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文化・歴史/解説

16棟のうち8棟がウクライナに。カルパティアの木造教会

丸太を水平に積み、屋根と壁を木のこけら板で覆ったカルパティア山地の木造教会「ツェルクヴァ」。2013年にポーランドと共同でユネスコの世界遺産に記載された16棟のうち、8棟がウクライナにあります。四つの建築の型と8棟の顔ぶれ、2024年の報告が書く戦時下の保全の課題をまとめます。

オリュカのひとこと

世界遺産の16棟は、ポーランドとウクライナにどう分かれているのでしょう。2013年の記載から見てみましょう。

1502年。リヴィウ州ポテリチにある聖霊降臨教会が建てられた年として、ユネスコの諮問機関ICOMOS(国際記念物遺跡会議)の評価書が記す年です。評価書はこの教会を、地域に残るもののなかで最も古い部類に入ると書いています。丸太を積んで建てたこの木造教会は、ポーランドとウクライナにまたがる世界遺産「ポーランドとウクライナのカルパティア地方の木造教会群」(Wooden Tserkvas of the Carpathian Region in Poland and Ukraine)の一つです。

英語名の「ツェルクヴァ」(tserkva)は、ウクライナ語で教会を指す церква をそのまま写した語です。ユネスコの説明によると、16世紀から19世紀にかけて、正教会とギリシャ・カトリック教会の信徒の共同体が、木の丸太を水平に積んで建てたものです。

2013年、2か国で一つの世界遺産に

世界遺産委員会は2013年、カンボジアのプノンペンで開いた第37回会合で、16棟の教会を一つの世界遺産として記載しました(決定37 COM 8B.37)。認められた基準は(iii)と(iv)です。決定は理由として、正教会の主流の伝統に地域の建築の言葉が織り込まれた独自の教会建築の伝統を示していること、伝統的な丸太組みの建物群として、カルパティア地方の建築史の重要な段階を表していることを挙げています。

16棟のうち8棟がポーランドに、8棟がウクライナにあります。ICOMOSの評価書によると、世界遺産の範囲はポーランド側が3.29ヘクタール、ウクライナ側が3.74ヘクタールで、各棟の周りにそれぞれ緩衝地帯が設けられています。両国がこの教会群を暫定一覧に載せたのは2010年1月(ウクライナが28日、ポーランドが29日)でした。

丸太を積み、こけら板で覆う

決定文の説明では、建物は複雑な仕口で角を組んだ水平の丸太でできています。石の基礎の上に置いた木の土台に載り、屋根と壁は木のこけら板(薄い板を重ねて葺いたもの)で覆われています。平面は三つの部分に分かれ(ICOMOSの評価書では入口の間、身廊、至聖所)、その上に四角形や八角形の丸屋根や塔が載ります。聖障(イコノスタシス。聖画を並べて至聖所を仕切る壁)、彩色された内装、鐘楼、墓地、門、周りの柵や塀も、世界遺産を形づくる要素とされています。

壁や屋根を覆う板は20〜30年ごとに張り替えが必要です。決定文は、その技術と手仕事の知識を受け継ぐことが、建物の真正性を保つ条件だとしています。ほとんどの教会は元の扉と錠を残していて、入口の上の横木には、建てた年と大工の名が刻まれている、とも書いています。

オリュカのひとこと

同じ木造教会でも、型が四つに分かれるのはなぜでしょう。この節で形の違いを見比べてみましょう。

四つの型

決定文とICOMOSの評価書は、16棟を建てた人々の集団ごとに四つの型に分けています。ボイコ、フツル、レムコは、カルパティア山地に暮らしてきたウクライナ人の民族誌的な集団の名です(Internet Encyclopedia of Ukraine)。

  • ハルィチ型(6棟):カルパティア北部、両国の国境の両側。古い型は身廊の上に2段のピラミッド形の屋根を載せ、17世紀の型では三つの部分それぞれにほぼ球形の丸屋根を載せる
  • ボイコ型(3棟):スロヴァキアとの国境に近い両国の国境の両側。段を重ねた屋根がアジアの仏塔(パゴダ)を思わせることもあり、中央の身廊の丸屋根が必ず一番高い
  • フツル型(2棟):ウクライナのカルパティア南東部。身廊の両脇に翼を足した十字形の平面で、中央に高い八角形のテント形の屋根か丸屋根が載る
  • レムコ型(5棟):ポーランドの西カルパティア。入口の間の上に、ポーランド南部のカトリックの木造教会に多い柱と梁で組んだ高い鐘楼を立てる

レムコ型の5棟はすべてポーランド側にあり、ウクライナにある8棟はハルィチ型、ボイコ型、フツル型のいずれかです。ICOMOSの評価書によると、ボイコ型は約70棟、フツル型は約150棟が残るなかから、それぞれ代表として選ばれました。

ウクライナにある8棟

所在地教会(世界遺産の英語名)建てられた年
ポテリチ(リヴィウ州)聖霊降臨教会(Tserkva of the Descent of the Holy Spirit)ハルィチ型(古い型)1502年
ロハティン(イヴァーノ=フランキーウシク州)聖霊降臨教会(Tserkva of the Descent of the Holy Spirit)ハルィチ型(古い型)16世紀初め
ジョウクヴァ(リヴィウ州)聖三位一体教会(Tserkva of the Holy Trinity)ハルィチ型(後の型)1720年
ドロホビチ(リヴィウ州)聖ユーリー教会(Tserkva of Saint George)ハルィチ型(後の型)17世紀後半
ウジョク(ザカルパッチャ州)大天使ミカエルの集会の教会(Tserkva of the Synaxis of the Archangel Michael)ボイコ型1745年
マトキウ(リヴィウ州)聖母の集会の教会(Tserkva of the Synaxis of the Blessed Virgin Mary)ボイコ型1838年
ヌィジニー・ヴェルビジ(イヴァーノ=フランキーウシク州)聖母誕生教会(Tserkva of the Nativity of the Blessed Virgin Mary)フツル型1808〜10年
ヤスィニャ(ザカルパッチャ州)主の昇天教会(Tserkva of Our Lord’s Ascension)フツル型1824年
出典:ICOMOS「Advisory Body Evaluation No 1424」(2013年)と世界遺産センターの構成資産の一覧。所在地の州名はウクライナ語に基づく本記事の表記。教会名の日本語は英語名からの訳。

評価書は、ドロホビチの聖ユーリー教会を木造の丸屋根の建築技術の頂点と評し、町に暮らすルーシ人の共同体の教会として建てられたと書いています。ヤスィニャの教会は十字形で中央に丸屋根をもつ型で最もよく保たれた一棟とされ、壁も天井も(聖障を除いて)彩色せず、木の構造と細かな仕口をそのまま見せています。ウジョクの教会は入口の間の上に鐘楼を載せた三つの部分からなる教会の珍しい例、マトキウの教会は丘の上に立つ輪郭の美しさから19世紀のこの様式の最良の例とされています。ヌィジニー・ヴェルビジの教会は、1876年にシェパリウツィ村から移されてきたものです。

決定文によると、16棟のうち13棟はいまも教会として使われ、残る3棟は博物館として保たれています。博物館の3棟のうち2棟、ロハティンとドロホビチの教会はウクライナ側にあります。

建てられた年は資料によって違うことがあります。たとえばInternet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所=CIUS。「Boikos」の項の初出は1984年)は、ドロホビチの聖ユーリー教会を「15〜16世紀」としていて、ICOMOSの評価書の「17世紀後半」と大きく離れています。表はICOMOSの評価書に従いました。

戦時下の保全

ポーランドとウクライナが共同でまとめ、ユネスコが2024年に公開した第3回定期報告は、戦争がこの世界遺産に及ぼしている影響を次のように書いています。

  • ロシア軍がウクライナ全土の標的を砲撃しており、ロケットやその破片が偶然当たる危険がある
  • 戦争で人々が国外や前線へ移り、専門家を確保しにくくなった。訪れる人も減った
  • 監視が手薄になり、予算が大きく制約され、ポーランドとウクライナの共同の活動も制限されている
  • ウクライナ側の構成資産の工事への支出は優先されず、戦時下では資金は実質的に存在しない

同じ報告によると、1棟を除くすべての教会に火災警報器があり、全棟に消火器が備えられています。武力紛争や危機のときの保護計画をもつ構成資産もあります。一方で報告は、記載のときに出した管理計画が古くなり、更新が必要だとも認めています。

ウクライナの世界遺産の全体は「ウクライナの街と世界遺産」に、同じく世界遺産で11世紀に建てられた石造の教会はキーウの聖ソフィア大聖堂の記事に、ウクライナの教会の違いは二つの正教会の記事にまとめています。

出典・参考資料

  1. Wooden Tserkvas of the Carpathian Region in Poland and Ukraine(概要、記載年2013年、基準(iii)(iv)、16棟の型と所在地)
    発行:UNESCO World Heritage Centre 確認日:2026-09-24
  2. Decision 37 COM 8B.37(記載の決定、顕著な普遍的価値の説明、13棟が教会・3棟が博物館、板の張り替え20〜30年、扉の銘)
    発行:UNESCO World Heritage Centre 確認日:2026-09-24
  3. Advisory Body Evaluation (ICOMOS) No 1424(2013年。8棟ずつの内訳、面積、暫定一覧の日付、各棟の建立年・特徴・使われ方、型ごとに残る数)
    発行:ICOMOS(UNESCO掲載) 確認日:2026-09-24
  4. Periodic Reporting Cycle 3, Section II: Wooden Tserkvas of the Carpathian Region in Poland and Ukraine(2024年公開。構成資産の一覧、戦争の影響、資金、防火設備、管理計画の更新)
    発行:UNESCO World Heritage Centre 確認日:2026-09-24
  5. Boikos(初出1984年。ボイコの民族誌的な集団、ドロホビチの聖ユーリー教会の年代「15th-16th century」)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24
  6. Hutsuls(初出1989年。フツルの民族誌的な集団と木造建築、ヤスィニャの教会)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24
  7. Lemkos(初出1993年。ウクライナ人の中の民族誌的な集団、教会建築の特徴)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24
  8. Yasinia(ヤスィニャの木造教会1824年)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24

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