第八章 途中からでも

オリュカは黄色いしおりの先を翼でつまんだ。
見出しへ伸ばしかけたところには、まだ薄い影が残る。ここまで来た道は本当に歩きやすかった。ヨリクネが教えた枝も、この紙にあった。だからといって、続きを進む理由にはならない。白い札は今、別の方向を向いている。
「この道は、ここまで」とオリュカ。
「消すの?」とヨリクネ。
「入口に戻る道としては残す。先への案内は、いったん止める」
オリュカはしおりを引き抜かず、枝の手前まで少し縮めた。黄色い先が青い横印のすぐ隣に戻る。入口の青いタブはずっと遠くにあるが、見えなくはなっていない。タブリが段の高さを確かめ、青い横印を今の面の縁に寄せる。
「最初の『ここ』は、あっち。今の『ここ』は、ここ」
「今からでも、選べる?」
ヨリクネの問いに、オリュカはすぐ答えなかった。選べるようにして見せたかった。彼は枝の手前で翼を半分だけ開き、札が向く側の折り返しを見る。そこからも道は続いている。ただ、一枚の折り段が持ち上がり、入口へ戻る線と途中で分かれていた。
シメロが道の脇へ歩く。長い指を折り段の外側へ移し、紙の端を揃えた。今いる場所から折り返しの手前まで、まっすぐ見える。入口へ帰る線も、横の青が動く幅も保たれている。
「ここを支えれば、今の印から見渡せる」
「横の青が通れる?」とタブリ。
シメロは先に手を動かさず、タブリが横印を一歩分滑らせるのを待つ。印は細い縁を通った。
「通れる」
スウネは折り返しの先を照らした。灯は手前にある面まで届き、その向こうの白へは届かない。
「ここは、見える。向こうはまだ白い」
「そっちにも、あとで行けるかな」とヨリクネが言う。すぐに尾を振り、言葉を訂正した。「ううん。ここで分かるのは、見える角まで。先はそのとき確かめよう」
タブリが小さく足踏みをした。真面目な顔なので、ヨリクネは笑ってよいのか迷う。
「その言い方なら、印を置ける」
「よかった。尾をつけて持っていかないようにする」
タブリの目が一瞬だけヨリクネの尾へ動いた。青い小片は、ちゃんと足元にある。オリュカが先に吹き出し、ヨリクネの尾の端も一折り跳ねた。笑ったあとで、みんなの目が白い札へ戻る。札は揺れながらも、折り返しの側へ傾いたままだ。
「今、ここから折り返しの手前へ」とオリュカは言った。「そこでまた、見ようか」
しおりの先が青い横印の隣から伸びる。入口から長い黄色を引き直さない。タブリが横印を拾ってついてくる。入口の青は立てたまま。ヨリクネの尾は見えているひとつの角を指し、スウネは、その横の白いところを白いまま照らしている。シメロが支点を移すたび、直線は進む方向へ通るが、背後のタブを覆わない。
折り返しの手前で、五人は立ち止まった。次の傾きを待つ間、ヨリクネが少し後ろへ戻って、タブリの入口印と現在地の印を見比べた。
「前にぼくが言った『あとで戻れる』は、ここまで考えてなかった」
タブリは顔を上げた。
「あの枝を残したかった。でも、その紙が閉じたあとまで、ぼくの尾で保証できるみたいに言った。次は、見えるところを言う。それから、いっしょに印を置く」
「次もページが変わったら、新しく確かめる」とタブリ。
「うん。約束は、そこからにする」
ヨリクネが尾を引き戻す音と、タブリが印を置くこつという音が、別々にはっきり聞こえた。
白い札が外側からまた傾く。今度は、折り返しの先の見える面へ。オリュカはすぐにしおりを出さず、横の印の高さに目を合わせた。シメロは線の脇に必要な幅を空け、スウネはその先に白い境目があることを声にする。ヨリクネの尾が、既存の角ひとつを静かに指した。
「ここから、もう一歩だけ」とオリュカ。
黄色の先が、今いる場所から一段だけ進む。案内はそこで止まり、五人は本文へ道を譲った。読まれる先へ誰がどこまで進むか、彼らには分からない。白い札が余白へ戻るまで、青い横印を動かす準備だけして待つ。
やがて案内所が畳まれ始めた。タブリは入口の縦の印を最後に拾い、横の印を甲羅へしまう。二枚が指した場所も、読まれた文字も、次の紙には残らない。
紙が閉じる音を聞きながら、オリュカは黄色いしおりを胸元で畳んだ。先端には、まだどちらへも折り目をつけなかった。
目次(全8章)
このお話は、Ukrainaviの案内役オリュカと仲間たちが登場する創作の物語です。実在するウクライナの場所や出来事を描いたものではありません。挿絵は、生成画像をもとにした創作イラストです。