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文化・歴史/解説

2019年の正書法は、7年後に「国家語の標準」になった

ウクライナ語で「プロジェクト」を проєкт と書くのは、2019年に改められた正書法の規則です。この正書法は2021年に一審で無効とされ、控訴審と2024年の最高裁で覆りました。2026年3月には、内閣の決定に代わって国家語法に基づく「国家語の標準」になりました。変わった規則と、その7年間をまとめます。

画像:Ukrainavi

オリュカのひとこと

「プロジェクト」は проект と проєкт、いまはどちらで書くのでしょう。2019年の規則から本文がたどります。

ウクライナ語で「プロジェクト」「案」を意味する語は、いま проєкт と書きます。2019年に改められたウクライナ語の正書法(правопис)が、外来語の中の [je] の音を є で書くと定めたからです。それより前には проект という綴りが広く使われてきました。

この2019年の正書法は、裁判で一度「無効」とされ、控訴審と最高裁で覆りました。そして2026年3月、内閣の決定ではなく、国家語法に基づく「国家語の標準」として改めて効力を持ちました。規則の中身はほとんど変わっていません。変わったのは、正書法を決める権限がどこにあるかです。以下は、正書法の本文、内閣と最高会議の決定、裁判の記録に基づいて、2026年9月時点でまとめたものです。

正書法は何を決めているか

2019年版の正書法の序文によれば、正書法は三つの部分でできています。文字(どの文字でどの音を表すか)、つづり(文字をどう組み合わせて語の音を書き表すか)、句読法(考えの区切りをどの記号で示すか)です。巻末には、単語ごとにどの規則が当てはまるかを引ける索引が付いています。

1928年、1933年、1990年

序文は、ウクライナ語の正書法の歴史も書いています。1919年にウクライナ科学アカデミーが「最も主要なウクライナ語正書法規則」を承認し、1928年9月6日には、ハルキウでの全ウクライナ正書法会議を経た正書法を、ウクライナ社会主義ソビエト共和国の教育人民委員ムィコラ・スクルィプニクが承認しました。非公式に「ハルキウ正書法」と呼ばれます。

しかし数年後、「ウクライナ化」政策が打ち切られると、その規則の多くが「民族主義的」で、ウクライナ語を「偉大な兄弟であるロシア語」から切り離すものだとして取り消されました(序文の引用による)。1933年に承認された別の正書法は、小さな改訂を経て1989年まで使われ、アルファベットからは ґ の文字が「恣意的に」除かれました。1989年に承認され1990年に刊行された版で、ґ は戻されています。ґ の文字と、ウクライナ語とロシア語の文字の違いは、ウクライナ語とロシア語はどこが違うのかで扱っています。

序文によると、ハルキウ正書法は、ソ連のウクライナの外にあった西ウクライナの地域と、国外のウクライナ人の多くの間では使われ続けました。

オリュカのひとこと

ефір と етер は、どちらかが誤りなのでしょうか。「両方を認める」規則を、表と下の説明で確かめられます。

2019年に何が変わったか

新しい版は、ウクライナ科学アカデミーの言語学の研究所や大学の専門家でつくるウクライナ国家正書法委員会が2015〜2018年に案をまとめ、公開の議論を経て、2018年10月24日に科学アカデミー幹部会と教育科学省の合同会議で了承されました。内閣は2019年5月22日の決定第437号で、この新しい版に同意し、1992年の決定第309号の関係する項を失効させました。決定は2019年5月30日に効力を持っています。

序文は、新しい版が「1928年の正書法のいくつかの特徴」をよみがえらせたと書く一方で、20世紀後半から21世紀初めの書き方も、すでにウクライナ語の正書法の伝統の一部になっている、と述べています。そのため、変更の多くは、古い書き方と新しい書き方の両方を認める形になりました。主なものは次のとおりです。

規則(2019年版の節)内容
外来語の [j](§126)[je] などの音の組み合わせは є などで書くпроєкт、проєкція、траєкторія
人名の [g](§122)外国の人名の g は、г で書いても ґ で書いてもよいГете と Ґете、Гегель と Ґеґель
ギリシャ語由来の th(§123)ふつうは т で書く。ф で定着した語は т との両方を認めるефір と етер、міф と міт、Афіни と Атени
ギリシャ語・ラテン語由来の au(§131)ау と ав の両方を認める語があるаудиторія と авдиторія、пауза と павза
第3変化の名詞の生格(§95)-ть で終わる語などは、-і のほかに -и も認めるрадості と радости、осені と осени、любові と любови
「半分」の пів(§36)「半分」の意味で名詞の生格と使うときは離して書くпів яблука、пів України(півострів などは続けて書く)
女性を表す名詞(§32)接尾辞 -к- などで女性形をつくるавторка、дизайнерка、директорка
『Український правопис』2019年版(§32・36・95・122・123・126・131)から作成(2026年9月24日確認)。例は本文に挙がっている語から選んだ。

表の「両方を認める」という規則は、どちらで書いても誤りではない、という意味です。新しい書き方だけが正しくなったわけではありません。

裁判で「無効」とされ、覆った

2019年の決定には、すぐに訴えが起こされました。最高裁判所の判決文によると、2019年6月に個人が、9月に市民団体が、それぞれキーウ市の行政地方裁判所に決定第437号の取り消しを求めて提訴し、二つの訴えは事件番号640/9824/19にまとめられました。

日付裁判所判断
2021年1月28日キーウ市行政地方裁判所訴えを全面的に認め、決定第437号を違法で無効とした。内閣には正書法を承認する権限が法律上なく、権限の外で決定したという理由
2021年5月11日第6行政控訴裁判所一審判決を取り消し、訴えを退けた。正書法は国家正書法委員会がつくり、教育科学省と科学アカデミーが了承する。内閣はそれに「同意」しただけで、「承認」したのではない、という理由
2024年5月22日最高裁判所(行政破毀裁判所)原告側の上告を退け、控訴審の判決を確定させた。この判決は最終で、不服を申し立てられない
最高裁判所の2024年5月22日の判決(事件番号640/9824/19)の記載から作成(2026年9月24日確認)。

一審から控訴審の判決までのおよそ3か月半、2019年の正書法をそのまま使ってよいのかが争われていました。控訴審の判決のあと、法務省の次官は「2019年の正書法の規範は有効であり、有効であり続ける」と述べています(ウクルインフォルム、2021年5月11日)。

2026年、「国家語の標準」へ

裁判で争われたのは、正書法を内閣の決定で扱ってよいかという点でした。これに別の形で答えたのが、2019年の国家語法です。国家語法の第44条は、国家語標準全国委員会(Національна комісія зі стандартів державної мови)が、正書法とその変更、用語、転写・翻字の規則などの「国家語の標準」を定めると書いています。国家語法の仕組みは、店の応対は1年半後、地方紙は5年後に。段階を踏んだウクライナの国家語法で紹介しています。

  • 2026年1月15日:最高会議が決議第4764-IX号「ウクライナ国家の確立におけるウクライナ語の役割の強化について」で、委員会に、正書法を国家語の標準として2026年3月1日までに定めるよう勧めた
  • 2026年3月1日:委員会が決定第47号で、ウクライナ語正書法を国家語の標準として承認した。本文は、委員会が2025年4月3日に設けた作業部会が、科学アカデミーの研究所や大学の研究者と仕上げた
  • 2026年3月27日:内閣が決定第398号で、2019年の決定第437号を失効させた
  • 2026年3月28日:国家語の標準「ウクライナ語正書法」が効力を持った

文化省と最高会議の人文・情報政策委員会の説明によれば、2026年の標準は2019年版の規則を変えていません。手が入ったのは、規範文書としての構成の整理、誤植や重複の訂正、例の追加、いくつかの語の強勢の訂正、条文の言い回しの明確化です。さらに、例の中から「侵略国とその同盟国」に関係する名前が除かれ、「ウクライナ語のアルファベット」の小節が加えられました。文化省は、これらの変更は利用者にとっての正書法の規則に影響しない、としています。

委員会は、議論の残っている点を体系的に解決するために、正書法の改善を続けるとしています(最高会議の同じ委員会の発表による)。表に挙げた「両方を認める」規則のどれかが、今後どちらかに絞られる可能性はあります。

日本語でウクライナ語を書き写すときに

ウクライナ語の綴りが、проект だったり проєкт だったりするのは、2019年より前の資料か後の資料かの違いであることがあります。ただし、2019年より後の公的な文書にも古い綴りは残っています。たとえば内閣が2023年7月28日に出した命令第657-р号は、本文で「проекту правопису」(正書法の案)と古い綴りを使っています。また、ефір と етер のように両方が正しい語では、書き手がどちらを選んだかの違いです。どちらかを誤りと決めつけず、まず正書法の索引で、その語にどの規則が当てはまるかを確かめるのが確実です。

1876年のエムス法令が、ウクライナ語の出版物をロシア語のアルファベットで印刷させた経緯は、ロシア帝国でウクライナ語の出版が禁じられた翌年、日本では東京大学が開かれたで書いています。正書法の歴史は、禁じられ、変えさせられた文字を取り戻してきた歴史でもあります。

出典と記事の記録出典 12件 · AIの利用 · 運営体制

出典・参考資料

  1. 『Український правопис』2019年版序文:三つの部分、1919年・1928年9月6日・1933年・1989/1990年の経緯、2018年10月24日の了承、1928年の特徴の復活/§32・36・95・122・123・126・131
    発行:Українська національна комісія з питань правопису(Український центр оцінювання якості освіти のサイトに掲載された版) 確認日:2026-09-24
  2. Постанова КМУ № 437 «Питання українського правопису»2019年5月22日。第1〜3項、1992年の決定第309号第1項の失効、2026年3月28日に失効
    発行:Кабінет Міністрів України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  3. 同決定の文書カード2019年5月30日の効力発生、2026年3月28日の失効、根拠 398-2026-п
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  4. Постанова КМУ № 398 «Про визнання такою, що втратила чинність, постанови Кабінету Міністрів України від 22 травня 2019 р. № 437»2026年3月27日
    発行:Кабінет Міністрів України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  5. Постанова Верховного Суду у справі № 640/9824/192024年5月22日。訴えの経緯、2021年1月28日の一審判決と理由、2021年5月11日の控訴審判決と理由、上告の棄却
    発行:Верховний Суд(Єдиний державний реєстр судових рішень) 確認日:2026-09-24
  6. Новий правопис залишається: суд скасував рішення ОАСК2021年5月11日。法務省次官の発言
    発行:Укрінформ 確認日:2026-09-24
  7. Закон України «Про забезпечення функціонування української мови як державної» № 2704-VIII第43・44条:国家語標準全国委員会と国家語の標準
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  8. Розпорядження КМУ № 657-р «Питання розроблення правопису кримськотатарської мови»2023年7月28日。本文の綴り проекту
    発行:Кабінет Міністрів України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  9. Постанова Верховної Ради України № 4764-IX «Про посилення ролі української мови в утвердженні Української держави»2026年1月15日。第1項
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  10. Український правопис як стандарт державної мови затверджено2026年3月2日公表。3月1日の承認、決議4764-IXの履行、2025年4月3日の作業部会
    発行:Національна комісія зі стандартів державної мови 確認日:2026-09-24
  11. Набрав чинності Український правопис2026年3月27日公表。決定第47号、編集上の修正の内容、規則に影響しないこと
    発行:Міністерство культури України 確認日:2026-09-24
  12. Набрав чинності стандарт державної мови «Український правопис»2026年3月30日公表。3月28日の効力発生、改善の継続
    発行:Комітет з питань гуманітарної та інформаційної політики, Верховна Рада України 確認日:2026-09-24

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