花輪を川に流し、火を跳び越す夏至の祭り「イヴァン・クパーラ」
ウクライナの夏至の祭り「イヴァン・クパーラ」は、キリスト教以前の儀礼が洗礼者ヨハネの祝日と重なって残ったものです。旧暦では7月の祭りでしたが、2023年の暦の改革で教会の祝日は6月24日に移りました。事典が記録する花輪や火の習俗、歌、ソ連の時代の変化をまとめます。
オリュカのひとこと
花輪や火のほかに、夏至の夜にはどんな習俗が記録されているのでしょう。資料が伝える夜の過ごし方を見てみましょう。
夏至のころの夜、若者たちが川辺に集まって火を焚き、その上を跳び越える。娘たちは摘んだ花で編んだ花輪を頭にのせ、最後に水へ流して、流れていく向きで恋の行方を占う。ウクライナの「イヴァン・クパーラ(Івана Купала)」は、こうした習俗で知られる夏の祭りです。
ウクライナ国立科学アカデミーなどが編む『現代ウクライナ百科事典』(ЕСУ)の「イヴァナ・クパーラ」の項は、この祭りを「夏の暦の祭り」と呼び、その起源はキリスト教以前の夏至の時期の儀礼と結びつけられている、と書いています。名前は、大地の実りの異教の神「クパーラ」から来たとする説明が最も多いとされ、「クパーラ」「クパイラ」「イヴァンの日」とも呼ばれます。
洗礼者ヨハネの日と重なった祭り
キリスト教が広まると、教会はこの祭りを抑えようとしました。カナダのアルバータ大学ウクライナ研究所が編む『Internet Encyclopedia of Ukraine』(IEU)の「Kupalo festival」の項によれば、教会は代わりに洗礼者ヨハネの誕生の祝日(6月24日)を置こうとしましたが、習俗は民間の儀礼として残り、「イヴァン(ヨハネ)・クパーラ」の祭りになりました。ЕСУも、クパーラの儀礼は洗礼者ヨハネの誕生の祝日と一つになった、と説明しています。
日付には注意がいります。ЕСУによれば、この祝日はユリウス暦(旧暦)で6月24日にあたり、20〜21世紀には、いまの民間の暦(グレゴリオ暦)の7月7日にあたります。儀礼は伝統的に前夜から始まるため、旧暦で祝っていたあいだは、民間の暦で7月6日から7日にかけての夜が祭りの夜でした。
ЕСУは続けて、2023年の暦の改革のあと、ウクライナ正教会(ПЦУ)とウクライナ・ギリシャ・カトリック教会(УГКЦ)は洗礼者ヨハネの誕生を6月24日に祝っている、と書いています。両教会は2023年9月1日から、日付の決まった祝日を新しい暦で祝うことにしました。クリスマスが1月7日から12月25日へ移ったのと同じ改革で、経緯はウクライナのクリスマスは1月7日から12月25日へにまとめています。
なお、イヴァン・クパーラは国の祝日ではありません。労働法典第73条が定める祝日と、労働を休む宗教上の祝日の一覧に、この日は入っていません。
オリュカのひとこと
「クパーラ」という名前は、もともと何を指していたのでしょう。記録に残る古い呼び名をたどってみましょう。
記録に残る古い名前
IEUによれば、この祭りについての書かれた記録は11世紀からあり、「クパーラ」という語は『イパーチー年代記』の1262年の条に初めて出てきます。ЕСУも、クパーラの時期についての最も古い記述の一つを、ハールィチ・ヴォルィーニ年代記の1262年の条に挙げています。ЕСУによれば、ウクライナの地での祭りを詳しく描いた最初の記録は17世紀初めの『フスティン年代記』で、そこでは祭りが異教のものとして扱われています。
教会と世俗の権力は、たびたび祭りを禁じようとしました。IEUは例として、ヘーチマンのイヴァン・スコロパツキーが1719年に祭りを禁じる布告を出したことを挙げ、同じような布告がその後も繰り返されたものの、伝統は古く根深く、消えなかったと書いています。
資料が伝える夜の過ごし方
ЕСУは、祭りの儀礼を地域ごとの違いとともに詳しく記録しています。ここに挙げるのは、ЕСУが伝統的な習俗として書いているもので、いまどの家や村でも同じように行われているという意味ではありません。
- 花輪:娘たちは日の出前に摘んだ花で、頭にのせる花輪と、祭りの木を飾る花輪を編んだ。タチジャコウソウ、ラビッジ、マリーゴールド、ヤグルマギクなどに、魔除けとしてイラクサやニガヨモギを編み込んだ
- 祭りの木:多くはヤナギ、ところによってサクランボ、北のポリーシャではマツ、南東ではシラカバを使った。リボンや花輪で飾り、川や池の岸、丘、村はずれの野に立てた。呼び名も「クパイロ」「クパイリツャ」「マレーナ」などと地域で違う
- 人形:チェルニーヒウ、スームィ、ポルタヴァの一部の地域では、娘たちがわらの人形「クパーロ」をつくり、祭りのあとに燃やすか水に沈めた
- 火:火を跳び越すのは祭りに欠かせない要素で、悪いものからの清めを表した。二人が手を離さずに跳べば幸せな結婚ができる、服が焦げるのは結婚生活に良くないしるし、と信じられた
- 花輪流し:娘たちはろうそくをともした花輪を水に流し、恋人の住む方へ流れれば結婚のしるし、その場で回れば気のない相手、沈めば悪いしるしと占った
ЕСУは、この祭りでは女性と娘たちが中心的な役割を担ったと書いています。夜になると娘たちは飾った木のまわりに座って歌い、その歌の中心は恋と幸せな結婚への願いでした。
よく知られているのが、クパーラの夜にだけシダの花が咲くという言い伝えです。ЕСУによれば、その花は悪い霊に守られていてほとんど誰も見たことがないが、手に入れた者はすべてを知り、豊かで幸せになり、鳥や獣の言葉が分かるようになると信じられていました。IEUも、この夜だけは大地が秘密を明かし、宝の埋まった場所にシダの花を咲かせると信じられていた、と書いています。
IEUはほかに、太陽の力が夏至を過ぎて弱まっていくことの象徴として、乾いた草やわらを巻いた車輪に火をつけて丘から転がす地域があったこと、この夜に摘んだ薬草には病を治す力があると考えられ、ヨハネの祝日に教会でその草を祝福してもらったことも記しています。
クパーラの歌
祭りには決まった歌がありました。ЕСУの「クパーラの歌」の項は、これを夏至の日と、そのあとに続く「ペトロの斎(ものいみ)」の時期に歌われる民謡と説明し、旧暦では6月23日から24日、新暦では7月6日から7日にかけての夜の祭りに添えて歌われたものだとしています。
同じ項目によれば、キリスト教の影響で、歌の古いリフレイン「クパーラ」「クパイロ」は「イヴァンのクパーラ」などに置き換えられました。いま歌われているクパーラの歌の多くは、民俗学者の見方では祭りの神話的な土台とのつながりが薄く、何よりもまず恋を歌う叙情的な歌だとされています。
祭りは文学や音楽の題材にもなりました。IEUは、ゴーゴリ、ミハイロ・スタールィツィクィイ、レーシャ・ウクラインカ、オリハ・コビリャンシカ、ミハイロ・コツュビンシキーの作品、ムィコラ・ルィセンコらの音楽を挙げています。レーシャ・ウクラインカは1894年に、ヴォルィーニ地方のクパーラを記録した文章も発表しています(IEUの参考文献による)。
ソ連の時代と、いま
20世紀には、祭りの姿が大きく変わりました。ЕСУは、伝統的なクパーラの儀礼が、ソ連の反宗教政策と伝統的な暮らしの破壊によって大きく狭められたと書いています。
IEUによれば、ソ連は祭りを別の形で取り込もうともしました。1958年、ウクライナ・ソビエト社会主義共和国の最高会議は6月の最後の日曜日を「ソビエト青年の日」とし、その祝いに伝統的な儀礼を組み込もうとしましたが、つくられた性格のため広くは受け入れられなかった、とIEUは書いています。
ЕСУ(2023年12月改訂)は現在について、祭りはウクライナの大半の州で知られていると書いています。カルパチア地方ではいくらか形が薄れている一方、ポリーシャ、ポジーリャ、中部では地域ごとの違いが豊かに残っているとされます。そのうえでЕСУは、いまイヴァン・クパーラに行われる演劇のような催しは儀礼を舞台で再現する試みだ、とも書き添えています。
火と水と花で夏至の夜を過ごす祭りは、教会に抑えられ、ヘーチマンに禁じられ、ソ連に作り替えられようとしながら、11世紀から記録に残ってきました。
出典・参考資料
- Івана Купала(執筆:В. К. Борисенко。ЕСУ第11巻、2023年12月改訂。起源と名称、ヨハネの誕生の祝日との結合、ユリウス暦6月24日=グレゴリオ暦7月7日、2023年の暦の改革後のПЦУ・УГКЦ、1262年の年代記、フスティン年代記、20世紀の縮小、花輪・祭りの木・人形・火・花輪流し・シダの花、現在の分布)
発行:Енциклопедія Сучасної України(ウクライナ国立科学アカデミー百科事典研究所・シェウチェンコ学術協会) 確認日:2026-09-24 - Купальські пісні(執筆:І. В. Клименко。ЕСУ第16巻、2016年12月改訂。旧暦6月23〜24日・新暦7月6〜7日の夜、リフレインの置き換え、恋の叙情歌)
発行:Енциклопедія Сучасної України 確認日:2026-09-24 - Kupalo festival(執筆:Mykola Mushynka。ヨハネの祝日〈6月24日〉への置き換え、シダの花、車輪、薬草の祝福、11世紀の記録と『イパーチー年代記』1262年、1719年のスコロパツキーの布告、文学・音楽の題材、1894年のレーシャ・ウクラインカ「Kupala na Volyni」、1958年の「ソビエト青年の日」)
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所=CIUS) 確認日:2026-09-24 - Постанови Архієрейського Собору від 24 травня 2023 р.(新ユリウス暦への移行、2023年9月1日から)
発行:Православна Церква України(pomisna.info) 確認日:2026-09-24 - Календарна реформа УГКЦ в Україні: коротко про головне(日付の決まった祝日から新暦へ)
発行:Синод Єпископів УГКЦ(synod.ugcc.ua) 確認日:2026-09-24 - Кодекс законів про працю України 第73条(2026年9月24日時点の版。祝日と宗教上の休日の一覧、戒厳令期間中の不適用の注記)
発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
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