本文へ移動

ウクライナの人・文化・社会・未来を、日本と世界につなぐ

Ukrainavi Ukrainavi

社会を知る/解説

難民、国内避難民、避難者 — 同じ意味で使わないために

「難民」「国内避難民」「一時的保護」「避難民」は、それぞれ別の制度が別の定義で使っている語です。取り違えると、実在する人の立場を事実と違う形で説明することになります。難民条約、国連の指導原則、EUの法令、日本の入管法という原資料にあたって、どの語が何を指すのかと、書き手が確認する手順を整理します。

この記事にはまだ写真がありません。 暫定の図版(ブランドの折り面パターン)を表示しています。

2022年2月24日のロシアによるウクライナへの全面侵攻のあと、ウクライナから国外に逃れた人、国内で家を追われた人、日本に来た人について書いたり話したりする機会が増えました。日本語では「難民」という語がいちばん通りがよく、ほかの語がそこに吸い寄せられていきます。けれども「難民」「国内避難民」「一時的保護」「避難民」は、別の制度が別の定義で使っている語です。根拠となる条約も、決める機関も違います。取り違えると、実在する人の立場を、事実と違う形で説明することになります。

先に断っておきます。この記事は語の意味を理解するためのもので、個別の在留手続きについての助言ではありません。手続きの判断は、出入国在留管理庁の窓口や、弁護士・行政書士など資格のある人に確認してください。

難民 — 条約が定義し、国が認定する

「難民」は、1951年の「難民の地位に関する条約」(難民条約)が定義を置いている語です。国連条約集に収録された英文は、第1条A(2)でこう定めています。

owing to well-founded fear of being persecuted for reasons of race, religion, nationality, membership of a particular social group or political opinion, is outside the country of his nationality and is unable or, owing to such fear, is unwilling to avail himself of the protection of that country

Convention relating to the Status of Refugees, Article 1 A (2)(冒頭の「1951年1月1日以前に生じた事件の結果として」の部分は省略)

難民事業本部(公益財団法人アジア福祉教育財団)は、これを「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者」などと日本語で説明しています。要点は「国籍国の外にいる」という要件で、国境を越えていることが前提になっています。省略した「1951年1月1日以前に生じた事件の結果として」という時間的な限定は、1967年の議定書第1条2で、この語句を削除したものとして読むと定められ、外されました。

日本では、出入国管理及び難民認定法(入管法)第2条第3号が「難民」を「難民条約第一条の規定又は難民の地位に関する議定書第一条の規定により難民条約の適用を受ける難民」と定義し、第61条の2第1項で、法務大臣が申請に基づいて難民の認定を行うと定めています。日本で「難民と認定された人」とは、この手続を経た人のことです。

国内避難民(IDP) — 国境を越えていない

国内避難民(internally displaced persons, IDP)は、1998年の国連文書「国内強制移動に関する指導原則」が次のように記述しています。

internally displaced persons are persons or groups of persons who have been forced or obliged to flee or to leave their homes or places of habitual residence (中略) and who have not crossed an internationally recognized State border.

Guiding Principles on Internal Displacement, Introduction 2(国連文書 E/CN.4/1998/53/Add.2, 1998年)

末尾の「国際的に承認された国家の国境を越えていない」が、難民との決定的な違いです。家を追われた事情が同じでも、国境を越えていなければ難民条約の定義には当てはまりません。また指導原則は条約ではなく、第3項で「国際人権法および国際人道法を反映し、それらと整合的である」と自らを位置づけています。国が「認定する」地位ではありません。

したがって、ウクライナ国内で家を追われ、国内の別の場所で暮らしている人を「難民」と書くのは、事実として誤りです。

人数の規模も、難民とは別に数えられています。EU理事会の実施決定(EU)2026/1912は前文(9)で、国際移住機関(IOM)の推計として「2025年12月時点で3,712,000人がウクライナ国内で避難している」と記し、そのうち71%が2年以上、82%が1年以上避難を続けているとしています。これはEUの決定がIOMの推計を引用したもので、IOMの原資料そのものには当たっていません。数字を使うときは、いつ時点の、誰の推計かを必ず添えてください。

一時的保護 — 難民認定とは別の枠組み

EUが2022年に発動した「一時的保護(temporary protection)」も、難民認定とは別の制度です。根拠となる2001年の理事会指令2001/55/ECは、第2条(a)でこう定義しています。

"temporary protection" means a procedure of exceptional character to provide, in the event of a mass influx (中略) of displaced persons from third countries who are unable to return to their country of origin, immediate and temporary protection to such persons

Council Directive 2001/55/EC, Article 2(a)(EU官報 OJ L 212, 2001年8月7日)

この仕組みは、2022年3月4日の理事会実施決定(EU)2022/382で発動されました。同決定は第1条で「ウクライナを離れざるを得なかった避難民のEUへの大量流入の存在」を認定し、第2条1で、2022年2月24日に始まったロシア軍による軍事侵攻の結果として同日以降にウクライナから避難した人のうち、同日より前にウクライナに居住していたウクライナ国民、ウクライナで国際的保護等を受けていた無国籍者・第三国国民、およびその家族を対象と定めました。

期間は延長されてきました。2026年7月30日の理事会実施決定(EU)2026/1912は、この一時的保護をさらに1年、2028年3月4日まで延長すると定めています(第3条により、決定の適用は2027年3月5日から。ただし第2条のみ2026年7月31日から)。その第2条は、一時的保護の付与を「ウクライナでの兵役義務を果たしている者」に限るという条件を新たに置きました。ただし同条は、2026年7月30日以前からある加盟国で一時的保護を受けており、その後も同じ加盟国でその地位を継続して保持している人には適用されません。すでに一時的保護を受けている人が、この条件によって直ちに対象から外れるわけではない、ということです。

そして一時的保護は、庇護申請を妨げるものではありません。指令第17条1は「一時的保護を享受する者は、いつでも庇護の申請を行うことができなければならない」と定めています。EU加盟国で一時的保護を受けている人を「難民認定された人」と書くのは誤りですが、「保護されていない」と書くのも誤りです。

日本の「避難民」 — 受入れの枠組みであって、難民認定ではない

日本では「ウクライナ避難民」という語が使われます。これは出入国在留管理庁が使っている語で、同庁は統計の注記で、計上の対象を「ロシアによるウクライナ侵攻により、避難を目的として、令和4年3月2日以降にウクライナ又は第三国から我が国に入国した者」と説明しています。同庁によれば、その累計は2,902人、現在の在留者数は1,931人です(いずれも2026年8月31日現在の速報値。同庁が月1回更新)。

この人たちは、難民認定を受けて日本にいるわけではありません。入管庁は、避難を目的として「短期滞在」の在留資格で入国したウクライナの人が滞在の継続を希望する場合、就労が可能な在留資格「特定活動(1年)」への変更許可申請を受け付けるとしています(同庁サイト掲載、2026年9月22日確認)。「ウクライナ避難民」は受入れと計上の枠組みを指す語であって、在留資格の名称でも、難民認定の結果でもありません。

一方、2023年12月1日から「補完的保護対象者」の認定制度が始まりました。入管庁はこれを、条約上の「難民」ではないものの「難民」と同様に保護すべき紛争避難民などを確実に保護する制度だと説明しています。入管法第2条第3号の2は、難民以外の者であって、迫害を受けるおそれがある理由が難民条約第一条A(2)に規定する理由であること以外の要件を満たすもの、と定義しています。認定は難民の認定と同じく法務大臣が行い、認定されれば原則として在留資格「定住者」が付与されると同庁は説明しています。2025年(令和7年)の認定申請者は311人で、主な国籍はウクライナでした(同庁、2026年3月27日公表)。

日本にいるウクライナの人の在留上の立場は、一様ではありません。「日本に来たウクライナの人は難民認定された」と書けば誤りですし、「日本は保護していない」と書くのも雑です。

日常語の「避難者」と、書き手の確認手順

「避難してきた人」「ウクライナから来た人」「避難者」は、その人が置かれた状態を記述する日常語で、法的地位を含みません。法的地位が確認できないときに使えるのは、こちらです。ただし日本語では「避難民」が入管庁の計上区分の名前でもあるので、日常語のつもりで書くと制度用語と混ざります。なお「移民」もこれらとは別の語で、この記事では扱っていません。

  • その地位を書く必要があるかを先に考える。在留資格は個人情報です。書かなくて済むなら、聞く必要もありません。
  • 本人に確認できるなら、本人に聞く。ただし「書かないでほしい」と言われたら書かない。
  • どの国の、どの制度の話かを特定する。日本か、EU加盟国か、ウクライナ国内かで、使う語が変わります。
  • その制度を所管する機関の資料を開く。日本の在留と難民認定は出入国在留管理庁、EUの一時的保護はEU官報の法令、条約の定義は国連条約集にあたります。
  • 確認できなければ、地位を断定せず状況を書き、時点を添える。「2022年にウクライナから日本に来て、いまも日本で暮らしている」は、確認できた事実だけで書けます。
決め手誰が決めるか
難民(条約上)国籍国の外にいて、5つの理由による迫害のおそれがあること日本では法務大臣(入管法第61条の2第1項)
国内避難民(IDP)国際的に承認された国境を越えていないこと認定する制度ではない(記述的な定義)
一時的保護(EU)大量流入が認定され、対象カテゴリーに当てはまることEU理事会の実施決定と各加盟国
補完的保護対象者(日本)迫害のおそれの理由が、条約の5つの理由以外であること法務大臣(入管法第61条の2第2項)
避難民(日本の計上区分)避難を目的として2022年3月2日以降に入国したこと在留資格の名称ではない
避難者・避難してきた人状態の記述。法的地位を表さない
本文で確認した各資料から整理。2026年9月22日時点。個別の該当性を判断するための表ではない。

最後に二つ

一つ目。「難民ではないから保護が要らない」という含意を持たせないこと。法的地位の違いは、その人が置かれた困難の大小を表すものではありません。日本の補完的保護対象者の制度そのものが、条約上の難民に当てはまらなくても保護を必要とする人がいるという前提で作られたものだと、入管庁が説明しています。

二つ目。制度は動きます。EUの一時的保護は発動から延長を重ね、2026年7月の決定では新たな条件も加わりました。日本の補完的保護対象者の制度は2023年12月に始まったもので、それ以前の記事には存在しません。この記事の内容は2026年9月22日に各機関の資料で確認した時点のものです。引用するときは、いまも同じかを確かめてください。

出典・参考資料

  1. Convention relating to the Status of Refugees(1951年、第1条A(2)の英文)
    発行:United Nations Treaty Series, Vol.189, No.2545(国連条約集) 確認日:2026-09-22
  2. Protocol relating to the Status of Refugees(1967年、第1条2の英文)
    発行:United Nations Treaty Series, Vol.606, No.8791(国連条約集) 確認日:2026-09-22
  3. Guiding Principles on Internal Displacement(国内強制移動に関する指導原則、1998年)
    発行:国連文書 E/CN.4/1998/53/Add.2(United Nations Official Document System) 確認日:2026-09-22
  4. Council Directive 2001/55/EC(一時的保護指令、第2条・第17条)
    発行:欧州連合理事会/EU官報 OJ L 212, 2001年8月7日(EU出版局 CELEX 32001L0055) 確認日:2026-09-22
  5. Council Implementing Decision (EU) 2022/382 of 4 March 2022(一時的保護の発動、第1条・第2条)
    発行:欧州連合理事会/EU官報(EU出版局 CELEX 32022D0382) 確認日:2026-09-22
  6. Council Implementing Decision (EU) 2026/1912 of 30 July 2026(一時的保護の2028年3月4日までの延長)
    発行:欧州連合理事会/EU官報 L series 2026/1912, 2026年8月4日(EU出版局 CELEX 32026D1912) 確認日:2026-09-22
  7. 出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号)第2条第3号・第3号の2、第61条の2
    発行:e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日:2026-09-22
  8. ウクライナ避難民に関する情報(入国者数・在留者数の統計、2026年8月31日現在の速報値)
    発行:出入国在留管理庁 確認日:2026-09-22
  9. 在留資格「特定活動(1年)」への変更許可申請について
    発行:出入国在留管理庁 確認日:2026-09-22
  10. 補完的保護対象者認定制度
    発行:出入国在留管理庁 確認日:2026-09-22
  11. 令和7年における難民認定者数等について(報道発表資料、令和8年3月27日)
    発行:出入国在留管理庁 確認日:2026-09-22
  12. 難民とは(難民条約の定義の日本語訳、補完的保護対象者制度の説明)
    発行:難民事業本部(公益財団法人アジア福祉教育財団) 確認日:2026-09-22

記載内容に誤りを見つけた場合は、訂正のご連絡からお知らせください。確認のうえ、訂正した内容と経緯を記事に記載します。