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ビジネス・復興/解説

戦時下のウクライナの産業──農業・製造・サービス・エネルギーの比重

ウクライナの産業の比重を、農業・製造・サービス・エネルギーの順に示します。分野別の比重がわかるのは2024年まで。統計の対象範囲は途中で変わり、公表が止まった指標や推計に切り替わった指標もあります。ウクライナ国家統計局と国立銀行の公開データをもとに、数字ごとに対象範囲と時点と基準を添えました。

刈り取りの進んだ小麦畑に止まるコンバイン
ヴィーンヌィツャ州の小麦畑のコンバイン(2026年8月撮影) 写真:George Chernilevsky/Wikimedia Commons(CC BY 4.0

ウクライナの産業を「農業・製造業・IT」と並べた一覧は、日本語でもいくつも読めます。ただ、2022年2月24日のロシアによるウクライナへの全面侵攻から4年半が過ぎた今、その一覧をそのまま現在の姿として読むことはできません。統計の対象範囲が途中で変わり、公表が止まった指標があり、同じ年の同じ項目に二つの数字が並ぶこともあります。この記事は分野ごとの数字を、その数字がどこまでを数えているかと一緒に示します。数字はすべて、2026年9月23日時点で各機関が公開しているファイルによります。

その数字は、どの範囲のウクライナか

ウクライナ国家統計局(Derzhstat)が公開している「生産面からみたGDPと経済活動別粗付加価値」のファイル(2010〜2024年)には、表の末尾に注記があります。2010〜2021年の数値は一時占領下のクリミア自治共和国とセヴァストポリ市を除き、2014〜2021年はドネツィク州・ルハンシク州の一時占領地域の一部も除く。そして2022〜2024年は「ロシア連邦により一時占領された地域、および戦闘が行われている(行われた)地域の一部を除く」と書かれています。

読み落とせないのは最後の部分です。2022年以降は、占領地域だけでなく戦闘地域の一部も集計から外れています。ウクライナ国立銀行(NBU)の対外貿易統計にも同趣旨の注記があります。以下に出てくる「ウクライナの産業構造」は、それらを除いた残りの構造です。そこにあった工場や鉱山は、生産が落ちたものとして記録されるのではなく、母集団から消えます。

分野別の比重は、2024年までしか分からない

同じファイルから、基本価格表示の粗付加価値に占める各分野の割合を計算しました。当年価格の名目値なので、生産量だけでなく価格の動きも割合を動かします。2026年9月23日時点で、経済活動別の内訳が出ている最新の年は2024年です。

経済活動(NACE区分)2021年2024年
公的行政・強制社会保険(O)7.2%23.3%
卸売・小売、自動車等の修理(G)15.8%13.8%
製造業(C)12.0%9.7%
農林水産業(A)12.7%8.4%
不動産業(L)6.7%6.1%
電気・ガス・蒸気・空調供給(D)3.9%5.4%
運輸・倉庫・郵便(H)6.3%5.3%
情報通信(J)5.5%4.7%
鉱業・採石業(B)7.5%4.6%
ウクライナ国家統計局「生産面からみたGDPと経済活動別粗付加価値(当年価格)」2010〜2024年のファイルから、基本価格表示の粗付加価値合計(2021年4兆6,847億フリヴニャ、2024年6兆6,459億フリヴニャ)に対する割合を本記事が計算した。名目値。占領地域および戦闘地域の一部を除く。

いちばん大きく動いたのは、産業の一覧にふつう載らない項目でした。「公的行政・強制社会保険」が7.2%から23.3%へ、三倍以上になって単独最大になっています。いまのウクライナ経済の変化を一つの数字で示すなら、農業でも鉄鋼でもITでもなく、ここです。ただし、この区分のなかで国防に関わる活動がどう分類されているかは公開表から読み取れず、同局の分類方法も確認していないので、本記事では「増えた」以上のことは書きません。

農業——「世界の穀倉」の前に、どの数字かを言う

2025年の収穫について、ウクライナ内閣のサイトが2025年12月26日に掲載した経済・環境・農業省の発表は、穀物57.6百万トンと油糧種子17.3百万トンが収穫され、トウモロコシの収穫終了後に穀物の合計は約60百万トンになる見込みだとしています。これは省の発表であって、統計局の確定値ではありません。国家統計局の年次の作付面積・収穫量・単収のファイルは2022年の確定値まで、収穫進捗の統計速報は2021年で止まっています。

輸出に占める比重は上がりました。国立銀行の国際収支ベース(BPM6)の商品別輸出構成で、「食料品およびその原料」の割合は2021年の43.7%から2025年の59.3%へ。ただし金額は276億8,700万米ドルから225億3,200万米ドルへ減っています。割合が上がったのは、他の輸出がそれ以上に減ったからです。同じ時期に、粗付加価値に占める農林水産業の割合は12.7%から8.4%へ下がっています。矛盾ではなく、分母が違うだけです。「世界の穀倉」という言い方は、このどちらのことも説明しません。

穫れた量と、出せる量も別です。ポーランドの東方研究センター(OSW)が2026年7月28日に公表した分析は、2025年にウクライナの食料輸出の85%超が数量ベースで海上輸送により運ばれ、穀物では95%に達したとしたうえで、2026年7月22日に黒海の港へ商船が一隻も入らなかったこと、その前に保険会社が新規引受を止めたと報じられていたことを伝えています。ウクルインフォルムも同年7月24日、直近数週間で港湾への攻撃が約30回あったとする関係者の説明を配信しました。いずれも一次資料ではなく、その後の運航状況は確認できていません。

製造——生産が落ちたのか、数える対象が減ったのか

鉄鋼は、その両方が起きている分野です。世界鉄鋼協会(worldsteel)の集計では、ウクライナの粗鋼生産は2021年に21.4百万トン(世界14位)、2025年には7.4百万トン(世界23位、前年比マイナス2.2%)でした。輸出でも、国立銀行のBPM6ベースで「鉄・非鉄金属およびその製品」は2021年の157億1,900万米ドルから2025年の47億1,500万米ドルへ、構成比は24.8%から12.4%へ。粗付加価値では、鉱業・採石業が7.5%から4.6%へ下がっています。

ここで冒頭の注記が効いてきます。占領地域にある設備は、統計のうえでは稼働していない工場ではなく、最初から数えられていません。減った分のうちどれだけが操業の停止や縮小で、どれだけが集計範囲そのものの縮小かは、公開されている総量からは分けられません。「鉄鋼生産が三分の一になった」という一文は、二つの別々のことを一つにまとめています。

サービス——ITの数字は、発表主体ごとに別のものを指す

国立銀行が2026年9月18日に更新した対外貿易統計(BPM6、百万米ドル)では、「コンピュータ・サービス」の輸出は2021年6,943、2022年7,329、2023年6,727、2024年6,446、2025年6,655です。同じ表の一段上にある「電気通信・コンピュータ・情報サービス」は2025年で6,810。国家統計局の粗付加価値では「情報通信」(NACE J)が2024年に3,096億7,700万フリヴニャ。三つとも日本語では「ウクライナのIT」と呼ばれますが、順に、国境を越えたコンピュータ・サービスの輸出額、そこに電気通信と情報サービスを加えた額、国内で生み出された付加価値(通信・放送・出版を含む)で、測っているものが違います。

同じ年の数字が後から変わることもあります。国立銀行は同じファイルの冒頭で、2022〜2024年のサービス貿易データを、戒厳令下における国家統計機関への統計報告の義務を再開した2025年7月3日付法律第4505号にもとづく統計局の更新情報を反映して改訂した、と注記しています。2025年のコンピュータ・サービス輸出6,655百万米ドルは、サービス輸出全体15,904百万米ドルの41.8%、財とサービスを合わせた輸出53,911百万米ドルの12.3%にあたります(この二つの割合は本記事の計算です)。

運輸は逆の動きです。サービス輸出のうち運輸は2021年の4,760百万米ドルから2025年の2,519百万米ドルへ。最も落ちたのはパイプライン輸送で、1,664百万米ドルから244百万米ドルになりました。海上輸送は616から383です。物流を「サービス業」と一括りにすると、この差が見えなくなります。

エネルギー——増えて見える数字の読み方

粗付加価値に占める「電気・ガス・蒸気・空調供給」の割合は、2021年の3.9%から2024年の5.4%へ上がっています。ただし当年価格の名目値なので、料金や燃料価格が上がれば供給量が変わらなくても割合は上がります。攻撃を受けている分野の割合が上がったことを、そのまま「伸びた」と読むと誤ります。

IAEA(国際原子力機関)は自らのウクライナ関連ページで、チョルノービリ原子力発電所のサイトが2022年2月24日から3月31日まで、ザポリッジャ原子力発電所が2022年3月4日からロシア軍の管理下に入り、後者は現在もロシア連邦の管理下にあると書いています。同機関はウクライナの五つの原子力発電所サイトすべてに職員を常駐させています。一方、発電構成そのものは、公的な一次資料で確認できていません。国家統計局のエネルギーバランスの公開ファイルは2020年までです。

貯水池の対岸に並ぶ原子炉建屋と冷却塔、火力発電所の煙突
カホウカ貯水池の対岸から見たザポリッジャ原子力発電所(2009年撮影)。IAEAによれば、同発電所は2022年3月4日からロシア軍の管理下に入り、現在もロシア連邦の管理下にある 写真:Ralf1969/Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0

公表が止まった指標、切り替わった指標

産業の全体像を書こうとすると、雇用が欠けます。国家統計局の労働力調査(年次)にある「経済活動別の就業者数」のファイルは2000〜2021年、同調査の刊行物は2022年11月17日掲載のものが最後です。企業調査にもとづく「経済活動別の平均従業者数」も2017〜2021年で止まっています。2022年以降の分野別雇用は、同局の公開データからは示せません。

貿易も途中で切り替わっています。同局のトップページでは、GDPが2026年第2四半期、消費者物価指数が2026年8月まで出ているのに、財の輸出入だけは2025年1〜9月の累計のままです。年次の商品別貿易構造のファイルは2023年まで。国立銀行は、2025年第4四半期の財貿易は「国家統計局の公式データがないため」国家税関局のデータにもとづくと書き、別の表については「対外貿易に関する国家統計局のデータベースが利用できないため更新していない」と明記しています。同じ「公式統計」でも、作られ方が年の途中で変わります。

基準が違えば、同じ年の同じ項目に二つの数字が並びます。2021年の財輸出は、国家統計局の商品別貿易構造では680億7,233万米ドル、国立銀行の国際収支では636億2,100万米ドルです。国立銀行は突合表を置き、差がFOB価格への修正、非公式貿易、委託加工品、人道支援、郵便物などから成ることを示しています。どちらかが誤っているのではなく、基準が違うだけです。

一覧は作れる。ただし添え書きが要る

ウクライナの産業を分野で並べること自体は、今もできます。ただしこの記事に出てきた数字はすべて、占領地域と戦闘地域を除いた範囲の、それぞれ違う年の、それぞれ違う基準のものでした。範囲、時点、単位と通貨、名目か実質か、推計か確定か、発行主体。この六つを添えられない項目は、一覧に載せないほうが安全です。

なお、この記事は特定の分野や地域を有望なものとして示すために書いたものではありません。分野別の数字は、生産と輸出の構成がどう変わったかを示すもので、事業機会の一覧ではありません。

出典・参考資料

  1. Валовий внутрішній продукт виробничим методом та валова додана вартість за видами економічної діяльності(2010〜2024年、当年価格・前年価格・2021年固定価格の7表。表1の注記に2010-2021年/2014-2021年/2022-2024年の territorial exclusion を明記)
    発行:ウクライナ国家統計局(Derzhstat) 確認日:2026-09-23
  2. Annual national accounts(データセット一覧。経済活動別の内訳ファイルの掲載年月=2025年12月)
    発行:ウクライナ国家統計局 確認日:2026-09-23
  3. Main page Derzhstat(主要指標。GDP 2026年第2四半期=2,305,664.0百万フリヴニャ、前年同期比100.4%、消費者物価指数2026年8月、平均賃金2026年7月=32,243.0フリヴニャ、財の輸出入は2025年1〜9月累計で停止)
    発行:ウクライナ国家統計局 確認日:2026-09-23
  4. Товарна структура зовнішньої торгівлі України(商品別貿易構造。2021年の財輸出総額68,072,328.8千米ドル、2023年37,584,289.0千米ドル。年次ファイルは2023年まで。territorial exclusion の注記あり)
    発行:ウクライナ国家統計局 確認日:2026-09-23
  5. Щомісячні обсяги товарної структури зовнішньої торгівлі(月次の商品別貿易構造。収録は2023年まで)
    発行:ウクライナ国家統計局 確認日:2026-09-23
  6. Labour force survey (annual)(データセット。「経済活動別就業者数」は2000-2021年、刊行物は2022年11月17日掲載のものが最後)
    発行:ウクライナ国家統計局 確認日:2026-09-23
  7. Survey of enterprises on labor statistics(データセット。「経済活動別の平均従業者数(四半期)」の収録は2017-2021年)
    発行:ウクライナ国家統計局 確認日:2026-09-23
  8. Areas, gross harvests and crop yield (annual)(年次の作付面積・収穫量・単収。確定値ファイルの収録は2022年まで、収穫進捗の統計速報 ovuzp_sg.zip は2021年まで)
    発行:ウクライナ国家統計局 確認日:2026-09-23
  9. Energy balance(データセット。エネルギーバランスの年次ファイルは2020年まで、関連系列は2007-2021年)
    発行:ウクライナ国家統計局 確認日:2026-09-23
  10. External Trade in Goods and Services (Trade_y_en.xlsx、最終更新2026年9月18日。表1.1商品別輸出構成、表2.1サービス輸出の種類別、表3.2国家統計局データと国際収支の突合、および冒頭の注記3点)
    発行:ウクライナ国立銀行(NBU) 確認日:2026-09-23
  11. External sector statistics(上記ファイルの掲載ページ)
    発行:ウクライナ国立銀行 確認日:2026-09-23
  12. December 2025 crude steel production and 2025 global crude steel production totals(表3。ウクライナ2025年7.4百万トン、2024年7.6百万トン、前年比-2.2%、世界23位。世界計1,849.4百万トン)
    発行:世界鉄鋼協会(worldsteel) 確認日:2026-09-23
  13. December 2021 crude steel production and 2021 global totals(ウクライナ2021年21.4百万トン、2020年20.6百万トン、世界14位)
    発行:世界鉄鋼協会(worldsteel) 確認日:2026-09-23
  14. Агровиробництво України у 2025 році: результати сезону та порівняння з ЄС(2025年12月26日掲載。穀物57.6百万トン、油糧種子17.3百万トン、トウモロコシ収穫終了後に穀物約60百万トンの見込み)
    発行:ウクライナ内閣(経済・環境・農業省の発表) 確認日:2026-09-23
  15. Ukraine: suspension of shipping to Black Sea ports and the associated risks(2026年7月28日。2025年の食料輸出の85%超・穀物95%が海上輸送、2026年7月22日に商船の入港がゼロ、保険引受の停止、2025年の黒海諸港73.3百万トン/ドナウ諸港8.9百万トン)
    発行:OSW(ポーランド東方研究センター) 確認日:2026-09-23
  16. Ворог атакує порти: як не втратити агроекспорт(2026年7月24日。直近数週間で港湾への攻撃約30回、全期間で港湾インフラ1,000施設超・船舶220隻超が損傷、7月の輸出は6月比で約3割減)
    発行:ウクルインフォルム(Ukrinform) 確認日:2026-09-23
  17. Українським морським коридором перевезено 120 млн тонн вантажів(2025年5月12日。海上回廊の累計120百万トン、うち農産物76百万トン、53か国向け)
    発行:ウクライナ復興省(現・インフラ省サイトへ転送) 確認日:2026-09-23
  18. Nuclear Safety, Security and Safeguards in Ukraine(チョルノービリ原発サイトが2022年2月24日〜3月31日、ザポリッジャ原発が2022年3月4日からロシア連邦の管理下にあり現在も継続。五つの原発サイトすべてにIAEA職員が常駐)
    発行:IAEA(国際原子力機関) 確認日:2026-09-23

訂正・更新の記録

  • 題名を改めました(旧題:ウクライナの産業を、戦時下の統計から読む——農業・製造・サービスの全体像)

記載内容に誤りを見つけた場合は、訂正のご連絡からお知らせください。確認のうえ、訂正した内容と経緯を記事に記載します。