopedia of Ukraine』(1984〜1993年刊)が初出で、耕地率や作付けの数字はソ連時代の統計に基づく。現在の値としては読めない。

地表の平らさは、地下の平らさではない

同事典の「Ukrainian Crystalline Shield(ウクライナ楯状地)」の項(Peter Sonnenfeld 執筆。紙の初出は1993年)は、これを先カンブリア時代の結晶質岩からなる隆起した岩塊とし、主にドニプロ川の右岸側を、北西のホルィニ川から南東のアゾフ海までブーメラン状におよそ1,000キロメートル延び、面積は約20万平方キロメートルだとする。ドニプロとザポリッジャの間のように川が谷を深く刻んだところでは、この岩が崖や早瀬となって地表に現れる。クルィヴィー・リフの鉄鉱石(ジャスピライト)も、この楯状地の下部原生代の層に含まれるものだという。

その北東側には、対照的な構造がある。「Dnipro-Donets Trough(ドニプロ・ドネツ堆積盆地)」の項(紙の初出は1984年)は、これをヴォロネジ地塊と楯状地にはさまれた向斜構造とし、幅は80〜150キロメートル、堆積層の厚さは最も深いポルタヴァ—チュトヴェ—クラスノフラード付近で11キロメートルに達するとする。同項はここをウクライナで最も重要な石油・天然ガスの産地とし、岩塩、石膏、燐鉱石なども産すると記す。畑と町の下で、地質は場所ごとに違う成り立ちをしている。

川は三つの海へ向かう

ウクライナ水資源庁が国家水台帳「地表水」の部門で公開する表は、河川ごとに「どこへ注ぐか」と、流域面積を「全体」と「ウクライナ国内」に分けて示している。

河川注ぐ先流域面積・全体(km²)うちウクライナ国内(km²)
ドニプロ黒海504,300291,400
プリピャチドニプロ114,30068,366
デスナドニプロ88,90033,820
ドニステル黒海72,10052,300
南ブーフ黒海63,70063,700
ドナウ黒海804,08730,626
ティサドナウ157,18612,777
プルトドナウ27,5009,168
シヴェルシキー・ドネツドン98,90054,540
西ブーフゼグジェ貯水池(ナレフ川)39,58010,410
サンヴィスワ16,8612,482
出典:ウクライナ水資源庁「国家水台帳(地表水の部)——ウクライナの大河川・中河川」(掲載ページの公開日2026年8月3日)。「注ぐ先」は同表の「Куди впадає」欄。同表に河川の長さの掲載はない。

行き先は一つではない。ドニプロ、ドニステル、南ブーフ、ドナウは黒海へ。シヴェルシキー・ドネツはドン川に入り、その水はアゾフ海へ向かう。西ブーフはナレフ川を経て、サンは直接、ヴィスワ川に入り、バルト海へ出る。名前の似た南ブーフと西ブーフは別の川で、注ぐ海も違う。南ブーフは流域63,700平方キロメートルがそのまま国内の値で、国境をまたがない。ドナウは流域80万平方キロメートル超のうち国内は30,626平方キロメートルにとどまる。

そのドナウ川について、Internet Encyclopedia of Ukraine の「Danube River」の項(紙の初出は1984年)は、プルト川の合流点から黒海までの下流160キロメートルがウクライナとルーマニアの国境になっていると書く。ドナウはこの区間でデルタをつくって三つの分流に分かれ、いちばん北のキリヤ分流は100キロメートル近くウクライナの国境に沿う。同項は、ウクライナ側のドナウ流域に入る川としてカルパティア山脈から出るティサ川(ザカルパッチャ)とプルト川を挙げ、ウクライナのドナウ川の港としてレニ、イズマイール、キリヤ、ヴィルコヴェを挙げている。

河川の長さは、水台帳の公開PDFでは列が用紙の外に切れていて読めない。査読を経た2020年の論文(Didovets ほか)の表1は、ドニプロ2,201キロメートル、ドニステル1,362キロメートル、シヴェルシキー・ドネツ1,053キロメートル(うち国内が約455キロメートル)、南ブーフ806キロメートルなどとする。ただし同じ表の流域面積は水台帳と一致しない(ドニステルは68,627対72,100)。長さと面積を別々の資料から取るときは注意がいる。

同論文は「ドニプロ川の流域はウクライナ国土の約65%を占める」とも書く。しかし水台帳の国内流域面積291,400平方キロメートルは、国土面積60万3,520〜60万3,700平方キロメートルのおよそ48%である。合わない理由は確認できなかったため、計算の示せる後者だけを示す。同論文はまた、ドニプロ川が20世紀に造られた貯水池とダムの連なりで強く調節されているとも指摘する。地図上の大きな青い面が、自然の湖とは限らない。

ドニプロ川は、国外から流れてくる川でもある。同事典の「Dnipro River」の項(Volodymyr Kubijovyč、Ivan Teslia 執筆。紙の初出は1984年)は、源流をロシアのヴァルダイ丘陵、標高220メートルの泥炭湿地とし、ベラルーシを経てウクライナに入るとする。全長は2,285キロメートルで、そのうちロシアが485キロメートル、ベラルーシが595キロメートル、ウクライナが1,095キロメートル。上に引いた論文の2,201キロメートルとは、長さの値も一致しない。

同項によれば、キーウからドニプロ市までの区間では、谷の左右の形がはっきり違う。右岸は川面から100〜150メートル高く、谷や雨裂で深く刻まれて森林に覆われ、キーウはこの「ドニプロの山」の上にある。左岸は低く砂がちで、東へ向かって広い段丘となって上がっていく。ただし同項が書かれた時点ですでに、プリピャチ川の合流点からカホウカまでの本流はダムと貯水池の連なりに変わり、自然の河道が残るのは短い区間だけだった。

湖は小さく、アゾフ海は浅い

Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所)の「Lakes」の項(Ihor Stebelsky 執筆。紙の初出は1993年)は、ウクライナの湖を「数は多いが小さい」とまとめる。国内には3,000を超える湖があり、合計の水面は2,000平方キロメートル余り。10平方キロメートルを超えるものは30、30平方キロメートルを超えるものは13しかない。最も多いのは河川の流路の変化でできた湖で、浅く小さい。例外は北西部ポリーシャのカルスト起源の湖で、スヴィチャージ湖は水面24.2平方キロメートルに対して最大水深58.4メートルある。

上空から見た湖と湖畔の村
上空から見たスヴィチャージ湖(2016年撮影)。北西部ポリーシャのカルスト起源の湖で、最大水深は58.4メートル 写真:Siroga Tsvyd/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0

面積で見ると、ウクライナの湖水面のおよそ59%は黒海とアゾフ海の沿岸にある。同項はそれらを、浅い海の湾がふさがれた潟湖と、河口が水没して閉じたリマンに分け、いずれも細い砂州で海と隔てられているとする。別項「Estuary」(紙の初出は1984年)は、リマンを「河川の水が海水と混じって薄まる、部分的に閉じた沿岸の水域」と定義する。ドニステル河口湖は水面360平方キロメートルに対して深さは2.5メートル、ティリフル河口湖は150〜170平方キロメートルで21メートル。海岸線の内側にある水域を、まとめて淡水湖と考えることはできない。

アゾフ海についても、同事典の「Azov, Sea of」の項(Volodymyr Kubijovyč 執筆。紙の初出は1984年)は具体的な数字を置いている。面積4万平方キロメートル、平均水深8メートル、最も深いところでもケルチ海峡の対岸で14.5メートル。海底は平坦で、砂と貝殻に覆われている。淡水の流入は年平均40.7立方キロメートルで、そのうち28.5立方キロメートルがドン川、11立方キロメートルがクバン川から来る。浅く、川からの淡水が多く入るため、表層と底とで水温や塩分の差が小さいという。同事典の「Black Sea」の項(Volodymyr Kubijovyč、Ivan Teslia 執筆。紙の初出は1984年)によれば、黒海は平均水深1,300メートル、最も深いところで2,245メートルある。浅いアゾフ海とは、水の条件が違う。

その西端にあるのがシヴァシュで、同項はこれを、長く細いアラバト砂州でアゾフ海から隔てられた浅い塩湖だとする。別項「Arabat Spit」は、この砂州を長さ約100キロメートル、幅は270メートルから最大で8キロメートル弱と記す。海とも陸とも言いにくい水域が、ここには広がっている。

一方で、いま地図上の大きな青い面に見えるもののうち、ドニプロ川沿いのものの多くは人が造った貯水池である。同じ「Lakes」の項は、ドニプロ川の六つの大貯水池だけで水面が7,000平方キロメートルを超え、ウクライナのため池と貯水池を合わせた面積は1986年1月時点で11,730平方キロメートルだったとしている。

気温と降水量の幅

同じ論文が対象地域の気候としてまとめるところでは、1月の平均気温は国土の大部分でマイナス2度からマイナス7.5度、7月の平均気温はプラス17.5度からプラス22度である(FAOの2015年資料を出所として挙げる)。亜熱帯の地中海性気候を持つのはクリミア半島の南岸だけだとする。

年降水量は、カルパティア山地で最大1,600ミリメートル、クリミアで最大1,150ミリメートル。それ以外では北西部の700〜750ミリメートルから南東部の300〜350ミリメートルまで下がる(ウクライナの2013年気候変動ナショナル・コミュニケーションなどを出所として挙げる)。いずれも2020年の論文が古い資料から引いた値で、新しい観測ではない。

将来の流量は「観測」ではなく「投影」

同じ研究は、六つの全球水文モデルを検証したうえでWaterGAP2を選び、ISIMIP2bのバイアス補正済み気候モデル4種で駆動して、RCP2.6とRCP8.5の下での2041〜2070年と2071〜2100年の流量を1971〜2000年と比べている。

  • RCP2.6:ティサ、南ブーフ、シヴェルシキー・ドネツ、デスナ、西ブーフでマイナス10%からプラス6%。ドニプロ、ドニステル、プリピャチは平均で最大20%程度の減少。
  • RCP8.5:多くの流域で世紀末に向けて大きく減り、プリピャチ、南ブーフ、ドニステルで最大マイナス30%。
  • 季節:シヴェルシキー・ドネツを除く全流域で夏季が減少。デスナ、ティサ、南ブーフ、シヴェルシキー・ドネツは冬季が増加する傾向。

これは排出シナリオに基づく将来推計であり、すでに同じ割合の減少が観測されたという意味ではない。

黒土は「広さ」だけの話ではない

2019年の土壌学論文(Stepan Pozniak、Soil Science Annual 70巻3号)は、ウクライナのチェルノーゼム(黒土)を約2,780万ヘクタール、世界のチェルノーゼム面積の8.7%と記す。同論文はこの値を2015年の別の文献から引いており、何年時点かは書いていない。世界のチェルノーゼムは総計約3億1,400万ヘクタールで、世界の土壌被覆のおよそ2.4%にあたるという。

黒い表土が厚く重なる土壌の断面
ウクライナのステップ帯のチェルノーゼム(黒土)の断面(2008年撮影、Commonsの記載による) 写真:Michaila vnuk(ウクライナ語版ウィキペディアの投稿者)/Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0

同論文によれば、チェルノーゼムはウクライナの農用地の67.7%を占め、ほぼ完全に耕地へ転換されている。形成が始まったのは約1万年前、腐植の含有率は3%から10%、あるいはそれ以上。

そして同じ論文が、劣化の側も数字で示す。森林ステップ帯ではチェルノーゼムの85%、ステップ帯では90%が耕起されている(国土全体で耕起された土壌は約54%)。侵食を受けた耕地は全耕地の30%、チェルノーゼム地帯では約25%。ドクチャーエフの研究から130年が経ち、表層の腐植の損失は21%から40%、1ヘクタールあたり0.5〜0.9トンに及ぶという。スームィ州の保護区ミハイリウシカ・ツィリナでは表層30センチメートルの腐植が9.5〜10%あるのに対し、同じ土壌でも耕地では4.5〜5%だという例も挙げている。

憲法第14条は、土地を「主要な国民的資産」とし、国家の特別の保護の下に置くと定める。なお、この論文は2019年の公表で、「軍事的な土壌劣化」として挙げられているのは当時のドンバスでの戦闘である。2022年2月24日のロシアによるウクライナへの全面侵攻以降の影響は含まれていない。

保護の枠組みも一つではない。ウクライナの世界遺産8件のうち自然遺産は「カルパティア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林」1件だけで、18か国93の構成資産からなる越境資産である。一方、南部のステップを代表するアスカニア・ノヴァは世界遺産ではなく、ユネスコの人間と生物圏(MAB)計画の生物圏保存地域(1984年登録・33,308ヘクタール)である。世界遺産の暫定リストには1989年から載るが、暫定リストへの記載は登録とは別のことだ。

2023年6月6日、カホウカ・ダムの決壊

国連環境計画(UNEP)が2023年10月に公表した迅速環境評価は、決壊が2023年6月6日未明に起きたとし、報告書自身を予備的な分析だと位置づけている。同評価は、まだ確定していない「潜在的な影響」と、測定・観察できた変化とを分けて記述する。そのうえで、灌漑、飲料水、ザポリッジャ原子力発電所を含む産業への給水、それに伴う健康影響の全体を精密に見積もることは、この迅速評価の範囲外であり、なお大きな懸念だと明記している。

決壊の原因について、ウクライナ政府は、1年以上前からダムと発電所を支配していたロシア軍が爆薬を仕掛けて爆破したとしている(2023年6月6日、国連安全保障理事会第9340回会合でのウクライナ国連大使の発言)。本記事が確認した国際機関の資料は、原因を特定していない。地図や衛星画像を使うときは、その水面がいつのものかを確かめる必要がある。

広い平原と大河と黒土。並べるだけなら短い文章で足りる。だが数字を一つずつ出所に当てていくと、水の行き先は三つの海に分かれ、同じ川の流域面積は資料ごとに違い、黒土の豊かさは劣化の数字と一組で語られている。

出典・参考資料

  1. ウクライナ基礎データ(令和8年9月3日付。面積60万3,700平方キロメートル)
    発行:外務省 確認日:2026-09-23
  2. 概況・基本統計(ウクライナ。面積60万3,520平方キロメートル)
    発行:ジェトロ(日本貿易振興機構) 確認日:2026-09-23
  3. 総会決議68/262「ウクライナの領土保全」(2014年3月27日・第80回本会議で採択)
    発行:国連総会 確認日:2026-09-23
  4. 総会決議ES-11/4「ウクライナの領土保全:国連憲章の諸原則の擁護」(2022年10月12日採択)
    発行:国連総会 確認日:2026-09-23
  5. ウクライナ憲法 第14条・第16条・第133条・第134条(2020年1月1日現行版・最高会議による英語版)
    発行:ウクライナ最高会議 法令データベース(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-23
  6. 国家水台帳(地表水の部)「ウクライナの大河川・中河川」(掲載ページの公開日 2026年8月3日。PDFの原ファイル名は「Великі та середні річки_з довжиною річок.xlsx」)
    発行:ウクライナ水資源庁(Держводагентство) 確認日:2026-09-23
  7. River Basin Management Plans – Ukraine 2025-2030(九つの流域区の構成。データは2024年10月時点。EU共同出資、作成はBlue Rivers environmental consulting、ウクライナ水資源庁の流域管理計画ページから配布)
    発行:ウクライナ水資源庁/EU4Environment・EUWI+ 確認日:2026-09-23
  8. Didovets, I., Krysanova, V., Hattermann, F.F., Rivas López, M. del R., Snizhko, S., Müller Schmied, H. (2020) Climate change impact on water availability of main river basins in Ukraine. Journal of Hydrology: Regional Studies 32, 100761(表1の河川長、第2章の気候記述、第4章の流量投影)
    発行:Elsevier(CC BY-NC-ND。本文はポツダム気候影響研究所の公開リポジトリから取得) 確認日:2026-09-23
  9. Pozniak, S. (2019) Chernozems of Ukraine: past, present and future perspectives. Soil Science Annual 70(3), 193–197(面積、農用地に占める割合、耕起率、侵食、腐植損失)
    発行:Soil Science Society of Poland(オープンアクセス) 確認日:2026-09-23
  10. Polisia(執筆 Volodymyr Kubijovyč, Ihor Stebelsky, Ivan Sydoruk-Pauls。ポリーシャの範囲と約10万平方キロメートルという面積、氷河・融氷水・河川の堆積物、湿地と砂地。初出『Encyclopedia of Ukraine』vol.4, 1993)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所) 確認日:2026-09-23
  11. Forest-steppe(執筆 Volodymyr Kubijovyč。国土の約30%という比率、北側の境界線、レスとチェルノーゼムの北限との一致、森林被覆が11%に減ったこと。初出『Encyclopedia of Ukraine』vol.1, 1984)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所) 確認日:2026-09-23
  12. Steppe(執筆 Ihor Stebelsky。約24万平方キロメートル・国土の約40%、三つの亜帯と腐植含有率、南下にともなう降水量の減少と蒸発量。初出『Encyclopedia of Ukraine』vol.5, 1993)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所) 確認日:2026-09-23
  13. Ukrainian Crystalline Shield(執筆 Peter Sonnenfeld。先カンブリア時代の結晶質岩、約1,000キロメートル・約20万平方キロメートル、河谷での露出、クルィヴィー・リフのジャスピライト鉄鉱。初出『Encyclopedia of Ukraine』vol.5, 1993)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所) 確認日:2026-09-23
  14. Dnipro-Donets Trough(向斜構造としての位置、幅80〜150キロメートル、堆積層の厚さ11キロメートル、石油・天然ガスと岩塩・石膏・燐鉱石。執筆者名の表示なし。初出『Encyclopedia of Ukraine』vol.1, 1984)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所) 確認日:2026-09-23
  15. Lakes(執筆 Ihor Stebelsky。3,000を超える湖と合計水面2,000平方キロメートル余り、10・30平方キロメートル超の数、スヴィチャージ湖の面積と水深、沿岸の湖が湖水面の約59%、ドニステル河口湖とティリフル河口湖の面積と水深、ドニプロ川の六大貯水池7,000平方キロメートル超、1986年1月時点のため池・貯水池合計11,730平方キロメートル。初出『Encyclopedia of Ukraine』vol.3, 1993)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所) 確認日:2026-09-23
  16. Estuary(リマンの定義。初出『Encyclopedia of Ukraine』vol.1, 1984。同事典の「Limans」はこの項と「Lakes」への参照項目)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所) 確認日:2026-09-23
  17. Azov, Sea of(執筆 Volodymyr Kubijovyč。面積4万平方キロメートル、平均水深8メートル、最深14.5メートル、海底の性状、淡水流入40.7立方キロメートルの内訳、シヴァシュとアラバト砂州。初出『Encyclopedia of Ukraine』vol.1, 1984)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所) 確認日:2026-09-23
  18. Arabat Spit(長さ約100キロメートル、幅270メートル〜8キロメートル弱、シヴァシュをアゾフ海から隔てること。執筆者名・初出の表示なし)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所) 確認日:2026-09-23
  19. Rapid Environmental Assessment of Kakhovka Dam Breach, Ukraine, 2023(2023年10月。報告書の要旨)
    発行:国連環境計画(UNEP) 確認日:2026-09-23
  20. Ancient and Primeval Beech Forests of the Carpathians and Other Regions of Europe(顕著な普遍的価値の言明。18か国93構成資産・評価基準(ix))
    発行:ユネスコ世界遺産センター 確認日:2026-09-23
  21. Ukraine — 世界遺産一覧表記載物件および暫定リスト
    発行:ユネスコ世界遺産センター 確認日:2026-09-23
  22. Askaniya-Nova Biosphere Reserve(1984年登録・33,308ヘクタール)
    発行:ユネスコ 人間と生物圏(MAB)計画 確認日:2026-09-23
  23. Hoverlia(ウクライナの最高峰2,061メートル、チョルノホラ山群、プルト川の源流。初出『Encyclopedia of Ukraine』vol.2, 1988)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所) 確認日:2026-09-23
  24. Crimean Mountains(執筆 Volodymyr Kubijovyč, Edvard Zharsky。ヤイラの最高峰ロマン・コシュ1,545メートル。初出『Encyclopedia of Ukraine』vol.1, 1984)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所) 確認日:2026-09-23
  25. Carpathian Mountains(執筆 Volodymyr Kubijovyč。約1,500キロメートルの弧と約20万平方キロメートルの面積、うちウクライナに属する2万2,500平方キロメートル、中程度の高さの山地。初出『Encyclopedia of Ukraine』vol.1, 1984)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所) 確認日:2026-09-23
  26. Danube River(プルト川合流点から黒海までの160キロメートルの国境区間、デルタの三分流とキリヤ分流、ウクライナ側の支流ティサ川・プルト川、港。執筆者名の表示なし。初出『Encyclopedia of Ukraine』vol.1, 1984)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所) 確認日:2026-09-23
  27. Dnipro River(執筆 Volodymyr Kubijovyč, Ivan Teslia。ヴァルダイ丘陵の源流、全長2,285キロメートルと国別の内訳、キーウ〜ドニプロ市間の右岸と左岸の違い、貯水池の連なりと自然河道の残る区間。初出『Encyclopedia of Ukraine』vol.1, 1984)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所) 確認日:2026-09-23
  28. Black Sea(執筆 Volodymyr Kubijovyč, Ivan Teslia。平均水深1,300メートル、最大水深2,245メートル。初出『Encyclopedia of Ukraine』vol.1, 1984)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所) 確認日:2026-09-23
  29. S/PV.9340. Security Council, 9340th meeting, 6 June 2023(ウクライナ国連大使キスリツァ氏の発言「Russia has been controlling the dam and the entire Kakhovka hydroelectric power plant for more than a year. ... It was mined by the Russian occupiers, and they blew it up.」をPDF本文で確認。カホウカ・ダム決壊の原因についてのウクライナ政府の立場の根拠)
    発行:United Nations Security Council 確認日:2026-09-23

訂正・更新の記録

  • 三つの自然帯(ポリーシャ・森林ステップ・ステップ)、ウクライナ楯状地とドニプロ・ドネツ堆積盆地、湖とリマン、アゾフ海の水深についての記述を追加しました。公開時は Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所)を出典から外す扱いにしていたため、これらを載せていませんでした。同事典は発行主体と執筆者が明示された学術事典であり、引用できる資料として扱いを改めています。
  • 題名と冒頭が記事の作り方の説明になっていたため、扱う中身を先に示す形に書き直しました。数字ごとに出典と時点を示す方針は変えていません。あわせて、ホヴェルラ山とロマン・コシュ山の標高を Internet Encyclopedia of Ukraine の記述から加えました。
  • カルパティア山脈とクリミア山地の地形、ドニプロ川の源流と長さ・両岸の地形の違い、ドナウ川下流の国境区間とデルタ、黒海の水深についての記述を、Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所)の各項目から追加しました。あわせて、河川の長さが資料によって一致しないことを「この記事で確認できていないこと」に書き加えました。
  • カホウカ・ダム決壊の原因を「書かない」としていましたが、ウクライナ政府がロシア軍による爆破としていることを、国連安保理での発言を出典に書き加えました。また、サン川がナレフ川を経てヴィスワ川に入るように読める記述を、直接ヴィスワ川に入ると改めました。

記載内容に誤りを見つけた場合は、訂正のご連絡からお知らせください。確認のうえ、訂正した内容と経緯を記事に記載します。