ручка は小さな手、そしてペン。ウクライナ語の指小形
ウクライナ語の ручка は「小さな手」で、「取っ手」「ペン」でもあります。語の終わりに付けて「小さな」「かわいい」を足す指小形の接尾辞を名詞の性ごとに並べ、хата から хатиночка まで三段に重ねる形、形容詞・副詞・子ども向けの動詞への広がり、小ささの意味をなくした語を、百科事典・正書法・辞書の記述でまとめました。
オリュカのひとこと
ウクライナ語には「小さな」を足す語尾があるそうです。最初の見出しで確かめられます。
ウクライナ語で「手」は рука です。これに -к- を足した ручка を辞書で引くと、いくつかの意味が並んでいます。よく使われるのは次の三つです。一つ目は「рука の指小・愛称形」、つまり小さな手、かわいい手。二つ目は、ドアやかばんの「取っ手」。三つ目は、字を書く「ペン」です(辞書には、楽器の棹を指す意味と、農作業でひと振りに刈る幅を指す意味も別に載っています)。
語の終わりに付けて「小さな」「かわいい」という気持ちを足す形を、ここでは指小形と呼びます。以下、指小形を作る語尾の種類、重ねて使う形、名詞以外への広がり、もとの意味から離れた語を、ウクライナ国立科学アカデミーの言語学研究所とウクライナ語研究所が編んだ『Українська мова. Енциклопедія』(ウクライナ語百科事典、第2版2004年。以下、百科事典)、2026年に国家語の標準となった正書法(правопис)、アカデミーの『Словник української мови』(ウクライナ語辞典。20巻本のオンライン版と、1970〜80年の11巻本)の記述にもとづいてまとめます。確認は2026年9月時点です。
指小形とは何か
百科事典は「Зменшувальні утворення」(指小の派生語)の項で、指小形を「小ささの意味を表す派生名詞」と定義しています。そのうえで、この小ささにはたいてい話し手の評価が伴うとし、よい評価の例に коник(小さな馬、かわいい馬)、まれに悪い評価の例に ідейка(つまらない思いつき)、гімназистик(ちっぽけなギムナジウムの生徒)、дільце(ちょっとした用件)を挙げています。同じ項によれば、指小形は主に話し言葉で使われます。
反対の働きをするのが、大きさを足す「Збільшувальні утворення」(指大の派生語)です。百科事典は、生産的なのは -ищ-е の型だけだとし、хвостище(大きな尻尾)、носище(でかい鼻)、ручище(大きな手)などを挙げています。こちらは、さげすむ響きを伴うことが多いと書かれています。
一つのものを指す、いくつかの呼び名
百科事典の見出しは「Зменшувальні утворення」で、ラテン語から来た「Демінутиви」(ディミヌティーヴィ)は、そちらを見るよう案内されています。さらに百科事典は、指小と指大の両方を含む広い呼び名として「Назви суб’єктивної оцінки」(主観的な評価を表す語)の項を立て、指小・指大の意味を出発点にした接尾辞がこの評価を表す、と説明しています。辞書の語釈では、同じものが略号で示されます。11巻本は хатинка(小さな家)に「Зменш.-пестл.」(指小・愛称)、хатиночка に「Пестл.」(愛称)と書き分けています。
語尾は、名詞の性ごとに違う
百科事典は、指小形を作る接尾辞を、もとの名詞の性ごとに挙げています。
| もとの名詞の性 | 接尾辞(百科事典の挙げ方) | 百科事典の例 |
|---|---|---|
| 男性 | -ок(-очок、-ечок)、-ик(-ичок)、-чик、-ець、-ась、-унь、-усь、-ць-о | садок(сад 庭)、горішок、місток;журавлик、ліхтарик、ножичок;майданчик;морозець;Михась;дідусь |
| 女性 | -к-а(-очк-а、-ечк-а)、-иц-я(-ичк-а)、-оньк-а(-еньк-а)、-ул-я、-ун-я、-ус-я、-ц-я | берізка、казочка;водиця、сестриця、синичка;голубонька、рибонька;мамуля、бабуня、Маруся、мамця |
| 中性 | -к-о(-очк-о、-ечк-о)、-ц-е、-оньк-о/-еньк-о、-ць-о | яблучко、блюдечко;вітрильце、сальце;горенько |
どの型もよく使われるわけではありません。百科事典によれば、男性名詞でいちばん生産的なのは -ок の型で、小ささと愛らしさを同時に表します。女性名詞では -к-а(-очк-а/-ечк-а)の型、中性名詞では -к-о の型が生産的です。-иц-я/-ичк-а と -оньк-а/-еньк-а は愛らしさを表すのに特化している、とも書かれています。一方、-ась(Михась、кумась)、-усь(дідусь)、-ус-я(Маруся)、-ул-я(мамуля)などの型は新しい語をほとんど作らず、同じ項は、これらが家族や親しい人どうしの呼び方に多いとしています。
同じ意味の語が、違う接尾辞で並ぶこともあります。百科事典は、візок と возик(小さな荷車)、вітрець・вітерок・вітрик(そよ風)のような組を挙げています。
綴りの決まり
似た語尾の書き分けは、正書法が決めています。2026年3月28日に効力を持った国家語の標準「Український правопис」は、§32 で次のように定めています(2019年版の同じ節と内容は同じです)。
- 指小・愛称の意味を持つ -ечок/-єчок、-ечк-(а)/-єчк-(а)、-ечк-(о)/-єчк-(о) は е(є)で書く:мішечок(小さな袋)、річечка(小川)、копієчка(1コピーカ硬貨の愛称)、Марієчка(Марія の愛称)、словечко(ひとこと)、яєчко(卵)
- これとは別に、-ичок、-ичк-(а) で終わる語がある:ножичок(小さなナイフ)、травичка(草)
- 愛称を作る -еньк-(о, а)(батенько、ніженька、тополенька)と、主に姓を作る -енк-(о)(Адаменко、Кравченко)は書き分ける
同じ標準の §26 は、-еньк-、-оньк-、-есеньк-、-ісіньк-、-юсіньк- の語尾には軟音記号 ь を書くとし、гарненький、рученька、голівонька、малесенький、свіжісінький、тонюсінький を例に挙げています。
二段、三段と重ねる
指小形に、さらに指小の語尾を重ねることができます。百科事典は、もともと小さいという意味を持たない名詞から、1段目・2段目・3段目の指小形が作られるとして、次の例を挙げています。
- хата(家)→ хатина → хатинка → хатиночка
- хліб(パン)→ хлібець → хлібчик
- верба(ヤナギ)→ вербиця → вербичка → вербиченька
11巻本の辞書で хата の列をたどると、段ごとの違いが語釈に表れています。хатина は「хата と同じ。小さな、貧しい、または古い家」(別に「家の中の小さい部屋」の意味もある)。хатинка は「хатина の指小・愛称形」。хатиночка と хатинонька は「хатинка の愛称形」です。11巻本は хатиночка の用例に、シェウチェンコの詩の一節を引いています。
Не називаю її раєм, / Тії хатиночки у гаї / Над чистим ставом край села
タラス・シェウチェンコ。『Словник української мови』11巻本、第11巻(1980年)ХАТИНОЧКА の用例
「あの小さな家を、楽園とは呼ばない。村はずれの澄んだ池のほとり、林の中の」。訳は編集部によるものです。
オリュカ
指小形は、はじめから「かわいい」という気持ちも表していたのかな。
タブリ
意味が広がってきた順番は、この見出しの下の表でたどれるよ。
スウネ
記録に出てくる文書の名前までは挙げられていないと、表の下にあるね。
はじめは「小ささ」だけだった
百科事典は、指小形の意味がどう広がってきたかも書いています。
| 時期 | 百科事典の記述 | 典拠 |
|---|---|---|
| 11世紀 | 実務の文書の記録に、指小形がすでに現れる | 「Зменшувальні утворення」 |
| 16世紀 | ウクライナ語の文献に、2段目の指小形が現れる | 同上 |
| その後 | はじめは物・生き物・現象の実際の小ささを表していたが、しだいに話し手の評価も表すようになる | 同上 |
| いま | 感情と評価の意味が育った指小形は、「主観的な評価を表す語」になっていく | 同上、「Назви суб’єктивної оцінки」 |
名詞だけでなく、形容詞・副詞・動詞にも
「小さな」「かわいい」を足す語尾は、名詞だけのものではありません。百科事典の「Назви суб’єктивної оцінки」の項は、主観的な評価を表す語が、名詞・形容詞・副詞に多く、まれに動詞・代名詞・数詞にもあるとしています。その強さは、名詞、形容詞、副詞の順に弱まり、動詞・代名詞・数詞ではいくつかの語に限られる、という説明です。
| 品詞 | 百科事典の例 |
|---|---|
| 形容詞 | маленький、малесенький、манюсінький(どれも「小さな」から) |
| 副詞 | рясненько、помаленьку、щохвилинки/щохвилиночки |
| 動詞(子どもへの話し言葉) | їстоньки(食べる)、спатоньки、спаточки、спатусі(寝る) |
| 代名詞・数詞 | однісінький(たった一つの)、самісінький、ніякісінький、отакенький |
辞書でも確かめられます。20巻本は маленький を「大きさが小さい」と独立した見出しで説明し、11巻本は тихенько を「тихенький(静かな)の副詞」として、«тихенько тануть стане»(そっと溶けはじめる)のような用例を挙げています。動詞の形について、百科事典は子どもに向けた話し言葉に特有だとしています。
オリュカのひとこと
形は指小形でも、意味が変わった語があるようです。この見出しで確かめられます。
「小さな」ではなくなった語
指小形が、小ささの意味をなくして別の語になることがあります。百科事典はこれを意味が薄れる現象(десемантизація)と呼び、例を挙げています:бузок(ライラック)、жайворонок(ヒバリ)、куток(隅)、оберемок(ひと抱え)、ставок(池)、гаманець(財布)、голубець、стілець(椅子)、блюдце(受け皿)、кільце(輪)、сільце、ґудзик(ボタン)、метелик(チョウ)、альтанка(あずまや)、свитка(上着)。
辞書の語釈を見ると、どこまで離れたかは語によって違います。
| 語 | 辞書の語釈 | 辞書 |
|---|---|---|
| ручка | 1. рука の指小・愛称形 2. 取っ手、ハンドル、ひじ掛け 3. 字を書く道具(ペン) | 20巻本 |
| голубець | 1. голуб(ハト)の指小・愛称形 2. 踊りの型の一つと、その踊り・曲 3. голубці(料理)を見よ | 20巻本 |
| кільце | 円の形をした物(多くは金属)。指小形の語釈はない | 20巻本 |
| блюдце | カップやグラスの下に置く茶器。指小形の語釈はない | 20巻本 |
| стілець | 一人で座る、たいてい背のある家具。指小形の語釈はない | 11巻本 |
| сонечко | 1. сонце(太陽)の愛称形。親しい人への呼びかけにも 2. 赤や黄色に黒い点のある小さな甲虫(テントウムシ) | 11巻本 |
オリュカ
ставок は、ただの池なのかな、小さな池なのかな。
スウネ
百科事典と辞書で扱いが分かれていることが、この見出しの下に並べてあるよ。
ヨリクネ
辞書の引き方は、記事の終わりの見出しからリンク先の記事へ寄り道できるよ。
ставок は「池」か、「小さな池」か
資料によって扱いが分かれる語もあります。百科事典は ставок を、小ささの意味をなくした例に入れています。一方、11巻本の辞書は ставок に二つの意味を立て、一つ目を「став(池)と同じ」、二つ目を「став の指小・愛称形」としています。辞書は、池の意味の ставок と、小さな池の意味の ставок の両方を認めていることになります。文章の中の ставок がどちらかは、文脈で読むしかありません。
人の呼び名と、家族の呼び名
百科事典が挙げる例には、人の名前や家族の呼び方も入っています。名前では Михась(Михайло から)、Маруся(Марія から)、正書法の §32 には Марієчка(Марія から)があります。家族では дідусь(おじいちゃん)、бабуня(おばあちゃん)、мамуля、мамця(お母さん)、дядечко(おじさん)などです。百科事典は、こうした型の多くが家族の間柄を表すのに使われるとしています。
ただし、ある人を愛称でどう呼ぶかは、本人や家族の習慣によります。名前の書き方と呼びかけの形はウクライナの人の名前──ローマ字の綴り、父称、呼びかけの形、親族の呼び名は夫の母は свекруха、妻の母は теща。ウクライナ語の親族の呼び名で扱っています。
辞書で指小形を引くとき
指小形は、辞書に独立した見出しで載っていることが多く、語釈の冒頭に「Зменш.-пестл. до …」(…の指小・愛称形)、「Пестл. до …」(…の愛称形)と、もとの語が示されます。ручка や сонечко のように、二つ目以降の意味が別の物を指していることがあるので、番号の付いた語釈は最後まで読むと取り違えが少なくなります。見出しの引き方と略号の読み方はлютого と打つと「ルター派」が出る。ウクライナ語の辞書の引き方にまとめています。20巻本のオンライン版は2026年9月時点で Р の文字までの語を収めているので、С 以降の文字で始まる語(ставок、стілець、сонечко、хатинка など)は11巻本で引きました。
出典と記事の記録
出典・参考資料
- Українська мова. Енциклопедія, 2-ге вид.2004。「Зменшувальні утворення」〔Н. Ф. Клименко。定義、коник・ідейка ほか、1〜3段目の指小形 хата>хатина>хатинка>хатиночка ほか、11世紀・16世紀の記録、意味の移り変わり、десемантизація の例、性別の接尾辞と例、生産性〕、「Демінутиви」〔Зменшувальні утворення を見よ〕、「Назви суб’єктивної оцінки」〔Н. Ф. Клименко。品詞ごとの例と強さの順〕、「Збільшувальні утворення」〔-ищ-е、хвостище・носище・ручище〕
発行:НАН України, Інститут мовознавства ім. О. О. Потебні, Інститут української мови(Вид-во «Українська енциклопедія» ім. М. П. Бажана) 確認日:2026-09-27 - 『Український правопис』国家語の標準2026年版。§26 軟音記号〔-еньк-、-оньк-、-есеньк-、-ісіньк-、-юсіньк-〕、§32 第8項〔-ечок・-ечк-〕・第9項〔-енк-と-еньк-〕
発行:Національна комісія зі стандартів державної мови(決定第47号、2026年3月1日) 確認日:2026-09-27 - 『Український правопис』2019年版§26・§32 の対応する規定の照合
発行:Українська національна комісія з питань правопису(Український центр оцінювання якості освіти のサイトに掲載された版) 確認日:2026-09-27 - Словник української мови у 20 томах, onlineРУ́ЧКА、ГОЛУБЕ́ЦЬ、КІЛЬЦЕ́、БЛЮ́ДЦЕ、МАЛЕ́НЬКИЙ の見出しと語釈
発行:Український мовно-інформаційний фонд НАН України 確認日:2026-09-27 - Словник української мови в 11 томах, т. 91978。СОНЕЧКО、СТАВОК、СТІЛЕЦЬ
発行:АН УРСР, Інститут мовознавства ім. О. О. Потебні(Наукова думка) 確認日:2026-09-27 - Словник української мови в 11 томах, т. 101979。ТИХЕНЬКО
発行:АН УРСР, Інститут мовознавства ім. О. О. Потебні(Наукова думка) 確認日:2026-09-27 - Словник української мови в 11 томах, т. 111980。ХАТИНА、ХАТИНКА、ХАТИНОНЬКА、ХАТИНОЧКА とシェウチェンコの用例
発行:АН УРСР, Інститут мовознавства ім. О. О. Потебні(Наукова думка) 確認日:2026-09-27
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