地雷除去機、レール、発電機。JICAがウクライナに送ったもの
JICAを通じたウクライナへの無償資金協力は2023年以降6件、供与額の合計は1,103億円あまりです。日本製の地雷除去機約20台や約215キロ分のレールが届けられました。780億円の財政支援と、ロシアの凍結資産の収益で返す4,719億円のERA融資も含め、事業の種類と中身を並べます。
ハルキウ州の農地で、日本製の地雷除去機が動いている。国際協力機構(JICA)が2026年2月に出したニュースレターには、そんな写真が載っています。同じ号によれば、JICAはウクライナ国家非常事態庁(SESU)に日本製の地雷除去機を約20台供与し、鉄道用のレールは計28,000トン、約215キロメートル分を届けました。
日本の対ウクライナ支援は、ニュースでは「何億円」「何十億ドル」という金額で伝えられることが多いものです。けれども、その金額が何に変わったのかは、なかなか見えません。ここでは、JICAと外務省が公表している資料から、JICAを通じた事業の種類と金額、そして現地に届いたものを並べます。
「あげる」「貸す」「出資する」の三つ
JICAの事業は、お金の出し方で大きく三つに分かれます。返済の必要がない無償資金協力(贈与)、返済を前提にした円借款(融資)、そして企業やファンドへの出資です。このほか、日本の専門家や研修を通じた技術協力があります。
贈与と円借款は、まず日本政府とウクライナ政府が書簡を交わし(外務省が発表します)、そのあとJICAとウクライナ政府が具体的な契約を結ぶ、という順で進みます。契約書に書かれる金額は「供与額」「限度額」、つまり上限です。その日に全額が支払われるわけではありません。
贈与:緊急復旧計画はフェーズ5まで
2022年の全面侵攻のあと、JICAの贈与の中心になっているのが「緊急復旧計画」です。必要な資機材を日本などから調達してウクライナに届けるもので、JICAのプロジェクトページと外務省の発表によれば、次のように続いています。
| 事業名 | 契約・書簡の時期 | 供与額 |
|---|---|---|
| 緊急復旧計画 | JICAとの贈与契約 2023年3月9日 | 224.40億円 |
| 緊急復旧計画(フェーズ2) | JICAとの贈与契約 2023年4月 | 530.72億円 |
| 緊急復旧計画(フェーズ3) | JICAとの贈与契約 2024年2月19日 | 158億円 |
| 緊急復旧計画(フェーズ4) | 政府間の書簡 2025年2月27日/JICAとの贈与契約 2025年4月 | 88億円 |
| 人道的地雷及び不発弾除去のための緊急対応計画 | 政府間の書簡 2025年12月2日/JICAとの贈与契約 2026年1月23日 | 40億円 |
| 緊急復旧計画(フェーズ5) | 政府間の書簡 2026年2月26日/JICAとの贈与契約 2026年5月20日 | 62億円 |
6件の供与額を足すと1,103.12億円になります(記事での合計)。フェーズ1とフェーズ2の2023年だけで755億円あまりと、全体の3分の2以上を占め、その後は1件あたりの額が小さくなっています。
対象の分野は、フェーズごとに少しずつ変わってきました。最初の「緊急復旧計画」は、地雷・不発弾対策、がれき・災害廃棄物処理、運輸交通、電力・エネルギー、水供給、下水、保健医療、教育、農業の9分野です。フェーズ3は電力・エネルギー、運輸交通、地雷・不発弾対策と官民連携に絞られ、フェーズ4は国境管理のための機材も対象にしています。2026年2月のフェーズ5について、外務省は保健・医療、農業、がれき除去・インフラ復旧と雇用創出、公平・公正な報道の確保の4分野を挙げています。
何が届いたか
JICAの2026年2月のニュースレター(「ウクライナに対するJICAの協力 Vol.5」)は、これまでの事業で届けたものを分野ごとに挙げています。いずれもJICA自身の説明です。
| 分野 | JICAの説明による内容 |
|---|---|
| 地雷・不発弾対策 | 日本製の地雷除去機約20台を国家非常事態庁に供与。日本とカンボジアで操作・整備の研修。今後、ポルタヴァの整備拠点とヴィーンヌィツャ(外務省・JICAの表記ではヴィンニツァ)の人材育成センターを支援 |
| がれき処理 | がれき処理用の機材をキーウ州、ハルキウ市、ドニプロ市、ミコライウ市などで使用。仮置き場の運営管理やアスベスト対策の技術移転 |
| 電力 | 発電機や変圧器を供与(2026年2月にキーウ市で発電機の供与式) |
| 鉄道 | 2024年10月までにレール25,000トン(約192キロ分)、2026年1月に3,000トン(約23キロ分)を追加。計約215キロ分のレール交換 |
| 重機 | キーウ州にある復興庁の職業訓練施設に日本製の重機と操作シミュレーターを供与。女性の重機オペレーターの育成にも使われる |
| 教育 | 教育科学省のデジタル・ラーニングセンターにパソコン等を供与。2024年9月に5年生向けの紙の教科書100万部以上。日本企業4社と連携し、職業訓練施設28か所に設備 |
| 保健 | MRI 9台、CT 1台、手術用顕微鏡20台、福祉車両11台、リハビリ機材など |
| 公共放送 | 2017年の公共放送局(PBC)設立当初から協力。中継車3台、モバイル中継装置7台、撮影機材など。2026年春にフェーズ3を開始予定 |
鉄道のレールについて、JICAは背景をこう説明しています。2022年5月に、国内で唯一のレール生産拠点だった南部のマリウポリが占領され、それ以来、鉄道網の整備は海外に頼るほかなくなった、と。地雷除去機は、JICAのプロジェクトページによれば、2023年1月に始まった技術協力「人道的地雷・不発弾対策能力向上プロジェクト」とも結びついていて、機材の供与と、機材を使いこなすための研修が組み合わされています。
融資:国の財布を支える円借款
円借款は、額が贈与よりずっと大きくなります。2022年以降の2件は、どちらも特定の工事ではなく、ウクライナ政府の財政を支えるためのものです。
- 「緊急経済復興開発政策借款」:2022年5月16日に130億円を限度とする契約、6月17日に650億円を追加して総額780億円。世界銀行との協調融資。JICAの発表によれば、医療・教育・社会保障・公務員の給与など、国家運営に必要な支出に充てる予定とされた。
- 「ウクライナのための特別収益前倒し(ERA)融資」:2025年4月18日に政府間の交換公文、6月5日にキーウでJICAと貸付契約。限度額4,719億円、金利はTORF+90bp、償還30年(据置期間なし)。返済の原資は、ロシアの国有資産の凍結が続いていることによってEUで生じる「特別な収益」とされている。
ERA融資は、2024年6月のG7プーリア・サミットで立ち上げが合意された枠組みの中で行われるものだと、外務省とJICAは説明しています。日本の財政でもウクライナの財政でもなく、凍結されたロシアの資産から生じる収益で返済するという点で、それまでの円借款とは性格が違います(金利や日付の経緯は日本とウクライナの年表でも整理しています)。
出資と、日本企業の参加
2024年2月19日、東京で日・ウクライナ経済復興推進会議が開かれた日に、JICAはウクライナとモルドバの企業に投資するファンド「Horizon Capital Growth Fund IV」に、2,000万ドルを上限とする出資の契約を結びました。対象は輸出志向のICT・テック企業で、JICAによれば、2012年に海外投融資を再開してから初めての欧州向けの出資です。
日本企業のウクライナでの事業を後押しする取り組みもあります。JICAは2024年に「ウクライナ・ビジネス支援事業」を始め、ニュースレターによれば、採択した14社のうち11社が現地でのパイロット事業に進み、2社が現地法人を設立しました。
侵攻の前から続いていたもの
JICAとウクライナの関係は、2022年に始まったわけではありません。JICAの「代表的なプロジェクト」には、侵攻の前からの事業が並んでいます。
| 事業 | 形態 | 時期 | 金額 |
|---|---|---|---|
| ボリスポリ空港拡張事業 | 円借款 | 借款契約 2005年3月(終了) | 190.92億円 |
| ボルトニッチ下水処理場改修事業(キーウ市) | 円借款 | 借款契約 2015年6月(実施中) | 1,081.93億円 |
| 公共放送組織体制強化プロジェクト | 技術協力 | 2017年の公共放送局設立当初から | — |
JICAは2017年11月にキーウに事務所を開きました。2022年1月に日本と隣国モルドバに退避し、遠隔で業務を続けたあと、2023年11月1日にキーウの事務所を再開しています。人材の面では、ウクライナの若手行政官が日本の大学院で修士号をとるのを支える無償資金協力「人材育成奨学計画」もあり、2026年7月1日に0.81億円を限度とする書簡が交わされました。
金額を読むときに
この記事の金額は、どれも契約や書簡に書かれた上限で、実際に支払われた額ではありません。また、JICAを通じた事業は、日本の対ウクライナ支援の一部です。外務省は日本の支援の総額を「約200億ドルの支援を表明・実施」(2025年末時点)としていますが、これは人道、財政、復旧・復興を合わせた額で、この記事の円建ての金額と単純に比べることはできません。
レールが何キロ分届いたか、地雷除去機が何台動いているかは、金額よりも具体的に支援の中身を伝えます。ただしそれも、JICA自身の発表です。現地でどれだけ使われ、どんな成果につながったかを別の資料で確かめる方法は、「復興が進んだ」と発表されたとき、実際に何が終わったのかで扱っています。
出典・参考資料
- ウクライナに対するJICAの協力 Vol.5(2026年2月、地雷除去機・レール・医療機材・公共放送・ビジネス支援事業などの実績)
発行:JICA 確認日:2026-09-23 - ウクライナ(海外での取り組み、実施中のプロジェクト一覧)
発行:JICA 確認日:2026-09-23 - 緊急復旧計画(G/A 2023年3月、供与額224.40億円、9分野)
発行:JICA(ODA見える化サイト) 確認日:2026-09-23 - 緊急復旧計画(フェーズ2)(G/A 2023年4月、供与額530.72億円)
発行:JICA(ODA見える化サイト) 確認日:2026-09-23 - 緊急復旧計画(フェーズ3)(G/A 2024年2月、供与額158.00億円)
発行:JICA(ODA見える化サイト) 確認日:2026-09-23 - 緊急復旧計画(フェーズ4)(G/A 2025年4月、供与額88.00億円、国境管理機材)
発行:JICA(ODA見える化サイト) 確認日:2026-09-23 - 人道的地雷・不発弾対策能力向上プロジェクト(技術協力、2023年1月〜)
発行:JICA(ODA見える化サイト) 確認日:2026-09-23 - ウクライナ向け無償資金協力贈与契約の締結(緊急復旧計画、2023年3月9日締結)
発行:JICA 確認日:2026-09-23 - ウクライナ向け無償資金協力贈与契約の締結(緊急復旧計画フェーズ3、2024年2月19日締結)
発行:JICA 確認日:2026-09-23 - ウクライナ向け無償資金協力贈与契約の締結(人道的地雷及び不発弾除去のための緊急対応計画、1月23日締結、40億円)
発行:JICA 確認日:2026-09-23 - ウクライナに対する無償資金協力「緊急復旧計画(フェーズ4)」に関する書簡の署名・交換(2025年2月28日)
発行:外務省 確認日:2026-09-23 - ウクライナに対する無償資金協力「人道的地雷及び不発弾除去のための緊急対応計画」に関する書簡の署名・交換(2025年12月3日)
発行:外務省 確認日:2026-09-23 - ウクライナに対する無償資金協力「緊急復旧計画(フェーズ5)」に関する書簡の署名・交換(2026年2月27日)
発行:外務省 確認日:2026-09-23 - ウクライナ向け無償資金協力贈与契約の締結:緊急復旧、持続的な経済復興と人間の安全保障の確保に資する資機材等を供与(緊急復旧計画フェーズ5、2026年5月20日締結、62億円)
発行:JICA 確認日:2026-09-23 - ウクライナに対する無償資金協力「人材育成奨学計画」に関する書簡の署名・交換(2026年7月1日)
発行:外務省 確認日:2026-09-23 - ウクライナ向け円借款貸付契約の調印(緊急経済復興開発政策借款の追加、2022年6月17日)
発行:JICA 確認日:2026-09-23 - ウクライナに対する円借款「ウクライナのための特別収益前倒し融資」に関する書簡の署名・交換(2025年4月18日、供与条件)
発行:外務省 確認日:2026-09-23 - ウクライナ向け円借款貸付契約の調印(ERA融資、2025年6月5日)
発行:JICA 確認日:2026-09-23 - ウクライナ・モルドバ共和国「輸出志向型産業支援事業」に対する出資契約の調印(2024年2月19日)
発行:JICA 確認日:2026-09-23 - ウクライナ事務所の再開について(2023年11月1日)
発行:JICA 確認日:2026-09-23 - 代表的なプロジェクト(ウクライナ)
発行:JICA 確認日:2026-09-23 - ボリスポリ空港拡張事業(借款契約額190.92億円)
発行:JICA(ODA見える化サイト) 確認日:2026-09-23 - ボルトニッチ下水処理場改修事業(借款契約額1081.93億円)
発行:JICA(ODA見える化サイト) 確認日:2026-09-23 - ウクライナ基礎データ(日本の支援の総額「約200億ドル」、2025年末時点)
発行:外務省 確認日:2026-09-23
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