EU加盟を申請して4年半、ウクライナの交渉はどこまで進んだか
ウクライナは2022年2月28日にEUへの加盟を申請し、同じ年の6月に加盟候補国になりました。2024年6月に加盟交渉が正式に始まり、2026年6月15日に最初の交渉分野である「基本」クラスターが開かれています。33の章を6つのクラスターに分けて進める交渉の仕組みと、残っている段階を説明します。
2022年2月28日、ロシアによるウクライナへの全面侵攻の5日後に、ウクライナは欧州連合(EU)への加盟を申請しました。欧州委員会が同じ年の6月17日に出した意見書は、その冒頭にこの日付を記しています。
それから4年半あまりがたった2026年9月、ウクライナはEUの加盟候補国で、加盟交渉の途中にあります。交渉の最初の分野が開かれたのは2026年6月15日です。加盟の日付は決まっていません。
加盟は、加盟国すべての同意で決まる
EUの基本条約の一つ、欧州連合条約の第49条は、第2条に書かれた価値を尊重し、その促進に取り組む欧州の国は加盟を申請できると定めています。第2条の価値とは、人間の尊厳、自由、民主主義、平等、法の支配、そして少数者に属する人々の権利を含む人権の尊重です。申請はEU理事会にあて、理事会は欧州委員会の意見を聞き、欧州議会の同意(構成員の過半数による)を得たうえで、全会一致で決めます。
加盟の条件と、加盟に伴う基本条約の調整は、加盟国と申請国のあいだの協定で決まります。この協定は、すべての締約国がそれぞれの憲法上の手続きに従って批准しなければなりません(同条)。交渉が終わったあとにも、批准という段階が残るということです。
審査の物差しとしてよく引かれるのが、1993年にコペンハーゲンで開かれた欧州理事会の結論です。欧州委員会の意見書は、その要件を次のように引いています。民主主義・法の支配・人権・少数者の尊重と保護を保障する制度が安定していること。機能する市場経済があり、EU内の競争圧力と市場の力に対処できること。加盟国としての義務を引き受けられること。
申請から4か月で加盟候補国に
意見書によれば、EU理事会は2022年3月7日に、この申請について意見を出すよう欧州委員会に求めました。欧州委員会は6月17日の意見書で、ウクライナに加盟候補国の地位を与えるよう勧めます。ただし「次の措置がとられることを前提に」という条件がつき、七つの措置が並んでいました(要約)。
- 憲法裁判所の裁判官の選考手続きを定める法律を制定し、実施する。誠実性と専門能力の評価に基づく事前選考を含める
- 司法高等評議会の委員候補の誠実性審査を終え、裁判官高等資格委員会を設けるための候補者の選考を終える
- 汚職対策、とくに高位の汚職への取り組みを強め、捜査・起訴・有罪判決の実績を積む。特別反汚職検察の新しい長の任命を終え、国家反汚職局の新しい局長の選考を始めて終える
- マネーロンダリング対策の法律を金融活動作業部会(FATF)の基準に合わせ、法執行部門全体の改革の戦略計画を採択する
- オリガルヒ(新興財閥)の過大な影響力を抑える法律を、ヴェネツィア委員会の意見を踏まえて法的に確かな形で実施する
- EUの視聴覚メディアサービス指令に沿うメディア法を採択し、独立したメディア規制機関に権限を与える
- 少数民族に関する法的枠組みの改革を終え、実施の仕組みを採択する
6日後の6月23日、欧州理事会はウクライナとモルドバに加盟候補国の地位を与えることを決めました(6月23〜24日の会議の結論、第11項)。欧州委員会によれば、27か国すべての首脳の一致による決定です。同じ結論は、意見書に書かれた条件が「すべて完全に満たされたとき」に、理事会が次の段階を決めるとしています(第12項)。
交渉開始の決定から、最初の政府間会議まで
欧州委員会は2023年11月8日、毎年まとめる拡大政策の報告(拡大パッケージ)に初めてウクライナを含め、加盟交渉を始めるよう勧めました。その発表は、ウクライナが七つの措置で大きな進展を示したとして、憲法裁判所の裁判官の透明な事前選考の仕組みの導入、司法の統治機関の改革、高位の汚職の捜査と有罪判決の実績の積み上げ、オリガルヒの影響力に対処する取り組みを挙げています。
欧州理事会は2023年12月14日、ウクライナおよびモルドバとの加盟交渉を始めると決めました(12月14〜15日の会議の結論、第15項)。交渉の進め方を定める「交渉枠組み」は、欧州委員会の勧告にある措置がとられたあとに理事会が採択する、という条件つきでした。
最初の政府間会議は2024年6月25日にルクセンブルクで開かれ、欧州委員会はこれを加盟交渉の正式な始まりと位置づけています。7月には、ウクライナの法令がEU法の総体(アキ)とどれだけ一致しているかを分野ごとに点検する「スクリーニング」が始まり、2025年9月30日に終わりました。
33の章を6つのクラスターにまとめる
交渉の対象はEUの法令と政策の全体です。これを分野ごとの「章」に分け、章をさらに6つの「クラスター」にまとめて進めます。2020年に見直された交渉の方法によるもので、章とクラスターの対応は、拡大政策を担う欧州委員会が示す一覧に載っています。
| クラスター | 含まれる章(番号と分野) |
|---|---|
| 1 基本 | 23 司法と基本権、24 司法・自由・安全保障、5 公共調達、18 統計、32 財政管理。このほか民主的制度の機能、行政改革、経済基準 |
| 2 域内市場 | 1 物品の自由移動、2 労働者の移動の自由、3 開業の権利とサービス提供の自由、4 資本の自由移動、6 会社法、7 知的財産法、8 競争政策、9 金融サービス、28 消費者と健康の保護 |
| 3 競争力と包摂的な成長 | 10 デジタル変革とメディア、16 税制、17 経済・通貨政策、19 社会政策と雇用、20 企業・産業政策、25 科学・研究、26 教育・文化、29 関税同盟 |
| 4 グリーン・アジェンダと持続可能な連結性 | 14 運輸政策、15 エネルギー、21 欧州横断ネットワーク、27 環境と気候変動 |
| 5 資源・農業・結束 | 11 農業と農村開発、12 食品安全・動植物検疫、13 漁業と養殖、22 地域政策と構造的手段の調整、33 財政・予算規定 |
| 6 対外関係 | 30 対外関係、31 外交・安全保障・防衛政策 |
同じ文書によれば、「基本」クラスターは最初に開き、最後に閉じます。このクラスターの進み具合が交渉全体の速さを決め、ほかのクラスターを開いたり閉じたりする判断にも使われます。
節目ごとに、EU理事会の全会一致が必要です。クラスターを開くための基準(開始ベンチマーク)を定めること、基本クラスターの中間ベンチマークを定めること、ほかのクラスターを開く決定、章ごとの終了ベンチマークを定めること、章を暫定的に閉じる決定は、いずれも欧州委員会の評価や提案にもとづき、理事会が全会一致で行います。
2026年6月15日、「基本」クラスターが開く
スクリーニングが終わる前の2025年6月26日、欧州理事会の結論は、ウクライナについて「文書 EUCO 16/25 に示された本文は、26か国の首脳が強く支持した」と記しました。この本文は、27か国の名による結論にはなっていません。その本文は、基本クラスターを開く準備ができているという欧州委員会の評価に「十分に留意する」と書いています。
欧州委員会は2025年11月4日の拡大パッケージで、ウクライナが第1(基本)、第6(対外関係)、第2(域内市場)のクラスターを開く条件を満たしたと評価し、残る3つも条件を満たす見込みだとして、理事会が年内にすべてのクラスターの開始を進められるよう取り組むとしました。同じ発表は、ウクライナ政府が2028年末までに加盟交渉を終える目標を示していること、欧州委員会はそのためには改革のペース、とくに基本分野、なかでも法の支配の改革を速める必要があると考えていることも伝えています。
2025年のうちには開かれませんでした。2026年6月12日、欧州委員会のフォンデアライエン委員長と欧州理事会のコスタ議長は共同声明で、すべての加盟国が、ウクライナおよびモルドバとの最初のクラスターを開くことに合意したと発表しました。3日後の6月15日、政府間会議で基本クラスターが開かれています。
このときEUが示した共通の立場(2026年6月12日付の文書)は、ウクライナの現状への評価と、これから満たすべき基準を並べています。たとえば民主的制度については、戒厳令による制約があっても民主主義の定着を続けるよう求め、最高会議(議会)は役割を果たし続けているが、行政府に対する監督は現在限られている、と書いています。戒厳令のもとで選挙が行われていない法的な根拠は、ウクライナの大統領、最高会議、内閣はそれぞれ何を決めるのかで扱っています。
汚職対策については、国家反汚職局(NABU)の管轄を、大統領府の幹部や州行政府の長を含むすべての高リスクの公職に広げる必要があるとし、特別反汚職検察(SAPO)が検事総長の事前の承認なしに国会議員に対する刑事手続きを始められるようにすることとあわせて、中間ベンチマークに入れています。
欧州委員会によれば、中間ベンチマークはクラスター全体と、法の支配にかかわる第23章・第24章に置かれました。これを満たさないかぎり、どの章も暫定的に閉じる段階へは進めません。公共調達・統計・財政管理(第5・18・32章)には、暫定的に閉じるための基準が示されています。
まだ残っている段階
2026年9月23日に確認した欧州委員会のウクライナのページが、開かれたクラスターとして挙げているのは基本クラスターだけです。残る5つのクラスターを開くには、そのつど理事会の全会一致の決定が要ります。すべての章を閉じたあとには加盟の協定を結び、すべての締約国がそれぞれの憲法上の手続きで批准します。2028年末という交渉終了の目標は、ウクライナ政府が示しているもので、EUが約束した期限ではありません。
加盟候補国であることと、加盟国であることは別です。ウクライナとEUのあいだには、2017年9月に発効した連合協定(深く包括的な自由貿易圏=DCFTAを含む)があり、2025年10月29日には、このDCFTAを見直した新しい貿易の枠組みが発効しました(欧州委員会)。これらは加盟とは別の枠組みです。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2022年2月28日 | ウクライナがEUへの加盟を申請 |
| 2022年6月17日 | 欧州委員会が意見書。七つの措置を前提に、加盟候補国の地位を勧める |
| 2022年6月23日 | 欧州理事会が、ウクライナとモルドバに加盟候補国の地位を与える |
| 2023年11月8日 | 欧州委員会が加盟交渉の開始を勧める |
| 2023年12月14日 | 欧州理事会が加盟交渉の開始を決定 |
| 2024年6月25日 | 第1回政府間会議(ルクセンブルク)。加盟交渉の正式な開始 |
| 2024年7月〜2025年9月30日 | スクリーニング |
| 2025年11月4日 | 欧州委員会が、第1・第2・第6クラスターを開く条件を満たしたと評価 |
| 2026年6月15日 | 基本クラスター(第1クラスター)を開く |
独立からロシアによる侵略までの出来事は、ウクライナの独立とロシアによる侵略の年表 1991〜2026年にまとめています。
出典・参考資料
- Consolidated version of the Treaty on European Union, Article 49(申請の手続き、理事会の全会一致と欧州議会の同意、全締約国の批准)
発行:EUR-Lex(Official Journal of the European Union C 202, 7.6.2016) 確認日:2026-09-23 - Commission Opinion on Ukraine's application for membership of the European Union(2022年6月17日。申請日、3月7日の理事会の要請、第49条・第2条とコペンハーゲン基準の引用、七つの措置)
発行:European Commission 確認日:2026-09-23 - European Council meeting (23 and 24 June 2022) – Conclusions, EUCO 24/22(第10〜12項)
発行:European Council 確認日:2026-09-23 - Commission adopts 2023 Enlargement package, recommends to open negotiations with Ukraine and Moldova(IP/23/5633、2023年11月8日)
発行:European Commission 確認日:2026-09-23 - European Council meeting (14 and 15 December 2023) – Conclusions, EUCO 20/23(第15項)
発行:European Council 確認日:2026-09-23 - Ukraine successfully completes its screening process(2025年9月30日。2024年7月の開始)
発行:European Commission, DG Enlargement and Eastern Neighbourhood 確認日:2026-09-23 - European Council meeting (26 June 2025) – Conclusions, EUCO 12/25(ウクライナの本文を26か国の首脳が支持)
発行:European Council 確認日:2026-09-23 - EUCO 16/25(2025年6月26日。基本クラスターを開く準備ができているという欧州委員会の評価への言及)
発行:European Council 確認日:2026-09-23 - 2025 Enlargement package shows progress towards EU membership for key enlargement partners(IP/25/2584、2025年11月4日。第1・2・6クラスターの条件、2028年末の目標)
発行:European Commission 確認日:2026-09-23 - Statement by President von der Leyen and President Costa on the agreement to open the first accession negotiation cluster with Ukraine and Moldova(STATEMENT/26/1357、2026年6月12日)
発行:European Commission 確認日:2026-09-23 - EU and Ukraine open first accession negotiations cluster(2026年6月15日。基本クラスターの章、中間ベンチマークと終了ベンチマーク、6つのクラスター)
発行:European Commission, DG Enlargement and Eastern Neighbourhood 確認日:2026-09-23 - European Union Common Position – Cluster 1: Fundamentals(AD 18/26、2026年6月12日付。民主的制度と汚職対策の評価、中間ベンチマーク)
発行:Conference on Accession to the European Union – Ukraine 確認日:2026-09-23 - Ukraine(EUとの関係のページ。加盟への経過、2017年の連合協定・DCFTAの発効、2025年10月29日の新しい貿易の枠組み、開かれたクラスター)
発行:European Commission, DG Enlargement and Eastern Neighbourhood 確認日:2026-09-23 - EU accession process – step by step (leaflet, October 2022. 6つのクラスターと33の交渉章の対応、手続きの段階、各段階での全会一致)
発行:European Commission, DG Enlargement and Eastern Neighbourhood 確認日:2026-09-23 - Enhancing the accession process – A credible EU perspective for the Western Balkans, COM(2020) 57 final(開始・中間・終了ベンチマークの仕組み)
発行:European Commission 確認日:2026-09-23 - The enlargement of the Union(ファクトシート167。第49条、コペンハーゲン基準、各段階の全会一致、批准の手続き)
発行:European Parliament 確認日:2026-09-23 - EU opens accession negotiations with Ukraine(2024年6月25日。第1回政府間会議の開催)
発行:European Commission, DG Neighbourhood and Enlargement Negotiations 確認日:2026-09-23 - The Parliamentary Secretary in Luxembourg congratulates Ukraine and Moldova on the start of the formal EU accession process(会議の開催地がルクセンブルクであったことの確認)
発行:Ministry of Foreign Affairs of the Republic of Latvia 確認日:2026-09-23
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