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文化・歴史/解説

ウクライナのクリスマスは1月7日から12月25日へ

ウクライナでは2023年7月の法律で、国の祝日の一覧から1月7日のクリスマスが外れ、12月25日だけが残りました。同じ年の9月には、二つの大きな教会が12月25日に祝う暦へ移っています。法律、教会の暦、家庭の祝い方を分けて、聖夜の12品やコリャードカまで説明します。

陶器の鉢に盛られた穀物とケシの実の料理クチャー
陶器の鉢に盛られたクチャー(2023年1月撮影)。小麦または大麦の粒とすりつぶしたケシの実に蜂蜜のソースを合わせる儀礼の料理 写真:Віщун/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0

ウクライナの暦では、長いあいだ1月7日がクリスマスでした。2023年の夏、その日付が国の祝日の一覧から外れ、12月25日だけが残りました。同じ年の9月1日には、国内の二つの大きな教会が、クリスマスを12月25日に祝う暦へ移っています。

ただ、「ウクライナのクリスマスが12月25日になった」と一言で言い切ると、見落とすものがあります。国の祝日を決めたのは法律で、礼拝の日付を決めたのはそれぞれの教会です。そして、家でどう祝うかを決めるのは、それぞれの家庭です。この三つは別々に動いています。

法律が変えたのは「祝日の一覧」

ウクライナの祝日は、労働法典(Кодекс законів про працю України)第73条に並んでいます。2023年1月1日時点の条文を見ると、「1月7日と12月25日 ── キリスト降誕祭(Різдво Христове)」と書かれていました。つまり、この時点ですでに12月25日も祝日で、1月7日と並んでいたことになります。

これを改めたのが、ウクライナ最高会議(ヴェルホーヴナ・ラーダ)が2023年7月14日に採択した法律第3258-IX号「労働法典第73条の改正について」です。改正の中身は短く、次のとおりです。

  • 祝日の一覧から「1月7日と12月25日 ── キリスト降誕祭」の行を削り、「12月25日 ── キリスト降誕祭」を加える
  • 「労働を行わない宗教上の祝日」の一覧でも同じく、1月7日を含む行を削り、12月25日を加える
  • ウクライナ国家の日を7月15日に、ウクライナの防衛者の日を10月1日に改める

法律は2023年7月29日に、公式の掲載紙の一つである最高会議の新聞『ゴロス・ウクライーヌィ(Голос України)』に掲載され、翌30日に施行されました。法案の番号は第9431号です。

クリスマスの日付と同時に、ほかの記念日も動いている点は見ておく価値があります。この法律は、クリスマスだけを移した単独の措置ではなく、国の記念日をまとめて組み替える改正の一部でした。

もう一つ、条文には注記があります。第73条の冒頭に、戒厳令の期間中はこの条の規定を適用しない、と書かれています(2022年3月15日の法律第2136-IX号による)。ロシアによる全面侵攻のあと戒厳令が続いているあいだは、条文の上で祝日とされていても、休日として扱われるとは限りません。

教会が変えたのは「礼拝の暦」

法律が祝日の一覧を変えても、教会が礼拝を行う日は教会自身が決めます。ここで出てくるのが「新ユリウス暦」です。

ユリウス暦(旧暦)の12月25日は、いま使われている民間の暦(グレゴリオ暦)では1月7日にあたります。ウクライナ正教会(ПЦУ、以下OCU)の主教会議の決定文は、ユリウス暦の日付が天文上の現象から少しずつずれ、20世紀と21世紀には春分との差が13日になっていると説明しています。これが、旧暦のクリスマスが1月7日に来る理由です。

新ユリウス暦は、1923年にコンスタンティノープルで開かれた正教会の会議で承認された暦で、セルビアの天文学者ミルティン・ミランコヴィチの仕事にもとづきます。この暦に移ると、クリスマスのような日付の決まった祝日は、民間の暦の同じ日付(クリスマスなら12月25日)に祝われることになります。ただし、以下の二つの教会はいずれも、復活祭(パスハ)の日付の計算は従来の方式のまま残しました。

ウクライナ正教会(OCU)

OCUの主教会議は2023年5月24日、新ユリウス暦への移行を決めました。決定文の要点は次のとおりです。

  • 移行は2023年9月1日、教会の新しい年の始まりから
  • 復活祭の計算(伝統的なパスハリア)は変えない
  • ユリウス暦を続けたい教区や修道院には、教区総会などで構成員の3分の2以上の賛成があれば、それを認める

決定文は経緯にも触れています。2022年10月の聖シノドの決定で、希望する教区には2022年12月25日にクリスマスの礼拝を行うことが認められました。2023年2月の時点では、103の教区に新ユリウス暦への移行が認められています。決定文はまた、ユリウス暦がかつてはウクライナの教会文化の目印と受け止められていたのに対し、いまでは多くの人にロシアの教会文化と結びついたものと受け止められている、と書いています。

ウクライナ・ギリシャ・カトリック教会(УГКЦ、以下UGCC)

UGCCは、OCUより先に決めています。ウクライナにおけるUGCCの主教シノドは、2023年2月1日から2日にかけてブリュホヴィチ(リヴィウ市内)で開かれた第93回会期で、2023年9月1日から「動かない祝日」を新暦で祝うこと、復活祭の計算は現行のまま残すことを決めました。

新しい暦では、クリスマスは12月25日、神現祭(Богоявлення)は1月6日になります。まだ準備のできていない教区は、主教の許可があれば2025年9月まで旧暦で祝ってよいとされました(旧暦ではクリスマスが1月7日、神現祭が1月19日)。UGCCの首長スヴャトスラウ・シェウチュークは、事前の聞き取りで支持が「ほぼ90%」に達したと述べています。これは教会自身による説明で、独立した調査の数字ではありません。

日付出来事
2023年1月1日時点労働法典第73条の祝日は「1月7日と12月25日 ── キリスト降誕祭」
2023年2月1〜2日UGCC主教シノドが、9月1日からの新暦への移行を決定
2023年5月24日OCU主教会議が、9月1日からの新ユリウス暦への移行を決定
2023年7月14日最高会議が法律第3258-IX号を採択
2023年7月30日同法が施行。祝日の一覧から1月7日が外れ、12月25日が残る
2023年9月1日OCUとUGCCが新しい暦へ移行
2025年9月1日UGCCが旧暦を認めた移行期間の期限
出典は記事末尾の一覧(最高会議の法令データベース、OCUとUGCCの公式発表)。

ここで挙げたのはOCUとUGCCの二つの教会の決定です。ウクライナにはほかにも教会や宗教共同体があり、OCUの中でも旧暦を続けることが認められています。「ウクライナの教会はすべて12月25日に移った」とは言えません。

聖夜(スヴャト・ヴェチル)と12品の料理

日付が変わっても、クリスマスの中身まで一斉に変わったわけではありません。カナダのアルバータ大学ウクライナ研究所が編む『Internet Encyclopedia of Ukraine』(IEU)の「Christmas」の項は、ウクライナのクリスマスで最も興味深いのは前夜、聖夜(Святвечір/スヴャト・ヴェチル)だと書いています。

同じ項目によれば、聖夜の「聖なる夕食」は、肉と乳製品を使わない12品の儀礼的な料理でできています。ただし、料理の順番も、料理そのものも、どこでも同じではありません。IEUは「それぞれの地域が自分たちの伝統を守っている」と書き、例としてカルパチア山地のフツル地方の献立を挙げています。

豆、魚、じゃがいもの茹で団子(ピロヒまたはヴァレニキ)、ロールキャベツ(ホルブツィ)、ジョバウカまたはクチャ、にんにくであえたマッシュポテト、果物の煮込み、ロハザ(油か蜂蜜であえたえんどう豆)、プラムと豆、けしの実のピロヒ、ザワークラウトの汁と挽き割り穀物のスープ、きびの粥、茹でたとうもろこし

Internet Encyclopedia of Ukraine「Christmas」項のフツル地方の例(英語からの訳。料理名の一部はカナ表記のみ)

この例では、数えると13の料理名が並んでいます。「12品」は決まりというより、それぞれの土地で数え方と中身が違う目安として受け取るほうがよさそうです。

料理の中でもよく名前が挙がるのが、クチャ(кутя)です。IEUの説明では、丸ごとの小麦の粒を煮て、蜂蜜と挽いたけしの実を合わせたものです。

IEUは、かつての聖夜の進め方も書いています。昼間は夕食の準備以外の仕事を止め、家の主人が脱穀場から干し草と穀物の束を持ち帰る。穀物の束は「ディドゥフ(дідух、じいさまの意)」と呼ばれ、イコンの下の上座に置かれる。食卓の下と上に干し草を敷き、四隅ににんにくを置く。クチャが出されると、主人が最初のひとさじを取り、窓を開けるか庭へ出て「霜よ、クチャを食べに来い」と呼びかける。食後には、亡くなった家族のために各料理を三さじずつ別の皿に取り分けておく ── という流れです。

刺繍のリシニクと聖像画の下、家の上座(покуть)に飾られた麦の束ディドゥフ
ディドゥフ(2025年7月撮影)。聖夜に主人が持ち帰る麦の束で、イコンの下の上座に置かれる(Commonsの記載による) 写真:Berser25/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0

ここで注意がいるのは、IEUがこれを「以前は(in former days)」の型として書いていることです。同じ項目は、ソビエト期のウクライナではクリスマスの儀礼の多くが消え、独立後に西部の州を中心に多くが復活した、とも書いています。この項目の最終改訂は2005年です。いまの家庭で、どの料理を何品並べ、どの儀礼を残しているかは、家庭ごと、地域ごとに違うと考えるのが自然です。12品という数を守る家もあれば、そうでない家もあるはずで、この記事ではその割合を示す資料を見つけられていません。

コリャードカ ── クリスマスに歌われる歌

クリスマスのもう一つの柱が、家々を回って歌うコリャードカ(колядка、複数形はコリャードキ)です。IEUの「Carols」の項は、ウクライナの冬の祝い歌を二つに分け、コリャードキはクリスマスに、シチェドリウキ(щедрівки)は新年の前夜に歌われると説明しています。

同じ項目によれば、どちらの歌にも太陽信仰や祖先崇拝など古い層が残り、歌詞は農の暮らしを描いて豊作や健康を願います。そこへ時代が下るにつれて、キリストの降誕や羊飼い、東方の三博士、ヘロデといった聖書の主題が重なりました。IEUは、よく知られたコリャードカとして「Бог предвічний(永遠なる神)」「Нова радість стала(新しい喜びが来た)」などを挙げています。

IEUの「Christmas」の項は、歌い歩きに人形劇のヴェルテプ(вертеп)や、ヤギに扮する民俗劇「コザ」、手づくりの星がともなうことがあるとも書いています。宗教上の祝いは三日間続き、礼拝、歌い歩き、親類や知人の訪問で過ごすとされます。

日本でもよく知られる「キャロル・オブ・ザ・ベルズ」の旋律は、クリスマスのコリャードカではなく、新年のシチェドリウカ『シチェドリク』から来ています。その経緯は『シチェドリク』から「キャロル・オブ・ザ・ベルズ」へで詳しく書いています。

日付は動いても、祝い方は一つではない

整理すると、2023年に起きたことは三つの層に分かれます。国の祝日の一覧から1月7日が外れたこと(法律)。二つの大きな教会が、12月25日にクリスマスの礼拝を行う暦へ移ったこと(教会の決定)。そして、それぞれの家庭がいつ、どう祝うか(これは法律も教会の決定も一律には決めていません)。

IEUの「Christmas」の項は、クリスマスはもともと東方では1月6日に神現祭とともに祝われ、4世紀半ばにローマで独立した祝日として12月25日に置かれた、と書いています。クリスマスの日付が動いたのは、2023年が初めてではありません。

ウクライナ出身の知人に「クリスマスはいつ祝うの」と聞くなら、12月25日という答えも、1月7日という答えも、両方という答えもありえます。どれか一つを「ウクライナの正しいクリスマス」と決めつけないことが、いちばん確かな理解のしかたです。

出典・参考資料

  1. Закон України «Про внесення змін до статті 73 Кодексу законів про працю України» від 14.07.2023 № 3258-IX(改正の全文)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-23
  2. 同法の文書カード(採択日、法案第9431号、2023年7月29日『Голос України』掲載、7月30日施行)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-23
  3. Кодекс законів про працю України 第73条(2023年1月1日時点の版:「7 січня і 25 грудня - Різдво Христове」、戒厳令期間中の不適用の注記)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-23
  4. Кодекс законів про працю України 第73条(現行版:「25 грудня - Різдво Христове」)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-23
  5. Постанови Архієрейського Собору від 24 травня 2023 р.(新ユリウス暦への移行、9月1日開始、パスハリアの維持、3分の2条項、103教区、13日の差、1923年の会議)
    発行:Православна Церква України(pomisna.info) 確認日:2026-09-23
  6. Історичне рішення: УГКЦ в Україні переходить на новий календар(第93回会期・2023年2月1〜2日、9月1日移行、2025年までの旧暦容認、「ほぼ90%」)
    発行:Українська Греко-Католицька Церква(ugcc.ua) 確認日:2026-09-23
  7. Календарна реформа УГКЦ в Україні: коротко про головне(新暦での主な祝日の日付、2025年9月1日までの移行期間)
    発行:Синод Єпископів УГКЦ(synod.ugcc.ua) 確認日:2026-09-23
  8. Christmas(2005年改訂。聖夜、12品、フツル地方の献立、クチャ、ディドゥフ、儀礼、ソビエト期と独立後)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所=CIUS) 確認日:2026-09-23
  9. Carols(紙版は1984年刊行の第1巻が初出。執筆:Petro Odarchenko。コリャードキとシチェドリウキ、主題の層、代表的な歌)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-23

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