外国映画はウクライナ語で。映画館の言葉を決めてきた法律
ウクライナの映画館では、外国映画はウクライナ語に吹き替えて上映するのが原則で、原語にウクライナ語の字幕を付けた上映は、映画館ごとに月の上映回数の10%までです。1998年の映画法から、2007年の憲法裁判所の決定、2012年の言語法、2019年の国家語法、2024年の英語の法律まで、映画の言葉の条文の移り変わりをまとめます。
オリュカのひとこと
外国の映画は、いつからウクライナ語で見られるようになったのでしょう。最初の見出しで確かめられます。
ウクライナの映画館で外国映画を上映するときは、ウクライナ語に吹き替えるか、ウクライナ語の音声を重ねるのが原則です。原語のままウクライナ語の字幕を付けて上映することもできますが、その回数は映画館ごとに、ひと月の上映回数の10%までと決まっています。根拠は、2019年の国家語法(法律第2704-VIII号)の第23条第6項です(2026年9月時点で最高会議の法令データベースに掲載されている版)。
この決まりは2019年に突然できたものではありません。1998年の映画法にさかのぼり、憲法裁判所の決定、別の言語法による書き換え、その法律の違憲判決を経て、いまの形になりました。国家語法そのものの成り立ちと、分野ごとに効力が広がった順番は国家語法の記事で扱っています。ここでは映画の条文だけを追います。
法律が使う三つの言葉
映画法(1998年1月13日、法律第9/98-ВР号)の第3条は、映画の言葉を置き換える方法を三つに分けて定義しています。
- 吹き替え(дублювання):台詞を訳し、登場人物の口の動きに合わせて、別の言語で録り直すこと
- ボイスオーバー(озвучення):元の音声を、口の動きに合わせない別の音声に置き換えて、台詞の中身を伝えること
- 字幕(субтитрування):原語の台詞を別の言語に訳し、その訳を文字として映像に載せること
条文の多くは「吹き替えかボイスオーバー、あるいは字幕」と三つを並べて書きます。三つのうちどれでもよいのか、字幕だけでは足りないのかは、時期によって違います。下の年表も、この区別のまま読むと移り変わりがわかります。
オリュカのひとこと
映画館の言葉を決めてきた条文は、どう変わってきたのでしょう。この年表で確かめられます。
年表:映画館の言葉をめぐる条文(1998〜2026年)
| 年月日 | 出来事 | 典拠 |
|---|---|---|
| 1998年1月13日 | 映画法が採択される。第14条第2項は、外国映画は国内で配給する前に、必ず国家語(ウクライナ語)に吹き替えるか、ボイスオーバーか字幕を付けなければならないとし、少数民族の言語への吹き替え・字幕は「してもよい」とした | 映画法の1998年1月13日版 |
| 2007年12月20日 | 憲法裁判所が、第14条第2項の解釈を示す決定(第13-рп/2007号)を出す | 憲法裁判所の決定 |
| 2012年7月3日 | 「国家言語政策の原則について」(第5029-VI号)が採択される。外国映画の複製は、原語のまま、または国家語・地域語・少数者の言語への吹き替えなどで、配給会社の注文により作るとした。映画法第14条第2項は、この法律の第23条に従って配給する、という文に置き換えられた | 第5029-VI号、映画法の2012年8月10日版 |
| 2018年2月28日 | 憲法裁判所が2012年の法律を違憲とし、法律は効力を失う(第2-р/2018号) | 国家語法の記事 |
| 2019年4月25日 | 国家語法(第2704-VIII号)が採択される(施行は7月16日)。映画法第14条第2項は、映画の言語は国家語法が定める、という文に置き換えられた。国家語法の映画の条文(第23条第2〜6項・第8項)は、施行の2年後に効力を持つとされた | 国家語法、映画法の2019年7月16日版 |
| 2022年12月13日 | メディア法(第2849-IX号)が採択され、ドキュメンタリーを字幕で上映する条件を定めた国家語法第23条第6項の一文が改められる | 国家語法の改正注記 |
| 2024年6月4日 | 「ウクライナにおける英語の使用について」(第3760-IX号)が採択される。映画館の10%の上限は変えず、英語での上映を国の予算で支える計画をつくるよう内閣に求めた | 第3760-IX号 |
| 2026年3月25日 | 内閣が、英語の学習と使用を支える国の計画(2026〜2030年)を承認する(命令第334-р号) | 内閣命令第334-р号 |
1998年の条文と、2007年の憲法裁判所
外国映画をウクライナ語に吹き替えるか字幕を付ける義務は、映画法の最初の版から第14条第2項に書かれていました。同じ項は、ウクライナ語については「必ず」、少数民族の言語については「〜してもよい」と書き分けています。
それでも、この義務がどこまで及ぶかが争われました。60人の最高会議議員が憲法裁判所に条文の解釈を求め、その理由の一つとして、ウクライナ語の吹き替えも字幕もない外国映画に、国が配給と上映の許可証を出す運用が広がっていることを挙げています。
憲法裁判所は2007年12月20日の決定(第13-рп/2007号)で、「必ず」という語と「〜もしてよい」という語の組み合わせから、ウクライナ語への吹き替え・ボイスオーバー・字幕は、外国映画を配給する前にすべての事業者が果たさなければならない義務だと読みました。義務は、映画館での上映に使う複製を含む、国内で配給されるすべての複製に及び、義務を満たさない映画に、映画を所管する国の機関は許可証を出せない、というのが結論です。決定は、この義務が少数民族の言葉を使う権利を侵すものではない、とも述べています。審理では、最高会議、大統領、内閣、文化観光省、国家映画局の代表が、申し立てを支持する立場を示しました。
オリュカ
あの法律は、いまも生きている決まりなのかな。
タブリ
効力を失った経緯は、この見出しの下でたどれるよ。
スウネ
憲法裁判所が問題にしたのは、この見出しの下によると法律の中身ではなく手続きだったようだよ。
2012年の法律と、2018年の違憲判決
2012年7月3日に採択された「国家言語政策の原則について」(第5029-VI号)は、映画の決まりを大きく変えました。第23条第4項は、映画館・商業上映・家庭用ビデオ向けの外国映画の複製を、原語のまま、または国家語・地域語・少数者の言語への吹き替えなどで、配給会社と上映者の注文により、観客の言語の必要を考えて作る、と定めています。ウクライナ語への吹き替えや字幕は、選べる方法の一つになりました。映画法第14条第2項も、外国映画はこの法律の第23条に従って配給する、という文に置き換えられています。
この2012年の法律は、2018年2月28日に憲法裁判所の決定で違憲とされ、効力を失いました。決定が理由にしたのは、法律の中身ではなく採択の手続きです。経緯は国家語法の記事で扱っています。
いまの条文:国家語法第23条第6項
2019年の国家語法は、映画の言語を自らの第23条第6項で定めました。映画法第14条第2項は、映画の配給と上映での国家語とその他の言語の使い方は国家語法が(メディアの事業者についてはメディア法も)定める、という参照の文になっています。第6項の中身は次のとおりです。
- ウクライナで配給・上映する映画の言語は、国家語とする
- ウクライナの事業者が作った映画は、台詞の音声をウクライナ語(吹き替え・ボイスオーバーを含む)で配給・上映する。ほかの言語の台詞を字幕で見せる場合、その長さは全台詞の10%まで。「国民映画」は、クリミア・タタール語などの先住民族の言語でも上映できる
- それ以外の映画は、ウクライナ語に吹き替えるか、ボイスオーバーを付けて配給・上映する。外国映画は、ほかの言語の音声トラックを併せて持ってよい
- ドキュメンタリーは、国の映画支援の法律が定める「文化テスト」の文化の基準で2点以上を取り、国の映画登録簿にその許可が記されていれば、ウクライナ語の字幕だけで映画館に配給できる
- 映画の所管機関と調整した映画祭の中では、原語にウクライナ語の字幕を付けて上映できる
- 映画館は、外国映画を原語にウクライナ語の字幕を付けて上映できる。ただし国家語以外の原語による上映は、その映画館のひと月の上映回数の10%まで。原語での上映は前もって観客に知らせる
- インターネットの動画配信サービスは、ウクライナ語の音声トラックがある映画では、それを初期設定で流す
第6項は、国家語法の施行(2019年7月16日)の2年後に効力を持つと定められていました。いまの10%の上限が働き始めたのは、計算上は2021年7月です。
オリュカ
英語の映画を字幕で見せる案は、そのまま法律になったのかな。
タブリ
法案から映画の規定が外れた経緯は、この見出しの下でたどれるよ。
スウネ
実際に参加する映画館の数は、この記事では確かめられていないよ。
「英語の映画は字幕で」は法律になったのか
2023年から2024年にかけて、英語の映画を映画館で原語のまま上映させる案が議論されました。ウクライナのメディア専門誌「デテクトル・メディア」の2023年6月28日の記事によれば、大統領が提出した法案第9432号の当初の案は、英語が原語の外国映画を映画館で原語・ウクライナ語字幕で上映するとし、その割合を2025年に50%、2026年に75%、2027年からは100%にするとしていました。同誌は2023年11月22日、最高会議が法案を第一読会で可決したとき、この映画の規定は外されたと報じています。
2024年6月4日に採択された法律(第3760-IX号)の本文にも、映画館に英語での上映を義務づける規定はありません。代わりに終わりの規定が内閣に、英語の学習と使用を支える国の計画をつくり、その中で映画館が外国映画を英語で上映する仕組みを定めるよう求めました。条件は次の四つです。
- 国家語法の決まりを守る(10%の上限はそのまま)
- 英語での上映は、映画館が任意で行う
- 切符の売上で賄えなかった費用を、国の予算で補う
- 参加する映画館は、各スクリーンで月に8回以上英語で上映し、そのうち週に2回以上は休日か、平日の18時以降に始まる回にする
内閣は2026年3月25日の命令第334-р号で、2026〜2030年のこの計画を承認しました。計画は見込む成果の一つとして、英語で外国映画を上映する映画館のスクリーンで、年に少なくとも120(単位は「件」とだけ書かれている)の英語の上映を挙げています。義務ではなく、国が費用を補う任意の仕組みです。
テレビと配信は別の条文
映画館の決まりと、テレビや配信の決まりは別の条文にあります。テレビ放送の言語は、国家語法第24条が2022年のメディア法(第2849-IX号)に任せています。メディア法第40条は、放送免許を持つテレビ局について、映画を含むウクライナ語の番組が、7時〜18時と18時〜22時のそれぞれの時間帯で、週の放送時間の90%以上(全国と地域のチャンネル)、80%以上(地域より狭い範囲のチャンネル)を占めるよう定めています。インターネットの動画配信は、上の第23条第6項の「ウクライナ語の音声を初期設定に」という規定が扱います。
どの映画がウクライナの作品として国の支援の対象になるか(「国民映画」の定義)は映画支援法の記事で、旧ソ連期の作品をどこの国の映画と呼ぶかは「ウクライナ映画」は五つのものを指すで扱っています。
出典と記事の記録
出典・参考資料
- Закон України «Про кінематографію» № 9/98-ВР現行版:第3条の吹き替え・ボイスオーバー・字幕の定義、第14条第2項の参照規定、改正履歴
発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-26 - 同法の1998年1月13日版第14条第2項:外国映画は配給前に国家語へ吹き替え等が義務、少数民族の言語は任意
発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-26 - 同法の2012年8月10日版第14条第2項を第5029-VI号の第23条への参照に置き換え
発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-26 - 同法の2019年7月16日版第14条第2項を国家語法への参照に置き換え
発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-26 - Рішення Конституційного Суду № 13-рп/2007 від 20.12.200760人の議員の申し立て、許可証の運用への言及、主文
発行:Конституційний Суд України(最高会議法令データベース掲載) 確認日:2026-09-26 - Закон України «Про засади державної мовної політики» № 5029-VI від 03.07.2012第23条第4項:外国映画の複製の言語は配給会社の注文による
発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-26 - Закон України «Про забезпечення функціонування української мови як державної» № 2704-VIII第23条第6項の全文、第24条、終わりの規定第1項:第23条第2〜6項・第8項は施行の2年後
発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-26 - Закон України «Про медіа» № 2849-IX第40条:テレビ放送に占めるウクライナ語の番組の割合
発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-26 - Закон України «Про застосування англійської мови в Україні» № 3760-IX від 04.06.2024終わりの規定第4項:映画館での英語上映の国の計画と最低条件、公布の記録
発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-26 - Розпорядження КМУ № 334-р від 25.03.2026「英語の学習と使用を支える国の計画(2026〜2030年)」映画館での英語上映、見込む成果
発行:Кабінет Міністрів України 確認日:2026-09-26 - Англомовні фільми в кіно — мовою оригіналу: Президент пропонує Раді надати англійській мові статус міжнародної2023年6月28日、法案第9432号の当初案
発行:Детектор медіа 確認日:2026-09-26 - Рада підтримала законопроєкт про англійську мову. Норми про кіно і телебачення вилучили2023年11月22日、第一読会での映画の規定の削除
発行:Детектор медіа 確認日:2026-09-26
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