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人と暮らし/解説

93か所のブナ林の世界遺産、最も広い一か所はウクライナの森

ヨーロッパブナの森をまとめた世界遺産は、2007年にスロバキアとウクライナの10か所で始まり、2026年9月時点で18か国93か所になりました。ウクライナにある15か所の面積は全体の約3割で、最も広い構成資産はザカルパッチャ州のウホルカ=シロキー・ルーフです。「ヨーロッパ最大」という言い方の出どころもたどります。

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オリュカのひとこと

カルパティアのブナ林は、いつから世界遺産になったのでしょう。最初の見出しで確かめられます。

ヨーロッパブナ(Fagus sylvatica)の森をまとめた世界遺産「カルパティア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林」は、2026年9月時点で18か国の93か所から成ります。ユネスコ世界遺産センターの一覧によれば、その始まりは2007年にスロバキアとウクライナが二か国で登録した10か所の森で、93か所のうちウクライナにあるのは15か所です。

名前と範囲はどう広がってきたのか。ウクライナ側の15か所はどんな森で、「ヨーロッパ最大の原生ブナ林」という言い方はどこから来たのか。ウクライナの保護区の全体像はウクライナの保護区の記事、国内の世界遺産の一覧はウクライナの街と世界遺産の記事で扱っています。

氷河期のあとに広がった木の記録として

世界遺産委員会が2007年に採択した決定(31 COM 8B.16)は、この森を自然遺産の基準(ix)で登録しました。生態系や生物の進化の過程をよく示す場所、という基準です。現在の「顕著な普遍的価値の言明」は、ヨーロッパブナが過去100万年の氷期ごとにヨーロッパ南部の避難地で生き延び、最後の氷期が終わった約1万1,000年前から大陸の広い範囲へ広がったと説明し、その広がりはいまも続いているとしています。

同じ言明は、この遺産にとって最も大きな脅威を「伐採と生息地の分断」と書いています。構成資産の多くは厳正保護区や国立公園の核心地域として法律で守られ、周りに緩衝地帯が設けられています。

2か国10か所から18か国93か所へ

ユネスコ世界遺産センターの一覧は、この遺産の登録を2007年とし、2011年・2017年・2021年に範囲の大きな変更、2023年に小さな変更があったと記録しています。委員会の決定を年ごとに並べると次のとおりです。

年出来事典拠
2007年スロバキアとウクライナの共同で登録。10か所(ウクライナ6、スロバキア4)世界遺産委員会の決定 31 COM 8B.16、IUCNの評価書(2007年5月)
2011年ドイツの5か所を加え、3か国15か所に決定 35 COM 8B.13
2017年アルバニア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、イタリア、ルーマニア、スロベニア、スペインの9か国の森を加え、12か国77か所に。ウクライナは9か所を追加決定 41 COM 8B.7、IUCNの評価書(2017年)
2021年ボスニア・ヘルツェゴビナ、チェコ、フランス、北マケドニア、ポーランド、スイスの6か国を加え、18か国94か所に決定 44 COM 8B.32
2023年オーストリアの1か所を広げ、クロアチアの2か所を1か所にまとめる(小さな変更)。現在の93か所決定 45 COM 8B.56
出典:ユネスコ世界遺産センターの決定と一覧(2026年9月26日確認)。か所の数は各決定の言明の数字。

現在の一覧が示す面積は、構成資産が合わせて9万9,947.81ヘクタール、緩衝地帯が29万6,275.8ヘクタールです。

  1. オリュカ

    この遺産の名前は、範囲が広がるたびに変わってきたのかな。

  2. ヨリクネ

    名前の移り変わりは、この見出しの下の表で見比べられるよ。

  3. タブリ

    広がってきた順番は、上の見出しの表でもたどれるよ。

昔の名前と、いまの名前

範囲が広がるたびに、遺産の名前も変わってきました。

期間英語の名前(ユネスコ)ウクライナで使われてきた名前
2007〜2011年Primeval Beech Forests of the Carpathians—
2011〜2017年Primeval Beech Forests of the Carpathians and the Ancient Beech Forests of Germany「カルパティアの原生ブナ林とドイツの古代ブナ林」(Букові праліси Карпат та давні букові ліси Німеччини)
2017年〜Ancient and Primeval Beech Forests of the Carpathians and Other Regions of Europe「カルパティアとヨーロッパの他の地域の原生ブナ林と古代林」(Букові праліси і давні ліси Карпат та інших регіонів Європи)
英語の名前は世界遺産委員会の決定、ウクライナ語の名前は内閣の命令(2014年第819号・2018年第892号)の題名による。日本語訳は本記事によるもので、定訳ではない。

オリュカのひとこと

ウクライナの構成資産は、いくつあるのでしょう。この見出しの一覧で確かめられます。

ウクライナにある15か所

2007年の最初の登録のとき、ウクライナ側の6か所のうち5か所はカルパティア生物圏保護区の中、1か所はウジャンシキー国立自然公園の中にありました(IUCNの2007年の評価書)。保護区は、自分の管理する森の2万980.5ヘクタールが2007年に世界遺産になったと書いています。2017年に加わった9か所のうち4か所はスィネヴィル国立自然公園に集まっています。

構成資産原綴(ユネスコ)面積(ha)登録資料の説明
チョルノホラChornohora2,476.82007年カルパティア生物圏保護区
クジー=トルィブシャヌィKuziy – Trybushany1,369.62007年同上。オーク・ブナ・モミの森
マルマロシュMaramarosh2,243.62007年同上。ルーマニア国境に近い
ストゥジツャ=ウジョクStuzhytsia – Uzhok2,5322007年ウジャンシキー国立自然公園。スロバキア側の構成資産と接する
スヴィドヴェツSvydovets3,030.52007年カルパティア生物圏保護区
ウホルカ=シロキー・ルーフUholka – Shyrikyi Luh11,8602007年同上。15か所で最も広い
ホルハヌィGorgany753.482017年ブナ・トウヒ・モミとヨーロッパハイマツの混ざる森
ロズトチャRoztochya384.812017年ブナの分布の北東の端にあたる丘陵
サタニウシカ・ダチャSatanіvska Dacha212.012017年ポジッリャ地方。ブナの分布の東の端
スィネヴィル(4か所)Synevyr – Darvaika/Kvasovets/Strymba/Vilshany1,588.46/561.62/260.65/454.312017年スィネヴィル国立自然公園。2か所はウホルカ=シロキー・ルーフに接する
ザチャロヴァヌィイ・クライ(2か所)Zacharovanyi Krai – Irshavka/Velykyi Dil93.97/1,164.162017年火山性の岩盤の上のブナ林
面積はユネスコ世界遺産センターの構成資産の一覧(2026年9月26日確認)。説明はIUCNの2007年・2017年の評価書、カルパティア生物圏保護区、国立自然公園「ポジッリャのトウトルィ」の公表による。カナは本記事の表記。

ユネスコの一覧の面積を足すと、ウクライナの15か所は合わせて約2万8,986ヘクタールで、遺産全体の約29%にあたります(本記事の計算)。国別では最も広く、2番目はルーマニアの12か所です。

2018年に内閣が承認した保全の計画(命令第892号)は、構成資産を持つ施設として、カルパティア生物圏保護区、ウジャンシキー国立自然公園、国立自然公園「ザチャロヴァヌィイ・クライ」「スィネヴィル」「ポジッリャのトウトルィ」、自然保護区「ホルハヌィ」「ロズトチャ」の七つを挙げ、ザカルパッチャ、イヴァーノ=フランキーウシク、リヴィウ、フメリニツキーの4州に報告を求めています。遺産の名前は「カルパティア」ですが、ロズトチャとサタニウシカ・ダチャはカルパティア山脈の外の森です。

いちばん広いウホルカ=シロキー・ルーフ

ウホルカ=シロキー・ルーフの面積1万1,860ヘクタールは、ユネスコの一覧の93か所の中で最も大きな値です(2番目はルーマニアの5,110.63ヘクタールの構成資産)。カルパティア生物圏保護区の説明によれば、この森はクラスナ山地(ポロニナ・クラスナ)の南斜面の標高380〜1,350mにあり、名前はティサ川の支流のマラ・ウホルカ川、ヴェルィカ・ウホルカ川、ルジャンカ川から来ています。ブナが標高380mから森林限界まで帯のように続き、高さ55mを超え、直径130cmを超え、樹齢約550年に達する木があるとしています。IUCNの2007年の評価書も、高さ55m、直径130cmに達するブナと、65の森林群落を挙げています。

石灰岩の岩場と洞窟があるのもこの森の特徴で、保護区は、洞窟から見つかった甲虫などの中に、世界でここでしか見つかっていない種があると書いています。

「ヨーロッパ最大」は誰が言っているのか

この森や遺産を「ヨーロッパ最大の原生ブナ林」と紹介する文章は多くありますが、言っている主体と、何を比べているかは資料によって違います。

  • IUCNの2007年の評価書は、2か国10か所の遺産全体について「ヨーロッパに残る最大の原生ブナ林を含む」と書いています。ウホルカ=シロキー・ルーフ一つを指した言い方ではありません。
  • アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所(CIUS)の『Internet Encyclopedia of Ukraine』(2008年執筆)は、保護区のウホルカ=シロキー・ルーフ山塊を「ヨーロッパ最大の古代の原生ブナ林がある場所として知られる」と書いています。この項目は山塊の面積を1万5,580ヘクタールとしていて、世界遺産の構成資産の面積とは違います。
  • カルパティア生物圏保護区のサイトは、ページによって「ヨーロッパで最大の一続きのブナの原生林」と書き、別のページでは「世界で最大の一続きの原生ブナ林」と書いています。
  • ユネスコの現在の「顕著な普遍的価値の言明」は、こうした最上級の言い方を使っていません。

どの面積を、どの範囲の森と比べて「最大」としたのかを示す一次資料は確認できていません。ちなみに、日本の白神山地(1993年登録)について、ユネスコの言明は「東アジアに残る最大の原生ブナ林」と書いています。こちらはヨーロッパブナとは別の種、ブナ(Fagus crenata)の森です。

全面侵攻のもとでの保全

世界遺産委員会は2023年の決定(45 COM 7B.20)で、ウクライナの構成資産の緩衝地帯で伐採と衛生伐(病虫害などを理由にした伐採)を認めないようにした法改正を評価しました。

2025年の決定(47 COM 7B.18)では、続く戦争がウクライナの構成資産の管理を難しくし、土地や資源の利用の圧力を強めているとの報告に「深刻な懸念」を示し、影響をくわしく報告するようウクライナに求めました。同じ決定は、ウクライナが報告した構成資産の面積や形が登録時に承認されたものと食い違っているとして、境界と保護の状態を明らかにするよう求めています。18か国の合同の報告の期限は2026年12月1日で、2027年の第49回委員会で審議される予定です。森林の伐採と木材の輸出をめぐる国内の制度はウクライナの森林と木材の記事で扱っています。

出典と記事の記録出典 19件 · AIの利用 · 運営体制

出典・参考資料

  1. Ancient and Primeval Beech Forests of the Carpathians and Other Regions of Europe93か所・18か国、2007年登録、2011・2017・2021年の大きな変更と2023年の小さな変更、面積99,947.81ha・緩衝地帯296,275.8ha、顕著な普遍的価値の言明
    発行:UNESCO World Heritage Centre 確認日:2026-09-26
  2. 同 Maps構成資産93か所の名前・国・面積。ウクライナの15か所
    発行:UNESCO World Heritage Centre 確認日:2026-09-26
  3. Decision 31 COM 8B.162007年、スロバキアとウクライナ、10か所、基準ix
    発行:UNESCO World Heritage Centre 確認日:2026-09-26
  4. Decision 35 COM 8B.132011年、ドイツを加え15か所
    発行:UNESCO World Heritage Centre 確認日:2026-09-26
  5. Decision 41 COM 8B.72017年、12か国77か所、名前の変更
    発行:UNESCO World Heritage Centre 確認日:2026-09-26
  6. Decision 44 COM 8B.322021年、18か国94か所、追加された構成資産
    発行:UNESCO World Heritage Centre 確認日:2026-09-26
  7. Decision 45 COM 8B.562023年の小さな境界変更
    発行:UNESCO World Heritage Centre 確認日:2026-09-26
  8. Decision 45 COM 7B.202023年、ウクライナの緩衝地帯での伐採・衛生伐を認めない法改正の評価
    発行:UNESCO World Heritage Centre 確認日:2026-09-26
  9. Decision 47 COM 7B.182025年、戦争の影響への懸念、ウクライナの構成資産の面積・形の食い違い、2026年12月1日の報告期限
    発行:UNESCO World Heritage Centre 確認日:2026-09-26
  10. IUCN Evaluation Report May 2007: Primeval Beech Forests of the Carpathians10か所の説明、最大の原生ブナ林を含むという評価、ウホルカのブナの高さと直径、65の群落
    発行:IUCN(WHC-07/31.COM/INF.8B.2) 確認日:2026-09-26
  11. IUCN Evaluation 2017: ID 1133 Terウクライナの9か所の説明と面積
    発行:IUCN(WHC/17/41.COM/INF.8B2) 確認日:2026-09-26
  12. Shirakami-Sanchi1993年登録、東アジア最大の原生ブナ林、Fagus crenata
    発行:UNESCO World Heritage Centre 確認日:2026-09-26
  13. Carpathian Biosphere Reserveウホルカ=シロキー・ルーフ山塊15,580ha、ヨーロッパ最大の古代の原生ブナ林という記述。Volodymyr Kricsfalusy、2008年執筆
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-26
  14. Угольсько-Широколужанський масив面積11,860ha・緩衝地帯3,301ha、標高、世界最大という記述、木の高さ・直径・樹齢、洞窟の固有種
    発行:カルパティア生物圏保護区 確認日:2026-09-26
  15. Букові пралісиヨーロッパ最大の一続きのブナの原生林という記述
    発行:カルパティア生物圏保護区 確認日:2026-09-26
  16. Про заповідник2007年に20,980.5haが世界遺産に
    発行:カルパティア生物圏保護区 確認日:2026-09-26
  17. «Сатанівська дача»2017年末の登録、ポジッリャのトウトラ丘陵、ブナの分布の端
    発行:国立自然公園「ポジッリャのトウトルィ」(Internet Archive 2024年9月11日の保存版) 確認日:2026-09-26
  18. 内閣命令第892-р号「世界遺産のウクライナ部分の保全に関する若干の問題」2018年11月21日。七つの施設、4州、計画の期間、2014年第819号の廃止
    発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-26
  19. Gorgany Nature Reserve・Synevyr National Nature Park・Uzhanskyi National Nature Park所在の州
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-26

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