машина は7通りに形を変える。ウクライナ語の名詞の格と変化
ウクライナ語の名詞は、文の中での役割によって七つの格に形を変えます。主格・生格・与格・対格・造格・処格・呼格の名前と主な働き、四つの変化の型、前置詞との組み合わせ、日本語の助詞と一対一にならない例を、2019年版の正書法とウクライナ語の百科事典の記述でまとめました。
オリュカのひとこと
一つの名詞が、文の中で七つの形に変わるとしたら。その仕組みを最初の見出しでのぞけます。
ウクライナ語の「車」は маши́на です。ところが文の中では、маши́ни、маши́ні、маши́ну、маши́ною、маши́но と、語の終わりが入れ替わって出てきます。名詞が文の中で果たす役割によって形を変える、この仕組みを「格」(відмінок)といいます。ウクライナ語の名詞には七つの格があります。
以下、七つの格の名前と主な働き、名詞の四つの変化の型、前置詞との組み合わせを、2019年版の正書法(правопис)と、ウクライナ国立科学アカデミーの言語学研究所とウクライナ語研究所が編んだ『Українська мова. Енциклопедія』(ウクライナ語百科事典、第2版2004年。以下、百科事典)の記述にもとづいてまとめます。確認は2026年9月時点です。
一つの名詞に、七つの形
正書法は名詞の変化を表にして示しています。その最初の例が маши́на です。
| 格 | 略号 | 単数 | 複数 |
|---|---|---|---|
| називний | Н. | маши́на | маши́ни |
| родовий | Р. | маши́ни | маши́н |
| давальний | Д. | маши́ні | маши́нам |
| знахідний | Зн. | маши́ну | маши́ни |
| орудний | Ор. | маши́ною | маши́нами |
| місцевий | М. | (на) маши́ні | (на) маши́нах |
| кличний | Кл. | маши́но | маши́ни |
単数の маши́ни(生格)と複数の маши́ни(主格・対格・呼格)のように、同じ形が別の格を表すこともあります。百科事典は、同じ語尾がいくつもの格を表すことを、ウクライナ語の名詞の変化の特徴に挙げています。たとえば語尾 -і は、школі(学校に、与格)、у лісі(森で、処格)、учителі(先生たちが、複数の主格)のどれにもなります。
カナダ・アルバータ大学ウクライナ研究所の『Internet Encyclopedia of Ukraine』(IEU)の「Ukrainian language」の項は、同じ語尾の形を強勢で区別する例として、ха́ти(家の、単数の生格)と хати́(家々が、複数の主格・対格)を挙げています。辞書や正書法の表で強勢記号を確かめる理由の一つです。
七つの格の名前と、主な働き
百科事典の「відмінок」(格)の項によれば、格の数は言語によって違い、ウクライナ語は七つ、ロシア語とベラルーシ語は六つ、ドイツ語は四つです。「відмінок」という用語は1893年、スマリ=ストツィキーとガルトナーの文法書で初めて使われ、七つの格それぞれの名前は、1907年のクルィムシキーの文法書で使われたと、各格の項に書かれています。
同じ項は、格ごとに中心になる働きがあるとして、主格は動作や状態の主体、対格は動作の対象、与格は受け手、造格は道具、処格は場所を表すのが中心だとしています。次の表は、各格の項の説明と例文を並べたものです。
| 格(略号) | 日本語での呼び方 | 中心の働き | 百科事典の例 |
|---|---|---|---|
| називний(Н.) | 主格 | 文の主語。辞書の見出しの形 | «Світ палає»(世界が燃えている) |
| родовий(Р.) | 生格 | 「〜の」のように名詞を修飾する | спів матері(母の歌)、сміливість хлопця(少年の勇気) |
| давальний(Д.) | 与格 | 動作の受け手 | «Подарував народові»(民に贈った) |
| знахідний(Зн.) | 対格 | 動作の対象 | «Зрубали яблуню»(りんごの木を切り倒した) |
| орудний(Ор.) | 造格 | 動作の道具や手段 | «Їхали саньми»(そりで行った) |
| місцевий(М.) | 処格(前置格とも) | 場所。必ず前置詞と使う | «лежали в садку»(庭で横になっていた) |
| кличний(Кл.) | 呼格 | 呼びかけ | «Зупиніться, поети!»(止まれ、詩人たちよ) |
表の「中心の働き」は、各格のいちばん典型的な使い方です。どの格もほかの働きを持っていて、たとえば生格は、多くの前置詞のあとや、数の表現でも使われます。IEU も、主格は主語を表し、ほかの格はどれも動詞などへの依存を表すとしたうえで、生格と造格が時間・場所・原因を表すことがあると書いています。
オリュカ
七つの格の中で、前置詞がないと使えないものがあるのでしょうか。
タブリ
その格の名前と、組む前置詞の一覧が、この見出しの下にあるよ。
スウネ
格の名前と働きの表は、すぐ上でも見比べられるよ。
処格は前置詞なしでは使わない
処格は、七つの格の中で一つだけ、前置詞なしでは使われません。百科事典によれば、組む前置詞は в(у)、на、по、при と、時を表すときの о(об)です。IEU も、処格は前置詞とだけ使われ、ほとんど時間と場所の関係を表すと書いています。маши́на の表で М. の前に(на)を補ったのはこのためです。
呼格は、呼びかけの形
呼格は、人や物に呼びかけるときの形です。百科事典によれば、ウクライナ語の文法では長いあいだ「клична форма」(呼びかけの形)という言い方のほうが広く使われていました。IEU は、くだけた話し言葉では呼格の代わりに主格が使われることがあると書いています。名前を呼ぶときの形の変わり方は、ウクライナの人の名前──ローマ字の綴り、父称、呼びかけの形の四で扱っています。
名詞は四つの型で変化する
どの語尾がつくかは、名詞ごとに決まっています。正書法の§66は、性と語尾によって名詞を四つの「変化」(відміна)に分けています。
| 変化 | 入る名詞 | 正書法の例 | 単数の生格 |
|---|---|---|---|
| 第1変化 | 主格が -а、-я で終わる名詞。女性名詞が中心で、男性名詞・男女どちらにも使う名詞も入る | маши́на、наді́я、Мико́ла | маши́ни、наді́ї |
| 第2変化 | 子音または -о で終わる男性名詞と、-о、-е、-я で終わる中性名詞 | коза́к、ба́тько、крило́、по́ле | козака́、крила́ |
| 第3変化 | 子音で終わる女性名詞と、ма́ти(母) | тінь、по́дорож、гі́дність | ті́ні、гі́дності/гі́дности |
| 第4変化 | -а、-я で終わる中性名詞のうち、変化すると -ат-、-ят-、-ен- が入るもの | курча́、теля́、ім’я́ | курча́ти、і́мені/ім’я́ |
第1変化と第2変化は、さらに硬変化・軟変化・混合変化の三つのグループに分かれます(§67)。語幹の最後の子音が硬いか、柔らかいか、ж・ч・ш・щ のようなしゅう音かで、語尾の母音が変わります。百科事典は、四つの変化のうち第1変化と第2変化がもっとも生産的(新しい語が入りやすい)だとしています。
第3変化の生格に гі́дності と гі́дности の二つの形があるのは、2019年版の正書法が -и の形も認めたためです。正書法の改訂については2019年の正書法は、7年後に「国家語の標準」になったで扱っています。
生格の語尾は、同じ第2変化の男性名詞でも -а になるものと -у になるものがあります。百科事典は、単数の生格を表す語尾として -и(стіни)、-а(ясена)、-у(будинку)を並べています。どちらになるかは語によって決まっているので、辞書の見出しの横の語尾で確かめます。見出しの読み方はлютого と打つと「ルター派」が出る。ウクライナ語の辞書の引き方にまとめています。
オリュカ
同じ前置詞でも、格が変わると意味まで変わるのでしょうか。
スウネ
町の中と町へ向かう、の違いが、この見出しの下の例で分かるよ。
タブリ
一つの格としか組まない前置詞と、複数の格と組む前置詞の分け方も、この見出しの下にまとまっているよ。
前置詞と格
百科事典の「прийменник」(前置詞)の項によれば、いまのウクライナ語の前置詞は200を超え、主格を除くすべての格と組み合わされます。前置詞がもっとも多く組むのは生格で、150を超えます。
- 一つの格とだけ組む:для(生格)、всупереч(与格)、про(対格)、поряд з(造格)、при(処格)
- 二つの格と組む:на、о(об)、по(対格と処格)、над、під、перед(対格と造格)
- 三つの格と組む:в(生格・対格・処格)、за、між(生格・対格・造格)
同じ前置詞でも、格が変わると意味が変わります。百科事典が挙げる例では、в місті(町で)と в місто(町へ)、над озером(湖の上で)と над озеро(湖の上へ)のように、処格や造格はその場所にいること、対格はそこへ向かうことを表します。同じ場所でも、іду в полі(畑の中を行く)と іду по полю(畑を行く)では前置詞が違います。
オリュカのひとこと
格変化は、日本語の助詞とそのまま置き換えられるのでしょうか。この節の例で確かめましょう。
日本語の助詞と一対一にはならない
格は、日本語の「が」「の」「に」「を」「で」と似た役割を持っています。ただ、一対一には対応しません。百科事典の例文を日本語に訳すと、そのことが分かります。
- 「に」:«Подарував народові»(民に贈った)の「民に」は与格。«Я лежу на возі»(私は荷車の上に寝ている)の「荷車の上に」は処格。в місто(町に向かって)は対格
- 「で」:«Їхали саньми»(そりで行った)の「そりで」は造格。в садку(庭で)は処格
- 「は」「が」:«Федькові досадно»(フェージコは悔しい)では、悔しいと感じている人が与格になっている。百科事典は、この与格を状態の主体を表す使い方として挙げている
- 「を」:対象はふつう対格だが、百科事典は、否定の文では生格が優勢で、そこに対格が広がりつつあると書いている
数を表す語と組むときも、格の使い方が変わります。百科事典によれば、п’ять(5)のような数詞は、主格と対格では名詞を生格にし(п’ять хлопців=5人の少年)、ほかの格では名詞と同じ格になります(п’ятьом хлопцям=5人の少年に)。数詞と名詞の組み合わせの基本は、3月は白樺、11月は落ち葉。ウクライナ語の月と日付と数字で扱っています。
格の働きを覚えるときは、日本語の助詞に置き換えるより、その語が文の中で何をしているか(誰がするのか、何に向かうのか、どこにあるのか、何を使うのか)で考えるほうが、取り違えが少なくなります。
出典と記事の記録
出典・参考資料
- 『Український правопис』2019年版§66 名詞の四つの変化、§67 硬・軟・混合のグループ、§68 変化の例〔маши́на、коза́к、тінь、по́дорож、гі́дність、курча́、ім’я́ ほか〕
発行:Українська національна комісія з питань правопису(Український центр оцінювання якості освіти のサイトに掲載された版) 確認日:2026-09-24 - Українська мова. Енциклопедія, 2-ге вид.2004。「Відмінок」〔І. Р. Вихованець〕:ウクライナ語7・ロシア語とベラルーシ語6・ドイツ語4、1893年の用語、中心の働き、Федькові досадно、п’ять хлопців/п’ятьом хлопцям。「Відмінювання」:語尾 -і の同形、生格の -и・-а・-у、変化の生産性。各格の項〔Називний, Родовий, Давальний, Знахідний, Орудний, Місцевий, Кличний відмінок〕:用語が1907年のクルィムシキーの文法書によること、例文。「Прийменник」:前置詞の数と格の組み合わせ、в місті/в місто
発行:НАН України, Інститут мовознавства ім. О. О. Потебні, Інститут української мови(Вид-во «Українська енциклопедія» ім. М. П. Бажана) 確認日:2026-09-24 - Ukrainian language格の働きの概説、処格は前置詞とだけ使うこと、話し言葉で呼格の代わりに主格、хáти/хатú の強勢による区別。1993年の紙の事典が初出、G. Y. Shevelov
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(Canadian Institute of Ukrainian Studies) 確認日:2026-09-24
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