第七章 白い縁から話す

スウネは、二つの右を同じ光で照らさなかった。
ヨリクネの枝は既存の折り目の端まで続き、その先は見えない。白い棚には、端の線だけがある。棚の中は空いたままで、何かが隠されていると決める形もない。スウネはまず、灯の高さを枝と棚の間まで下げた。
「ここから見えるのは、枝の手前。棚には、まだ線がない」
以前なら、誰かの言葉が終わるのを待ってから小さく付け足したかもしれない。今はオリュカが翼を動かす前に、自分から声を出す。光の輪が広がっても、白い棚に新しい道は浮かばない。
「札は右を向いている」とシメロ。「そのまま、枝の手前までなら一本で通せる」
「手前まで、ね」とヨリクネ。「枝の先がどうなってるかは、ぼくもまだ見てない」
「見ていない先は、いまは案内しない」とオリュカは言った。
ヨリクネが折り畳んだ尾を見て、眉を下げる。その言い方を自分に向けているわけではないと分かっていても、前の約束が胸に触れる。
「あのときも、そこまで言えばよかった。『あとで戻れる』じゃなくて」
「あのときは、戻る印が見えてた」とタブリ。「ページが畳まれる前は」
「でも、畳まれた」
「そうだね」とスウネ。「だから、このページで見えるところを、今、いっしょに言おう」
スウネはヨリクネに明かりを向ける。白い棚を何かで埋めて慰めることはしない。枝があるところだけ、尾を伸ばせるようにする。
「ここまで?」とヨリクネが聞く。
「うん。先は、まだ白い」
ヨリクネの尾は一節だけ開いた。先が見えない所で勢いをつけるより、見えるところを指すことに、意外と長い時間がかかる。シメロは尾が落ち着くのを待ち、直線の根元を今の横印の少し後ろへ置き直した。
「ここが今なら、入口から引き直さなくていい」
「線の行き先は?」とタブリ。
「枝の手前。先へ進む足場が見えたら、そのとき続ける」
入口までの見通しは残る。シメロが指の支点を移すと、横印が線の脇を通り、枝の手前へ届いた。
オリュカは黄色いしおりを持ち上げた。「枝の手前へ、行ってみようか」
その問いは、仲間へも、白い札へも向けられていた。札の向きはまだ右。オリュカは傾きに合わせ、見えている面の端までしおりを置いた。タブリが横印を拾い、五人はゆっくり進む。
枝の手前から見ると、棚の白は少し違って見えた。奥行きがあるように見えた場所は、重なった二枚の間の細い余白だった。枝の先は、その余白へ消えるのではなく、そこから左へ回って見出しの回廊に戻る。
「道があった」とヨリクネ。
スウネの灯が左の折り目へ落ちる。「ここには、あった」
「白い棚の中には?」
「まだ、ない」
ヨリクネはうなずく。別のページの枝を取り戻したわけではない。けれど、今の道を勝手に過去の枝と重ねずに歩いたから、ここにある左への折り返しを自分の目で見られた。
タブリが横印を枝の手前に寝かせる。入口タブは折り返しの向こうで、小さく立っている。シメロの線が見出しへ伸びる前に、オリュカは札の向きを確かめた。
札が、こちらへ傾き直していた。
誰も札に触れていない。ページの外側から加わる重みが、さっきより手前へ移ったのだ。案内の途中で、向きが変わった。見出しへ続ける道が見えたからといって、そこへ進む合図になったわけではない。
シメロは伸ばしかけた指を止め、今の印を見た。「まっすぐ進める。けれど、ここから戻る方が見えている」
ヨリクネも尾を畳んだ。「この枝を選んだあとでも、向きが変わるんだね」
「変わっていい」とスウネが言った。その声は、今度は誰にも遮られなかった。
オリュカは、見出しへ伸ばしかけた黄色い先をそっと持ち上げる。急いで反対へ向けない。タブリの横印が今の場所で見えることを確かめる。
「一度、ここから話し直そう」
目次(全8章)
- 第一章札がもう一度傾く
- 第二章いまいる角
- 第三章あとでの約束
- 第四章折り返す線
- 第五章同じ角の、ちがう先
- 第六章ふたつの「ここ」
- 第七章白い縁から話す
- 第八章途中からでも
このお話は、Ukrainaviの案内役オリュカと仲間たちが登場する創作の物語です。実在するウクライナの場所や出来事を描いたものではありません。挿絵は、生成画像をもとにした創作イラストです。