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社会を知る/解説

ウクライナの大統領、最高会議、内閣はそれぞれ何を決めるのか

ウクライナ憲法は、議会にあたる最高会議の定数を450人とし、首相は議会の多数派が候補を出して大統領が提案し、議会が任命すると定めています。三つの機関の権限を条文番号とともに並べ、2022年から選挙が行われていない法的な根拠と、その読み方をめぐる議論を紹介します。

通りの先に見えるウクライナ最高会議(ヴェルホーヴナ・ラーダ)議事堂のドーム
ウクライナ最高会議(ヴェルホーヴナ・ラーダ)議事堂(キーウ、2013年撮影)。定数450人の議会にあたる 写真:Wadco2/Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0

ウクライナ憲法第76条は、議会にあたる最高会議(ヴェルホーヴナ・ラーダ)の定数を450人、任期を5年と定めています。大統領の任期も5年です(第103条)。首相は、議会の多数派が候補を出し、大統領がそれを議会に提案し、議会が任命します(第114条)。大統領と議会がどちらも選挙で選ばれ、内閣がその両方に責任を負う。この組み立てが、ウクライナの政治を読むときの出発点になります。

2022年2月24日のロシアによるウクライナへの全面侵攻の日に戒厳令が出されて以来、ウクライナでは大統領選挙も議会選挙も行われていません。それがどの条文によるのかも、この記事の後半で見ていきます。

三つの機関の位置づけ

憲法第6条は、国家権力を立法・行政・司法に分けて行使すると定めています。立法を担うのは最高会議だけで(第75条)、行政の最高機関は内閣(閣僚会議、Кабінет Міністрів України)です(第113条)。大統領は国家元首で、国を代表します(第102条)。大統領は行政府の長としては書かれていません。

最高会議(議会)大統領内閣
憲法上の位置づけ唯一の立法機関(第75条)国家元首。主権・領土の一体性・憲法の守り手(第102条)行政の最高機関(第113条)
選ばれ方国民の直接選挙。定数450(第76条)国民の直接選挙(第103条)首相と閣僚を最高会議が任命(第85条・第114条)
任期5年(第76条)5年。連続2期まで(第103条)新しく選ばれた最高会議の前で総辞職(第115条)
主な権限法律の制定、国家予算の承認、首相・閣僚の任命と罷免、戦争状態の宣言(第85条)外交の指揮、軍の最高司令官、国家安全保障・国防会議の議長、法律への拒否権(第106条)予算案の作成と執行、省庁の指揮、国内外の政策の実施(第116条)
出典:ウクライナ憲法(1996年6月28日 № 254к/96-ВР。最高会議の法令データベース zakon.rada.gov.ua 掲載の現行版、2026年9月23日確認)。条文の日本語は本記事による要約。

最高会議:450人の議員と、法律・予算・人事

最高会議の議員は、21歳以上で、直近5年間ウクライナに住んでいる市民から選ばれます(第76条)。通常の選挙は、議会の任期5年目の10月の最終日曜日に行うと定められています(第77条)。

第85条は最高会議の権限を30以上の項目で並べています。法律の制定、国家予算の承認と執行の監督、大統領の提案による戦争状態の宣言と講和、大統領の弾劾、そして首相・国防相・外相を大統領の提案で、それ以外の閣僚を首相の提案で任命することが含まれます。大統領が出した戒厳令の布告を2日以内に承認するのも最高会議です(第85条第31号)。

法律は最高会議の議長が署名して大統領に送り、大統領は15日以内に署名するか、理由を付けて差し戻します(第94条)。差し戻された法律を最高会議が定数の3分の2以上で再び可決すると、大統領は10日以内に署名しなければなりません。大統領の拒否権は、議会の3分の2で覆せる仕組みです。

大統領:外交と軍を率いる国家元首

大統領に立候補できるのは、35歳以上で、選挙の前の10年間ウクライナに住み、国家語(ウクライナ語)を使いこなす市民です(第103条)。第106条は大統領の権限を列挙しています。外交を指揮して国際条約を結ぶこと、軍の最高司令官であること、国家安全保障・国防会議の議長を務めること、法律に署名し拒否権を持つこと、そして、法律に従って総動員や戒厳令の導入を決めることです(第106条第20号)。

キーウのマリインシキー宮殿。青緑色の外壁を持つバロック様式の宮殿
マリインシキー宮殿(キーウ、2018年撮影)。大統領府が儀典行事に使う宮殿で、外国の要人を迎える場としても使われる(Commonsの記載による) 写真:Maksym Kozlenko/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0

国家安全保障・国防会議は、大統領のもとで安全保障と国防を調整する機関で、首相、国防相、保安庁長官、内相、外相が職務上の構成員になります(第107条)。会議の決定は大統領令によって効力を持ちます。

大統領を任期の途中で辞めさせる手続きもあります。国家反逆罪などの犯罪を理由に、最高会議の定数の過半数で弾劾を発議し、3分の2で訴追を決め、憲法裁判所と最高裁判所の判断を得たうえで、4分の3で罷免します(第111条)。

首相と内閣:議会の多数派から始まる

首相が決まるまでの手順は、憲法に順を追って書かれています。

キーウのウクライナ内閣(閣僚会議)庁舎。木立の先に見える大きな石造りの建物
ウクライナ内閣(閣僚会議)庁舎(キーウ、2014年撮影)。行政の最高機関である内閣が置かれている 写真:Yuriy Kvach/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0
  • 最高会議の選挙のあと、議員の過半数を占める会派の連合(コアリション)が、最初の会議から1か月以内に作られる(第83条)。
  • その連合が、首相の候補を大統領に提案する(第83条・第114条)。
  • 大統領は、提案を受けてから15日以内に、首相の任命を最高会議に提案する(第106条第9号)。
  • 最高会議が首相を任命する(第85条第12号・第114条)。国防相と外相は大統領の提案で、ほかの閣僚は首相の提案で、やはり最高会議が任命する。

内閣は「大統領と最高会議に対して責任を負い、最高会議の統制を受け、最高会議に報告する」と書かれています(第113条)。最高会議は定数の過半数で内閣への不信任を決議でき(第87条)、首相が辞任するか不信任が可決されると、内閣は総辞職します(第115条)。

反対に、大統領が最高会議を任期の途中で解散できる場合は限られています。1か月以内に連合ができない、内閣の総辞職から60日以内に新しい内閣が組めない、通常会期の30日間本会議が開けない、の三つです(第90条)。議会または大統領の任期の最後の6か月には解散できません。

「半大統領制」は条文にない言葉

ウクライナの仕組みは、研究の上で「半大統領制」と呼ばれることがあります。ただ、この言葉は憲法の条文には出てきません。インターネット版ウクライナ百科事典(IEU。アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所=CIUS発行)の Constitution of Ukraine 項目(2023年執筆、執筆者ボフダン・ハラシミウ)は、1996年の憲法ができるまでの草案が「強い大統領制から、議会と首相の役割が大きい半大統領制へ」移っていったと説明しています。

大統領と議会の力の配分は、その後も何度か入れ替わりました。同じ項目によれば、2004年のオレンジ革命のあとの憲法改正で、2006年1月から議会の権限が強まりました。2010年には憲法裁判所がこの改正を違憲とし、1996年の形に戻っています。2014年、ユーロマイダン革命のあとに2004年の改正後の形が復活しました。現行の憲法の冒頭にも、2004年の改正法を違憲とした憲法裁判所の決定(2010年9月30日 № 20-рп/2010)と、改正後の規定を有効とした最高会議の決定(2014年2月22日 № 750-VII)が注記されています。

条文と運用は別に見る必要があります。同じ項目で、執筆者は、ゼレンスキー大統領が2019年の就任後に最高会議を任期前に解散したことなどを挙げ、権力分立の原則を損なったと批判的に評価しています。これは執筆者の評価で、憲法が大統領に与えている権限そのものではありません。

戒厳令のもとで選挙が行われない理由

2022年2月24日、大統領令 № 64/2022 が、同日午前5時30分から30日間の戒厳令をウクライナ全土に導入しました。同じ日に最高会議が法律 № 2102-IX でこれを承認しています。その後、戒厳令は大統領令で繰り返し延長され、2026年7月13日の大統領令 № 596/2026 により、2026年8月2日から90日間延長されています。

選挙を行わないことの根拠は、一つの条文ではなく、いくつかの条文の組み合わせです。

  • 戒厳令法第19条第1項(法律「戒厳令の法制度について」2015年5月12日 № 389-VIII):戒厳令のあいだ、大統領選挙、最高会議選挙、地方選挙、国民投票を行うことを禁じている。
  • 戒厳令法第10条第1項:戒厳令のあいだ、大統領、最高会議、内閣などの権限を終わらせることはできない。
  • 憲法第83条第4項:戒厳令または非常事態のあいだに最高会議の任期が終わる場合、その権限は、戒厳令の解除後に選ばれた最高会議が最初の会議を開く日まで延びる。
  • 憲法第108条第1項:大統領は、新しく選ばれた大統領が就任するまで職務を行う。
  • 憲法第157条第2項:戒厳令または非常事態のあいだは、憲法を改正できない。

最高会議については、任期が延びることが第83条第4項にそのまま書かれています。大統領については、任期延長を定めた条文はなく、第108条第1項の「後任の就任まで職務を行う」という規定が根拠になります。

条文の読み方をめぐる議論

この違いは、ウクライナ国内でも議論されてきました。選挙監視を行う市民団体OPORA(オポラ)は、2023年10月10日に公表した法的解説で、憲法の定めどおりなら次の最高会議選挙は2023年10月29日、大統領選挙は2024年3月31日になるはずだったと書いています。そのうえで、「大統領には第83条第4項のような任期延長の規定がない」という反対論があることを紹介し、第108条によって大統領は後任の就任まで職務を続けられること、議会の選挙ができないのに大統領だけを選ぶのは二つの機関の選び方を食い違わせることを挙げて、戒厳令下での選挙は憲法に反するという立場を示しています。

最高会議は2025年2月25日、決定 № 4252-IX で「ロシア連邦の侵略下におけるウクライナの民主主義の支持に関する声明」を採択しました。声明は、全面侵攻のもとで出された戒厳令が憲法に沿った選挙を許さないこと、選挙は戦争が終わったあとに行うべきであること、そして大統領は第108条第1項に基づき後任の就任まで職務を行うべきであることを述べています。包括的で公正な、持続する平和が確保され次第、最高会議の決定で大統領選挙を実施するとしています。

Насправді заяви російської федерації щодо нібито нелегітимності української влади, і Президента України Володимира Зеленського зокрема, поширюються російською пропагандою з метою відволікання уваги від нелегітимності президента російської федерації владіміра путіна

最高会議の声明(2025年2月25日 № 4252-IX)。訳:実際には、ウクライナの政権、とくにゼレンスキー大統領が正統でないとするロシア連邦の主張は、ロシア連邦大統領プーチンの非正統性から目をそらさせる目的で、ロシアの宣伝によって広められている。

ロシアは、選挙が行われていないことを理由にウクライナの大統領は正統でないと主張しており、声明はそれに反論する形になっています。条文の上では、選挙を禁じているのは戒厳令法第19条であり、大統領の職務の継続には憲法第108条第1項という根拠があります。国内で議論されてきたのは、どの条文をどう組み合わせて読むかであって、大統領職が空白になっているかどうかではありません。声明は、戦時下の選挙を行わないことについて最高会議の意思を示したもので、憲法裁判所の判断ではありません。

ゼレンスキー大統領の経歴については、ウクライナのゼレンスキー大統領の経歴の記事があります。

出典・参考資料

  1. ウクライナ憲法 Конституція України № 254к/96-ВР(1996年6月28日。第5条・第6条・第64条・第75〜77条・第83条・第85条・第87条・第90条・第94条・第102〜103条・第106〜108条・第111条・第113〜116条・第157条と冒頭の改正注記を原文で確認)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-23
  2. Constitution of Ukraine(公式英訳。第108条ほかの英文を確認)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-23
  3. Закон України «Про правовий режим воєнного стану» № 389-VIII(2015年5月12日。第1条・第10条第1項・第19条を確認)
    発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-23
  4. Указ Президента України «Про введення воєнного стану в Україні» № 64/2022(2022年2月24日。導入時刻・期間、承認法 № 2102-IX、延長の注記と最新の延長 № 596/2026 を確認)
    発行:Президент України(zakon.rada.gov.ua 掲載版) 確認日:2026-09-23
  5. Постанова Верховної Ради України «Про Заяву Верховної Ради України про підтримку демократії в Україні в умовах агресії російської федерації» № 4252-IX(2025年2月25日。声明全文を確認)
    発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-23
  6. Legal information on the impossibility of holding elections under conditions of martial law(2023年10月10日。予定されていた選挙日と、第83条・第108条をめぐる議論の紹介を確認)
    発行:Civil Network OPORA 確認日:2026-09-23
  7. Constitution of Ukraine(2023年執筆。執筆:Bohdan Harasymiw。半大統領制への移行、2004年・2010年・2014年の変遷、運用への評価を確認)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所=CIUS) 確認日:2026-09-23

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