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ウクライナの人・文化・社会・未来を、日本と世界につなぐ

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第六章 ふたつの「ここ」

青い印を二つ並べて置くタブリと、それを囲むオリュカ、ヨリクネ、スウネ、シメロの創作イラスト

段差が起きた場所へ、タブリはゆっくり歩いた。

小さな甲羅には、前の紙で通った角の形が残っている。右へ折れた浅い段。その先で上がる縁。ヨリクネが見つけた枝と、よく似た並びだ。けれどこの紙で右へ折れると、行き着くのは白い棚の手前。タブリは記憶の形を一度なぞってから、甲羅の一番小さなタブを伏せた。

「前の形は覚えている。でも、いまの紙の印じゃない」

「消すの?」とヨリクネ。

「忘れない。ここに置かない」

タブリは入口に立てた青いタブを確かめた。前の紙では、短い仮印と入口の印が閉じる間際に見分けにくくなった。今度は別の小片を横に寝かせ、五人の足元へ置く。

「縦は入口。横は今いる所。みんなが進んだとき、横だけ運ぶ」

ヨリクネが顔を近づける。「ぼくだけ枝を下見したら?」

「動かさない。帰ってきたら、ここから話せる」

ヨリクネは少し笑った。『戻れる』という言葉が出そうになり、いったん飲み込む。

シメロの直線は入口から段の手前まで見渡せる。一段起きた紙を平らにしてしまえば、遠くへもすぐ届くだろう。シメロは長い手を空中に置いたまま、横に寝かせた印を見た。

「その印は、どこまで動かす?」

「今の面を離れるときに」とタブリ。

「なら、動かすための幅を残す」

シメロは線を折り直すのではなく、自分の長い体の支点を入口の右側へ移した。ひと目で見える道の端は保たれ、その脇に、横の印が滑るだけの細い場所が空く。オリュカの黄色いしおりを伸ばしても、青い二枚は隠れなかった。

「こんなふうにできるんだ」とオリュカ。

「支える場所を変えればいい」とシメロ。タブリが横印を一歩滑らせるのを待つ。

シメロはふたつの青の間に指を置き、横印が滑るたびに端を少し持ち上げた。

試しに五人で一段進む。タブリが横の印を拾い、越えた段の足元へ寝かせ直す。入口のタブは元の場所に立つ。ヨリクネは枝をひとつだけ開き、スウネはその先にある白い棚を照らす。オリュカが振り向くと、入口へ帰る方向と、今ここから先を見る方向が、違う線として目に入った。

「戻る道は残る」とタブリ。甲羅の下で、横印がこつ、と鳴った。

言ったところで、横の印の片端が紙の小さな波に飲まれた。タブリは身をかがめ、甲羅の別のタブを差し込もうとする。その頭上でシメロが支点をまた移すと、波は収まる。しかし青い小片を挟んだ縁まで揃えることはできない。

「押さえた方がいい?」とオリュカ。

「いったん、このまま見て」

タブリは印の見えた片端を指す。見失ったところを他の印で埋める前に、今ある紙の形を確かめる。青い小片は、波の裏に半分隠れているだけだった。タブリは寝かせる角度を変え、同じ面のもう少し高いところへ置き直した。

「動く印だから、置き直せる」

「最初の角は動かさない」とヨリクネが復唱する。

「うん。混ぜない」

遠くの青は立ち、足元の青は寝ている。オリュカが振り返ると、ふたつを結ぶ折り目も見えた。

白い札がまた少しだけ傾く。外側からページを開く動きが変わり、細い影が右へ移った。オリュカが札を見たまま一歩を踏みかけると、横の印のそばからスウネの声がした。

「右の、どこまで?」

翼が空中で止まる。右には、ヨリクネの見つけた枝と、何も書かれていない棚の縁が並んでいる。札の傾きだけでは、その先の中身まで言えない。

目次(全8章)
  1. 第一章札がもう一度傾く
  2. 第二章いまいる角
  3. 第三章あとでの約束
  4. 第四章折り返す線
  5. 第五章同じ角の、ちがう先
  6. 第六章ふたつの「ここ」
  7. 第七章白い縁から話す
  8. 第八章途中からでも

このお話は、Ukrainaviの案内役オリュカと仲間たちが登場する創作の物語です。実在するウクライナの場所や出来事を描いたものではありません。挿絵は、生成画像をもとにした創作イラストです。