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ビジネス・復興/解説

映画1本に国はいくら出すか。ウクライナの映画支援法と公募

ウクライナの映画支援は2017年の法律で決まり、2026年6月の改正で書き換えられました。国が出せるのは、商業的な映画で製作費の70%まで、子ども向けや映画祭向けで80%まで、教育映画やデビュー作は100%まで。お金の出どころ、公募の決め方、外国の撮影への払い戻し、ロシアの映画を締め出す条文まで、条文から追います。

画像:Ukrainavi

オリュカのひとこと

映画1本の製作費を、国が全部出すことはあるのでしょうか。支援の形ごとの上限を表で見比べられます。

ウクライナで映画を1本つくるとき、国はその費用の何割まで出せるのか。答えは法律に書いてあります。2017年3月23日に採択された「ウクライナにおける映画の国家支援に関する法律」(第1977-VIII号。2017年4月26日施行)です。この法律は2025年12月18日の改正法(第4743-IX号)で大きく書き換えられ、改正法は2026年6月6日に公布、翌7日に施行されました。

以下は、ウクライナ最高会議の法令データベースにある条文(2026年9月時点)と、ウクライナ国家映画庁(Держкіно)が公表している資料をもとにしています。

お金の出どころと、配る人

法律の第6条は、映画支援の資金源を三つ挙げています。ウクライナ文化基金から受け取る資金、国家予算、そのほか法律で禁じられていない収入です。2026年9月時点の条文では、国家予算からの額は「前年の国家予算の一般会計の歳出の0.2%以上」とされ、映画支援は予算の中で独立した項目として立てることになっています。

お金を管理するのは国家映画庁ですが、使い道は自分では決めません。第6条は、同庁が予算を「映画国家支援評議会」の決定に基づいて使う、と定めています。評議会は内閣がつくる9人の組織で、任期は2年、同じ人が続けて2期務めることはできません(第9条)。9人のうち1人は政策を立てる省(文化省)、1人は国家映画庁が推し、残る7人は映画・テレビの分野で活動している創作団体や業界団体が推す人から、公募で選ばれます。

国が出せる割合の上限

国の支援にはいくつもの形がありますが(第7条)、映画の製作そのものに出すお金の上限は次のとおりです。2017年の制定時と、2026年6月の改正後で比べます。

支援の形2017年の制定時2026年6月7日以降
国による調達(国が製作に必要なものを買う)記録映画、教育映画、アニメーション、子ども向け映画、作家性の強い映画、デビュー作。製作費の100%まで教育映画、テーマ映画、社会映画、子ども向け映画、デビュー作。製作費の100%まで
映画の製作への補助金製作費の80%まで。申請者が20%以上の資金を持っていることが条件商業的な見込みのある映画は70%まで(自己資金30%以上)。映画祭向けの映画、子ども向け映画は80%まで(自己資金20%以上)
テレビ映画・シリーズへの補助金50%まで(自己資金50%以上)シリーズは50%まで(自己資金50%以上)
返済のある支援(新設)—商業的な見込みのある劇映画・アニメーション。製作費の50%まで、かつ生計費の最低額の5,000倍まで
企画開発への補助金(新設)—開発費の100%まで、かつ生計費の最低額の185倍まで
映画館の興行収入に応じた支援(新設)—公開から90日の興行収入が生計費の最低額の2,000倍以上なら、興行収入の30%。次の作品の製作に使う
「ウクライナにおける映画の国家支援に関する法律」第7条・第10-1条の2017年3月23日版と、2026年9月時点の条文(第4743-IX号による改正後)から作成。「生計費の最低額」は、法律で毎年決める労働可能な人の生計費の最低額(прожитковий мінімум)。

1本の映画が受けられるのは、調達・製作補助金・シリーズ補助金・返済のある支援のうち一つだけです(第7条第2項)。補助金を受けた映画の権利は製作会社のものになりますが、利益が出たら、受け取った支援額の50%を上限に、利益の一部を国に納める契約を結びます(第13条)。

支援の対象になる「国民映画」

製作への支援の対象は「国民映画」(національний фільм)です。映画法(1998年、第9/98-ВР号)第3条の定義では、ウクライナで全部または一部が製作され、基本となる音声がウクライナ語かクリミア・タタール語でつくられ、法律の点数制で必要な点を取った映画を指します。作品の意図から必要な場合は、評議会の決定で、ほかの言語の台詞を全台詞の長さの10%まで使えます(子ども向けとアニメーションを除く)。

この定義は、日本で「ウクライナ映画」と呼ばれているものとは範囲が違います。製作国・舞台・作り手のどれで数えるかによって指すものが変わることは、「ウクライナ映画」は五つのものを指すで扱っています。

オリュカのひとこと

第12回から第14回の公募で選ばれた企画は、何件ずつだったのでしょう。一覧から数えた表で確かめましょう。

公募は「ピッチング」で決める

製作への補助金や調達を受ける作品は、公開の審査会「ピッチング」(пітчинг、творчий конкурс)で選びます。応募する側は、脚本、予算、監督の演出プラン、プロデューサーの構想、宣伝の計画などを出し、評議会が審査を経て決めます(第9条)。商業的な見込みのある映画の審査は二段階で、段階ごとに別の専門家が評価します。評議会・専門家の会議・ピッチングの映像は、7年以上ネットで公開しておく決まりです。

国家映画庁の「過去の公募の結果」のページには、2026年9月時点で、2019年の第12回から2020年の第14回までの公募が載っています。各回の勝ち残った企画の一覧から数えると、次のとおりです。

公募一覧の日付選ばれた企画の数一覧に出てくる分野(例)
第12回(2019年)評議会の決定第249号(2019年10月10日)の付属書34件記録映画、アニメーション
第13回(2020年)評議会の決定第99号(2020年7月9日)の付属書23件劇映画のデビュー作(長編・短編)
第14回(2020年)第2段階の勝ち残り一覧(2020年10月掲載)72件作家性の強い長編劇映画、テレビシリーズ、アニメーションのシリーズなど
国家映画庁「過去の公募の結果」に掲載された勝ち残り一覧のPDFから、行を数えて作成(2026年9月24日確認)。各企画に配られた額は、この一覧には書かれていない。

外国の撮影を呼ぶための払い戻し

国の支援は国内の製作会社だけのものではありません。第11条は、外国の製作会社がウクライナの会社と組んでウクライナで撮影した場合に、国内で使った対象経費の25%を払い戻す仕組みを定めています。いわゆる「キャッシュリベート」です。法律の付属書の「文化テスト」のうち、撮影日数や国内での支出などの製作の基準で27点中14点以上を取ることが条件で、ウクライナの文化にかかわる基準で20点中4点以上を取れば、さらに5%が加わります。

ロシアの映画と音楽を締め出す条文

映画を支える法律には、ロシアの作品を締め出す条文も入っています。映画法第15-1条は、ロシアの機関を肯定的に描く映画などに加えて、「侵略国」の個人・法人がつくった映画の配給と上映を禁じています。対象は2014年1月1日より後に製作された、または初めて公開された映画です。この条文は2015年の法律(第159-VIII号、2015年6月4日施行)で加わり、2022年12月13日のメディア法(第2849-IX号、2023年3月31日施行)で書き直されました。

支援の側でも、会社の出資者や実質的な所有者が侵略国の居住者である場合、国の支援は受けられません(映画の国家支援に関する法律第12条)。国家安全保障に脅威となる人物の一覧に載った人や、制裁の対象になった人が参加する映画にも、支援は出ません。

音楽については、2022年6月19日の法律(第2310-IX号、2022年10月7日施行)が、1991年より後に侵略国の国籍を持っていた歌手の歌を、公共の場で流すことなどを禁じました(その後ウクライナ国籍だけになった人や、侵略を非難する宣言をした人などは除く)。ただし、この禁止は映画の中で使われている音楽には及ばない、と条文に書かれています。

2026年の動き

2026年6月7日の改正の施行後も、評議会は毎月のように会合を開き、製作期間の延長や予算の変更などを決めています。国家映画庁は決定と議事録を公開しています(2026年9月時点で、最新は9月16日の会合)。

映画に限らない支援として、大統領府と文化省が進める文化コンテンツの支援事業「ティシャチョヴェスナ」(Тисячовесна)も始まりました。国家映画庁の2026年8月14日の発表によれば、大統領は最終ピッチングの会場で、2,600件を超える応募のうち1,227件が最終段階に進んだと述べています。

映画をどう支えるかの仕組みは、ここで見たとおり法律に細かく書かれています。一方で、毎年どれだけの額が実際に配られたかは、国家予算と評議会の決定を年ごとに見る必要があります。ソ連の時代にキーウでつくられ、公開9日で上映を止められた映画についてはドヴジェンコの映画『大地』の記事があります。

出典と記事の記録出典 11件 · AIの利用 · 運営体制

出典・参考資料

  1. Закон України «Про державну підтримку кінематографії в Україні» № 1977-VIII2026年6月7日版。第6条の資金源と0.2%、第7条の支援の形と上限、第8条、第9条の評議会、第10-1条の興行収入に応じた支援、第11条の払い戻し、第12条の制限、第13条の利益の納付
    発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-24
  2. 同法の2017年3月23日版制定時の第6条・第7条の上限
    発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-24
  3. 同法の文書カード採択日、2017年4月26日の施行、2017年4月25日の公布
    発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-24
  4. Закон України № 4743-IX «Про внесення змін до деяких законів України щодо державної підтримки кінематографії в Україні» 文書カード2025年12月18日採択、2026年6月6日公布、6月7日施行
    発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-24
  5. Закон України «Про кінематографію» № 9/98-ВР第3条の「国民映画」の定義、第15-1条、第15-2条、改正の経緯の注記
    発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-24
  6. Закон України № 159-VIII 文書カード2015年2月5日採択、2015年6月4日施行
    発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-24
  7. Закон України «Про медіа» № 2849-IX 文書カード2022年12月13日採択、2023年3月31日施行
    発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-24
  8. Закон України № 2310-IX音楽の公共での使用の禁止と、映画の中の音楽を除く規定。2022年10月7日施行
    発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-24
  9. Результати минулих конкурсів第12〜14回の公募と勝ち残り一覧のPDF
    発行:Державне агентство України з питань кіно 確認日:2026-09-24
  10. Рішення Ради з державної підтримки кінематографії2024〜2026年の決定と議事録の一覧、2026年6月24日・7月15日・9月16日の決定
    発行:Державне агентство України з питань кіно 確認日:2026-09-24
  11. Президент України Володимир Зеленський відвідав фінальний пітчинг «Тисячовесни»2026年8月14日。応募2,600件超、最終段階1,227件
    発行:Державне агентство України з питань кіно 確認日:2026-09-24

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