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社会を知る/解説

どちらも直訳は「ウクライナ正教会」。OCUとUOC、そして2024年の法律

ウクライナには、どちらも直訳すれば「ウクライナ正教会」になる二つの教会があります。2019年にコンスタンティノープルから独立を認められたOCUと、モスクワ総主教庁に属してきたUOCです。1686年の書簡を取り消した2018年の決定から、2024年の法律によるUOCキーウ府主教区への手続きまでをたどります。

ウクライナには、名前のよく似た正教会が二つあります。一つは「Православна церква України」(英語では Orthodox Church of Ukraine、略してOCU)。2018年12月に結成され、2019年1月にコンスタンティノープル総主教庁から独立(独立教会=アウトケファリー)を認められた教会です。当媒体の クリスマスの日付の記事 では「ウクライナ正教会」と訳しています。

もう一つは「Українська православна церква」(英語では Ukrainian Orthodox Church、略してUOC)。直訳すればこちらも「ウクライナ正教会」ですが、長くモスクワ総主教庁(ロシア正教会)に属してきた教会です。以下、混同を避けるため、この記事では二つをOCUとUOCと略して書きます。2024年8月、ウクライナの最高会議はロシア正教会の国内での活動を禁じる法律を採択し、UOCの中心組織はこの法律にもとづく手続きの対象になっています。

1686年の書簡と、2018年の決定

出発点は1686年にさかのぼります。コンスタンティノープル総主教庁の聖シノド(主教会議)が2018年10月11日に出した発表によれば、同年の書簡は、キーウ府主教区の聖職者と信徒の集会が選んだキーウ府主教を、モスクワ総主教が叙任する権利を「オイコノミア(教会の便宜上の措置)」として与えたものでした。キーウ府主教は、礼拝のたびにコンスタンティノープル総主教を首位の聖職者として記念することとされていた、と発表は書いています。

2018年10月9日から11日のシノドで、総主教庁は次のことを決めました。

  • ウクライナの教会に独立を与える手続きを進めるという、すでにした決定をあらためて確認する
  • キーウに総主教の直轄教会(スタウロペギオン)を再び置く
  • それまで正教会の交わりから外れていたフィラレート(デニセンコ)とマカリー(マレティチ)らの訴えを受け入れ、聖職の地位に戻す
  • 1686年の書簡の法的な拘束力を取り消す
  • すべての当事者に、教会・修道院などの財産の奪い合いと暴力、報復を避けるよう呼びかける

OCUの公式サイトの沿革によれば、2018年12月15日、キーウの聖ソフィア大聖堂で「統一公会」が開かれました。その直前に、キーウ総主教庁系のウクライナ正教会(УПЦ КП)とウクライナ独立正教会(УАПЦ)がそれぞれ公会を開き、別々の組織としての活動を終えて一つの教会にまとまることを決めています。統一公会には両教会のすべての主教と、モスクワ総主教庁系の主教2人が加わり、OCUの設立と規約を決め、秘密投票で首座にエピファーニイ府主教を選びました。

独立を認めたトモス

総主教庁が独立を認める文書が「トモス」です。OCUの沿革によれば、総主教ヴァルソロメオスは2019年1月5日にトモスに署名し、翌6日、コンスタンティノープル(イスタンブール)の総主教庁の聖ゲオルギオス教会での礼拝の中でエピファーニイ府主教に手渡しました。総主教庁のサイトに掲載された英語訳の本文は、次のように定めています。

  • ウクライナという国家の境界の内にある正教会の全体を、独立した自治の教会とする
  • 首座は「キーウと全ウクライナの府主教」の称号を持つ
  • 管轄はウクライナの国家の領域内に限り、国外に主教を置いたり教会を設けたりすることはできない(国外の信徒はコンスタンティノープル総主教庁の管轄)
  • 重大な教会法・教義上の問題では、コンスタンティノープル総主教庁の意見を求める

OCUの沿革は、1月9日にコンスタンティノープルのシノドの全員がトモスに署名し、独立の手続きが形式上完了したと書いています。

全面侵攻のあとのUOC

UOCは、ロシアによる2022年2月24日の全面侵攻から3か月後の5月27日、キーウで公会を開きました。UOCの公式サイトに載る決議は、戦争を「殺してはならない」という神の戒めへの違反として非難し、戦争についてのモスクワ総主教キリルの立場に「同意しない」と表明しています。そして、規約に「UOCの完全な自立と独立を示す」追加と変更を加えたと書いています。

同じ決議は、OCUとの対話の条件として、教会の建物の「力ずくの奪取」や教区の強制的な移籍をやめること、OCUの主教の叙階の正統性の問題を解決することなどを挙げました。決議は、OCUの主教を正統と認めるには使徒継承の回復が必要だとしており、この時点でUOCはOCUの聖職を正統とは認めていません。

この「独立」の中身を、ウクライナ政府は認めていません。宗教政策を担うウクライナ国家民族政策・良心の自由庁(ДЕСС、以下「国家庁」)は、2022年12月、UOCの2022年5月27日付の規約や、1990年10月27日付のモスクワ総主教アレクシー2世の文書などを公開しました。国家庁は2023年1月に宗教学の専門家による鑑定をまとめ、UOCがロシア正教会の構成の一部であると結論づけています。

2024年8月の法律

最高会議は2024年8月20日、法律第3894-IX号「宗教団体の活動の分野における憲法秩序の保護について」を採択しました。施行は同年9月23日です。前文は、ロシアの武力侵略をロシア正教会が支持していること、ロシア正教会とその下にある団体の違法な行為が国家と社会の安全を脅かしていることを、法律をつくる理由に挙げています。

法律の中心は次の点です。

  • ロシア正教会のウクライナでの活動を禁じる(第3条第1項)。条文は、その理由としてロシア正教会を「侵略国の体制のイデオロギー上の延長」であり、ロシアの名で行われている戦争犯罪と人道に対する罪への「共犯」だとしている
  • ロシア正教会と「関係のある(афілійовані)」宗教団体の活動は認めず、法律の定める手続きで解散させる(第3条第2項)
  • 「関係がある」とみなす目安を7つ定める。ロシア正教会の組織の一部になっていること、ロシア正教会の決定が拘束力を持つこと、ロシア正教会が団体の長を任命・承認することなど(宗教の自由法に加えた第5-1条)
  • 禁じられた団体との関係・つながり・連絡は、国家庁の同意がない限り認めない(第4条第4項)
  • 宗教団体を「ロシア世界(русский мир)」のイデオロギーの宣伝に使うことを禁じる(第5条)
  • 一方で、この法律のどの規定も、宗教や信念を実践する自由、宗教上の儀式を守る権利を制限するものと解釈してはならないとする(第1条第2項)

手続きは段階を踏みます。国家庁がまず「関係の有無」を調べ、関係の目安が見つかれば、違反を正すよう求める命令(припис)を出します。団体は30日以内(申請により最長60日延長)に違反を正して報告できます。正されなければ、国家庁は団体を「関係がある」と認める決定をし、裁判所に解散を求めます。裁判は1審が1か月以内、上訴審(最高裁判所の5人以上の裁判官の合議体)も1か月以内に判断することとされ、最高裁の判断で確定します。この裁判の手続きの規定は、法律の公布の翌日から9か月後に効力を持つと定められていました。

同じ法律は、宗教の自由法を改め、教区(宗教共同体)が総会の決定で所属先を変える権利を明記しました。所属先を変えるための総会は、共同体の会員が自ら招集できます。

キーウ府主教区をめぐる手続き

この法律が最初に適用されたのが、UOCの中心となる法人「UOCキーウ府主教区」です。国家庁の発表をたどると、次のように進みました。

日付国家庁の発表による出来事
2025年5月17日キーウ府主教区について、ロシア正教会との関係の有無の調査を5月20日から始めると発表
2025年7月8日関係の目安が見つかったとする命令を出し、調査結果を公開
2025年7月17日違反を正すよう求める命令をキーウ府主教区に出したと発表。期限は2025年8月18日
2025年8月27日UOCの首座オヌフリイ府主教が命令に従わないと書面で回答したとして、キーウ府主教区を「関係がある」団体と認める決定
2025年国家庁がキーウ府主教区の解散を求めて提訴(事件番号855/11/25。第1審は第6行政控訴裁判所)
2026年9月22日最高裁判所が、同じ事件でUOCのキーウ・ペチェールシク大修道院が出した上訴の手続きを開始(国家庁が9月23日に発表)
ウクライナ国家民族政策・良心の自由庁(ДЕСС)の公式サイトの発表から作成(2026年9月24日確認)。2026年9月24日時点で、この事件は終わっていない。

国家庁が2026年6月10日に更新した「関係がある」団体の一覧には、キーウ府主教区のほか、コレツの修道院と、キーウのホロシーウ修道院の3団体が載っています。国家庁は2026年7月31日の声明で、キーウ府主教区が命令に従い、教区や主教区、神学校、修道院などをロシア正教会の構成から外す決定をすれば、訴えを取り下げると述べています。

2023年の鑑定をめぐっては、別の裁判もあります。国家庁の説明によれば、第6行政控訴裁判所は2026年4月6日、鑑定を承認した国家庁の命令を、キーウ府主教区側が出した鑑定委員の忌避の申し立てに別途答えていなかったという手続き上の理由で取り消しました。国家庁は、裁判所は鑑定の結論そのものは取り消していないとして、忌避の申し立てを検討したうえで2026年5月13日にあらためて鑑定を承認し、最高裁判所にも上告しています。国家庁は、この裁判は2024年の法律にもとづく「関係」の判断には影響しないとしています。

名前の違いを読み分ける

ニュースで「ウクライナ正教会」と書かれていたら、どちらの教会を指しているのかを確かめる必要があります。OCUは2019年に独立を認められた教会、UOCは2022年に「完全な自立と独立」を表明したものの、ウクライナ政府からロシア正教会の一部とみなされている教会です。2024年の法律が禁じたのはロシア正教会の活動と、それと「関係がある」と認められた団体の活動で、個々の信徒の信仰ではありません。法律はまた、教区が所属先を自分たちで変える道を条文に書き込んでいます。

出典・参考資料

  1. Announcement of the Holy and Sacred Synod (11th Oct. 2018)(2018年10月9〜11日のシノドの決定5項目、1686年の書簡の内容)
    発行:Ecumenical Patriarchate 確認日:2026-09-24
  2. Patriarchal and Synodal Tomos for the Bestowal of the Ecclesiastical Status of Autocephaly to the Orthodox Church in Ukraine(2019年1月6日付の英語訳本文。管轄の範囲、首座の称号、国外に主教を置かないこと、重大な問題での意見の求め)
    発行:Ecumenical Patriarchate 確認日:2026-09-24
  3. Історія(OCUの沿革。2018年12月15日の統一公会、2019年1月5日の署名、6日の授与、9日のシノド全員の署名)
    発行:Православна церква України 確認日:2026-09-24
  4. Постанова Собору Української Православної Церкви від 27 травня 2022 року(2022年5月27日の公会の決議)
    発行:Українська Православна Церква 確認日:2026-09-24
  5. Закон України «Про захист конституційного ладу у сфері діяльності релігійних організацій» № 3894-IX(2024年8月20日。前文、第1〜5条、終わりの規定と経過規定、宗教の自由法に加えた第5-1条・第8条・第16条の改正、行政訴訟法第289-9条の追加)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  6. 同法の文書カード(2024年9月23日の施行)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  7. Про статутні документи Української Православної Церкви з 27 травня(2022年12月18日。UOCの規約、1990年10月27日のアレクシー2世の文書などの公開)
    発行:Державна служба України з етнополітики та свободи совісті 確認日:2026-09-24
  8. ДЕСС повідомляє про початок дослідження(2025年5月17日発表。5月20日からの調査開始、内閣決定第543号の手続き)
    発行:Державна служба України з етнополітики та свободи совісті 確認日:2026-09-24
  9. Виявлено ознаки афілійованості Київської митрополії УПЦ з РПЦ(2025年7月8日の命令と調査結果)
    発行:Державна служба України з етнополітики та свободи совісті 確認日:2026-09-24
  10. Київській митрополії УПЦ винесено припис про усунення порушень(2025年7月17日。期限8月18日)
    発行:Державна служба України з етнополітики та свободи совісті 確認日:2026-09-24
  11. КИЇВСЬКУ МИТРОПОЛІЮ УКРАЇНСЬКОЇ ПРАВОСЛАВНОЇ ЦЕРКВИ визнано афілійованою...(2025年8月28日発表、8月27日の決定、オヌフリイ府主教の回答)
    発行:Державна служба України з етнополітики та свободи совісті 確認日:2026-09-24
  12. Оголошення про призначення справи № 855/11/25 до апеляційного розгляду(2026年4月28日。国家庁によるキーウ府主教区の解散請求事件の上訴審)
    発行:Державна служба України з етнополітики та свободи совісті 確認日:2026-09-24
  13. Оголошення про відкриття апеляційного провадження за апеляційною скаргою релігійної організації «Свято-Успенська Києво-Печерська Лавра...»(2026年9月23日。事件855/11/25の最高裁での上訴手続き)
    発行:Державна служба України з етнополітики та свободи совісті 確認日:2026-09-24
  14. ДЕСС затвердила оновлений Перелік релігійних організацій ... афілійованих(2026年6月10日。3団体)
    発行:Державна служба України з етнополітики та свободи совісті 確認日:2026-09-24
  15. Заява Організаційно-комунікаційного відділу ДЕСС(2026年7月31日。命令に従えば訴えを取り下げるとの表明)
    発行:Державна служба України з етнополітики та свободи совісті 確認日:2026-09-24
  16. Судова постанова і експертиза УПЦ: що насправді вирішено(2026年5月1日。2023年1月の鑑定、2026年4月6日の控訴審判決、上告)
    発行:Державна служба України з етнополітики та свободи совісті 確認日:2026-09-24
  17. ДЕСС повторно підтвердила висновок експертизи...(2026年5月18日。2026年5月13日の命令 Н-82/11)
    発行:Державна служба України з етнополітики та свободи совісті 確認日:2026-09-24

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