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社会を知る/解説

ウクライナ手話は法律で「言語」とされた。専用の法律はまだない

2019年の国家語法は、ウクライナ手話を独自の語彙と文法を持つ自然の言語と定め、誰もが使い、学び、手話で教育を受ける権利を書き込みました。一方で、手話の地位を定めるはずの専用の法律は成立しておらず、2026年7月の調査では全国向けテレビ36局のうち手話通訳があったのは2局でした。

画像:Ukrainavi

オリュカのひとこと

手話の地位を定める法律は予告されていたのに、なぜまだ無いのでしょう。法案第2340号の記録を本文でたどれます。

9月23日は、国連総会が2017年12月19日の決議72/161で定めた「国際手話デー」です。決議は、手話は音声言語とは構造の異なる、完全な自然言語だと述べています。手話は世界共通ではありません。ウクライナにはウクライナ手話(українська жестова мова)があり、日本の手話とは別の言語です。

ウクライナの法律は、このウクライナ手話を「言語」として書いています。一方で、その地位を詳しく定めるはずの専用の法律は、2026年9月時点でまだ成立していません。以下は、条文と、最高会議・放送の規制機関・人権オンブズマンが公表した資料に基づいて、2026年9月時点の状況をまとめたものです。

国家語法の第4条

ウクライナ語を唯一の国家語と定めた2019年の法律「国家語としてのウクライナ語の機能の確保について」(法律第2704-VIII号。以下、国家語法)は、手話に1条を割いています。第4条「ウクライナ手話の地位と手話使用者の言語上の権利」です。この条は2019年4月25日に採択されたときの版から入っています。

1. ウクライナ手話は、手話を使う人びとの共同体の言語である。
2. ウクライナ手話は、進化の過程で形づくられた独自の語彙・文法の構造を持つ、自然の視覚・身振りの言語体系であり、ウクライナに常に住む、または長く住んだ手話使用者が、主な、または主な手段の一つとして使っている。
3. ウクライナでは、誰もが社会生活でウクライナ手話を自由に使い、学び、支え、またウクライナ手話で教育を受ける権利を保障される。
4. この法律のいかなる規定も、ウクライナ手話の使用範囲を狭めるものと解釈してはならない。

国家語法 第4条(ウクライナ語の条文からの訳)

国家語法は、ウクライナ語をあらゆる公的な分野で使うよう求める法律です。第4項は、その法律の中で手話の居場所が削られないように置かれた一文だと読めます。国家語法そのものの仕組みは、店の応対は1年半後、地方紙は5年後に。段階を踏んだウクライナの国家語法で扱っています。

同じ法律の第3条は、国がウクライナ語を支える方法を並べた項目の中で、「手話使用者の主な、または主な手段の一つとしてのウクライナ手話の発展」を促すと書き、続けて「ウクライナ手話の地位、原則、使用の手順は法律で定める」としています。手話のための別の法律をつくることが、国家語法の中で予告されているわけです。

手話が出てくるほかの条文

手話に触れる規定は、国家語法の外にもあります。主なものは次のとおりです。

法律条文内容
国家語法(2019年、第2704-VIII号)第21条第1項聴覚に障害のある人に、手話で学ぶ権利と、ウクライナ手話を学ぶ権利を保障する
教育法(2017年、第2145-VIII号)第7条第1項同じく、手話で学ぶ権利とウクライナ手話を学ぶ権利
完全普通中等教育法(2020年、第463-IX号)第5条第8項聴覚に障害のある人に、ウクライナ手話で学ぶ権利とウクライナ手話を学ぶ権利
障害のある人の社会保護の基本法(1991年、第875-XII号)第23条手話を「聴覚に障害のある人の言語」として国が守る。国と自治体は手話の普及、研究、通訳サービス、公的な場面での使用を促す。放送局は字幕か手話通訳を付ける(手順と条件は内閣が定める)
国家語法第18条第4項選挙運動の資料、政治広告、テレビ討論は、ウクライナ手話への通訳か、ウクライナ語の字幕で手話使用者に届く形にする
公共メディア法(「ウクライナの公共メディアについて」)第18条第5項公共放送は、音声解説・字幕・手話通訳を付けた番組を、7時から22時の放送量の5%以上にする
各法律の最高会議法令データベース掲載の版(2026年9月24日確認)から作成。障害のある人の社会保護の基本法の第23条は2004年と2011年に全面的に書き換えられ、2025年1月15日の法律第4219-IX号で第1項・第2項が改められている。公共メディア法の第18条第5項は、2022年のメディア法(第2849-IX号)で加えられた。

ウクライナは2009年12月16日の法律第1767-VI号で、国連の障害者権利条約を批准しています。オンブズマン(最高会議人権コミッショナー)のドミトロ・ルビネツ氏は2026年9月23日付の寄稿で、この条約が手話の承認と使用の促進を求めていることを挙げ、社会福祉政策省が2021年5月6日の省令第220号で手話通訳の社会サービスの国家基準を定めていると紹介しています。

専用の法律は、なぜまだ無いのか

国家語法が予告した手話の法律には、法案がありました。最高会議の法案データベースによると、「ウクライナ手話について」の法案(第2340号)は2019年10月29日に議員が提出したものです。2025年2月10日の最高会議の決議(第4229-IX号)で会期の議題に加えられましたが、2025年9月3日の欄に「審議から外された」(Знято з розгляду)と記録されています。

ルビネツ氏は上の寄稿で、国家語法は手話の地位や使用の手順を別の法律で定めると予告しているが、そうした法律を採択する試みは「採択には至らなかった」と書いています。2024年と2025年の年次報告でも、手話の法的な規律を改善し、手話使用者の権利を保障する必要を指摘してきたとしています。

したがって、2026年9月時点でウクライナ手話の法的な位置づけを決めているのは、国家語法の第4条と、上の表の各条文です。手話の法律がどう書かれるかは、まだ決まっていません。

オリュカのひとこと

全国向けテレビ36局のうち、手話通訳があったのは何局だったのでしょう。2026年7月の調査の結果を見てみましょう。

テレビに手話はどれだけあるか

放送の規制機関である国家テレビ・ラジオ放送評議会(Національна рада України з питань телебачення і радіомовлення)は、2026年9月23日に、全国向けテレビ36局を対象にした2026年7月の調査の結果を公表しました。

  • 手話通訳が付いていたのは2局だけだった。「ПЕРШИЙ(ペルシイ)」では放送の47.57%に手話通訳があり、主な番組やニュースで使われていた。「Армія TV」では0.15%で、社会広告の放送のときだけだった
  • 残る34局では、調査した週に手話通訳は見つからなかった
  • 手話通訳のある放送の割合は、平均で1.33%(2025年は1.68%)。字幕のある放送は平均1.83%(2025年は1.62%)
  • 音声解説は見つからなかった

評議会は同じ発表で、ウクライナの法律は、公共放送を除いて、障害のある人向けに手を加えた番組の割合を数字で定めていない、と説明しています。公共放送だけは、上の表のとおり5%以上と決められています。

一方、最高会議は2026年に、憲法の全文をウクライナ手話に訳した動画をつくり、憲法の30周年にあわせて公開しました。最高会議のサイトには、条文ごとに手話の動画を選んで見られるページがあります。

手話を使う人は何人いるか

ウクライナで手話を使う人の数について、国の統計は確認できていません。手がかりになる数字の一つは、ウクライナろう者協会(Українське товариство глухих、УТОГ)の登録者数です。オンブズマン事務所は2022年3月23日の発表で、協会に登録している聴覚に障害のある人は4万4千人を超えると書いています。ただし、聴覚に障害のある人のすべてが手話を使うわけではなく、協会に登録していない人もいます。この数字を手話使用者の数と読み替えることはできません。

同じ発表は、ロシアによる全面侵攻のあと、聴覚に障害のある人がまず直面した問題として、サイレンもスマートフォンのアプリの警報音も聞こえず、空襲警報を知ることができないことを挙げていました。ウクライナの空襲警報の仕組みは、空襲警報のサイレンは3〜5分、キーウでは黄と赤の2段階にで紹介しています。

日本の手話との違い

ウクライナ手話と日本の手話は、別々に育ってきた別の言語です。日本語とウクライナ語の間に通訳が要るのと同じように、手話どうしの間にも通訳が要ります。ルビネツ氏の寄稿も、世界には一つの共通の手話は無く、手話は話し言葉を一語ずつ身振りに置き換えたものではない、と書いています。

日本では、2025年6月25日に「手話に関する施策の推進に関する法律」(令和7年法律第78号)が公布・施行されました。参議院法制局の解説によれば、この法律は、手話を使う人にとって手話が日常生活・社会生活を営むうえで「言語その他の重要な意思疎通のための手段」であることを踏まえて、国と地方公共団体の責務などを定めています。同じ法律の第14条は、国際手話デーと同じ9月23日を日本の「手話の日」としています。ウクライナが国家語法の中で手話を「言語」と書き、専用の法律を後に残したのとは、順番が逆になっています。

ウクライナの法律の番号や「審議から外された」といった状態の表示の読み方は、「-IX」は第9期の議会。ウクライナの法令を原文で読む手がかりで説明しています。

出典と記事の記録出典 16件 · AIの利用 · 運営体制

出典・参考資料

  1. Закон України «Про забезпечення функціонування української мови як державної» № 2704-VIII2019年4月25日。第3条第1項第6号б、第4条、第18条第4項、第21条第1項。2019年4月25日の原文版で第4条を確認
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  2. Закон України «Про освіту» № 2145-VIII2017年9月5日。第7条第1項
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  3. Закон України «Про повну загальну середню освіту» № 463-IX2020年1月16日。第5条第8項
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  4. Закон України «Про основи соціальної захищеності осіб з інвалідністю в Україні» № 875-XII1991年3月21日。第23条と改正の注記:1773-IV、4213-VI、4219-IX
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  5. Закон України № 4219-IX2025年1月15日。題名
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  6. Закон України «Про суспільні медіа України»第18条第5項、5%の規定、2849-IXによる追加
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  7. Закон України «Про медіа» № 2849-IX2022年12月13日。第49条第2項の3年ごとの報告、公共メディア法の改正
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  8. Закон України «Про ратифікацію Конвенції про права осіб з інвалідністю і Факультативного протоколу до неї» № 1767-VI2009年12月16日
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  9. Проект Закону про українську жестову мову № 23402019年10月29日提出、4229-IXで議題に追加、2025年9月3日「Знято з розгляду」
    発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-24
  10. Дмитро Лубінець «Не залишити нікого «по той бік» інформації: про право на жестову мову»2026年9月23日。専用の法律が採択に至っていないこと、2024〜2025年の年次報告、省令第220号
    発行:Уповноважений Верховної Ради України з прав людини(LB.ua の寄稿欄) 確認日:2026-09-24
  11. Інклюзивність телеефіру: Національна рада проаналізувала жестову мову, субтитри та представленість людей з інвалідністю2026年9月23日。2026年7月の36局の調査、ПЕРШИЙ 47.57%、Армія TV 0.15%、平均1.33%、字幕1.83%、公共放送以外に数値基準が無いこと
    発行:Національна рада України з питань телебачення і радіомовлення 確認日:2026-09-24
  12. Конституція України жестовою мовою2026年制作、憲法30周年
    発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-24
  13. Люди з вадами слуху потребують особливої уваги і захисту в період воєнної агресії2022年3月23日。УТОГの登録者4万4千人超、空襲警報の問題
    発行:Уповноважений Верховної Ради України з прав людини 確認日:2026-09-24
  14. A/RES/72/161 International Day of Sign Languages2017年12月19日採択。9月23日の宣言、手話は完全な自然言語との認識
    発行:United Nations General Assembly 確認日:2026-09-24
  15. 手話に関する施策の推進に関する法律(令和7年6月25日法律第78号)の解説背景と趣旨
    発行:参議院法制局 確認日:2026-09-24
  16. 手話に関する施策の推進に関する法律 条文第1条、第14条 手話の日、附則 公布の日から施行
    発行:参議院法制局 確認日:2026-09-24

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