第五章 同じ角の、ちがう先

次に開いた案内所は、折り返しの台の高さまで、前の紙に似ていた。
入口から三歩のところで紙が浅く折れ、右に細い枝がある。枝の先は大きな棚の影へ入り、入口からでは終わりが見えない。ヨリクネには、その角度を知っている気がした。折れた尾の一節が、確かめるより先に開く。
「あった」
タブリが甲羅のタブを揃える音が止まった。オリュカも翼を開かないまま、ヨリクネを見る。
「前の枝と、同じところ?」
「ほら、入口から三歩で右。そこに低い段があって、その先の棚が……」
ヨリクネは軽やかに枝の手前へ走った。声の勢いに比べ、足は角のところで止まる。前の紙で「あとで戻れる」とタブリに言ったのは自分だった。タブリは「あとでまで見える?」と聞いた。それでも言い切った声が耳に残る。今なら約束を拾えるかもしれない。そう思ったからこそ、棚の影へ一歩踏み込む前に、尾の先で紙の端をなぞった。
そこにあるのは、細い注記の縁ではなかった。幅の広い、何も書かれていない棚の裏だ。右の枝は棚をくぐらず、棚の手前で左に折り返していた。光の当たり方が似ていただけで、続く折り目の向きが違う。
ヨリクネはもう一度、尾を伸ばした。紙の下を探っても、枝の続きは現れない。ない線をひらくことは、尾にはできない。
「ここから先に、あの枝はない」
自分の声が、思ったより平らだった。オリュカが隣まで来て止まる。急いで励ます顔をしなかった。
「形は似てたね」
「入口からの数も、同じだった。だから、ここなら約束した先へ戻れると思った」
「この紙の先を、まだ見ていない」とタブリが言った。
「そう。見ていないのに、先に『あった』って言った」
ヨリクネは尾を畳んだ。一折りでは足りず、もう一折り畳む。三歩目の角で待つ仲間へ、あのときの「あとで戻れる」が戻ってくるような気がした。
「ごめん。あの枝には、戻れなかった」
オリュカは青い翼を少し下げた。前の紙が畳まれたとき、彼も黄色いしおりを一段までしか伸ばせなかった。ヨリクネひとりのせいではない。それでも、ヨリクネの言葉まで取り上げたくなくて、少し待つ。
「……うん。あの枝には、もうこの紙から行けない」
ヨリクネは顔を上げた。励ましのために『きっとまた同じ道がある』と言われるより、その言葉の方がよかった。
案内所の入口では、新しい白い札が一枚、折り目に寄りかかっている。前の札は紙が畳まれるとき余白へ戻った。今ここにある札には、「いまは、どこから?」と書かれていた。棚の下を見に来た五人の位置からは、入口の文字がかろうじて読める。
「『どこから』って、入口のことかな」とオリュカ。
「今、いる場所のことかも」とヨリクネ。
シメロは細い瞳で、その間の折り目を測った。「入口から見える直線なら、すぐ揃う」
長い手が紙の縁に触れる。前よりずっと慎重だった。タブリの甲羅が置いた小さな青い角を見て、縁を押さえる位置を変える。入口から棚の手前まで、まっすぐ歩ける幅ができた。
便利な道だった。戻る角も隠れない。それでもオリュカが今いるのは、その道の終わりに近い。棚の裏からすれば、入口は折り返しの向こうだ。札の問いに答えるために、入口まで引き返すべきなのか。今いる場所から始められるのか。オリュカはどちらにも、しおりを伸ばさなかった。
スウネの灯が、棚の手前へ寄る。白い棚を照らしても、中に前の道は現れない。小さな琥珀色の輪が、ヨリクネの畳んだ尾と、目の前の折り返しを一緒に照らした。
「似ているところまでなら、言える。違うところも、言える」
「違う先を面白がっても、いいのかな」とヨリクネ。
「あの先の代わりには、ならないけど」とスウネは言った。
ヨリクネは棚の手前の角を見た。自分が案内したかった場所の代わりに、この紙に本当にある折り目を示す。それは約束をなかったことにするのと違うのだろうか。まだ分からない。尾を一節だけ開き、そこから先には伸ばさない。
「こっちは、今見える枝。前の枝とは別だよ」
「わかった」とオリュカ。「その言い方なら、ついて行ける」
そのとき、入口の白い札がわずかに傾いた。棚の手前にいる五人からは、傾いた向きと先の折り目が重なって見えない。オリュカはすぐ翼を出しかけて、止めた。
ヨリクネが尾を起こす。「さっきの約束を、今度はどう言えばいい?」
タブリが答える前に、シメロの揃えた直線の中ほどで、低く紙が鳴った。五人が立っているところと入口との間に、新しい段差が起きる。折り目の形が変わっただけで、文字や棚が消えたわけではない。けれど、入口から見える道と、今立っている場所から見える道は、もう同じ一本には見えなかった。
タブリは甲羅の一枚を起こしたまま、入口と足元を交互に見た。
「まず、どちらの『ここ』か決めよう」
目次(全8章)
- 第一章札がもう一度傾く
- 第二章いまいる角
- 第三章あとでの約束
- 第四章折り返す線
- 第五章同じ角の、ちがう先
- 第六章ふたつの「ここ」
- 第七章白い縁から話す
- 第八章途中からでも
このお話は、Ukrainaviの案内役オリュカと仲間たちが登場する創作の物語です。実在するウクライナの場所や出来事を描いたものではありません。挿絵は、生成画像をもとにした創作イラストです。