第七章 線のとなりの白
スウネは白い面を見つめた。
さっき入口が重なった、その同じ一枚の紙の上だった。ページはまだ閉じていない。見出しは折り目の向こうにあり、入口の札は翼と直線の影に隠れている。スウネの光は、回廊の外側へ押し込まれた棚の端を照らしていた。
光を集めれば、何か答えが現れるわけではない。そこにない折り目を照らすこともできない。ただ、押し込まれた棚の端に、最初からある細い段差が見えた。
以前、同じような場所で声を出しかけ、飲み込んだことがある。あのときシメロは、スウネが黙っていたから、そこを畳んでもよいと思った。スウネにも、それが分かった。
今度は光を細めなかった。
「ここはまだ空白」

オリュカの足が止まる。シメロの指も、紙から離れた。
自分の声が、スウネにはいつもより大きく聞こえた。言ったあとに白が埋まってしまうことはない。白いままの場所をみんなの前に置いたのだ。ヨリクネの尾が探るように上がり、すぐ下がる。道を付け足すのではなく、スウネの見ている端を見ようとしている。
「棚の端に、まだ線は引けない。見える所まで、開いてほしい」
スウネの光が、白の白さを変える。輪郭だけが浮かび、内側は何も決まらないままだった。タブリが低い位置へ回り、甲羅の短いタブをその端の下へ差し込んだ。スウネが示した線を、タブリが支える。紙の奥で、もとの折り目がかすかに鳴った。
「この下?」とタブリ。
「そこ。もう少し、右」
「前に見た角と、同じ形だ」
タブリは言ってから首を振った。「同じ場所とは、限らない。今ある線を見よう」
甲羅の縁から一枚だけタブを出し、浮いた紙の下へ置く。タブリが指を離しても、白い面はすぐには戻らなかった。
オリュカは翼を畳んだ。いつもなら飛んでいって紙を持ち上げただろう。今回はシメロの前に立たず、横へ退いた。
「さっき、押さえすぎた。入口を隠した」
シメロはオリュカを見た。何か言う代わりに、紙の重なりに残ったオリュカの翼の形と、自分が揃えた長い線の形を見比べる。どちらも、この狭い所ではほかの印を覆っていた。
シメロは長い線の根元を見下ろした。そこを畳んだのは自分だ。端が開けば、まっすぐな道の幅は少し変わる。手を動かしかけ、止めた。スウネを見て、タブリの足元を見て、もう一度入口を見る。
さっき入口を探したとき、線の端から端まで自分の指でなぞった。それでも始まりの角は見つからなかった。そこへまた同じように手を置けば、同じ白に隠れるだろう。線を少し緩めるために指を動かすことは、シメロには揃えるより難しかった。だがタブリが端を支え、スウネがその外側を見ている。シメロは二人の手がどこにあるかを確かめてから、指をかけ直した。
「折り込んだのは自分だ。端から開く」
シメロは両手で縁を持ち、ほんの少しだけ緩めた。ぱた、と軽い音がして、白い面の外側に細い折り返しが現れた。タブリの印も見えるようになった。開いたのは答えへの扉ではない。折り込まれていた道しるべのための場所だった。

シメロの手の中で、紙はしばらく元の直線へ戻ろうとした。いつもなら端を揃え直すところだ。シメロは力を抜きすぎず、押しすぎず、そこに指を残した。タブリの小さな足が見えるだけの幅を、じっと保つ。
「ここまででいい?」とオリュカが聞いた。
「もう少し、タブの幅を」とタブリ。甲羅の一枚を縁に合わせる。
シメロは動きを止め、タブリの手が離れるのを待った。
「入った」
タブリが一度だけ足踏みする。ヨリクネの尾が、つられて跳ねた。
けれど、そのままでは枝を開くと入口が隠れる。ヨリクネは一度尾を広げてみて、自分で折り畳んだ。一つだけ、今読める脇道の角を出す。ほかの道の印は、帰ってから探せる位置に置く。
「ここを選ぶかは、あとで聞く。でも、あることは見えるようにしたい」
ヨリクネは尾先で白い面を軽く叩き、シメロに見せた。シメロは直線の脇を測るように見て、目を細める。
「その幅なら、入口を隠さない」
「じゃあ、この幅。タブリ、帰りはここで合う?」
タブリは回廊から一度入口へ歩いて戻り、頷いた。ヨリクネは嬉しくて尾の端を跳ねさせたが、枝の形はそのまま保った。
「しおりも、ちょっと短くしようか」とオリュカ。
黄色が縮むと、見出しが遠く感じられた。シメロが首を横に振る。
「短くする必要はない。線の、横を開ける」
直線の端で、シメロの指が以前の折り目につかえた。平らに押しつけても、紙はもとの形を覚えている。彼は押すのをやめ、その角を目印にして、線の外側だけを少し開いた。オリュカの黄色いしおりは見出しまで伸びる。隣にはタブリの青、ヨリクネの小さな枝、その先へ線を描かない白がある。
五人は入口へ戻った。札はまだそこにある。最初の問いへ、どこから読めるかを示す道ができた。帰れる印も見える。オリュカはしおりの根元から見出しまでを眺め、翼を横へ下ろした。シメロも縁から手を離す。紙は少しも乱れなかった。

「まっすぐだね」とオリュカ。
「帰れる」とタブリ。
「曲がれるところもある」とヨリクネ。
スウネは答えを言わず、白い棚の輪郭を照らした。シメロは一拍待ってから、そこに手を伸ばさずに頷いた。
やがて紙の向こう側から開く力が伝わり、最初の札が見出しの方へ傾いた。オリュカはその動きに合わせてしおりを置く。五人が本文へ道を譲ると、札は余白へ戻った。紙を読む音が遠くでして、案内所は静かに畳まれる。次の一枚が開く。新しい問いの札が入口に届いたが、誰も触れなかった。オリュカのしおりも、まだ動かない。
目次(全8章)
このお話は、Ukrainaviの案内役オリュカと仲間たちが登場する創作の物語です。実在するウクライナの場所や出来事を描いたものではありません。挿絵は、生成画像をもとにした創作イラストです。