第二章 三つの小道
次に開いた案内所は、前とは違う形をしていた。
見出しの棚は低く、注記の縁は入り口から少し遠い。白い札には「次は、どこを見る?」とだけある。前のページの文字や道は、どこにも残っていない。けれどオリュカはタブリと一緒に帰れたときの足の置き方を覚えていたし、タブリは青い角を一枚起こす手つきを覚えていた。
そのタブリが、入口から数歩のところで立ち止まった。
「ここ、印が二つ」
紙の上には、古い折り癖のような線と、いま開いている縁の線が重なっていた。どちらも文字ではなく、道の形だけだ。片方を追えば折り返しの台へ、もう片方は見出しの回廊へ続く。タブリは甲羅のタブを一枚ずつ起こし、並べて比べた。
「どっちが正しい?」とオリュカが聞く。
「この線だけでは、決められない」
タブリは二つの間に小さな仮の印を置いた。青い角を片方へ貼り付けるのではなく、両方が違って見える場所に立てる。
「確かめ直す印」

「そこまで分かったら、進めそう?」
「進む方は、まだ」
タブリは印の位置を三度目に測ろうとした。オリュカが「見えるところだけ、いっしょに歩こう」と言いかけたとき、回廊の向こうで紙が蛇腹のように鳴った。
「見えるところ? それなら三つあるよ!」
細い狐が、曲がった尾を大きく開いて跳び出してきた。耳の先は高い棚の影に触れそうで、尾は右へ左へ、折れるたびに別の小道を指す。
「ここは見出し。こっちに注記の縁。もう一つは、脇にある別の入口。さあ、どれから?」

オリュカの瞳が輝いた。三つとも、今のページにある道だ。黄のしおりをどれへ伸ばすか迷っているうちに、狐は細い小道を一つ走り、すぐ戻って別の道へ尾を向けた。
「ぼくはオリュカ。こっちはタブリ。きみは?」
「ヨリクネ。あとでね、その先にも曲がり角が――」
「その前に」とタブリが言った。「戻る印は、ひとつだけ」
「じゃあ、ひとつ増やせばいい」
「三つ同時には置けない」
ヨリクネは首をかしげ、尾をさらに広げた。三本の折り道に同時に触れようとして、体がくるりと回る。オリュカもつられて首を回した。気がつけばタブリは最初の入口に、ヨリクネは注記の縁に、オリュカは見出しの途中にいた。
「あれ、札は?」
問いが見えない。どこまで行けるかは分かるのに、何を見ようとしていたのかが遠くなった。ヨリクネが尾を畳みかけ、もう一本の折り先を見つけて止まる。
「道があるの、うれしくて。全部いっぺんに見せちゃった」
タブリが入口の仮印を指す。オリュカは黄色いしおりを縮めて戻った。まずその角へ、ヨリクネも合流する。三人が同じ高さから札を見ると、問いはまだ動いていなかった。
「どれも読める。でも、いまはどれ?」とオリュカは言った。
ヨリクネの尾が小さく揺れた。
「選ばなかった二つは、消さなくていい?」
「もちろん」とオリュカ。
「その二つにも、戻る支点がいる」とタブリ。
三人はしばらく札を見た。外側からページが少し動き、白い面が注記の縁のほうへ傾く。そこで初めてヨリクネは尾の一本をそちらへ伸ばし、残りを折り畳んだ。
「今は、ここ。あとで、そっち」
タブリが入口に青いタブを置く。オリュカはそれが見える位置から、黄色いしおりを一つの細い道へ延ばした。
縁の先には小さな文字の面があり、そこで案内は終わった。三人は文字に触れず、余白から先を譲った。紙が閉じるまで待つ間、ヨリクネが自分の尾を覗き込んで、目を丸くした。
「あ、帰り道がついてきた」
先ほどタブリが置いた青いタブが、尾の裏にくっついている。タブリは真顔でそれを剥がし、足踏みを一回した。
「帰り道は、歩かない」
オリュカが吹き出すと、ヨリクネは恥ずかしそうに尾を一折りだけ閉じた。

笑いのあとで、二本残したはずの道へ目を戻す。そのうち一本だけが、見えなくなっていた。紙がすでに畳まれ始めていたからではない。閉じる直前の短い間、ほかの線はくっきりと見え、その一本だけが裏へ回っていた。
「さっき、そこにあった」とヨリクネが低い声で言った。
「あった」とタブリ。
オリュカは消えたように見える辺りを見つめた。何かを作り足すことはできない。でも、そこにあった折り目をもう一度見られるかもしれない。
「次に開いたら、足元から探そう」
約束をしたのは、道の中身ではなく、探し方だった。
目次(全8章)
このお話は、Ukrainaviの案内役オリュカと仲間たちが登場する創作の物語です。実在するウクライナの場所や出来事を描いたものではありません。挿絵は、生成画像をもとにした創作イラストです。