400万人を西へ運んだ鉄道は、いまEUの線路幅につながり始めた
全面侵攻の最初の年、ウクライナの鉄道は400万人を西部へ運びました。国家統計局の数字では、2022年の貨物は前年の半分以下に落ち、2025年は1億6,130万トンでした。旅客の赤字を貨物で支える経営と、2025年に初めて開通したEUと同じ幅の線路を、2026年9月時点の公的な発表からまとめます。
オリュカのひとこと
400万人という数は、誰が集計したものでしょう。本文では、数字ごとに発表した機関と時点を添えています。
2022年2月24日にロシアによるウクライナへの全面侵攻が始まると、ウクライナの空の便は止まりました。国内を長い距離で移動する手段として残ったのが鉄道です。運んでいるのは国営の鉄道会社ウクルザリズヌィツャ(Укрзалізниця、ウクライナ鉄道)で、株主はウクライナ国家だけ、その権利は内閣が行使しています。
侵攻の最初の年、鉄道は数百万人を西へ運びました。その後は貨物で稼いで旅客の赤字を埋めながら運行を続け、2025年にはEUと同じ幅の線路が初めて開通しています。以下の数字は、2026年9月時点で公表されているものです。
最初の数日は1日20万人近く
大統領府のもとにある国立戦略研究所(НІСД)は、2023年2月の分析で、侵攻の最初の数日には鉄道で避難した人が1日に20万人近くに達したと書いています。同じ分析によれば、2022年の1年間に鉄道で西部の州へ避難した人は400万人、国外へは60万人でした。避難列車への乗車は無料で、ペットも10万匹以上が一緒に運ばれました。
当時、インフラを担当していたクブラコフ副首相は2023年1月1日、侵攻開始から「400万人以上」を前線から避難させ、人道支援物資31万4,000トンを運んだと発表しています。数字は鉄道会社自身の集計にもとづくもので、第三者が独立に数えたものではありません。
その代償も小さくありませんでした。国営通信社ウクルインフォルムは、2022年2月24日から12月26日までに鉄道の職員303人が亡くなったと伝え、国立戦略研究所も侵攻開始からの死者を303人としています。
貨物は半分に、旅客は3分の2に
国家統計局(Держстат)は、交通手段ごとの旅客数と貨物量を毎年まとめています。鉄道の数字を抜き出すと次のとおりです。統計はロシアが一時的に占領している地域と、戦闘が行われている(行われた)地域の一部を含みません。
| 年 | 鉄道の旅客数 | 鉄道の貨物量 |
|---|---|---|
| 2022年 | 5,270万人(2021年の64.8%) | 1億5,060万トン(2021年の47.9%) |
| 2024年 | 6,570万人(2023年の101.2%) | 1億7,490万トン(2023年の117.9%) |
| 2025年 | 6,300万人(2024年の95.8%) | 1億6,130万トン(2024年の92.2%) |
2022年の貨物は前年の半分を下回りました。月ごとに見ると、侵攻の翌月にあたる2022年3月の貨物は約830万トンで、1月の2,616万トンの3分の1ほどでした。国立戦略研究所は、減少が特に大きかった品目として鉄鉱石・マンガン鉱石、石炭、鉄鋼、建設資材を挙げ、国内の製鉄所を失ったこと、海の港がロシア軍に封鎖されたこと、ロシアとベラルーシとの鉄道輸送が止まったことを理由に挙げています。穀物の減少は14.1%にとどまりました。港が止まった時期の穀物の出口についてはウクライナの穀物はどこから出ていくかで扱っています。
貨物は2024年に回復しましたが、2025年には再び減りました。国家統計局の表には、2025年3月23日に鉄道会社の情報システムが大規模なサイバー攻撃を受け、3月分の書類の一部を処理できず4月分に回したという注記があります。
長距離の旅客は2,800万人
鉄道の旅客数には二つの数え方があります。国家統計局の6,300万人(2025年)は近郊列車を含む数です。一方、当時の所管省である地域・領土発展省は2026年1月、2025年に長距離列車で運んだ旅客は2,800万人で、2024年より20万人多かったと発表しました。統計局の数字では鉄道全体の旅客は減っているので、減ったのは主に近郊列車の側だと読めますが、統計局は長距離と近郊の内訳を示していません。
同省の発表によれば、2025年の乗客のうち子どもは190万人、ペットは24万匹でした。よく使われた国内の路線はキーウとリヴィウを結ぶ路線と、キーウと前線に近いハルキウ、ドニプロを結ぶ路線です。国外からの公式の代表団のために、2025年には2,200回の運行を組んだとしています。
稼いでいるのは貨物、旅客は赤字
鉄道会社の2024年の連結財務諸表を見ると、収入の柱は貨物です。部門別の営業損益は次のとおりでした。
- 貨物:売上819億フリヴニャ、営業利益204億フリヴニャ
- 長距離・国際旅客:売上107億フリヴニャ、営業損失88億フリヴニャ
- 近郊旅客:営業損失93億フリヴニャ
旅客の運賃は国が定める料金で、財務諸表によれば、貨物の料金も2022年半ばから引き上げられていませんでした。所管省は2025年12月、前線に近い地域からの運行を含む旅客輸送を続けるため、国家予算の予備費から年末までに124億フリヴニャが充てられる見込みだと説明しています。
空襲のときの列車の止め方
鉄道そのものも攻撃の対象になっています。内閣は2026年9月18日、空からの脅威の段階に応じた鉄道の動かし方を改めて定めました。復興・インフラ・運輸省の説明では、脅威が「黄」の段階では乗り降りと運行を続け、「赤」の段階では乗車と発車を止めて、乗客は避難所へ移ります。カラシニク大臣は、ポーランドとの国境から数キロの地点で旅客列車の機関車が攻撃されたばかりだと述べ、ロシアが鉄道のインフラを組織的に攻撃していると指摘しました。
オリュカのひとこと
線路の幅が違うと、国境を越える列車には何が必要になるのでしょう。この節で仕組みを確かめましょう。
線路の幅をヨーロッパに合わせる
ウクライナの鉄道は、旧ソ連圏で広く使われる軌間1,520ミリの線路で造られています。ポーランドやハンガリーなどEUの多くの国の軌間は1,435ミリで、国境で台車を替えるか、乗り換える必要がありました。
2025年9月5日、西部ザカルパッチャ州のチョプと州都ウージュホロドを結ぶ22キロの区間に、1,435ミリの線路が開通しました。所管省は、独立後のウクライナで初めての規模の標準軌の事業だとしています。既存の1,520ミリの線路と並べて敷いたもので、建設費13億フリヴニャの半分はEUの「コネクティング・ヨーロッパ・ファシリティ(CEF)」の無償資金でまかなわれました。発表では、9月12日からウージュホロドとブラチスラバ、ウィーン、ブダペストを結ぶ直通の旅客列車が走るとされていました。
2026年9月20日には、この区間の電化が終わったと発表されました。区間は直流3キロボルトで電化され、隣のハンガリーは交流25キロボルトなので、機関車を替えずに走るには複数の電源に対応した電気機関車を使います。次の段階として、チョプからハンガリーとの国境(ハンガリー側はザーホニ)までの電化を2026年末までに終える計画です。
リヴィウとポーランドを結ぶ標準軌も計画されています。リヴィウ近郊のスクヌィリウからポーランド国境に近いモスティスカ2駅までの区間で、2025年9月の発表では、EUがCEFから7,600万ユーロの無償資金を割り当てたとしています。完成の時期は、2026年9月時点で確認できる公的な発表には示されていません。
線路のほかにも、鉄道の安全と相互運用性についてEUの規則に合わせる法案が最高会議に出され、2025年12月の時点で所管の委員会が第一読会での採択を勧めていました。車両では、フランスのアルストム社から二つの電源に対応した電気機関車55両を買う契約が結ばれ、1両目は2027年1〜3月に届く予定です。日本もJICAを通じてレールなどを送っており、その内容はJICAがウクライナに送ったものにまとめています。
侵攻の最初の年に人を西へ運んだ線路は、いまEUの軌間の線路とつながり始めています。旅客の赤字を貨物と国の予算で支えながら、攻撃を受けるたびに直して走らせる状態は、2026年9月時点でも続いています。
出典・参考資料
- Кількість перевезених пасажирів за видами транспорту за 2025 рік(確定値。鉄道6,300万人・前年比95.8%、注記:占領地域等を含まない、近郊電車を含む)
発行:Державна служба статистики України 確認日:2026-09-24 - Обсяги перевезених вантажів за видами транспорту за 2025 рік(確定値。鉄道1億6,130万トン・前年比92.2%、2025年3月23日のサイバー攻撃の注記)
発行:Державна служба статистики України 確認日:2026-09-24 - Кількість перевезених пасажирів за видами транспорту за 2024 рік(確定値。鉄道6,570万人・2023年比101.2%)
発行:Державна служба статистики України 確認日:2026-09-24 - Обсяги перевезених вантажів за видами транспорту за 2024 рік(確定値。鉄道1億7,490万トン・2023年比117.9%)
発行:Державна служба статистики України 確認日:2026-09-24 - Кількість перевезених пасажирів за видами транспорту за 2022 рік(確定値。鉄道5,270万人・2021年比64.8%)
発行:Державна служба статистики України 確認日:2026-09-24 - Обсяги перевезених вантажів за видами транспорту за 2022 рік(確定値。鉄道1億5,060万トン・2021年比47.9%、月別累計)
発行:Державна служба статистики України 確認日:2026-09-24 - Підсумки роботи залізничного транспорту України у 2022 році(2023年2月15日。1日20万人近く、西部へ400万人・国外へ60万人、乗車無料、ペット10万匹以上、品目別の減少、職員303人)
発行:Національний інститут стратегічних досліджень 確認日:2026-09-24 - З 24 лютого Укрзалізниця евакуювала чотири мільйони осіб та перевезла 314 тисяч тонн гуманітарки(2023年1月1日。クブラコフ副首相の発表、職員303人)
発行:Укрінформ 確認日:2026-09-24 - Мінрозвитку: У 2025 році залізницею перевезено на 200 тисяч пасажирів більше, ніж роком раніше(2026年1月8日。長距離2,800万人、子ども190万人、ペット24万匹、主な路線、代表団2,200回)
発行:Кабінет Міністрів України 確認日:2026-09-24 - Управління сферою залізничного транспорту у 2025 році: ключові результати та плани на наступний рік(2025年12月10日。予備費124億フリヴニャ、法案、アルストム55両、スクヌィリウ〜モスティスカ2)
発行:Міністерство розвитку громад та територій України 確認日:2026-09-24 - В Україні запустили першу євроколію: поїзди з Ужгорода курсуватимуть до Братислави, Відня та Будапешта(2025年9月5日。22キロ、13億フリヴニャ、CEF、9月12日からの直通列車、1,520ミリと1,435ミリ、EUの7,600万ユーロ)
発行:Міністерство з відновлення, інфраструктури та транспорту України 確認日:2026-09-24 - Завершення електрифікації першої євроколії Ужгород — Чоп наближає Україну до транспортної мережі ЄС, — Микола Калашник(2026年9月20日。電化完了、直流3kVと交流25kV、国境までの電化を2026年末まで)
発行:Міністерство з відновлення, інфраструктури та транспорту України 確認日:2026-09-24 - Рух поїздів під час повітряних загроз: Уряд визначив алгоритм роботи залізниці(2026年9月18日。黄・赤の段階、国境近くでの機関車への攻撃)
発行:Міністерство з відновлення, інфраструктури та транспорту України 確認日:2026-09-24 - Консолідована фінансова звітність АТ «Укрзалізниця» за 2024 рік зі звітом аудитора(唯一の株主は国家、部門別の売上と営業損益、貨物料金の据え置き)
発行:АТ «Українська залізниця» 確認日:2026-09-24
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