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社会を知る/解説

帰還した捕虜129人のうち124人が拷問・虐待を証言。捕虜交換と国際人道法

国連の聞き取りに応じた帰還捕虜129人のうち、124人が捕らわれている間の拷問や虐待を語りました。ジュネーブ第3条約は捕虜を常に人道的に扱い、戦いが終われば遅滞なく帰すよう定めています。条約はICRCがすべての捕虜に会えると定めていますが、ICRCは、ロシアでの最後の訪問は2024年だとしています。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は2026年6月29日、ウクライナの人権状況についての報告書(対象期間は2025年12月1日〜2026年5月31日)を公表しました。この期間にロシアから帰還したウクライナの捕虜129人(全員男性)に聞き取りをしたところ、5人を除く全員が、捕らわれている間に受けた拷問や虐待を詳しく語ったと報告書は書いています。

捕虜の扱いには、国際的に決められたルールがあります。1949年8月12日のジュネーブ第3条約(捕虜の待遇に関する条約)です。条約は捕虜を人道的に扱う義務を定め、赤十字国際委員会(ICRC)に捕虜を訪ねる権利を与えています。

第3条約が定めていること

条約の中心にあるのは第13条です。ICRCが刊行する条約集の英語の本文は、次のように始まります。

捕虜は、常に人道的に待遇されなければならない。抑留国の不法な作為または不作為で、その抑留下にある捕虜を死亡させ、またはその健康に重大な危険を及ぼすものは禁止され、この条約の重大な違反とみなされる。

ジュネーブ第3条約 第13条第1項(ICRC刊行の英語本文からの本記事の訳)

同じ条は、捕虜を暴行や脅迫、侮辱、公衆の好奇心から守ること、捕虜への報復を禁じることも定めています。

捕虜をいつ帰すのかについて、条約の原則は第118条にあります。「捕虜は、実際の敵対行為が終わった後、遅滞なく解放し、送還しなければならない」。つまり、戦いが終わるまで捕らえておくことは条約上認められていますが、終われば帰すことが義務です。

戦いが続いている間の送還について、条約が定めているのは主に次の場合です。

  • 重傷者・重病者の送還。当事者は、階級や人数にかかわらず、旅ができるまで手当てをしたうえで本国に帰さなければならない(第109条・第110条)
  • その判断のため、敵対行為の始まりとともに「混合医療委員会」を設け、病気や負傷の捕虜を診察して決定する(第112条)
  • 長く捕らわれている健康な捕虜を本国に送り返すこと、または中立国で抑留することについて、当事者が合意を結ぶことができる(第109条)

条約には、戦いの最中に捕虜を「交換」する人数や比率を決める規定はありません。

赤十字国際委員会の役割

条約は、ICRCに二つの役目を与えています。一つは、捕虜のいる場所を訪ねることです。第126条は、利益保護国の代表が、捕虜のいるすべての場所へ行き、立会人なしで捕虜と面談でき、訪問の期間や頻度を制限されないと定め、ICRCの代表も「同じ特権を享受する」としています。訪問は、差し迫った軍事上の必要がある場合に、例外的かつ一時的にしか禁じられません。

もう一つは、情報の仲立ちです。第123条は、中立国に捕虜についての中央情報局を置くこと、必要と考えるときはICRCがその組織を提案することを定めています。ICRCは、ロシアとウクライナの国際的武力紛争のために、中央安否調査局(Central Tracing Agency)の専用の部署を動かしています。

では、実際にはどこまでできているのか。ICRCがサイトに載せている質問と回答(2026年9月18日更新)は、次のように書いています。

  • 2022年2月から2026年8月までに、双方の9,800人を超える捕虜を訪問した。ただし「主にウクライナで」
  • 現在まで、すべての捕虜に完全に接触できてはいない。ウクライナでは捕虜と拘束された民間人を訪ねている
  • ロシアでの最後の訪問は2024年で、捕虜を含む拘束されている人々を訪ねるための接触を取り戻そうとしている

ICRCは別のページで、2025年1月末の時点で、この紛争に関連して行方が分からない人の案件を46,200件以上抱えており、その多くは戦闘員に関するものだとしています。1万2,000を超える家族に、行方の分からなかった家族の消息を伝え、捕虜と家族の間で11,500通の個人の伝言を直接やりとりしたとも書いています。ICRCは、当事者との対話を非公開で進める方針をとっており、その中身は公表していません。

国連の報告書が記録していること

OHCHRは、国連ウクライナ人権監視団(HRMMU)を通じて、捕虜の扱いを継続して記録しています。冒頭の2026年6月の報告書は、ロシアに捕らわれたウクライナの捕虜について、次の点を挙げています。

  • 2025年11月中旬から2026年1月にかけて、ウクライナ兵37人を処刑したという信頼できる申し立てを18件記録し、うち少なくとも16人がこの期間に処刑されたことを確認した
  • 2022年2月以降、ロシア軍が処刑したことを確認したウクライナの捕虜と戦闘外にある人は129人(全員男性)
  • 2022年2月以降、拷問や虐待、劣悪な抑留環境、不十分な医療によって死亡したウクライナの捕虜は47人と、医療要員1人(全員男性)
  • 2022年2月24日以降、ロシアの公務員による紛争関連の性暴力として記録した817件のうち、528件の被害者がウクライナの捕虜(男性501人、女性27人)
  • 聞き取りをした捕虜のうち12人は、占領下のドネツィク州の裁判所で戦争犯罪として有罪とされていた。捕虜たちは、拷問による自白の強要や、不十分な弁護などを証言している

一方で報告書は、半数を超える帰還者が、2024年末から一部の施設で扱いや環境が「わずかに」改善したと話したことも記しています。

報告書は、ウクライナに捕らわれたロシア側の捕虜についても記録しています。この期間に聞き取りをした134人(第三国の国籍の28人を含む)のうち75人が拷問や虐待を受けたと話し、その多くは、法務省が設けた正式な収容施設に移る前の、独立した監視のない中継施設でのことだったとしています。2022年2月以降、ウクライナ軍による戦闘外にある人の処刑は31人(全員男性)を記録し、その大部分は2022年から2023年初めの出来事だったとしています。報告書は、すべての捕虜を国際人道法に従って人道的に扱うよう求めています。

項目ロシアに捕らわれたウクライナの捕虜ウクライナに捕らわれたロシア側の捕虜
この期間の聞き取りの人数129人(帰還者)134人
拷問・虐待を語った人124人(129人のうち5人を除く全員)75人
2022年2月以降に確認・記録した処刑129人(確認)31人(記録)
OHCHR「Attacks against Ukraine’s Energy Infrastructure and Update on the Human Rights Situation in Ukraine, 1 December 2025 – 31 May 2026」(2026年6月29日公表)第84〜96段落から作成。聞き取りは同じ期間の人数で、捕らわれている捕虜全体に占める割合ではない。

国連人権理事会が設けた「ウクライナに関する独立国際調査委員会」も、2026年3月に公表した報告書の発表文で、ロシアとロシア占領地域の裁判で、ロシア当局が拷問によってつくられた証拠を組織的に提出し、民間人と捕虜から公正な裁判の基本的な保障を奪ったと述べ、これを戦争犯罪にあたる国際人道法の重大な違反と認定しています。

ウクライナ側の窓口

ウクライナでは、ロシアの全面侵攻から間もない2022年3月11日、内閣の決定(第257号)で「捕虜の扱いに関する調整本部」が設けられました。本部の公式サイトによれば、2024年3月の内閣決定の改正で、不法に自由を奪われた民間人の家族や、行方不明者の家族にも対応するようになっています。キーウ、リヴィウ、ハルキウ、ミコライウ、ヴィーンヌィツャに相談の窓口を置き、ICRCとの協力で混合医療委員会という仕組みを使ってきたとも説明しています。

本部のサイトのトップページには「9,726人の市民を取り戻した」と表示されています(2026年9月24日に確認)。表示は「市民(громадян)」で、軍人と民間人の内訳はトップページには示されていません。

条約と現実の距離

第3条約は、捕虜を常に人道的に扱うこと、ICRCがすべての捕虜に会えること、戦いが終われば遅滞なく帰すことを定めています。ICRCはロシアでの最後の訪問を2024年としており、OHCHRは、ロシアに捕らわれたウクライナの捕虜への拷問と虐待が広範で組織的だという、これまでの認定と一致する証言を集め続けています。交換で帰ってきた人の証言が、捕らわれている人の状況を知る数少ない手がかりになっています。

ロシアによる侵略の経緯は ウクライナの独立とロシアによる侵略の年表 にまとめています。

出典・参考資料

  1. The Geneva Conventions of 12 August 1949(第3条約 第13・109・110・112・118・123・126条の英語本文)
    発行:International Committee of the Red Cross 確認日:2026-09-24
  2. Russia–Ukraine international armed conflict: Your questions answered about the ICRC's work(2026年9月18日更新。9,800人超の訪問、ロシアでの最後の訪問は2024年、完全な接触がないこと、中央安否調査局の部署)
    発行:International Committee of the Red Cross 確認日:2026-09-24
  3. Russia-Ukraine international armed conflict: The value of neutrality in humanitarian work(2025年1月末時点の行方不明の案件46,200件超、12,000超の家族、11,500通の伝言)
    発行:International Committee of the Red Cross 確認日:2026-09-24
  4. Attacks against Ukraine's Energy Infrastructure and Update on the Human Rights Situation in Ukraine, 1 December 2025 – 31 May 2026(2026年6月29日公表。第10・84〜100段落)
    発行:Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights(ReliefWeb掲載の報告書PDF) 確認日:2026-09-24
  5. Report of the Independent International Commission of Inquiry on Ukraine, A/HRC/61/61(2026年3月の発表文。裁判での拷問による証拠と公正な裁判の保障の剥奪)
    発行:UN Human Rights Council(ReliefWeb掲載) 確認日:2026-09-24
  6. Постанова Кабінету Міністрів України «Про утворення Координаційного штабу з питань поводження з військовополоненими» № 257(2022年3月11日)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  7. Координаційний штаб з питань поводження з військовополоненими(トップページの「Ми повернули 9 726 громадян」の表示)
    発行:Координаційний штаб з питань поводження з військовополоненими 確認日:2026-09-24
  8. Про Координаційний штаб(2024年3月の改正、相談窓口の都市、混合医療委員会)
    発行:Координаційний штаб з питань поводження з військовополоненими 確認日:2026-09-24

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