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社会を知る/解説

店の応対は1年半後、地方紙は5年後に。段階を踏んだウクライナの国家語法

2019年に採択されたウクライナの国家語法は、施行日に全部が効力を持ったわけではありません。店での応対は1年半後、紙の新聞は2年半後と5年後、試験の言語は2030年と、分野ごとに時期がずらしてあります。2012年の言語法が違憲とされた経緯、罰金の仕組み、欧州から批判を受けた少数言語の扱いにも触れます。

ウクライナの最高会議は2019年4月25日、法律第2704-VIII号「国家語としてのウクライナ語の機能の確保について」を採択しました。この記事では「国家語法」と呼びます。施行は同年7月16日です。ただ、この日にすべての条文が効力を持ったわけではありません。店での応対、紙の新聞、映画、ウェブサイトといった分野ごとに、効力が生じる時期が法律の中で半年から数年ずつずらしてあり、最後の一つは2030年1月1日です。

店やサービスで使う言葉、職場の言葉、学校の言葉といった、暮らしに近い条文の中身は ウクライナはどんな国か で紹介しています。この法律は、2012年の言語法が違憲とされたあとに生まれ、分野ごとに順番に効力を広げ、専任のコミッショナーが守らせる仕組みを持っています。ウクライナ語以外の言語の扱いには、欧州から批判も出ました。

2012年の言語法と、2018年の違憲判決

憲法第10条は、ウクライナの国家語をウクライナ語と定めています。その運用を定める法律として、2012年7月3日に「国家言語政策の原則について」(法律第5029-VI号)が採択されていました。この法律は、ある地域でその言語を母語とする人が人口の10%以上を占める場合に、その「地域言語または少数者の言語」に使用の措置を適用すると定めていました(第7条第3項)。

憲法裁判所は2018年2月28日、57人の最高会議議員の申し立てを受け、この2012年の法律を違憲とする決定(第2-р/2018号)を出しました。決定が理由にしたのは、法律の中身ではなく採択の手続きです。決定は、2012年7月3日の夕方の本会議で、その場にいない議員の票が賛成に数えられたことなどを挙げ、手続きの違反が「体系的」で最終結果に重大な影響を与えたと認めました。そのうえで、手続きに違反があった場合に審査の対象になるのは法律の内容ではなく手続きだ、と述べています。2012年の法律は、この決定の日に効力を失いました。

2019年の国家語法は、この空白のあとに採択されました。前文には、欧州評議会のヴェネツィア委員会(法による民主主義のための欧州委員会)が過去の意見で、ウクライナ語を唯一の国家語として位置づける方法を見つけ、社会の中での役割を強めるよう勧めていたことが書き込まれています。

法律が扱わない場所

国家語法の第1条は、ウクライナ語を「唯一の国家(公用)語」と定め、国と自治体の権限の行使と、この法律が定める「公的な分野」で使うことを義務づけています。一方で第2条は、この法律が「私的な会話と宗教儀式」には及ばないと書いています。家庭や友人どうしで何語を話すかは、この法律の対象ではありません。

公的な分野の中にも、他の言語を使える余地が条文に残されています。消費者への応対を定める第30条は、応対と商品の情報をウクライナ語で行うとしたうえで、ウクライナ語の情報を他の言語で併記してよいこと、客が求めれば、その人への個別の応対は双方が受け入れられる別の言語でもよいことを定めています。映画を定める第23条は、外国映画を原語のままウクライナ語字幕で上映することを認め、その回数を映画館ごとに月の上映回数の10%までとしています。

効力が広がった順番

法律の最後にある「終わりの規定と経過規定」は、施行日(公布から2か月後)の例外を細かく並べています。条文が定めるのは「施行から何か月後」という期間で、表の時期はそれを2019年7月16日から数えたものです。

施行からの期間(計算上の時期)効力を持った主な条文
施行時(2019年7月16日)下の各行を除く規定。法律の適用範囲(第2条)、国家語保護コミッショナー(第49〜54条)など
6か月後(2020年1月)広告の言語(第32条)
1年後(2020年7月)学術出版・学位論文・学会の言語(第22条第2〜6項)、国や自治体との契約による技術文書(第31条)
1年半後(2021年1月)消費者への応対の言語(第30条)
2年後(2021年7月)国籍の取得と公職に求める語学力の証明(第7条・第10条の各第2・3項)、文化行事・映画・観光案内(第23条第2〜6項・第8項)、書籍の出版と販売(第26条)
2年半後(2022年1月)全国・地域向けの紙の新聞・雑誌(第25条)
3年後(2022年7月)商品に組み込まれたソフトウェアの表示と、ウェブサイト・SNSページの言語(第27条第2・6項)
5年後(2024年7月)地域より狭い範囲で配る紙の新聞・雑誌(第25条)
2030年1月1日中等教育修了時の外部独立評価と入学試験の言語(第21条第3項)
法律第2704-VIII号の「終わりの規定と経過規定」第1項から作成。条文は2026年9月23日時点で最高会議の法令データベースに掲載されている版。苦情の審査・監督・罰金の手続き(第55〜57条)は、コミッショナーの任命から6か月後に効力を持つと定められている。

この表の条文の多くは、その後の法改正で書き換えられています。たとえば書籍の第26条には2022年6月の法改正で項が加わり、テレビ・ラジオの第24条は2022年12月のメディア法の制定にあわせて、放送の言語はメディア法の定めによるという一文に置き換えられました。2026年9月時点の法律の本文には、20本の法律・法典による改正が注記されています。

誰が守らせるのか

国家語法は、守らせる役目を二つの機関に分けています。一つは国家語基準全国委員会(第43条)で、ウクライナ語の基準を定め、国籍の取得や公職に必要な語学力の試験の方法を決めます。もう一つが国家語保護コミッショナー(Уповноважений із захисту державної мови)です。

コミッショナーは内閣が任命し、任期は5年です(第50条)。候補は、最高会議人権コミッショナー、法務政策を担う中央行政機関の長、国家語政策を担う中央行政機関の長が1人ずつ内閣に推薦します。コミッショナーは法律の履行を監視し、個人や法人からの苦情を受け付け、毎年5月1日までに前年の報告書を内閣に出して公表します(第49条)。苦情は、違反に気づいた日から6か月以内に出すことになっています(第54条)。

店での応対(第30条)に違反があった場合の手順は、第57条に書かれています。最初は警告と、30日以内に違反を正すよう求めることにとどまります。1年以内に同じ違反を繰り返すと、課税されない最低所得額(ウクライナの法令で罰金額の単位に使われる基準額)の300倍から400倍の罰金を科すことができます。コミッショナーの決定は裁判所で争えます(第55条・第57条)。

ウクライナ語以外の言語

国家語法は、ウクライナ語以外の言語を一様には扱っていません。条文の多くが、クリミア・タタール語をはじめとする先住民族の言語、英語、そしてEUの公用語を、他の言語と区別しています。たとえば教育の第21条は、EUの公用語である少数民族の言語で学ぶ学級では、ウクライナ語と並んでその言語を使う権利が保障されると定めています。紙の新聞・雑誌の第25条は、クリミア・タタール語などの先住民族の言語、英語、EUの公用語だけで出す新聞・雑誌を、ウクライナ語版を同時に出す義務の対象から外しています。

この区別には、国外から批判がありました。ヴェネツィア委員会は2019年12月の意見(CDL-AD(2019)032)で、国家語を強めることはどの国にとっても正当な目的だと認め、過去のウクライナ語への抑圧に照らしてウクライナの立法者の措置を「十分に理解する」としました。そのうえで、この法律は国家語の強化と少数者の言語の権利の保障との間で「公正な均衡」をとれておらず、先住民族の言語、EUの公用語である少数民族の言語、EUの公用語でない少数民族の言語を異なって扱う規定は、その区別が客観的で合理的な理由に基づかない限り廃止するよう勧告しています。苦情と罰則の仕組みについても、廃止するか、少なくとも公的な分野の極端な場合に限ることを検討するよう求めました。少数民族の権利を詳しく定める別の法律がまだ無いことも、急ぐべき課題に挙げていました。

国内では、51人の最高会議議員がこの法律の違憲審査を求めました。憲法裁判所は2021年7月14日の決定(第1-р/2021号)で、法律を合憲と判断しています。決定は、議員側が差別を受けていると主張した「ロシア語話者の市民」という集団について、それは政治的な構成物であって法的な範疇ではない、と述べています。

その後、2022年12月13日に「ウクライナの民族的少数者(共同体)について」(法律第2827-IX号、2023年7月1日施行)が採択されました。2023年12月8日には、題名に「欧州評議会とその機関の専門的評価を考慮して」と書かれた法律第3504-IX号が採択され、国家語法の教育(第21条)や書籍(第26条)の条文が改められています。EUの欧州委員会は、2022年6月にウクライナを加盟候補国とするよう勧めた意見書の中で、国家語法についてのヴェネツィア委員会の勧告を実施するよう求めていました(EU加盟交渉の記事 を参照)。

条文を読むときに

国家語法は、侵攻の前、2019年に採択された法律です。前文は、領土の一体性と国家の安全を確保するうえでウクライナ語が果たす役割を高めることを目的に掲げ、経過規定は、一時的に占領された地域に住む市民がウクライナ語を学べるようにすることも、占領が終わるまでの課題の一つに挙げています(経過規定第4項)。ロシアによる2022年2月24日の全面侵攻のあとも改正は続いており、条文は一度読めば済むものではありません。

ウクライナ語とロシア語が言語としてどう違うのかは ウクライナ語とロシア語はどこが違うのか で扱っています。ウクライナで働く、商品を売る、ウェブサイトを出すといった場面で条文が関わるときは、最新の条文を最高会議の法令データベースで確かめ、現地の専門家に確認してください。

出典・参考資料

  1. Закон України «Про забезпечення функціонування української мови як державної» № 2704-VIII(2019年4月25日。前文、第1・2・7・10・21〜27・30〜32・43・49〜57条、第IX章「終わりの規定と経過規定」、改正の注記、2026年6月27日版)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  2. 同法の文書カード(2019年7月16日の施行、2021年7月14日の合憲判断の記録、公布紙)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  3. Закон України «Про засади державної мовної політики» № 5029-VI(2012年7月3日。第7条第3項の10%の要件)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  4. Рішення Конституційного Суду України № 2-р/2018(2018年2月28日。57人の議員の申し立て、手続き違反を理由とする違憲判断、決定日の失効)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  5. Рішення Конституційного Суду України № 1-р/2021(2021年7月14日。51人の議員の申し立て、合憲の判断、「ロシア語話者の市民」についての判示)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  6. Opinion on the Law on Supporting the Functioning of the Ukrainian Language as the State Language, CDL-AD(2019)032(2019年12月9日付、第121回総会で採択。結論第132〜139項)
    発行:European Commission for Democracy through Law(Venice Commission), Council of Europe 確認日:2026-09-24
  7. Закон України «Про національні меншини (спільноти) України» № 2827-IX(2022年12月13日採択。文書カードで2023年7月1日の施行を確認)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  8. Закон України № 3504-IX(2023年12月8日。題名、施行日は文書カードで2023年12月10日)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  9. Commission Opinion on Ukraine's application for membership of the European Union(2022年6月17日。少数者の権利と国家語法についてのヴェネツィア委員会の勧告の実施)
    発行:European Commission 確認日:2026-09-24

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