ウクライナに関わる映画7作品と監督・俳優
オリュカのひとこと
7作品は、誰がどこで作った映画なのでしょう。作り手ごとの見分け方は、記事の最後にまとめてあります。
この記事は2024年10月に公開したものです。「ウクライナ映画」という言葉が指すものの違い(製作国・舞台・作り手)は、「「ウクライナ映画」は五つのものを指す──製作国・舞台・作り手」で扱っています。
2024年のアカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した『実録 マリウポリの20日間』、2019年のベネチア国際映画祭でオリゾンティ部門の作品賞を受けた『アトランティス』、家族向けのアニメーション『ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン』。ウクライナに関わる映画7作品と、俳優3人、監督3人を取り上げます。
ウクライナ映画の歴史

ウクライナはソビエト時代の主要な映画製作地のひとつで、キーウの「ドヴジェンコフィルムスタジオ」で多くの作品が作られました。ウクライナ出身の監督や俳優も、ソビエトの映画産業で働いていました。
しかし、ソビエト政府の厳しい検閲やプロパガンダ的な要素が強く、自由な表現は制限されていました。
独立以降のウクライナ映画
1991年の独立以降、ウクライナ映画は大きな変革を迎えました。
ウクライナ独自の文化や歴史を描いた作品が次々と生まれ、映画は社会の変化や歴史的な出来事を反映する重要なメディアになります。
独立初期には、ウクライナのアイデンティティを追求する映画が多く制作され、歴史的なテーマやウクライナの民族文化が中心となりました。
2000年以降のウクライナ映画
2000年代に入ると、ウクライナ映画は技術的にも発展し、国際的な評価を得るようになりました。
リアルなドキュメンタリーやフィクション映画が増え、ロシアによる侵略やユーロマイダン(尊厳革命)を扱った作品が特に注目されています。
ウクライナ映画は国際映画祭でも頻繁に取り上げられ、特にセルゲイ・ロズニツァやミスティスラフ・チェルノフなどの監督が国際的な賞を受賞し、世界中の観客にウクライナの現実を伝えています。
しかし、映画業界のインフラや資金不足、国内市場の小ささなどの課題も残り、国際的評価を得る監督や作品は一部に限られていました。
歴史的な出来事を扱った作品と、映画祭での受賞

歴史的な事件を反映した作品
この記事で取り上げる作品では、『ウィンター・オン・ファイヤー:ウクライナ、自由への闘い』が2013年から2014年のユーロマイダン抗議運動を、『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』が1930年代のホロドモール(大飢饉)を、『僕の村は戦場だった』が第二次世界大戦の東部戦線を扱っています。『実録 マリウポリの20日間』は、AP通信のジャーナリストが現場で記録したドキュメンタリーです。
映画祭での受賞とノミネート
この記事で取り上げる作品の受賞歴を並べると、次のようになります。『実録 マリウポリの20日間』が2024年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞、『アトランティス』が2019年のベネチア国際映画祭オリゾンティ部門の作品賞、『異端の鳥』がヴェネチア国際映画祭のユニセフ賞、『僕の村は戦場だった』がヴェネチア国際映画祭の金獅子賞。『ウィンター・オン・ファイヤー:ウクライナ、自由への闘い』は2016年の第88回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネート、『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』はベルリン国際映画祭のコンペティション部門への出品です。
ウクライナに関わる映画7作品

国際的に高い評価を受けている7つの作品を紹介します。
ウクライナで作られた作品、他国との共同製作、ウクライナが製作に関わっていない作品は、それぞれ別のものです。本記事では、確認できたものについて製作国を記しています。
- 実録 マリウポリの20日間
- 異端の鳥
- 赤い闇 スターリンの冷たい大地で
- 僕の村は戦場だった
- ウィンター・オン・ファイヤー:ウクライナ、自由への闘い
- ストールンプリンセス
- アトランティス
実録 マリウポリの20日間(2024年4月26日公開)
2024年のアカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した『実録 マリウポリの20日間』は、ロシア軍に包囲されたマリウポリで、ロシアによる全面侵攻を現場で記録したAP通信のジャーナリスト、ミスティスラフ・チェルノフによる作品です。
命がけで撮影された映像は、ウクライナの現実をそのまま映し出しています。一般市民の日常が崩壊していく様子をリアルに描いたことで、映画を通して世界がウクライナの悲劇を目の当たりにしました。
アトランティス(2022年6月25日公開)
2019年のベネチア国際映画祭でオリゾンティ部門の作品賞を受賞した『アトランティス』は、未来のウクライナを舞台にしたディストピア(反理想郷や暗黒世界)映画です。
戦争によって引き裂かれた人間関係や環境の荒廃がテーマで、静かながらも圧倒的な映像美で表現されています。
ディストピア的な設定ながらも、再建に向けて動き出す人々の姿が描かれます。
異端の鳥(2020年10月9日公開)
『異端の鳥』は、チェコ・スロバキア・ウクライナの共同製作による作品です。ヴァーツラフ・マルホウル監督。ヴェネチア国際映画祭でユニセフ賞を受賞し、上映中に退場者が続出したことでも話題となりました。
戦争の混乱と暴力に直面する少年が、何度も命を危険にさらされながら旅を続ける様子は、残酷でありながら詩的な映像美で描かれています。
異なる民族や宗教が入り乱れる戦争の影響下で、少年の視点を通じて人間の本質や希望が表現され、観客に深い感情の余韻を残しました。
赤い闇 スターリンの冷たい大地で(2020年8月14日公開)
『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』は、ポーランド・イギリス・ウクライナの共同製作による作品です。アグニェシュカ・ホランド監督。ベルリン国際映画祭のコンペティション部門に出品され、1930年代にスターリン政権下で起きたウクライナのホロドモール(大飢饉)を描いています。
ジャーナリストのガレス・ジョーンズが、スターリンによる弾圧の実態を世界に伝えるべく調査を行う姿が描かれて、真実を追い求めるための奮闘が作品全体のテーマとなっています。
旧ソビエト連邦による飢饉の隠蔽とその恐ろしい影響を浮き彫りにし、歴史の闇に葬られた悲劇を知る上で欠かせない作品です。
ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン(2018年3月7日公開)
『ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン』は、ウクライナ映画としては珍しいファミリー向けのアニメーション映画です。
魔法の力で囚われたプリンセスを救うための勇敢な騎士の冒険は、ウクライナ国内外でヒットを記録し、その美しいアニメーション技術と親しみやすい物語が高く評価されています。
物語は、ロシアの詩人アレクサンドル・プーシキンの物語詩『ルスランとリュドミラ』の筋を出発点にしたファンタジーです。
ウィンター・オン・ファイヤー:ウクライナ、自由への闘い(2015年10月9日公開)
2016年の第88回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた『ウィンター・オン・ファイヤー: ウクライナ、自由への闘い』は、2013年から2014年にかけてウクライナで起こった93日間の抗議運動「ユーロマイダン」(尊厳革命)のドキュメンタリーです。
最大で数十万人に達した市民が、より良い未来を求めて政府に立ち向かった実話にもとづき、民主主義と自由を求める民衆の熱意と勇気が生々しく描かれています。
ドキュメンタリーの手法で撮影された市民の抵抗運動は、単なる政治的出来事にとどまらず、現代の人権問題を考えさせる作品です。
僕の村は戦場だった(1962年・ソ連)
『僕の村は戦場だった』は、ソ連の撮影所モスフィルムが製作した作品で、アンドレイ・タルコフスキー監督の長編デビュー作です。ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞しました。ウクライナが製作に関わった作品ではありません。
第二次世界大戦の東部戦線を舞台に、家族を失った少年イワンが偵察兵として戦争に加わる姿を描いています。原作はウラジーミル・ボゴモーロフの短編「イワン」です。
この映画の特徴は、その独特な映像美と神話的な描写で、アート映画として高い評価を受けています。
戦争がもたらす破壊と、それに抗う人間の姿が、詩的に表現されている点が見どころです。
本作をこの記事に含めているのは、旧ソ連期に作られた作品がウクライナ映画として紹介されることが多く、その区別を示すためです。旧ソ連で作られた作品を、現在の一つの国の作品として扱うことはできません。
ウクライナ出身の俳優3人

ウクライナ出身で、国内外で知られている俳優を3人挙げます。
- オレフ・ザホロドニー
- ヴォロディミル・ゼレンスキー
- ミラ・ジョヴォヴィッチ
オレフ・ザホロドニー(Oleh Zahorodnii)
オレフ・ザホロドニーは、1987年10月27日生まれでキーウ出身の俳優です。
2022年に公開された映画『Firebird ファイアバード』で注目を集めました。この作品は冷戦時代のソビエト空軍を舞台に、禁断の愛をテーマにした物語です。
ヴォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelenskyy)
ヴォロディミル・ゼレンスキーは、現在のウクライナ大統領として世界的に知られていますが、かつてはコメディアンや俳優としても成功を収めていました。
1978年1月25日、ドニプロペトロウシク州・クルィヴィー・リフで生まれたゼレンスキーは、コメディドラマ『国民の僕』に主演し、教師がひょんなことから大統領になるという役を演じます。
この作品が大ヒットし、実際にゼレンスキーが大統領選に出馬、そして当選するという現実が劇中のストーリーと重なり、話題となりました。
ゼレンスキーは、ユーモアと人間的な温かさを感じさせる演技スタイルが定評の俳優でした。ゼレンスキーの詳しい経歴や現在については、以下の記事で解説しています。
参照:ウクライナのゼレンスキー大統領の経歴|俳優からの異例の転身劇と背景
ミラ・ジョヴォヴィッチ (Milla Jovovich)
現在ハリウッドで活躍しているミラ・ジョヴォヴィッチも、ウクライナ出身です。
ジョヴォヴィッチは、1975年12月17日にキーウで生まれ、モデルとしてキャリアをスタートしました。
1988年、官能ロマンス「トゥー・ムーン」で映画デビューし、1997年『フィフス・エレメント』のヒロインを演じて世界中から注目を浴びました。
以降、『バイオハザード』シリーズや『ミリオンダラー・ホテル』などの人気作品に出演しています。
プライベートでは、『バイオハザード』シリーズのポール・W・S・アンダーソン監督と結婚し、2人の娘を持つ母親になっています。
この記事で取り上げる監督3人

この記事で取り上げた作品を撮った監督のうち、3人を挙げます。
- ミスティスラフ・チェルノフ
- セルゲイ・ロズニツァ
- ペーテル・レバネ
ミスティスラフ・チェルノフ(『マリウポリの20日間』)
ミスティスラフ・チェルノフは、戦争をリアルタイムで記録し、世界に衝撃を与えたドキュメンタリー『マリウポリの20日間』の監督です。
ジャーナリストでもあるチェルノフは、命の危険を冒しながら最前線で撮影を行い、戦争の悲惨さを生々しく記録しました。
セルゲイ・ロズニツァ(『Maidan』)
セルゲイ・ロズニツァは、ウクライナや旧ソ連の社会問題や歴史を題材にした数多くのドキュメンタリーやフィクション作品を手掛けてきた名監督です。
代表作の『Maidan』はウクライナのユーロマイダン抗議運動を記録したドキュメンタリーで、現場の映像を静かに、力強く描写しています。
また、『ドンバス』で2018年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門の監督賞を受賞しています。
ペーテル・レバネ(『Firebird ファイアバード』)
ペーテル・レバネは、冷戦時代のソビエト連邦を舞台に、禁じられた愛を描いた映画『Firebird ファイアバード』で注目されたエストニア出身の監督です。
Firebirdは、ソビエト空軍の兵士同士の恋愛をテーマにし、歴史的な背景の中で愛の葛藤と抑圧を繊細に描きました。
『Firebird ファイアバード』は、BIFA(英国インディペンデント映画賞)のブレイクスルー・パフォーマンス賞にノミネートされました。
オリュカのひとこと
観てみたい作品が見つかったら、どこで観られるのでしょう。視聴の方法はこの先にまとめてあります。
ウクライナ映画を視聴する方法

日本国内では、オンラインの配信サービスで観られる作品があります。以下は公開時点(2024年10月)の記載です。配信の可否と配信先は入れ替わるので、視聴の前に各サービスで確認してください。
特に、NetflixやPrime Videoは、ウクライナ映画を含む多様な海外作品を配信しているため、話題作や注目作品を気軽に視聴できます。
Netflixでは、『ウィンター・オン・ファイヤー: ウクライナ、自由への闘い』のようなドキュメンタリーや、ウクライナの戦争や社会問題をテーマにした作品が揃っています。
最新のウクライナ映画だけではなく、特定のテーマで映画を検索することも可能です。
Prime Videoでも、ウクライナ映画の多くが視聴できます。
特に、『異端の鳥』や、2014年のイロヴァイスクの戦いを描いた劇映画『ウクライナ・クライシス』(日本公開題)などがラインアップされています。
7作品を、誰が作ったかで見分ける

7作品のうち、『異端の鳥』はチェコ・スロバキア・ウクライナの、『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』はポーランド・イギリス・ウクライナの共同製作です。『僕の村は戦場だった』はソ連のモスフィルム製作で、ウクライナは製作に関わっていません。残る4作品の製作国・製作会社は、この記事では確認していません。
「ウクライナ映画」とひとまとめにされることの多い作品群ですが、誰が作ったかは一本ずつ違います。作品を人に薦めるときは、そこを混ぜないほうが正確です。
出典と記事の記録
出典・参考資料
- The 88th Academy Awards2016
発行:Academy of Motion Picture Arts and Sciences 確認日:2026-09-23 - The 96th Academy Awards2024
発行:Academy of Motion Picture Arts and Sciences 確認日:2026-09-23 - Euromaidan Revolution
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-23 - 20 Days in Mariupol
発行:PBS FRONTLINE 確認日:2026-09-23 - Ukraine’s ‘Stolen Princess’ animated movie breaks national distribution records2018-03-30
発行:Kyiv Post 確認日:2026-09-23 - ウクライナ・クライシス作品ページ
発行:アルバトロス・フィルム 確認日:2026-09-23
訂正・更新の記録
- 作品の製作国を区別していなかったため、見出しと導入を改め、共同製作の作品にはその旨を明記しました。
- 『僕の村は戦場だった』について、「ウクライナの民族文化や伝統を背景に」「ウクライナの文化的な遺産が色濃く反映されています」と記していた説明を削除しました。本作はソ連のモスフィルム製作、アンドレイ・タルコフスキー監督の作品で、ウクライナが製作に関わった作品ではありません。
- 題名と見出しを改め、根拠のない評価と重複した記述を削除しました。結びで『異端の鳥』をドキュメンタリーに数えていた誤りを直し、製作国を確認していない4作品についてはその旨を記載しました。配信サービスの記載が2024年10月時点のものであることを明記しました。
- 「近年のウクライナ情勢」「紛争」と記していた箇所を、ロシアによる全面侵攻、侵略と明記する形に改めました。
- 『ウィンター・オン・ファイヤー』のアカデミー賞ノミネートを「2015年」と記していましたが、2016年の第88回でした。ユーロマイダン(尊厳革命)を「公民権運動」、参加者を「数千人」としていた記述、『ストールンプリンセス』を「ウクライナの伝統」を組み合わせた物語としていた記述(原作はプーシキンの『ルスランとリュドミラ』)を改めました。
記載内容に誤りを見つけた場合は、訂正のご連絡からお知らせください。確認のうえ、訂正した内容と経緯を記事に記載します。





