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社会を知る/解説

調べた施設の4分の3が「バリアあり」、ウクライナのバリアフリー戦略

ウクライナ政府は2021年4月、2030年までの「バリアフリー空間の国家戦略」を決めました。建物や交通だけでなく、情報・デジタル・社会参加・教育・経済の六つの方向で障壁をなくすとしています。進め方と2025年の改訂、国の点検の数字、国連の委員会の指摘をまとめます。

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オリュカのひとこと

この戦略は、障害のある人だけを対象にしているのではないようです。範囲を最初の見出しで確かめられます。

ウクライナの内閣は2021年4月14日、「2030年までのウクライナにおけるバリアフリー空間創出の国家戦略」を承認しました(内閣命令第366-р号)。段差のない建物や乗りやすい乗り物だけでなく、情報・デジタル・社会参加・教育・経済まで含めて、あらゆる人が妨げなく暮らせるようにする、という長期の方針です。

戦略は2025年3月に全文が改められ、2026年8月にも手直しされました。以下は、2026年9月24日時点でウクライナ最高会議の法令データベースに載っている条文と、担当する省・国連の公表資料にもとづきます。

障害のある人だけでなく「すべての集団」

戦略は「バリアフリー」(безбар’єрність)を、すべての住民集団が生活のあらゆる分野に妨げなくアクセスできるようにする、政策の一般的な手法と定義しています。対象は障害のある人に限らず、物理的な環境については、年齢・性別・健康状態・宗教・財産・住む場所にかかわらず、すべての人が使えることを掲げています。追加の改造なしに誰もが使える「ユニバーサルデザイン」を基本に置く一方、障害のある人のための補助具を排除しない、とも書いています。

戦略が立てる方向は次の六つです。

方向主な目標(戦略の文面から要約)
1. 物理的なバリアフリー新しい建物が基準を満たす。既存の建物や文化財を改修する。交通と停留所・歩道などを使えるようにする
2. 情報のバリアフリー役所の情報を、手話・字幕・音声解説・やさしい言葉などさまざまな形式で出す。放送や出版を使いやすくする
3. デジタルのバリアフリー高速のインターネットを誰でも使える。デジタルの技能を学べる。行政の電子サービスとウェブサイトを誰でも使える
4. 社会と市民生活のバリアフリー意思決定への参加、差別の解消、福祉・医療・司法などのサービスを誰でも受けられる
5. 教育のバリアフリーインクルーシブな教育で誰もが職業を得られる。大人が生涯学べる。遠隔教育を誰でも使える
6. 経済のバリアフリー年齢・性別・健康状態にかかわらず、働く・事業を始める機会を持てる
出典:内閣命令第366-р号の戦略(2026年8月19日の版)第II部。

戦略の現状分析には数字も載っています。2021年4月時点で、住民の9.6%は固定ブロードバンドの事業者が一つもない村や町に住んでいたこと、デジタルの技能が基礎の水準に届かない人の割合が2019年の53%から2023年の40.4%に下がったこと、キーウ国際社会学研究所の調査で、周囲に受け入れられない障壁に直面している集団として回答者の58%が障害のある人を挙げたこと、などです。手話を言語としてどう扱うかは、ウクライナ手話の記事で扱っています。

誰が、どう進めるのか

戦略と同じ日に、内閣は決定第443号で「バリアフリー評議会」を設けました。内閣の臨時の諮問機関で、議長は首相が務め、各省の閣僚や次官、最高会議の人権オンブズマン、国会議員、市民団体や国際機関の代表などが加わっています。戦略によれば、評議会は毎年3月20日までに、前年の進み具合を分析した報告を公表することになっています。

具体的な取り組みは、内閣が2年ごとに承認する行動計画で決まります。取りまとめ役は地域社会・領土発展省(以下、発展省)で、各省と州の軍政が実施の状況を報告し、発展省が毎年1月25日までに内閣へまとめて報告し、四半期ごとに公表します。

  • 2021・2022年の計画:2021年8月4日の第883-р号。ロシアによるウクライナへの全面侵攻のあとの2022年11月11日に、2022年第4四半期だけの計画(第1041-р号)に置き換えられた
  • 2023〜2024年の計画:2023年4月25日の第372-р号
  • 2025〜2026年の計画:2025年3月25日の第374-р号

2024年8月に国連の障害者権利委員会でウクライナ政府の代表が行った説明によれば、2023年には行動計画の255の措置が終わり、欧州の基準に合わせた建築の国の基準、国のウェブサイトのアクセシビリティについての決定、早期支援のサービスの試行などが実現しました。

2025年の改訂と2026年の見直し

2025年3月25日、内閣は第294-р号で戦略の全文を改めました。新しい版の冒頭は、ロシアによる全面的な軍事侵略が、以前からあった交通やデジタルのインフラの問題を悪化させ、避難所へのアクセスなど新しい課題を生んだと書いています。社会参加の方向の分析では、全面戦争の結果、日常生活に制限のある人と障害のある人が大きく増えたとも述べています。

2026年8月19日の第815-р号では、人口の高齢化についての分析が加わり、「50歳以上の人が活動的で自立し、社会のあらゆる分野に参加している」という目標と、それを測る指標が戦略に足されました。同じ命令は2025〜2026年の行動計画も改めています。

オリュカのひとこと

点検された施設のうち、バリアが無いと分かったのはどれくらいなのでしょう。この節の数字で確かめられます。

数字で見る:2025年の点検

建物などがどれだけ使いやすいかは、2021年5月26日の内閣決定第537号にもとづいて年に1回点検されます。発展省がその年に調べる施設の種類を決め、施設の管理者が6月1日から8月31日のあいだに自分で評価して、「バリアフリー」「部分的にバリアフリー」「バリアあり」の三つのどれかに分けます。2025年の対象には、医療機関、学校、行政サービスの窓口、文化施設、避難所、避難した人の仮住まい、銀行や商店、駅や停留所、道路、公園などが含まれていました。

一覧の対象評価した数バリアフリー部分的にバリアフリーバリアあり
全体182,12276,673(42.1%)8.5%17.0%74.5%
うち医療機関(リハビリ部門を含む)8,5685,82217.2%29.6%53.2%
出典:発展省「2025年の障害のある人のための物理的環境とサービスのバリアフリーの程度の点検結果」。割合は評価した施設に占めるもの。ルハンシク州は0件。管理者による自己評価の集計。

評価できた施設のうち、バリアフリーと判定されたのは1割に満たず、4分の3は「バリアあり」でした。ただし、これは各施設の管理者の自己評価を集めたもので、一覧に載った施設の半分以上はそもそも評価されていません。調べる施設の種類も年ごとに変わるため、前の年との単純な比較はできません。

国連の委員会が指摘したこと

ウクライナ政府の代表は2024年8月27日、国連の障害者権利委員会で、国内の障害のある人は280万人で、公式に雇用されているのはそのうち16%にとどまる(EU加盟国の平均は50%を超える)と説明しました。いつ時点の数かは示されていません。

委員会は2024年9月4日に採択した総括所見で、この戦略の承認を前向きな取り組みとして挙げました。そのうえで、アクセシビリティについて次の点に懸念を示しています。

  • 建物・情報通信・交通のアクセシビリティの法令が、遠隔地や農村部を含めて十分に守られておらず、監視も足りない
  • アクセシビリティの法令や政策をつくり、評価するときに、障害のある人が体系的に意見を求められていない
  • 戦略を実行するための、具体的な目標・期限・指標を備えた包括的な計画がない

委員会は、障害のある人の団体と協議しながら、基準を守らない者への実効的な制裁を含む監視と評価の仕組みを設けることなどを勧告しました。戦争で障害を負った退役軍人の法的な地位については、退役軍人の記事にまとめています。

出典と記事の記録出典 13件 · AIの利用 · 運営体制

出典・参考資料

  1. Розпорядження КМУ від 14.04.2021 № 366-р «Про схвалення Національної стратегії із створення безбар’єрного простору в Україні на період до 2030 року»2026年8月19日の版。六つの方向、定義、戦略の目標、現状分析の数字、バリアフリー評議会、2年ごとの行動計画、年次報告
    発行:Верховна Рада України(法令データベース) 確認日:2026-09-24
  2. Розпорядження КМУ від 25.03.2025 № 294-р戦略を全文改めた決定、統計の収集、発展省の役割
    発行:Верховна Рада України(法令データベース) 確認日:2026-09-24
  3. Розпорядження КМУ від 19.08.2026 № 815-р50歳以上の人についての目標の追加、行動計画の改正
    発行:Верховна Рада України(法令データベース) 確認日:2026-09-24
  4. Постанова КМУ від 14.04.2021 № 443 «Про утворення Ради безбар’єрності»評議会の性格、議長、構成
    発行:Верховна Рада України(法令データベース) 確認日:2026-09-24
  5. Розпорядження КМУ від 04.08.2021 № 883-р2021・2022年の行動計画。2022年11月に失効
    発行:Верховна Рада України(法令データベース) 確認日:2026-09-24
  6. Розпорядження КМУ від 11.11.2022 № 1041-р2022年第4四半期の行動計画、883-р号の失効
    発行:Верховна Рада України(法令データベース) 確認日:2026-09-24
  7. Розпорядження КМУ від 25.04.2023 № 372-р2023〜2024年の行動計画
    発行:Верховна Рада України(法令データベース) 確認日:2026-09-24
  8. Розпорядження КМУ від 25.03.2025 № 374-р2025〜2026年の行動計画、報告の仕組み
    発行:Верховна Рада України(法令データベース) 確認日:2026-09-24
  9. Постанова КМУ від 26.05.2021 № 537点検の手順:年1回、管理者による6〜8月の評価、三つの区分
    発行:Верховна Рада України(法令データベース) 確認日:2026-09-24
  10. Результати моніторингу за ступенем безбар’єрності об’єктів фізичного оточення і послуг для осіб з інвалідністю за 2025 рік州別・全体の対象数、評価数、三区分の割合
    発行:Міністерство розвитку громад та територій України 確認日:2026-09-24
  11. Типи об’єктів, що підлягають моніторингу безбар’єрності у 2025 році2025年の点検の対象の種類
    発行:Міністерство розвитку громад та територій України 確認日:2026-09-24
  12. Concluding observations on the combined second and third periodic reports of Ukraine, CRPD/C/UKR/CO/2-32024年9月4日採択。戦略への評価、懸念と勧告
    発行:UN Committee on the Rights of Persons with Disabilities 確認日:2026-09-24
  13. Summary record of the 742nd meeting, CRPD/C/SR.7422024年8月27日。ウクライナ代表の説明:280万人、2023年に完了した255の措置、就労率16%
    発行:UN Committee on the Rights of Persons with Disabilities 確認日:2026-09-24

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