第二章 いまいる角

タブリは段の途中で止まった。入口からここまで来た黄色いしおりは、紙にしっかり付いている。折り目が消えたわけではない。見出しの面を目指して置いた道が、その役目を終えた位置に、今も正しく残っている。
「入口は、あっち」
タブリが甲羅で背後を指した。青い印は遠くに見える。そこへ戻ることもできる。ただ、この角からこれから何を見るかを決めるために、毎回そこまで歩いて行く必要があるのかは、まだ分からなかった。
「ここにも、角がある」とタブリ。
甲羅のもう一枚を出す。置こうとして、前足が止まる。
「同じ青だと、どっちへ戻る印か分からなくなる?」とオリュカ。
「それもある。でも、ここを入口にしたら、最初の入口はどこへ行く?」
タブリが訊いているのは道の場所ではなく、印の役目だった。入口のタブをこちらへ持ってくれば、最初の折り目が見えなくなる。二つ置けば、両方が『ここから』に見えるかもしれない。
ヨリクネが細い尾で地面に二つの短い影を並べた。
「『始めにいた場所』と、『いまいる場所』。同じ言葉にしなくてよさそう」
「形を分ける」とタブリが言う。甲羅から出した新しいタブを、一度折り返して短くする。入口の長い印と、ここで止まれる小さな印。両者を並べても、ひと目で違う。
「ここは、いまの角。……ただ、動くかもしれない」
タブリは青い端を紙に仮置きした。古い印を剥がさないまま、今の角だけを見分けられるようにする。オリュカがその縁へ足を置くと、紙はしっかり支えた。
「ここからなら、次へ行ける?」
「道はある。行き先を選ぶのは、もう少し見てから」
すぐそばでシメロが長い体を傾けた。彼の直線は入口から見出しへ通っていて、遠くから見れば美しい。端をそろえたまま上げ下げすると、黄色いしおりも乱れない。
「この線を、先へ伸ばせばいい」
「今の角を通る?」とタブリ。
シメロは長い線の脇へ指を置いた。直線はそこをかすめるが、角には乗っていない。遠くの見出しへまっすぐ続いているため、今足を置いた低い段からは一段上に見えた。
「入口からなら、通れる」
「ここからは?」
「……一度戻れば、通れる」
ヨリクネが入口までの距離を見やる。タブリが置いた小さな印は、そこに行くためではなく、ここを失わないためにある。
「それって、もう読み始めた場所を、最初の場所に戻すんだね」
シメロの指が止まった。彼は線を消したり、乱暴に曲げたりしない。
「戻る道は、必要だ」
「うん」とタブリ。「戻れることと、毎回戻ることは、違う」
シメロは短く息を吸った。最初のころなら、入口を一本に揃え直していたかもしれない。今は返事を待つため、指を縁に置いたままにする。
スウネの光が、小さな青い印の下へ落ちた。青い紙の縁が半分だけ浮いている。
「ここは、まだ仮のままがいい」
「理由は?」とシメロ。
「札の向きは見える。でも、いま必要な次の面が、どっちかはまだ見えていない」
シメロは右の脇道と見出しの先を順に見た。スウネは道を隠そうとしているのではなかった。どちらにも、紙の上に確かな折り目がある。白い灯の横を通る細い道だけは、その先が確認できない。
オリュカは青い仮印の手前に立った。これまでなら「待とう」と言えば、自分のやるべきことができたと思えた。いまは、その言葉だけでタブリを段の上に立たせたままにしている気がする。
「仮でも、指せる?」
黄色いしおりの先を少し引いた。入口から見出しまで伸びた長さが腕の中で重い。全部を巻き取って、ここから新しくやり直せば、道はすっきりするだろう。
オリュカがほんの少し根元を引くと、入口に置いた青いタブがめくれかけた。
「あっ」
タブリが走るより先に、シメロがしおりの先を今の角で押さえた。黄色はそこで止まり、入口の青も紙に戻る。
「いっぺんに、戻さなくていい」
シメロの声は小さい。指先には黄色の張りが伝わっている。
オリュカは翼を緩めた。「ごめん。消したいわけじゃなかった」
「分かる。新しい線を、ここから始めたいんだろう」
オリュカはうなずいた。シメロは黄色を押さえたまま、タブリが入口の印を確かめる時間を待った。古い道と新しい角が、離れずに同じ紙へ残っている。まだそれらをどう結ぶかは、誰にも決められなかった。
ヨリクネの耳が、右の脇道へ向いた。
「ここ、ほんの少し先までなら見えるよ」
尾先が触れた細い縁で、紙がぱらりと鳴った。
目次(全8章)
このお話は、Ukrainaviの案内役オリュカと仲間たちが登場する創作の物語です。実在するウクライナの場所や出来事を描いたものではありません。挿絵は、生成画像をもとにした創作イラストです。