国産品を買うと最大15%が戻る、ウクライナの「ナショナル・キャッシュバック」
ウクライナでは2024年9月から、国内でつくられた商品を買うと代金の一部を国が戻す「ナショナル・キャッシュバック」が動いています。還元率は一律10%から、輸入品の割合に応じた5%と15%に変わり、2026年5月には第2段階に入りました。内閣決定の条文と経済省の発表から、仕組みと使い道、利用の規模をまとめます。
オリュカのひとこと
還元率が5%と15%に分かれるのは、何で決まるのでしょう。輸入品の割合との関係を、条文から見てみましょう。
ウクライナでは2024年9月2日から、国内でつくられた商品を買うと、代金の一部を国が買い手に戻す制度が動いています。「ナショナル・キャッシュバック」(Національний кешбек)です。戻ったお金は専用のカードに入り、光熱費や薬、ウクライナ製の食品などの支払いに使えます。
制度はこの2年で何度も作り替えられ、2026年5月からは内閣の新しい決定のもとで第2段階に入りました。以下は、2026年9月24日時点でウクライナ最高会議の法令データベースに載っている条文と、経済・環境・農業省(以下、経済省)などの発表にもとづきます。
始まりは2024年8月の内閣決定
根拠は、2024年8月20日の内閣決定第952号です。ウクライナ製品の買い手に国がお金を支給する「実験プロジェクト」を、「全ウクライナ経済プラットフォーム『メイド・イン・ウクライナ』(Зроблено в Україні)」の枠組みで行うと定め、支給は2024年9月2日に始まりました。当初の名前は「キャッシュバック『メイド・イン・ウクライナ』」で、同年9月24日の決定第1122号で「ナショナル・キャッシュバック」に改められています。
仕組みは次のとおりです。買い手は、制度に参加する銀行で専用の口座(カード)を開き、ふだん使うカードの取引の情報を制度に渡すことに同意します。そのうえで電子政府アプリ「Дія」(Дія の電子パスポートの記事も参照)で、その専用口座を受け取り先に選びます。参加している店でウクライナ製品をカードで買うと、税務当局に送られる電子レシートの商品情報と、銀行の決済の情報が突き合わされ、翌月に還元額が計算されます。
対象になるのは、製造者が登録した商品です。条文は、バーコード(EAN-13)が482で始まる商品や、ウクライナの出版社の書籍(ISBNが978-617または978-966で始まるもの)などを挙げています。酒・たばこなど物品税の対象品は含まれません(ワインなど一部の例外を除く)。店の側は、簡易課税制度ではなく一般の課税制度で事業をしていることが参加の条件です。
2024年8月の最初の条文では、還元率は一律10%、1人あたりの還元額は1か月に2フリヴニャ以上、3,000フリヴニャまででした。
戻ったお金の使い道
還元されたお金は現金で引き出せず、ほかの口座にも移せません。何に使えるかは条文で決まっていて、その範囲は変わってきました。
- 2024年8月の条文:加盟店の業種の番号で指定されたサービス(通信、公共料金、飲食店など)の支払い、軍事国債の購入、ロシアの武力侵略の撃退や国防・復興のための支援
- 2025年11月22日から:公共料金(電気・ガス・暖房・水道)、郵便、ウクライナ製の食品、ウクライナ製の薬と医療機器、書籍と印刷物、慈善団体への寄付
2025年11月の変更について経済省は、全国民に1,000フリヴニャを支給する国の「冬の支援」も同じカードに振り込まれるため、二つの制度の使い道をそろえたと説明しています。国の支援のお金を「基本的で必要な支出」に向けるためだとしています。
一律10%から、5%と15%へ
2026年2月16日の内閣決定第234号で、3月1日の買い物から還元率が変わりました。商品の分類ごとに、売れた商品に占める輸入品の割合を計算し、35%未満の分類は5%、35%以上の分類は15%を還元します。輸入品との競争が激しい分類で国産品を選んでもらうためで、制度全体の予算は増やさない、と経済省は説明しています。
経済省の2026年2月の発表では、15%になるのは化粧品、洗剤、家庭用品、修繕・建築の資材、衣類、靴などの非食品と、ハードチーズ・ソフトチーズ、一部のパスタや穀物です。5%は、菓子、清涼飲料、肉、乳製品(チーズを除く)、パン、野菜・果物など食品の大半と、薬局の商品などです。どの分類がどちらになるかは経済省の命令で決まり、月1回まで更新できます。
3月には、燃料の還元も加わりました。2026年3月18日の決定第342号によるもので、ガソリン10%、軽油15%、液化石油ガス5%です。経済省は、中東情勢の悪化による世界の石油製品の急な値上がりへの一時的な対策だったとし、3月20日から5月31日までに約230万人が使ったと発表しています。
| 買い物の時期 | 還元率 | 根拠 |
|---|---|---|
| 2024年9月2日〜2026年2月28日 | 一律10% | 決定第952号 |
| 2026年3月1日〜 | 5%または15%(商品の分類による) | 決定第234号による改正、決定第559号 |
| 2026年3月20日〜5月31日(燃料) | ガソリン10%、軽油15%、液化石油ガス5% | 決定第342号による改正、決定第559号 |
2026年5月からの第2段階
2026年4月29日、内閣は決定第559号で、「ナショナル・キャッシュバック」をあらためて実験プロジェクトとして定めました。期間は2026年5月1日から戒厳令が続くあいだ、ただし2028年4月30日までです。還元率の5%と15%、1か月3,000フリヴニャの上限は変わらず、それまでの参加者・店・製造者は自動的に引き継がれました。条文は、対象を18歳以上のウクライナ国民としています。
使える期限は、二つの段階で分かれています。2026年4月までの買い物で受け取ったお金は、当初6月30日までに使うことになっていましたが、7月1日の決定第838号で7月31日まで延び、使い残しは国の予算に戻されました。5月以降の買い物の分は2026年8月1日から使え、期限は戒厳令が終わった月の末日、遅くとも2028年4月30日です。5月分と6月分は、8月にまとめて振り込まれることになりました。
条文は、支払いが国の予算の枠に左右されることも定めています。12月分の還元は翌年2月に払うとされ、翌年の予算にこの制度のお金がなければ、その年の1月1日から還元の計算を止め、12月分も払わないという規定です。還元の計算は2028年3月1日で終わります。経済省は2026年3月の発表で、還元されたお金には税金がかからず、補助金や優遇措置を決めるときにも数えないとしています。
数字で見る利用の広がり
利用の規模は、経済省などが時期ごとに発表しています。いずれも発表した機関の数字です。
- 2025年1月16日時点(経済省):還元額の累計10億フリヴニャ、うち支払い済み3億8,840万フリヴニャ。アクティブな利用者は約470万人、対象の商品は35万5,443品目。参加する銀行は開始時の10行から20行に増えた
- 2025年11月6日(経済省):8月分の支払いが遅れていると説明。参加者が想定より多く、承認の手続きに時間がかかったためとし、8月分は5億900万フリヴニャで過去最大になるとした。参加者は730万人超、計算された還元額の累計は50億フリヴニャ超
- 2026年2月16日(経済省。オレクシー・ソボレフ経済相の発言):アクティブな利用者490万人、制度の対象商品の購入額は累計630億フリヴニャ超
- 2026年3月1日(経済省):支払い済みの還元額は累計67億フリヴニャ超
- 2026年6月30日(デジタル変革省):毎月500万人以上が支払いを受けている。参加する販売者は約1,500、製造者は2,000超、商品は42万2,000品目超
同じ時期でも、「参加者」と「アクティブな利用者」では数が大きく違います。2025年11月の「参加者750万人超」と、2026年2月の「アクティブな利用者490万人」は、数え方の違う数字です。発表を比べるときは、どちらの数かに気をつける必要があります。
「メイド・イン・ウクライナ」のほかの支援策
キャッシュバックは、経済省が「メイド・イン・ウクライナ」の政策としてまとめている支援策の一つです。経済省はこの政策を、大統領が始めたもので、生産者への投資を呼び込み、付加価値の高い製品を増やし、国産品の需要を後押しするものだと説明しています。同省のページが挙げる主な支援策には、次のようなものがあります(2026年9月時点)。
- 中小企業向けの融資「5-7-9%」
- ウクライナ製の農業機械・設備を買った農業者への、価格の最大25%の補償(国産化率が60%を超える機械が対象)
- ウクライナ製のエネルギー・建設・車両・特殊機器の購入費の15%の補償(国産化率40%以上。決定第952号にもとづく実験プロジェクト)
- 加工業の企業への助成金(最大800万フリヴニャ、事業費の最大50%)、起業・事業拡大の助成金、退役軍人とその配偶者への事業の助成金
- 公共調達での国産比率の要件(都市交通、公共事業用の車両、鉄道車両、エネルギー用の機械で20%以上)
融資や助成金が作り手の側を支えるのに対し、キャッシュバックは買い手の側から国産品の需要を増やそうとする仕組みです。融資の条件は中小企業融資「5-7-9」の記事で扱っています。
オリュカのひとこと
国外に住んでいても、このキャッシュバックは受け取れるのでしょうか。最後の節で条件を確かめましょう。
国外に住む人は使えるか
条文の要件から見ると、還元の対象は、ウクライナで登録された参加店での、ウクライナの電子レシートの仕組みに乗る買い物です。還元されたお金を使える先も、ウクライナの銀行が決済を受け持つ国内の加盟店に限られます。日本に住むウクライナ国民が日本で買い物をしても、還元の対象にはなりません。すでに専用口座を持っている人が、国内の家族の公共料金の支払いなどに使えるかどうかは条文だけでは判断できないため、口座のある銀行か経済省に問い合わせてください。
出典・参考資料
- Постанова КМУ від 20.08.2024 № 952 «Про реалізацію експериментальних проектів у рамках Всеукраїнської економічної платформи “Зроблено в Україні”»(2026年7月3日の版:支給開始2024年9月2日、還元率10%→3月1日から5%・15%(決定第234号)、燃料の還元(決定第342号)、上限3,000・燃料1,000フリヴニャ、使い道の変遷と2026年7月31日の期限(決定第1510号・第838号)、15%補償の実験プロジェクトと国産化率40%、改正の一覧)
発行:Кабінет Міністрів України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24 - Постанова КМУ від 20.08.2024 № 952(2024年8月20日の原版:当初の名称、還元率10%、上限2〜3,000フリヴニャ、当初の使い道(業種コードのサービス、軍事国債、国防・復興の支援))
発行:Кабінет Міністрів України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24 - Постанова КМУ від 24.09.2024 № 1122(名称を「Національний кешбек」に改めた改正)
発行:Кабінет Міністрів України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24 - Постанова КМУ від 29.04.2026 № 559 «Про стимулювання розвитку виробництва українських товарів та послуг»(2026年7月2日の版:期間、18歳以上の国民、対象商品のバーコード、物品税対象品の除外、店の課税制度の条件、5%・15%と35%の基準、燃料の上限500フリヴニャ、使用期限、予算がない場合の停止、2028年3月1日の終了、使える加盟店の業種)
発行:Кабінет Міністрів України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24 - Українці накопичили 1 млрд грн Національного кешбеку за час дії програми(2025年1月16日時点の数字)
発行:Міністерство економіки України 確認日:2026-09-24 - «Національний кешбек»: виплати за програмою за серпень та вересень(2025年11月6日。支払いの遅れの説明、8月分5億900万、参加者730万人超、累計50億超)
発行:Міністерство економіки, довкілля та сільського господарства України 確認日:2026-09-24 - «Національний кешбек» змінює категорії витрачання коштів(2025年11月22日。使い道の変更と冬の支援との関係、参加者750万人超、支払い40億超)
発行:Міністерство економіки, довкілля та сільського господарства України 確認日:2026-09-24 - Уряд оновив програму «Національний кешбек»: з 1 березня запрацює диференційований кешбек 5% і 15%(2026年2月16日。分類の例、予算を増やさない、アクティブ利用者490万人、購入額630億超)
発行:Міністерство економіки, довкілля та сільського господарства України 確認日:2026-09-24 - З 1 березня в Україні запрацював оновлений «Національний кешбек»(2026年3月1日。支払い累計67億超、非課税・補助金の算定に含めない)
発行:Міністерство економіки, довкілля та сільського господарства України 確認日:2026-09-24 - Кешбек на пальне завершився: програма підтримала майже 2,3 млн українців(2026年5月31日。燃料の還元の期間・目的・利用者数)
発行:Міністерство економіки, довкілля та сільського господарства України 確認日:2026-09-24 - Квітневий Національний кешбек зарахується з 3 липня, а термін для витрат продовжать на місяць(2026年6月30日。期限の延長、毎月500万人超、販売者・製造者・商品の数)
発行:Міністерство цифрової трансформації України 確認日:2026-09-24 - Зроблено в Україні(政策の目的、支援策の一覧:5-7-9%、農業機械25%補償、15%補償、加工業の助成金、公共調達の国産比率20%)
発行:Міністерство економіки, довкілля та сільського господарства України 確認日:2026-09-24
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